中国では『レインボーシックス シージ』を実況配信できない。それでもBAN覚悟でAIを騙し、監視者をあざむき配信する猛者たち

Image Credit : U曜

中国では、なんとしても『レインボーシックス シージ』(以下、R6S)を実況配信しようとするゲーマーがいるようだ。Twitterユーザー李老师不是你老师氏のツイートが注目を集めている。はたしてどういった実況配信がおこなわれているのか、あるいはなぜそうしなければいけないのか、見ていこう。


中国の『R6S』プレイヤーと、ライブ配信プラットフォームの間の攻防はよく知られているそうだ。『R6S』は、中国では原則的に実況配信を禁止されているため、どうしても実況したいゲーム配信者たちはさまざまな手を打って出るわけだ。

この動画は配信プラットフォームbilibiliで活動する中国のゲーム配信者「U曜」氏のライブ配信画面だ。動画では、黒い背景に白文字のアルファベットによって構成された画面が見える。限界までぼかされた配信画面では、どんなゲームなのかもほとんど判読できない。音声も加工され、もはや『R6S』だと分かるのは観察力に優れた視聴者だけだろう。

一体なぜ、ここまでの対策をしなければ『R6S』のゲーム実況ができないのか。その理由は中国の「版号」システムにあるそうだ。中国ではゲームの販売に関して厳密なガイドラインが定められており、当局による内容審査に通過して「版号」を取得しなければ販売できないのだ(詳細記事)。


2018年の一部メディア報道によると、『R6S』の中国での運営権はテンセントが獲得し、中国国内での発売に向けて審査を申請した。しかしテンセントの運営権獲得の報道後、中国国内の各プラットフォームで『R6S』のライブ配信がBANされる事象が発生。中国メディア報道によれば、BANされた理由は、中国内で『R6S』がまだ適切でないと判断されたためであるという。各運営は中国政府に協力し、該当タイトルの審査を積極的に進めていると語られたそうだ。

つまり、『R6S』はテンセントが運営権を獲得し、中国内で正規に発売するために中国政府に版号を申請。しかし版号審査に時間がかかっており、審査途中のゲームであるとして中国政府に協力するかたちで、各運営が同作の配信をBANしているのだろう。審査を受けている最中のタイトルは、無断でライブ配信することができないわけだ。


『R6S』は2018年に審査開始されてから、本記事執筆時点ではまだ審査の合格が発表されていない。すなわち、『R6S』のプレイヤーは未だに中国向けプラットフォームで自由にライブ配信をおこなえないのだ。なお、審査を受けていない作品はいわゆる“グレーゾーン”にあり、ライブ配信も自由におこなえるという。テンセントが中国の運営権を獲得し、版号を申請したことで、動画配信がBANになるケースに発展したともいえる。

審査が通らず自由に『R6S』のゲーム配信ができないなかで、配信者たちは「いかにして検閲の目をかいくぐるか」を突き詰めた。彼らはあらゆる手段を使って、『R6S』のゲーム配信を試みたのだ。まず、ライブ配信が許可されているゲーム画面で偽装しながら、『R6S』の画面を小さく写すという手だ。たとえば、U曜氏のライブ配信では、『サイバーパンク2077』のナイトシティを大きく映し出し、ゲーム内にオブジェクトとして設置されているモニタに載せるように『R6S』配信に挑戦している。

Image Credit : U曜


同じく“『R6S』配信チキンレース”の常連である配信者Inklaw氏は、『アークナイツ』のキャラクターであるステインレスの装置ディスプレイ画面に『R6S』のゲーム画面を載せて配信をおこなっている。もはやなんの配信かよくわからない。画面真ん中上を凝視すれば、なんとなく『R6S』っぽい画面を確認できる。
【UPDATE 2023/5/9 12:03】
どのキャラに配信が載せられているかについて修正

Image Credit : Inklaw


『R6S』をほかのゲームで偽装する場合、あまり操作を必要としない放置系のゲームを選択するのがポイントのようだ。もしくは前もって「離席しています」「BGMを聴いています」などのテロップを出すことで、(偽装用の)ゲーム画面に動きがないことの説明付けをする。これにより、監視者に怪しまれないようにしているのだ。

ほかにも、動画を見る振りをしつつ、こっそりゲーム画面を載せたり、前述の動画のように、限界までゲーム画面をぼかしたりと、ありとあらゆる手を使って『R6S』のライブ配信を試みている。監視の網をかいくぐらんとする、ゲーム配信者たちの涙ぐましい努力が見てとれる。

いかにBANされずにこっそり『R6S』のライブ配信をおこなうかの課題を、違うベクトルから攻めているグループも存在しているようだ。『R6S』配信の可能性を模索するコミュニティ「Rainbow 6 Siege Stream Lab(R6SLAB)」では、二値化処理でゲーム画面をホワイトノイズ風にぼかすことで、自動的に配信禁止作品を検出するAIの目をかいくぐる技術が研究されている。その実験の経過はアーカイブ化されており、研究内容が確認できる。配信画面に大きく(ニセの)「入力信号がありません」と表示されるなど、偽装配信で培ったノウハウも活用されている。ちなみに筆者は、いくら画面を凝視したところでホワイトノイズにしか見えなかった。

Image Credit : Inklaw


しかし、彼らは監視の目をかいくぐることに飽きてしまったのか、逆に「いかにして『R6S』だと誤認させ、配信BANを食らうか」の挑戦に出る者もあらわれた。前述の“チキンレース”常連のひとり、U曜氏は中国国内ではライブ配信が許可されている『Call of Duty: Modern Warfare II』の配信をおこなったはずが、なぜか「禁止されているゲームを配信しているため、このライブ配信は停止されました」と警告を受けてしまう。配信画面を見てみるとわかるが、氏はわざと『R6S』風のUIオーバーレイを使って配信していたのだ。この行為の意味はさておき、監視者の目にはしっかり『R6S』のゲーム画面に見えたのだろう。

Image Credit : U曜


彼らの血のにじむような努力は、視聴者の間で「何をやっているのか分からないから、多分『R6S』だろう」というジョークが生まれるほどだ。それもそのはず、『R6S』のゲーム画面がどこに写っているのか、探し出すだけで骨が折れる動画が数多く存在しているのだ。こういったジョークが生まれるのもうなずけるだろう。『R6S』を愛してやまないゲーム配信者たちの戦いは、当局による審査の結果が発表される日まで続くだろう。

『レインボーシックス シージ』は、日本ではPC/PS4/PS5/Xbox One/Xbox Series X|S向けに販売中。当然、ライブ配信も自由にすることができる。