UnityのCEOによる、収益化に消極的な開発者への「大馬鹿者」発言がネット駆け巡る。崇高な理念を帳消しにした失言


ゲームエンジン「Unity」を展開するUnity Technologies(以下、Unity)社CEOが、収益化に消極的な開発者を指し「素晴らしいが、とんでもない大馬鹿者」と発言。コミュニティに波紋が広がっている。Unityの重役による突然の暴言には、どのような背景があったのだろうか。


Unityは、アメリカを拠点とするテクノロジー企業。同社が手がけるゲームエンジン「Unity」は、PC・コンソール・モバイルなどゲーム展開プラットフォームを問わず、さまざまな規模やジャンルのゲームタイトル制作に利用されている。同社は7月13日、アプリ収益化企業ironSourceの完全子会社化へと合意したことを発表。主にモバイル向けゲーム開発者向けに、作品の収益化やユーザー分析をしやすくする環境作りをする方針を示していた(関連記事)。ironSourceとの共同により、開発から作品の成長・収益化までを支える仕組みを目指しているわけだ。

そんなUnityのCEOを務めるJohn Riccitiello氏が、現在SNS上で開発者やユーザーらから厳しい批判を受けている。発端となったのは、海外メディアPocket Gamer.bizに掲載されたインタビューにおける、同氏の発言だった。同インタビューの主題は、上述のironSource子会社化にまつわるトピック。インタビューにはRiccitiello氏のほか、UnityシニアVPなどを務めるMarc Whitten氏が回答。ironSource子会社化の背景や、Unityの今後について語っていた。そこで、Riccitiello氏の口から問題の発言が飛び出したのだ。

John Riccitiello氏
Image Credit: Web Summit (CC BY 2.0) cropped


インタビュー記事にて、「ゲーム開発早期において、収益化に向けた実装やユーザー対話をすることには、抵抗のある開発者もいるのでは」との疑問を投げかけられたRiccitiello氏。同氏は「収益化に消極的な開発者は、昔気質の職人肌である」といった旨の認識を、比喩を交えつつ明らかにした。さらに同氏は、ゲーム業界の一部には未だそうした人々が存在するとして「彼らは美しく、純粋で、素晴らしい人々である」と賞賛。にも関わらず、同氏は続けて「彼らはそれと同時に、とんでもない大馬鹿者(the biggest fucking idiots)でもある」と言い放ったのだ。

同氏のこの発言は、またたく間に多数メディアに取り上げられた。「UnityのCEOが“モバイルゲーム収益化に消極的な開発者は大馬鹿者”と発言」などとして、各海外メディアを中心に大々的に報道されたのだ。また、こうしたメディア記事を紹介するSNS投稿には、ゲーム開発者やユーザーらからRiccitiello氏を批判するコメントが多数投じられた。たしかに、Riccitiello氏の「大馬鹿者」との発言は、CEOとして公の場で述べるにはあまりにも浅はかな言葉だ。その一点だけでも、同氏が批判を受けるのは致し方ないだろう。

「大馬鹿者」発言が広まる一方でRiccitiello氏は、収益化に消極的な開発者たちへの一定のリスペクトも示していた。なぜ、同氏はそうした開発者たちを揶揄するに至ったのだろうか。前述のインタビュー上にて同氏は「かつては、開発者はゲーム作りに集中し、宣伝や販売に関しては、それらの担当者と事前に話し合うことなくすべてを任せるやり方が普通だった」と言及。多くの芸術形式などにおいて同様の手法は根強いとしつつ、そうした手法も強く尊重していると語った。

Riccitiello氏は「ゲーム企業はそうした哲学をもつ人々と、成功する作品の条件を見極めようとする人々とで二分化されている」との見解を述べた。また、作品の成功のためには、開発者がユーザーのフィードバックに無関心でいることは避けるべきとの旨も伝えている。開発者もマーケティング面によく気を配り、“成功する作品”作り、すなわちセールス面でも結果の出るゲーム制作に取り組むべきとの意見だろう。ここまでの発言を読むと、Riccitiello氏のいう「大馬鹿者」は「作品の商業的成功に無頓着な開発者」を指すとの意図が汲み取れる。


同インタビューでは一連のRiccitiello氏の答弁のあと、Whitten氏も補足するように発言している。同氏は、ゲーム開発の民主化を推し進め、デベロッパーたちが成功を収めやすい環境を築いていくのがUnityの責任であるとコメント。今までマーケティング担当者などだけが把握しがちだった諸データやノウハウなどを、開発者も利用できるようにしたいとの旨を伝えた。一連の発言を総合すれば「自らパブリッシングもするような小規模デベロッパーでも、しっかりと採算を立てられるような仕組みを作りたい」とのUnityの目標が見えてくる。そうした理念を語っていたにも関わらず、Riccitiello氏の迂闊な「大馬鹿者」発言がすべてを台無しにしてしまったわけだ。

ironSourceを擁することで、新たな取り組みを始めようとするUnity。重役が自ら語り、クリエイターに寄り添う理念を伝えるのであれば、言葉にも気を配るべきだっただろう。今後Unityが展開していくマーケティング支援は、開発者たちに受け入れられるだろうか。