発売即販売中止ゲーム『The Day Before』開発元スタッフは休みなしで数か月働き、“ミスの罰金”を払っていたとの報道。それでもやめられなかった理由

『The Day Before』の開発元FNTASTICについて、海外メディアが元従業員など関係者に取材。関係者証言として、当時のスタジオの内情についてさまざまな内容が報じられている。

The Day Before』の開発元FNTASTICについて、海外メディアが元従業員など関係者に取材。関係者証言として、当時のスタジオの内情についてさまざまな内容が報じられている。


『The Day Before』は、パンデミック後のアメリカ東海岸を舞台とするオープンワールドサバイバルMMOと標榜されていた。本作は2021年1月に発表されたのち、幾度も発売延期を重ねながらも2023年12月8日にPC(Steam)にて早期アクセス配信開始。サーバー問題や品質面などの課題を数多く抱えていた点や、「MMO」と掲げながらも実際のゲームプレイが脱出型PvPvEシューターとなっている点などに多くの不評が寄せられる結果となった。

そうした中で開発元のFNTASTICは12月12日にスタジオを閉鎖し『The Day Before』の開発を中止すると発表。あわせてSteamでの本作の販売も停止された。その後12月22日にスタジオの公式Xアカウントは販売元のMytonaがSteamとの協力のもと購入者全員への返金に取り組んでいると報告しつつ、「FNTASTICは正式に運営を終了した」と発表。ただ同日のポストは本稿執筆時点で削除されており、その後スタジオの運営継続を示唆する投稿がおこなわれてこれも削除されるなど、一貫性に欠ける動きがみられる(関連記事1関連記事2)。


『The Day Before』はどのように作られたのか

今回、ゲーム情報を扱うYouTubeチャンネルGame Twoおよび海外メディアGameStarがFNTASTICに関する共同調査を実施。元従業員16名およびボランティアスタッフ1名、ならびにMytonaの従業員7名への取材などを通して、FNTASTICのさまざまな内情を下記動画、および記事にて報じている。


FNTASTICは、Eduard Gotovtsev氏およびAisen Gotovtsev氏の兄弟によってロシアのヤクーツクで当初Eight Pointsとして設立されたスタジオだ。スタジオの第1作『The Wild Eight』を早期アクセス配信開始後にスタジオ名をFNTASTICに変更。『The Day Before』開発中には本拠をシンガポールに移している。

Game Twoの動画では『The Wild Eight』を含めFNTASTICが手がけてきた作品などについて言及。中でも『The Day Before』と『Propnight』の開発態勢については興味深い内容も語られた。同スタジオで『The Day Before』の前身となる開発プロジェクトが開始された当時、スタジオのスタッフは約20名だったという。半数はモバイル向けゲームの開発をおこない、もう半数が極秘プロジェクトとして『The Day Before』の開発に携わっていたそうだ。

ただし当初の『The Day Before』はゾンビが登場する点こそ同じものの、最終的な作風とは大きく異なり、カートゥーン調にデザインされた小規模なサバイバルゲームとして開発されていたという。舞台も都市ではなく小さな田舎町で、短めのストーリーとオンライン協力プレイといった要素を備える予定だったそうだ。

『Propnight』

しかし経営陣によって開発方針は大幅に変更され、当初の案は破棄されて『The Day Before』はAAA(大規模開発)級プロジェクトとして開発されることになった。その傍らで小規模なチームにより『Propnight』が開発されるかたちになったという。なお『Propnight』開発チームはある種“新兵訓練(Boot Camp)”のような扱いだったとされている。新入社員が同作のチームで実力を示すと、『The Day Before』の開発チームに引き抜かれていったそうだ。

そうした開発態勢を経て『The Day Before』は2021年に発表され、ゲームプレイ映像なども公開された(関連記事)。しかしこれらの映像には開発中のゲームとは別の、発表専用のバージョンを用いられたという。CPU負荷が非常に高く最適化もされていない、プレイ不可能なバージョンだったそうだ。


劣悪な労働環境

このほかGame Twoの動画では関係者証言として、CEOであるGotovtsev氏ら兄弟の傍若無人さも伝えられている。たとえば両氏は従業員の解雇を「やる気を引き出す(motivating)」ための手段として利用していたといい、実際にやる気がないことを理由にスタッフを解雇し、さらに社内チャットでそのことが発表されていたという。

さらには仕事上のミスなどを理由にスタッフらに罰金を科していたこともあるという。動画では、2人のスタッフに対して音声収録が低品質だったことを理由とする罰金を給与から差し引くと伝える社内チャットを撮影したと見られる写真も紹介された。このほかGame Twoの元には「1年半にわたって土曜日に休んだことがなく、そのうち2か月間は休日なしで働いていた」「休憩も休みもなく、シャワーや食事のための休憩時間を懇願してとった」といった劣悪な労働環境を示す元スタッフらの証言も寄せられているという。

Image Credit: Game Two on YouTube

ではなぜスタッフらは過酷なFNTASTICにて働いていたのか。Game Twoの動画によると、未経験の若者がゲーム開発者としてキャリアを始めるためにそうした環境で耐えていた背景があるようだ。またFNTASTICではロシアやカザフスタン、アルメニアなど、ゲーム業界で働く機会の少ないCIS諸国の地方出身者が多くを占めていたという。またそうしたスタッフが辞めないための施策として、仕事に必要な機材を用意したうえで、その費用を給与で支払わせるといった取り決めも存在したという。退職すると借金を負う恐れがあったことも、スタッフらがFNTASTICで働き続けていた理由としてあるようだ。

『The Day Before』は大きな騒動を巻き起こしたものの、Valve側の対応もあり購入者全員への返金は完了しているとみられる。一方で騒動を通じて、FNTASTICやCEOであったGotovtsev氏らの信用は地に落ちたといえるだろう。そうしたなかで投じられたGame TwoおよびGameStarの報道は、スタジオや経営者の信用失墜に追い討ちをかける内容といえる。

なおFNTASTIC閉鎖の数か月前にはGotovtsev氏らが新たなモバイル向けゲームの開発を計画しており、閉鎖後には解雇された従業員らにオファーが送られたことが報じられている(CD-Action)。先日にはFNTASTIC公式Xアカウントが、スタジオとしての活動再開を示唆するようなポストをおこない、その後削除するといった動きも見られた。FNTASTICとしてゲーム業界でのビジネスを続けようとする狙いもうかがえるものの、今後も厳しい目は向けられ続けるだろう。

Hideaki Fujiwara
Hideaki Fujiwara

なんでも遊ぶ雑食ゲーマー。『Titanfall 2』が好きだったこともあり、『Apex Legends』はリリース当初から遊び続けています。

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