Unity Technologiesが手がけるゲームエンジン「Unity」。中国ではUnity Chinaが個別に中国版として展開している。中国でのUnityはグローバル版と異なり、独自の仕様が追加されているとユーザーにより報告され、話題となっている。
Unityはサブスクリプションサービスを中心として展開中のゲーム開発プラットフォーム(ゲームエンジン)だ。Unityは、業界標準のプログラム言語とされるC#をサポート。またPC(Windows/macOS)のみならず、PS4やXbox Oneといったコンシューマ機からAndroid/iOSといったモバイルのOSまで、幅広いプラットフォームをカバーしていることが特徴だ。
そうした特色もあってか、現在展開されているゲームでもUnityを用いて制作されたゲームは多い。たとえば直近では、2023年11月にNintendo Swtich向けに発売された『スーパーマリオRPG』などが挙げられる。またモバイル向けにも、Cygamesが展開している『ウマ娘 プリティーダービー』など多数の作品にUnityが用いられている。
そして、HoYoverseブランドより配信中の『原神』もUnityで開発されているなど、Unityは中国でも展開されている。中国展開にあたっては、地域合弁会社「Unity China」を設立。Unity Chinaは、miHoYoやアリババなどが出資し、現地のパートナー企業などと提携、研究開発投資の拡大をおこなっているという。またゲームエンジンUnityの中国仕様バージョンが提供されているなど、独自の展開がおこなわれている。
そんなUnity Chinaから展開されている中国版のUnityについて、Unityの公式フォーラムにてユーザーのlaurentlavigne氏がグローバル版にない仕様があると報告し、話題となっている。同氏は中国版Unityのマニュアルを読み、「Virtual geometry(仮想ジオメトリ)」についての記載があると投稿。この機能は本稿執筆時点でグローバル版には実装されていないため、中国版が独自の進化を遂げているといった点で注目されているようだ。
ここで、仮想ジオメトリとは、3Dモデルなどのレンダリングに関するシステムだ。Unityと同様にゲームエンジンである「Unreal Engine 5」では、この仮想ジオメトリをNaniteと呼ばれるシステムで実装している。
仮想ジオメトリは従来から用いられているLevel of Detail(LOD)やノーマルマップといった技法を自動化、あるいは動的に制御することで、高クオリティな表現を実現しつつ、パフォーマンスを改善するとされている。たとえば、3Dモデルなどが一度に大量に表示された場合、そのままでは処理が重くなってしまい、パフォーマンスが損なわれる。この対策となるのがLODだ。カメラからの距離に応じてポリゴン数を減らしたモデルを用意し切り替える処理をおこなうことでパフォーマンスの改善が見込める。またノーマルマップは、ポリゴン数を節約しつつ凹凸を表現する技法。光の反射具合をテクスチャで表現することで、細部の凹凸に割くポリゴン数を節約できるとされる。
仮想ジオメトリはこうしたLODの処理や、ノーマルマップで表現していたディテールをジオメトリで表現し、これをGPUにて自動的に実行する。つまり、開発者が負荷を抑えつつ高品質のグラフィックを実現しやすい機能といえる。
中国版UnityにもNaniteと同じように、先述のような仮想ジオメトリのシステムが実装されていることはフォーラムのほかX上でも話題となった。またフォーラムでは多くの反応が寄せられ、中国版Unityへの乗り換えを検討するユーザーやグローバル版Unityにも同様の機能を展開して欲しいといった要望もみられる。
なお『原神』開発元miHoYoにてテクニカルディレクターを務めるZhenzhong Yi氏の講演によれば、同社ではUnityのカスタマイズを専門におこなうチームが存在。たとえば同作のPS4への移植にあたっても多くの機能が追加されたようだ。今回注目されている仮想ジオメトリ機能についても、そうした現地企業のフィードバックなどを受け、追加に至ったのかもしれない。
グローバル版Unityとは異なった独自の発展を遂げているUnity China。今回中国版のUnityのみで独自の機能が追加されていたことが報告され、注目を集めているかたちだ。先述した通り、Unity Chinaには現地企業からの資金提供や連携もあり、グローバル版よりスムーズな機能開発が可能になっているのかもしれない。