ハクスラローグライク『ミストローグ』がついにSteam正式リリース。「不思議のダンジョン」へ「Diablo」を加える罪深いコンセプトは実現できたのか

Polyscapeは10月27日、『MISTROGUE ミストと生けるダンジョン』を正式リリースした。「不思議のダンジョン」の影響を受けつつ、ビルドの探求を軸とした『Diablo』ライクなハクスラ要素などをミックスしたというが、はたしてどんな内容に仕上がっているのか。

株式会社Polyscapeは10月27日、『MISTROGUE ミストと生けるダンジョン』を正式リリースした。対応プラットフォームはPC(Steam)で、価格は税込1500円となっている。11月2日まで、35%オフの975円にてゲームを購入可能。

2023年現在、世はまさに大ローグライク時代である。広義のローグライクで考えると、『Vampire Survivors』ライクなカジュアル寄りのローグライトが登場し続けているほか、『Slay the Spire』の影響下にあるデッキ構築型や、『Hades』に代表されるローグライクアクションも根強い。国内外の個人/小規模開発チームだけでなく、ここ数年は国内企業からのタイトルも登場している。ローグライク/ローグライトといっても内容は多岐に及んでおり、ジャンルだけで内容を想像するのは困難だろう。

そんな流行下において、本作『MISTROGUE ミストと生けるダンジョン』もまたローグライクである。クラウドファンディングキャンペーン時の記載によると、「不思議のダンジョン」の影響を受けつつ、ビルドの探求を軸とした『Diablo』ライクなハクスラ要素などをミックスしたというが、はたしてどんな内容に仕上がっているのか。その2作の魅力を無事にブレンドできたのか。本稿では正式版を先行プレイしてきた筆者が、感想を交えつつ語っていこう。


『MISTROGUE ミストと生けるダンジョン』とは何か

『MISTROGUE ミストと生けるダンジョン』は、スキルビルドを組み上げてダンジョンを攻略する、リアルタイム・3Dローグライクアクションゲームである。本作で主人公ミストは、トレジャーハンターの街ルートガルを拠点に、ダンジョンを探索していく。

ダンジョンでは、挑戦する度に主人公のレベルがリセットされる。また、システムはアクションベースとなっており、敵の攻撃時には事前に予告範囲が表示される。理論上はすべての攻撃が避けられるが、現実的ではない上、ダメージを与える手段もない。そこで、攻略にあたってはランダムに入るアイテムが重要になる。本作では、ダンジョンには装備を含めてアイテムの持ち込みが許可されている。ダンジョン内で手に入れたアイテムを持ち帰り、次の冒険にも持っていくことで、攻略を進めていくのだ。

本作の装備品には、それぞれ決まったスキルや空きのスキルスロットなどが存在している。スキルスロットへ新たなスキルを付与したり、ほかの装備と組み合わせることで、スキル間の相乗効果が発生。軸となる要素を中心にスキルを集めると、強力なビルドを構築できる。


シナジーを組み合わせてインフレを起こすスキルビルド

本作では、ビルドの構築自体が楽しい要素だ。ビルドのひとつとしては、本作には状態異常「火傷」を軸としたビルドが存在している。本作の火傷は、毎秒最大HP3%分のダメージを与える状態異常である。通常の敵相手ではダメージが少なく、ボスたちはそもそも耐性をもっているなど、火傷単体では頼りない。火傷の付与に関しても、個々の火傷付与効果のあるスキルは確率や発生回数が物足りず、単体のダメージ源としては厳しい印象だ。

しかし武器「フレイムテンペスト」に付与されているスキル「イグニション」は、発動時に相手が火傷状態だと、相手の火傷状態を解除しつつ火傷の残り時間に応じたダメージを発生させる。そこに、状態異常の敵へのダメージを50%増幅させる「災禍の重撃」といったバフを組み合わせると、4桁や5桁の大ダメージを与えることも可能。単体では頼りない火傷が、シナジーを持ったスキルの組み合わせによって、強力なビルドの軸に化けるのだ。

火傷の付与については、スキル「火の粉」(ダメージを与える度に10%の確率で火傷を付与)など、複数の火傷付与手段の同時採用によって解決できる。ボス相手では、耐性を無効化する手段も存在。さらに火傷には、火傷状態の敵を攻撃した時確定で会心を発生させるスキル「燃え傷えぐり」も用意されている。同じ火傷を軸にしたビルドであっても、プレイヤーの好みにあわせて調整できるわけだ。本作では、そうしたスキルシナジーを生かしたビルドによって、攻略を進めていくわけだ。


また本作には、ほかにも数種類の軸となる要素が用意されている。たとえば移動速度を軸とした構成では、装備「アサルトナイフ」などに付与された、移動速度に応じて攻撃力が上昇するスキルをベースにビルドを組み立てる。移動速度上昇にあわせて攻撃力があがるため、アクティブスキル「ヘイスト」での移動速度上昇効果や、指輪でのステータス底上げ効果による移動速度上昇などを得ると、速くなるとついでにダメージも上昇。ビルドが進むと、ダンジョンを高速で駆け抜けながら、通常攻撃で敵をどんどん倒せるようになる。速すぎて地形から落下したり、敵のAOEに突っ込んで即死してしまったりなど、速さゆえの扱いづらさもあるものの、通常の倍以上の速度で動く主人公は爽快そのものとなっている。

代表的なビルドとしては、筆者が勝手に復讐や背水と呼んでいる低HP時効果を軸としたビルドもある。現在HPが低いほど会心ダメージが上昇するパッシブスキル「復讐」や、現在HPが下がるほど威力が増す攻撃スキル「リベンジ」によって高火力を叩き出す構築だ。低HPでの行動は当然リスキーであるが、本作には低HP時に被ダメージを軽減するスキルが存在しており、HPが半分以下でもある程度安心して行動可能。戦う時にHPが減っていればいいので、戦闘直前にアクティブスキル「ブラッドサージ」で現在HPを半分にしつつダメージバフを得て、敵に一方的な怒りを押し付けるなんてこともできる。発動条件を満たしやすく、回復手段も積みやすいため、周回時には特に好んで使っていた。

ビルドの軸になる要素は、ほかにも毒や会心などが存在。手に入れたスキルや気に入った装備を活かすビルドを、プレイヤー次第で組めるようになっている。そのほか、地形を操作するスキルや、現在HPのほとんどを犠牲に一定時間「インビンシブル」といった強力なスキルも存在。ほとんどのスキルは重ねがけ可能であり、同一のバフスキルをいくつも重ねて、瞬間的な力を得られるシステムなども特徴だろう。


ビルドによって飛躍的に強くなる

本作では、そんな強力なビルド群を組み立てていく行為自体にやりがいがあり、楽しい要素となっている。ビルドの完成度を高めることで、主人公の強さが一変するからだ。ゲーム開始直後の主人公は、1桁や2桁のダメージを出すのが関の山。雑魚を相手に死闘を繰り広げるダンジョン探索には、ローグライクらしい緊張感が漂っている。本作ではそんな主人公が、ダンジョン内でスキルを揃え、周回で装備を整えていくと、相乗効果で飛躍的に成長を遂げる。集団をまるごと一掃し、ボスを一撃で葬れるようになる頃には、緊張感は爽快感へと変わっていることだろう。生き残るだけで精一杯だった主人公が、ビルドによってダンジョンを蹂躙できるほど強くなるために、強化しがいがあるのだ。ビルドの完成度が高まってきた頃には、メインストーリーと共に展開される3つのダンジョンは簡単になってしまうが、正式版からは新たなエンドコンテンツ「百戦錬磨の道」が登場。ストーリー上のラスボスよりも強い敵たちに、作り上げたビルドをぶつけられるようになっている。

ビルドづくりをサポートする、周回の楽しみ

ビルドの強化に向けて探索を進めていると、主人公は多数の装備やスキルと出会うことになるが、ランダムな装備品についても気の利いた仕組みになっている。

本作では各装備に、それぞれ異なるスキルが設定されている。たとえば、Rの武器「烈火刀」には、10%の確率で火傷状態を与える「火の粉」と、火傷状態の敵への攻撃時必ず会心になる「燃え傷えぐり」。UCの武器「ブラッドスティンガー」には、与ダメージの50%を回復するアクティブスキル「ブラッドストライク」。SSRの盾「大器の盾」には何のスキルも付与されていない代わりに、空のスキルスロットが4つ用意されている。

本作では装備のスキルがカスタマイズ可能になっているが、新たな装備やスキルに出会うと、ビルドの可能性が拡大。そのままでは扱いづらい装備も、「分解」機能を使うと、運次第でスキルを技巧書として取り出し可能になっている。スキルのカスタマイズシステムや、スキルビルドで強さが大きく変わる仕様によって、新たな装備やスキルとの出会いが楽しいものになっている。

装備関連では、本作では各装備に「EX」と書かれたバージョンが存在。EX版は通常版と比べて、追加でスキルや空のスキルスロットもつ強化版となっている。本作においてスキルスロット1つの差は大きく、ビルドによっては大幅に強化されるケースもある。できればすべてEX版で揃えたいところだが、EX版はまれに出現。ただでさえ入手機会の少ない高レアリティ装備のEX版ともなれば、狙って入手するのは難しいだろう。運良く入手できれば強力な上位版が存在することで、夢と可能性が広がっているのだ。

また本作では、スキルビルドのやりがいやEX版の存在といったシナジーによって、周回自体も比較的楽しいものになっている。「不思議のダンジョン」をベースとしたゲームの中で、ハクスラの楽しさが表現されているといっても過言ではないだろう。


エンドコンテンツ・亜空

もう一つ、装備の持ち込みができない高難易度ダンジョン「果てなき亜空」では、一味違ったゲームプレイが待ち受けている。持ち込み可能なダンジョンでは、ダンジョン内での探索や周回によって、少しずつビルドを揃えてく。一方で果てなき亜空では、途中で倒れればアイテムはすべて失われ、ダンジョンから帰還する手段や、アイテムを持ち込む手段は存在していない。一度のダンジョン探索中、スキルビルドを構築しながら先を目指す、緊張感のあるゲームプレイが展開される。メインのダンジョン群よりも、「不思議のダンジョン」のゲームプレイに近い体験だといえるだろう。

ただし、相変わらずビルドの構築と強化が攻略のカギになるなど、ゲームプレイ自体は本作独自のものだ。たとえば装備を見つけた際にも、分解で技巧書を狙うか、ショップで売るために持っていくかといった選択が発生。奥へ迫るほど進むインフレに抗うため、手に入れた装備群から少しでも強い装備や組み合わせを考えて、ダンジョン内を歩むことになる。本作らしい攻略や選択と共に、「不思議のダンジョン」らしい緊張感が展開されるのだ。あっさり強力な装備やスキルシナジーが入手できる場合など、「不思議のダンジョン」シリーズの高難易度ダンジョンと比べると、攻略が軌道に乗りやすい印象はあるものの、通常ダンジョンよりもローグライクらしい高難易度なゲームプレイが待っている。


早期アクセス配信から正式リリースへの進化

本作は、2023年3月開始のクラウドファンディングキャンペーンにて、『風来のシレン2』のようなターンベースのローグライクへ「ビルドの探求」を軸とした『Diablo』ライクなハクスラ性などを追加した作品と説明されていた。間違いなく面白いであろう、罪深いコンセプトだ。しかしあくまで個人の感想であるが、早期アクセス開始時点の本作は理想に届いていない印象を受けていた。目指す設計の良さは感じられるものの、コンテンツが足りておらず、ゲーム内で実現出来ていなかったのだ。記事執筆時点(10月中旬)のSteamのユーザーレビューでも、71件中73%の好評によりステータスは「やや好評」。「おすすめ」を選択しているレビューでも、可能性を認めつつボリューム不足を指摘する声や、バランスの悪さを批判する意見などが多かったようだ。

そんな本作は早期アクセス配信後、正式リリース版へのアップデートも含めて、コンテンツが追加されてきた。大きな追加要素としては、装備をアイテムへ変換できる「分解」や、装備のEX版、クエスト達成で装備がもらえる「スキルブック」などが追加。エンドコンテンツとして高難易度の「果てなき亜空」と「百戦錬磨の道 」も登場している。システム追加によってプレイングの幅が広がり、高難易度コンテンツによって遊びも増えているのだ。もちろん新装備や新スキルも追加されており、正式版で登場したSSR武器「チェーンソー」は、10ヒットする通常攻撃によってさまざまなビルドでの活用が考えられるものとなっている。そのほかアップデートでは、UIやバランス調整などもおこなれてきた。

正式版までのアップデートにより、システムが整備され、遊びの幅や深みも増したことで、ある程度理想が実現されているように感じる。『風来のシレン2』をベースに『Diablo』ライクなハクスラ要素を加えた罪深いコンセプトが、現実のものになったのだ。

『MISTROGUE ミストと生けるダンジョン』は、PC(Steam)向けに通常価格1500円で配信中。11月2日まで、35%オフの975円にてゲームを購入可能だ。

Keiichi Yokoyama
Keiichi Yokoyama

なんでもやる雑食ゲーマー。作家性のある作品が好き。AUTOMATONでは国内インディーなどを担当します。

Articles: 2548