Unity Technologiesは9月12日、ゲーム開発プラットフォーム「Unity」について、各提供プランの利用料金に加えて、ゲームのインストール数を基準とする「Unity Runtime Fee」を2024年1月1日から導入すると発表。これを受けて、Unityを利用するゲーム開発者からは困惑や不満の声が上がっている。
Unity Runtime Feeは、利用者が開発したゲームがエンドユーザーによってダウンロード・インストールされた回数を基準として適用。ゲームの過去12か月の収益が最小しきい値を超えており、かつ累計インストール数が最小しきい値を超えている場合、さらにインストールされるたびに規定の料金の支払いが求められる。Unity TechnologiesはUnity Runtime Feeの導入について、Unityの利用料金の値上げであると認めつつ、実際に支払いが発生する利用者は全体のごく一部だと説明している(関連記事)。
怒る人気ゲーム開発者達
この発表後には、Unityを利用するゲーム開発者から非常に多くの反発を招くこととなった。上述したとおり、Unity Runtime Feeを支払うことになるのは一部の成功を得たメーカーに限られる模様であるが、導入を撤回するよう求めたり、今後Unityの使用を避けることを検討したりといったコメントが投稿されている。
たとえば宇宙人狼ゲーム『Among Us』の開発元Innerslothは、Unity Runtime Feeが導入されれば同作を別のゲームエンジンに移植することを示唆。ただ、多くの開発者にはそのような余裕はないだろうとし、導入を止めるよう求めた。また同スタジオのプログラマーForest Willard氏も、何の価値も追加されていないものに税を支払うくらいなら、スタッフを2人雇って『Among Us』をUnity以外に移植すると述べている。
カルト教団運営&アクションゲーム『Cult of the Lamb』の開発元Massive Monsterは、Unity Runtime Feeが導入される2024年1月1日に同作をストアから削除するとして、今すぐ購入するよう呼びかけた。本気なのかどうかは定かではないが、少なくとも今後Unityの使用を避けることは検討しているようだ。同スタジオは別の投稿で、現在開発中の将来のプロジェクトを大幅に延期せざるを得ないとコメント。同スタジオのスタッフはUnityのスペシャリストばかりのため、まったく異なるスキルを身につける時間が必要だとしている。
また『Cult of the Lamb』などの販売元であるDevolver Digitalは、「どのゲームエンジンを使用しているのか」については重要な情報であるため、ゲームの企画を提案してくる際に伝えるよう求めた。Unity Runtime Feeは、同社のような人気作品を数多くリリースしているパブリッシャーにとっても、無関係の話ではないということだろう。
入国審査シミュレーションゲーム『Papers, Please』などで知られるインディー開発者Lucas Pope氏は、「Unityが正気に戻ってくれることを願う」とコメント。『Papers, Please』は、昨年Unityで作り直したばかりだった。一方で同氏は、次回作の開発に向けては「Godot Engine」への関心を示している。Godot Engineはオープンソースのゲーム開発プラットフォームで、無料にて利用可能。採用タイトルとしては、『Brotato』や『Cassette Beasts』『Dome Keeper』『うさぎしま』などが挙げられる。
今回の混乱のなかにおいてGodot Engineは、Unityからの乗り換え先候補として開発者からたびたび言及されている。またGodot Engineの開発元もSNSにて積極的に発信。先述した『Among Us』の開発元Innerslothに対し、ユーモア交じりに勧誘するかのような返信をしたり、ゲームエンジン開発のサポートを呼びかけたりしている。
競合も反応、乗り換え先検討も
Unreal Engineも乗り換え先候補として言及されることが多い。Epic GamesのUEエバンジェリストAri Arnbjörnsson氏は、Unreal Engineは無料で使用でき、総収入が100万ドルを超えた場合にのみ5% のロイヤリティが発生することや、Epic Gamesストアでリリースするとそのロイヤリティが免除されることなど、自社製品の特徴をここぞとばかりにアピール。また、上述した収益の計算については利用者自身で報告する仕組みがあり、同社は利用者を信用していると述べた。
Unity Runtime Feeにおいて、エンドユーザーがゲームをダウンロード・インストールしたことをどのようにしてカウントするのかについてUnity Technologiesは、独自のデータモデルを活用しておこなうと述べるのみで、詳細は明かしていない。こうした不透明な部分も批判を招く結果となっており、同社が自らを信用してもらうことを前提としているのに対し、Epic GamesのArnbjörnsson氏は逆に利用者を信じるとしてアピールした格好だ。
*Necrosoft GamesのディレクターBrandon Sheffield氏は「Unityの死」と題した記事を寄稿。サムネイル画像に使用されたUnity TechnologiesのCEO John Riccitiello氏は、EAの元社長としても知られる実業家で、今回のUnity Runtime Feeの発表に関して象徴的なイメージとして引用されることが多い。
Unity Runtime Feeの発表以降、Unity Technologiesの一部スタッフは利用者への説明に追われている。発表当初には不透明な部分が多く、利用者からの質問が相次いだため、社内で確認を取りSNSに投稿していたのだ。同社シニアXRテックスペシャリストのAntonia Forster氏は、再インストールやチャリティ向けゲームはカウントされないことなどについて説明しつつ、翌日にもさらに回答していくとした。なお、Unity Runtime Feeのさらなる詳細については、公式フォーラムやFAQなどでも説明された(関連記事)。
利用者や内部スタッフとの信頼関係の懸念
また、アソシエイトクライアントパートナーとして開発者サポートをおこなうGeorge Benjamin Jones氏は、SNS上のスタッフらは“メッセンジャー”でしかないとし、優しく接するように求めた。ちなみに、『Duke Nukem』などを手がけたことで知られるGeorge Broussard氏はUnity Technologies内部からの情報として、Unity Runtime Feeの発表内容についての社内での懸念はすべて無視されたと伝えている。Unity Runtime Fee導入に関しては、スタッフらも困惑している状況にあるのかもしれない。
本稿冒頭でも言及したように、Unity Runtime Fee導入によって実際にその支払いを求められることになるのは、Unity利用者のごく一部にあたる成功者に限られる模様。また、発表以降に徐々にその詳細が判明してきたが、それでも批判の声は止まない状況にある。
戦場シミュレーションゲーム『Totally Accurate Battle Simulator』の開発元Landfallは、そもそもUnityを採用したのは定額制だったためだと述べる。そして、利用者の意志を確認しないかたちで突然発表されたUnity Runtime Feeは、Unity Technologiesがかつて掲げた立場に反するとし、信用を大きく損なう行為であると訴えた。また国内デベロッパーのkan_kikuchi氏も、本件の一番の問題は料金よりも信用問題ではないかと指摘。現状ほとんどの開発者には影響はないものの、「急に今までとまったく違う形式の料金が追加」されたという事実が出来たことで、今回は関係なかった開発者にも今後影響が及ぶ可能性があるのではとしている。
Unity Runtime Feeは2024年1月1日から導入される予定。ただ、利用者からの批判や懸念はもとより、その仕組みについてもまだ疑問の声が寄せられており、Unity Technologiesには引き続き説明が求められそうだ。