「脳で操作するコントローラー」の研究が進展。脳が“覚えやすい”入力方式、実用化の手がかりとなるか

イエール大学の研究チームは6月9日、「脳内幾何学を通じた非侵襲的ブレインコンピュータインターフェースの人間による学習」と題する論文を発表した。

イエール大学の研究チームは6月9日、「脳内幾何学を通じた非侵襲的ブレインコンピュータインターフェースの人間による学習(Human learning of noninvasive brain–computer interfaces via manifold geometry)」と題する論文を発表。本論文は、国際学術誌「Nature Neuroscience」に掲載されている。研究概要はイエール大学のニュースページから閲覧可能だ。

本研究では、ゲームキャラクターを操作するために物理的なコントローラーを用いず、脳活動のみで入力をおこなうBCI(Brain-Computer Interface)を活用。実験の結果、個々人の脳が自然に示しやすい活動パターンに沿った入力方式は短時間で習得できる一方、そのパターンから大きく外れた方式は習得が難しいことが明らかとなった。研究チームは、この結果が人間の学習能力や脳の適応メカニズムの解明につながる可能性を指摘している。

まず研究者たちは、健康な若年成人にfMRI(機能的MRI、脳の機能や活動の観察に用いる)の装置内で3Dのキャラクターを動かすシンプルなゲームをプレイしてもらった。この最初のプレイでは、参加者は物理的なコントローラーを用いてキャラクターを操作。研究チームはその様子をfMRIで記録し、参加者がジョイスティックでキャラクターを操作している時に生じる脳内の活動パターンをマッピングしていった。

そうして得られた膨大な脳活動データを、研究チームが開発した「T-PHATE」と呼ばれる独自アルゴリズムで統計的に解析。「ゲームキャラクターを操作する」という特定の行動を行うときに、脳内で自然に活性化しやすい神経パターンを推定していった。研究チームはこれらのデータをもとに脳活動のみで入力を行うBCIを作成するに当たって、どういった方式が最適、かつ最短で学習可能なのかを知るために3つの入力方式を作成。1つは脳内の自然なパターンに適合したもの、つまり脳活動でもっともよく使われる通り道に沿った、「直感的マッピング」と表現されている。2つ目は主要ではないものの自然なパターンの範囲内にある別の通り道を使う方式。そして3つ目は、脳内で自然には現れにくいパターンを要求する方式とした。

これら3つのBCIの入力方式を検証するために、fMRIで2秒ごとに取得した脳活動をリアルタイムにアバターの移動方向へ変換するシステムが構築された。実験では、参加者は物理コントローラーを使わず、思考のみでキャラクターの操作を試みた。

*イエール大学のニュースページより引用

結果として、先述した「直感的マッピング」にあたる脳内の自然なパターンに適合した入力方式を使用した場合、参加者は1時間未満のトレーニングでキャラクターの操作を習得したという。さらに、場合によってはより短時間での操作習得も可能とのこと。一方で、脳内で自然には現れにくいパターンを入力方式として採用した場合では、同じ時間内ではほとんど学習が進まなかった。なお、BCIによる操作を習得するにあたって、参加者の脳活動パターンが課題に適応し、変化していく様子も確認されたという。

本研究の責任著者のひとりであるNick Turk-Browne氏は、この結果について「こうした神経パターンは人が何を、どれくらいの速さで学べるかを決定づけており、それは制約であると同時に可能性も与えてくれる」と説明している。研究チームは、学習しようとしている内容が個々人の神経活動のパターンにどれだけ適合しているかを理解することで、なぜ特定の事柄が学びやすく、あるいは学びにくいのかを説明できる可能性があると示唆している。

また研究チームは、この知見がメンタルヘルスの分野にも応用できる可能性があると指摘。いきなり“理想的な状態”に変えようとするのではなく、脳の既存の活動パターンを活用しながら段階的に介入することで、より効果的な治療法につながる可能性があるという。さらに、身体機能やコミュニケーションに困難を抱える人々に向けた、より習得しやすい実用的なBCIの開発にも貢献しうるとしている。

今回の研究はコントローラーを使わず、脳活動のみでキャラクターを操作するBCIの学習に関するものだ。類似の事例としては、脳内の電気信号に由来する脳波を頭皮上から計測する機器を利用し、『エルデンリング』を操作するプレイヤーも一時話題となった(関連記事)。この事例では、あらかじめ「“重いものを前に押す”ことをイメージした際の脳波パターンが出たら、攻撃ボタンの入力に変換する」といった風に、特定の脳波パターンをいわばキーバインドのように攻撃などの入力に割り当てる仕組みになっていたという。

そのため、脳活動を利用してゲームを操作する試み自体は以前から行われてきたと言える。一方で本研究では、fMRIで脳活動をつぶさに、かつリアルタイムに計測。そのデータから推定した神経活動パターンをもとにBCIを設計し、人間がどのような入力方式を学習しやすいのかを検証した点が特徴となる。実際に「コントローラーで移動入力」をしていた際の脳活動データをもとに、BCIでの入力方式が設計されている点も特徴だろう。

何度やっても上手くいかない、あるいは1回ですんなり身につく。そうした学習の向き不向きが、単なる才能ではなく、脳がもともと持つ活動パターンや訓練によるパターンの変容と関係しているかもしれないという知見はゲームに限らず興味深い。今回の実験は巨大なfMRI装置に寝そべりつつ、随時脳内をモニタリングすることがBCIを運用する上で必要だったが、今後の技術発展に伴って、将来的には慣れ親しんだアナログの入力デバイスとは異なる形でゲームをする時代が訪れるのかもしれない。

この記事にはアフィリエイトリンクが含まれる場合があります。

Kei Kano
Kei Kano

キャラクリが出来て没入感のあるゲームが好きです。ゆっくり歩いて世界観を味わったり、自分なりに脳内設定を組み上げたりして遊んでます。

記事本文: 24