グラビティゲームアライズは5月26日より、『少女と宇宙の物語』『エリックじいさんの不思議なブレスレット』をNintendo Switch向けに配信中だ。(ストアリンク:少女と宇宙の物語)(ストアリンク:エリックじいさんの不思議なブレスレット

あなたは「ノルウェー」と聞いて何を思い浮かべるだろう。ノルウェーはヨーロッパの北に位置する、スウェーデンやフィンランドと隣接する長細い国だ。自然の荘厳さを感じるフィヨルドや、映画「アナと雪の女王」のモデルとなった都市ベルゲン、「叫び」で有名なノルウェーの画家ムンクの美術館など、観光スポットも粒ぞろいだ。国土面積は38.6万平方kmと、日本とほぼ同じであり、春夏秋冬、四季がある点でも共通する。

≪三角屋根のカラフルな倉庫群が特徴的なベルゲン≫

産業に目を向けると、石油・天然ガスなどを中心に、日本でも見かける海産物などの輸出が盛んである。水資源も豊富であり、ノルウェー国内の発電量の95%は水力発電で賄われているという。Google Mapsで拡大すると、点在する水色の多さが見られ、とても興味深い。

本稿で紹介する『少女と宇宙の物語』と『エリックじいさんの不思議なブレスレット』は、そんなノルウェーを舞台・モチーフにしたアドベンチャーゲームなのだ。

まず簡単に両作を紹介したい。『少女と宇宙の物語』は、生き方に疑問や不安を持ちながら、地方で小さな農場を切り盛りする女性“ルース”が主人公のアドベンチャーだ。牧歌的で自然豊かなノルウェーの情景を感じていると、牛が宇宙船に連れ去られるというトンデモSFな展開だが、温かみのあるドットで表現されたグラフィックは純朴で、幼いころに思い描いたような冒険が楽しめる。

一方の『エリックじいさんの不思議なブレスレット』は、都会でさまざまな苦悩を抱える少年“ジェスパー”が、祖父の形見である物体を自由に操るブレスレットの謎に迫る。若き祖父が暮らしていたノルウェー北部の小さな島「スレップ島」を舞台とした本作は、潮の香りを感じる海風にあたりながら、新たな仲間との出会いや、祖父やブレスレットに隠された秘密を紐解いていく。

両作の主人公ともに、流れる時間の中にどこか漠然とした不安や苦悩を持っているのが特徴的だ。そんな憂いから解き放たれるように展開される爽やかな物語では、日々の生活で溜まっていく心の毒素がスルスルと抜け落ちていくような優しい体験が待っている。それを支えるサウンドも大きな魅力だ。両作はSteamにもリリースされており、ともにレビューステータスは「非常に好評」と、評価が高い。


開発はノルウェーに住むMachineboyことMattis Folkestad氏が、サウンドからシナリオまでをひとりで手掛けている。これまでは欧米版のみの展開だったが、グラビティゲームアライズより日本語・韓国語・繁体字・簡体字に対応してアジア向けに展開されることになった。Nintendo Switch版が5月26日より配信中(ストアリンク:少女と宇宙の物語(ストアリンク:エリックじいさんの不思議なブレスレット))。『少女と宇宙の物語』のiOS/Android版は3月18日リリース済み。『エリックじいさんの不思議なブレスレット』のiOS/Android版リリース予定日は未定だ。

述べてきた通り、ノルウェーを舞台とした両作だが、そもそもノルウェーとはどのような場所なのか、これらのゲームにノルウェーの文化や暮らしがどのように反映されているのかを、Folkestad氏にメールインタビューで訊いてみた。



自然への愛と故郷への誇り

――『少女と宇宙の物語』と『エリックじいさんの不思議なブレスレット』には、ノルウェー文化のどういった点が反映されていますか?

Folkestad氏:

両タイトルに共通する点として、ノルウェー人の自然への愛と、故郷への誇りが表されているかと思います。他のゲームとは異なる雰囲気が出ていると良いのですが。ほんの少し奇妙だったり、風変わりだったり……まさにノルウェー人みたいな感じに!

――どちらのタイトルにも、山や河川などの自然の美しさが際立っていますね。ノルウェーでは、そういった自然風景は馴染み深いのでしょうか?有名なスポットを教えていただけますか?

Folkestad氏:

ノルウェーの国土は、南北に細長い形をしています。温帯気候の南部から、北極圏に入り、荒涼な北部まで伸びる長い土地です。広大な山や滝を擁する地域がいくつもありますが、とくに有名なのは、フィヨルドという地形ですね。フィヨルドとは、大きくて傾斜のきつい山々の間に、海水が溜まって形成された入り江のことです。

国を象徴する山としては、「ステティンド(Stetind)」という山があります。もっとも有名なフィヨルドは、「ソグネ・フィヨルド(Sognefjorden)」です。ノルウェーの首都オスロは、南部にあります。北部の人間にとっては、オスロ周辺はもっとも魅力がないエリアですね。西部、そして北部には、言葉を失うほどの絶景が待ち構えているんですから。

透き通ったターコイズブルーの海と白い貝殻のビーチ(気温はたった12~16度ほどではありますが)、美しい高原、森林、山々など、色とりどりの自然を楽しむことができます。自然が好きな方にとって、ノルウェーは本当に特別な国だと思いますよ!

――日本では「天の川(*1)」は夏の風物詩として知られていますが、ノルウェーでは、いつ頃見られるのでしょうか。

Folkestad氏:

ノルウェーでは、夏の間は空がとても明るくて、北部では夜になっても日が沈まないんですよ!星を見られるのは、冬だけなんです。

*1: 『少女と宇宙の物語』の原題は『Milkmaid of the Milky Way』である。

――『エリックじいさんの不思議なブレスレット』で登場するアーティスト“アーキン”が住むテントには、風鈴がありましたよね。夏に使われるのでしょうか。また、どのように作られるのでしょうか。

Folkestad氏:

ノルウェーでは、風鈴はあまり見かけません。アーキンが風鈴の心地よい音色を気に入って、持ってきたんでしょう。アーキンの風鈴は、金属製の棒で作られています。風によって棒同士がぶつかって、音が鳴る仕組みです。この風鈴の効果音は、ノルウェーらしいサウンドに特化した効果音ライブラリで見つけた音なんですよ。

――作中で空に輝くオーロラがとても印象的です。ノルウェーでは広く見られるのでしょうか。

Folkestad氏:

通常は、ノルウェー北部の北極圏内の地域でのみ見ることができます。とても見応えがありますよ!

――日本ではオーロラは「観光として観に行くもの」というイメージがあります。ノルウェー北部ではどのような存在なのでしょうか?もはや当たり前の存在ですか?

Folkestad

北極圏の上空、晴れた冬の夜では、オーロラはよく見られます。天気予報アプリでも、オーロラ予報を見ますよ!ただ夏はまぶしすぎて見ることができないです。

旅情を刺激される国

――両作には、旅を描いたシーンがたくさんありました。ノルウェーでは、国内旅行は人気があるのでしょうか。

Folkestad氏:

(新型コロナウイルス感染症の)パンデミックのなか、国内旅行をする人の数が爆発的に増えました。キャンプや地方観光の需要が急増して、観光業界が記録的な成果を上げたほどです。旅の行き先や目的としては、西部のフィヨルド地帯や、北部の島々、白夜を体験することなどが人気ですね。

――日本人向けに、ノルウェーのベスト観光スポットを教えてください!

Folkestad氏:

まずは、フィヨルドと山々を楽しめる、西部のベルゲンがおすすめです。白夜やドラマチックな自然を楽しみたいなら、北部のロフォーテン諸島が良いでしょう。冬場なら、北部のトロムソに行って、オーロラを見ることができるかチャレンジするのも良いかもしれませんね!

――ジェスパーが一人旅に出るシーンで、「ここはノルウェーだ。安全な場所だよ!」というセリフを口にしますよね。17歳の少年が一人旅することを想定すると、ノルウェーはどのくらい安全なのでしょうか。

Folkestad氏:

旅をするのには、とても安全な国ですよ。犯罪率は低いですし、どこへ行っても親切で物腰が良い人がたくさんいますから。

――スレップ島では、ジェスパーがお年寄りたちからさまざまな物語を教えてもらいます。Folkestadさんがお年寄りたちから伝え聞いたノルウェーの物語のなかで、印象に残っているストーリーはありますか?

Folkestad氏:

ノルウェーの地方には、物語を口承によって伝える伝統が深く根付いています。誰しも、良い物語が大好きです。トロールや、神秘的で超自然的な存在たちの伝承も、たくさん伝わっているんですよ。沿岸部では、「ドラウゲン(*2)」の物語が繰り返し伝えられています。ドラウゲンは、海で見られることがある凶兆で、悪いことが起こる前のサインだとか!

*2:北欧に伝わるアンデッド・クリーチャー。死してなお活動を続ける悪人や罪人として語られることが多く、ファンタジーを題材としたゲームなどにも登場する。

――ノルウェーでの移動手段として、鉄道はよく使われるのでしょうか。

Folkestad氏:

はい。西部、南部、北部を繋ぐ路線があります。ですが、北部をさらに北上したい場合、たとえば、ノールカップ(※ヨーロッパ最北端の岬)を訪れるには、ボートかバスで行く必要があります。


――牛がヴェーダ号に連れ去られるシーン(*3)は、まさに「アブダクション」現象でした。ノルウェーでは、こういった超常現象がマニアに好まれているのですか?

Folkestad氏:

いえ、ノルウェー特有という訳ではなく、広くSFジャンルでおなじみの表現ですね。ルースが冒険へ旅立つきっかけとして、面白いでしょう?

*3:『少女と宇宙の物語』では、愛する牛が宇宙船に連れ去られ、ルースは宇宙へ旅立つ。



日本とも共通する社会問題

――『少女と宇宙の物語』では、都市で製造されたマーガリンの影響により、牧場産のチーズとバターが売れなくなってしまうというエピソードがありました。ノルウェーの歴史において、実際に酪農家がこういった影響を受けてきたのでしょうか?

Folkestad氏:

はい。1920年代後半に、ノルウェー人の暮らしに劇的な変化が訪れました。工業化、中央集権化の波が起こり、資本主義交易が広まったのです。結果として、人びとは工場や大きな農場で働き始め、地域に根づいた小さな牧場はなくなっていきました。

――ノルウェーでは、仕事や学業のために、田舎から都市部へ引っ越すことはよくあるのでしょうか。

Folkestad氏:

はい。ノルウェー全土に公立の学校はありますが、大学進学のタイミングで、ほとんどの人が都市部へ引っ越します。

――ジェスパーが入学試験に失敗してしまう描写がありました。ノルウェーの受験競争は激しいのでしょうか。

Folkestad氏:

多くの若者が学業に関わるストレスを抱えています。学校そのものに対するストレスに加え、高校や大学などへ進学するために、良い成績を取らなければならないというプレッシャーもありますね。

ノルウェーでは現在、多くの学問分野において、女子生徒が多数を占めています。というのも、学校の勉強に関しては、男子生徒よりも女子生徒のほうがよくできる傾向があるためです。周知の事実としては、多くの若者、とくに若い男子生徒が、学校や宿題に悩んでいることが知られています。


――Folkestadさん自身も、学生時代は学校や勉学に対する悩みなどを持っていましたか?

Folkestad氏:

16歳の時に家を出て高校に入り、クリエイティブで楽しい学生生活を送りました。実は、最初に作ったアドベンチャーゲームは高校生の時に作ったんです。『Madhouse – indian spirit』という名前でした。あまり真面目な学生ではなかったですが、楽しくやっていましたよ。

――スレップ島は、かつては繁栄していましたが、衰退してしまいました。都市部と地方の地域格差や、田舎町の衰退といった問題を抱えているのでしょうか。

Folkestad氏:

はい。ノルウェーの田舎にも、見捨てられてしまった場所がたくさんあります。都市から遠く離れた地域に多くく見受けられますね。若者が去ると、その多くは戻りません。その結果、学校は廃校になり、地域コミュニティが希薄になります。たいていの場合は、都市から遠く離れると、ビジネスをおこなうのに苦労しますよね。働き手を見つけることも難しいです。

しかし、ノルウェーには、地方活性化のための政策があります。人びとが、国内のどこにいても活発なコミュニティを形成できるよう、国をあげて支援しているのです。そのため、ノルウェー北部から南部にかけての広い範囲で、今でも小さな町に暮らす人びとがたくさんいるんですよ。

その他、古い家は、夏に過ごすための別荘として再利用されることが多いんです。ですから、完全に放棄された場所というのは、それほど多くはないでしょうね。

スレップ島は、ニークスンド(Nyksund)と呼ばれる、実際の漁村から着想を得ています。ニークスンドは、漁業が組織化された際に放棄されてしまった村です。ところが近年では、アーティストや観光業者の手によって魅力的な観光スポットとして生まれ変わり、観光客でにぎわっています。

≪スレップ島に住むキーパーソンであるキャロラインは、島にゲストハウスを作ることを夢見ている。≫

――スレップ島には、海岸に漂着したゴミで作られたオブジェが登場します。ノルウェーでも、実際にこのような環境問題に直面しているのでしょうか。

Folkestad氏:

世界でもっとも長い海岸線を有する国のひとつ(*4)として、ノルウェーも他の国々と同様の環境問題を抱えています。プラスチック廃棄物や汚染が問題になることもありますが、基本的にはビーチや海岸線はとてもきれいで清潔です。ゴミ拾いボランティアの方々による、尽力のたまものでもあります。

*4:計測方式にもよるが、ノルウェーの海岸線は8.3万キロにも及ぶ。これは地球2周半に相当する。



ノルウェーのゲーム文化について

――Folkestadさん自身で、最近遊んだゲームで面白かったものや、今後発売されるタイトルで注目しているものはありますか?

Folkestad氏:

PS5を入手して次世代タイトルを遊ぶのを待っているところです。最近はNintendo Switchのいろんなゲームを遊んでいて、『Undertale』はとてもおかしく面白いですね。直近では旧作『クロノ・トリガー』を始めていて、ちょっとレトロな感じです。いろんなゲームを遊び、そこに内在するゲーム文化のクリエイティビティを楽しむのが好きなんです。

――ノルウェーのゲーム文化の特徴についてどのように考えていらっしゃいますか?どういったタイトルが人気なのでしょうか。

Folkestad氏:

ゲームはとても人気ですよ。子どもから大人まで、ほとんどの人がゲーム機やゲーミングPCを所有しています。世界的に大ヒットしたタイトルは、ノルウェーでも人気です。

そして、多くのノルウェー人ゲーマーは、日本のゲームも愛しています。『ファイナルファンタジー』、『ポケットモンスター』、『ゼルダの伝説』、『スーパーマリオ』といったシリーズがとても人気です。もちろん、『エルデンリング』も愛されています。


インタビューを通じ、約8300km離れたノルウェーという国との距離が縮まったような気がするのではないだろうか。『少女と宇宙の物語』と『エリックじいさんの不思議なブレスレット』は、抱える社会問題を含ませつつも、ノルウェーの誇る美しい自然を背景に、爽やかで優しい物語が展開される、ノルウェーの文化とスピリッツを感じる作品になっている。

『少女と宇宙の物語』と『エリックじいさんの不思議なブレスレット』は、Android/iOS/Nintendo Switch向けに配信中だ。(Nintendo Switch版ストアリンク:少女と宇宙の物語)(Nintendo Switch版ストアリンク:エリックじいさんの不思議なブレスレット