『Dota 2』香港代表選手が「中国の検閲ワード使用」で参加停止処分か。いきなりの処分に“中国への忖度”疑う声あがる

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eスポーツイベント「Road to Asian Games 2022」において、香港代表チームの一員である林奇隆選手の参加資格が取り消された。さらにその翌日、3年間のイベント参加禁止を言い渡された。その処分の原因となったのは、林氏のゲームIDに含まれていた「香港民主化運動に関連付けられる単語」と見られる。


「Road to Asian Games 2022」は、今年の9月23日から開催されるアジア競技大会のeスポーツ部門予選ともいえるイベントだ。アジア競技大会はアジアオリンピック評議会(OCA)が主催する、アジア地域を対象にした国際総合競技大会である。2022年に開催される予定だったが、新型コロナウイルスの流行の影響を受け1年延期、今年開催となった。同大会は今年初めての試みとして、eスポーツを正式に競技項目として採用。「Road to Asian Games 2022」をアジアeスポーツ連盟(Asian Electronic Sports Federation, 以下、AESF)と共同主催している。

発端となったのは、そんな同予選におけるカードのひとつ、7月16日に行われた中国対香港の『Dota 2』の試合と見られる。下記スクリーンショットの通り、林氏は“Eazy D.L.光復”のゲームIDで試合に参加していたようだ。しかし、続く2試合目では“光復”の2文字が消えている。

*該当試合のものとされるスクリーンショット、TVBS新聞網によれば現地SNSであるWeiboにて出回っていた画像とされる。


試合終了後、中国香港eスポーツ総会(Esports Association of Hong Kong, China, 以下、ESAHK)は林氏の「Road to Asian Games 2022」参加資格がAESFに取り消された旨をFacebookにて発表した。処分の原因は“ゲームIDにセンシティブな単語が使用されているため”となっている。ESAHKは処分に対して、“選手の行為や言論はESAHKとは無関係である”と強調。資格の取り消しについては、遺憾の意を表すとともにAESFの決定を尊重するとコメントした。さらに翌日の7月17日、ESAHKは同氏に対し“本協会が主催するイベントやオーディションへの3年間の参加禁止”の処分に処すると追加発表した。処分の理由ついて、ESAHKは“公平性を維持するため、競技とは無関係の要素や個人的感情は排除されるべき”としている。


こうした一連の出来事や発表内容を見ると、林氏の名前に入っていた“光復”という言葉が処分の原因となったと推察される。“光復”という単語は香港民主化運動のスローガン、「光復香港、時代革命」にも含まれている。中国メディア・新浪の記事でも“香港デモに関連する単語”と表現しており、“光復”の2文字が香港デモと関連付けられた可能性は濃厚。林氏のゲームIDにこうした政治的主張が込められていると判断され、処分に至ったのだろう。

記事執筆時点では、Twitchなど各配信プラットフォームにおいて林氏の名前に“光復”が入っていた試合の映像は、公式のものは弊誌観測範囲内ですべて非公開、もしくは削除されている状態となっている。この状況も加味して考えると、“光復”の2文字が処分の原因と見て間違いないだろう。なお、ID変更後の2試合目は問題なく視聴できる。

林氏のゲームIDに“光復”の2文字が含まれていた理由は、恐らく『Dota 2』のプレイヤーネームの仕様にあるだろう。『Dota 2』において、プレイヤーの表示名はユーザーネームだけではない。チームタグ、ギルドタグなどの要素も含まれているのだ。林氏は『Dota 2』の香港代表であるとともに、アマチュアチーム“Team Eazy”の一員でもある。同氏は香港代表チームを意味する“HKG”ではなく、“Eazy”のチーム名を冠して試合に参加していたのだ。恐らく“光復”という2文字も、同氏が所属するグループのタグだと推測することができる。

林氏が受けた処分について、さまざまな声があがっている。まず、「光復」という単語は台湾、香港、中国などの地域で見られるありふれた地名。この単語のみで、林氏がゲームIDに政治的主張を込めているとは断定できないはずだ。Twitterでは、「じゃあ広州にある“光復路”も改名しないといけないな」という皮肉も見られる。

「ゲームIDが競技の公平性に影響を及ぼすはずがない」との見解から、ESAHKが処分の理由とした“公平性の維持”に納得できないとするユーザー意見も見られる。また、イベントへの3年間の出場禁止という処分は主催であるAESFではなく、香港のeスポーツ組織であるESAHKがおこなったものだ。これを中国に対する忖度だと認識し、ESAHKを非難する声もあがっている。一方で、「今回の件は林氏の不注意が招いた」として、主催側の決定に理解を示す者も散見される。

中国は国内で配信されるコンテンツに対し、検閲をおこなう。暴力や当局を批判するものなど、当局が不適切と判断した内容が含まれているものは検閲の対象となる。ゲーム配信も検閲の対象となり、例として検閲対象と見られる『レインボーシックス シージ』では“いつ検閲されるかのチキンレース”のような配信も現地ユーザーにより実施されている(関連記事)。規制当局は配信プラットフォームに一定の影響力をもっていると考えられるわけだ。また前述のとおり、一件のきっかけとなった試合の各プラットフォームでの配信アーカイブや切り抜き動画は、公式のものはすべて視聴できない状態となっている。こういった背景から、林氏が受けた処分に関して中国の当局からの圧力を疑う声もあがっている。

ただし、処分の原因に関して、香港側のESAHKからは「センシティブワード」としか明かされておらず、主催であるAESFからも現時点で正式的な発表がなされていない。“光復”という単語が本当に原因かは明示されていないことに留意したい。また、明かされた情報が有限であるため、現状ではさまざまな推測も飛び交っている。

国際競技の場において、政治的メッセージを発信することは禁止されていることが多い。eスポーツ選手の政治的発言がきっかけとなり処分に至ったのはこれが初めてではない。類似する事例として、『ハースストーン』プレイヤーのChung “Blitzchung” Ng Wai氏が前述の香港デモのスローガン「光復香港、時代革命」を大会配信中に発言し、賞金獲得権利消失・ハースストーンeスポーツシーンへの出場停止の処分をBlizzard側より受けていた(関連記事)。しかし、今回の当事者である林氏のゲームIDに、政治的な意図が込められていたかも不明だ。処分自体のルール上における正当性に疑念が残る中、林氏の処分が適切だったか、しっかりとした吟味はおこなわれるだろうか。

【UPDATE 2023/7/24 16:20】
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