ゲーム開発者が「ゲーム開発について、一般の人に知っておいてほしいこと」を続々投稿。開発現場の実情を明かす


一般のゲーマーにとって、完成した作品については詳しく知ることができるものの、そのゲームはどのようにして制作されたのか、ゲーム開発者の仕事についてはよく分からないという方は多いのではないだろうか。だとすると逆にゲーム開発者も、自らの仕事がよく理解されていないと感じているかもしれない。

京都のVR/ARゲーム開発会社CharacterBankでPR担当およびコミュニティマネージャーとして勤めているPushDustIn氏は6月17日、「ゲーム開発について、開発者が一般の人に知っておいてほしいこと」を、ゲーム開発者から募集する投稿をTwitterにておこなった。開発者から多数の返信が寄せられており、本稿ではいくつか回答をピックアップしていく。
【UPDATE 2022/6/23 10:30】
PushDustIn氏の肩書を修正

まずはPushDustIn氏が、自らの経験をもとに2つ挙げている。ひとつは、良いゲームを作るのは良いアイデアではなく、良いチームである、ということ。どれだけ優れたゲームのアイデアがあったとしても、活かすも殺すも人次第ということなのだろう。

もうひとつは、ゲームの開発サイクルにはあらゆる場面に優先順位が存在する、というもの。ゲーマーならば、プレイしていて「なぜxxが実装されていないんだ?」と感じることはままあるはず。PushDustIn氏は、たとえば重大なバグが残っていたために優先順位が下げられたのかもしれないとしつつ、そうした要素は開発者も実装したいと考えていたことだろうと理解を求めた。

ゲーム開発はハード

寄せられた回答のなかで多くみられるもののひとつは、「ゲーム開発は大変」というものだった。Riot GamesのテクニカルデザイナーGeorge Oliver氏は、ゲーム開発の困難さは、一般の人が考えている以上のものだろうとコメント。『Mafia』シリーズ近作の開発元Hanger 13のシニアVFXアーティストBrian Byrne氏も、ゲーム開発はハードだと述べる。実際のところ、現場では数多くの良い作品が開発中止になっており、リリースにこぎつけたゲームはすべて奇跡のようなものだとした。ゲームを完成させることの難しさを述べる意見は、ほかにも多く見られる。

ゲーム開発の大変さを示す具体的な例としては、Blizzard Entertainmentにて『オーバーウォッチ』のキャラクターアーティストを務めるMelissa Kelly氏が、キャラクタースキンの制作は非常に時間がかかるとしている。レジェンダリースキンの場合はひとつあたり2〜3か月かかり、新規ヒーローになると数多くのイテレーションを経る必要があり、さらに開発期間は伸びるそうだ。“スキンくらいならすぐ作れるだろう”というような見方があって、それを否定したい想いがあったのかもしれない。

またBungieのシニアアクティビティデザイナーMax Nichols氏は、リマスターやリメイク、移植開発は、人々が考えるよりもはるかに多くの作業が求められるとコメント。オリジナル版が存在するとはいえ、だいたい25〜50%の作業は新作を作る場合と変わらないとして、コストもかかるとした。

元セガで、現在は移植開発を多くおこなうDigital Eclipseのエグゼクティブ・プロデューサーStephen Frost氏は、皆がプレイしているゲームは、開発者らのハードワークによって成り立っているとし、開発者には少しばかりのリスペクトを送ってあげてほしいと述べている。

ゲーム開発はお金がかかる

https://twitter.com/HeyItsBWags/status/1537812490356146178

ゲームの開発費について、Crystal DynamicsのデザインリードBrian Waggoner氏は、安くはないと強調している。具体的な例は挙げなかったが、開発自体にかかる費用に加えリリース後の管理やサポートまで含めると、近年のゲームは、一般的に考えられている金額よりもはるかに高いとしている。失敗した場合のリスクが大きすぎるために、先述したような、開発が途中でキャンセルされることも珍しくないのだろう。

またインディースタジオSnowhaven StudiosのライターKristi Jimenez氏は、ビジュアルノベルゲーム開発に必要な作業を列挙。アートや脚本、音楽、プログラミング、GUI/UI開発、プルーフリーディング、ボイス収録、QAなどを挙げ、これらすべてを1人でこなせないなら人を雇う必要があるとした。同氏は、ビジュアルノベルゲームを作るためにかかるコストは安くはなく、また簡単な作業でもないと訴えており、過小評価されていると感じていたのかもしれない。

QAの仕事

QA(品質保証)の仕事に関する言及も多数みられた。『Five Nights at Freddy’s』シリーズで知られるSteel Wool StudiosのQA担当者Robin C氏は、QAはバグ修正が仕事だと思っている人が多いようだが、そうではないと語る。開発者が修正作業をしやすいように、発見したバグについてレポートを書くことが仕事だとした。

『Minecraft Dungeons』などの開発協力をおこなうDouble ElevenのリードプログラマーMatt Phillips氏は、QA担当者はゲームのあらゆるバグを発見し報告していると述べる。もっとも、バグが残ったまま発売される作品は少なくない。同氏は、それはリリースの判断にQA担当者が関わらない仕組みがあるためだとし、Double Elevenにおいては、QAの関与を強めようと取り組んでいるという。

このトピックついては、大手スタジオでQAとして2年間働いた経験があるというTwitterユーザーVasin氏が反応。自身が見つけたバグの60〜80%は修正されなかったという。現場ではWNF(Will Not Fix・修正しない)と通告されるそうだ。同氏はフラストレーションを感じたものの、そうした判断は上層部によるものであり、現場の開発者を責める気持ちはなかったとしている。

Epic GamesのテクニカルプロダクトマネージメントディレクターGlenn White氏は、1000人のQA担当者が1年間テストを繰り返したとしても、AAAタイトルのローンチからわずか2時間での全プレイヤーの総プレイ時間には及ばないとコメント。QAだけでバグをすべて洗い出すことの難しさを伝えたいのかもしれない。

なおEAのシニアリサーチャーJessica Tompkins氏は、プレイヤーからのフィードバックについては、SNSやRedditへの投稿などを含め、開発者からマーケティング担当者までさまざまな職種のスタッフが目を通していると述べている。メーカーはすべての要望に応えられるわけではないものの、“いち個人が意見を送っても無駄”ということはないようだ。

開発者は怠け者ではない

ほかに目立った回答としては、「開発者は怠け者(Lazy)ではない」と訴えるものがある。たとえばバグ修正やバランス調整などが(外から見て)思うように進んでいない場合、その作品のコミュニティから「Lazy devs(怠惰な開発者め)」などといった批判が投じられることがある。

Blizzard EntertainmentのシニアシステムデザイナーAndrew Carl氏は、つまらないゲームを作りたいと考える開発者などいないとしたうえで、開発者は怠け者ではないとコメント。ほかの業界よりも比較的安い賃金で、ストレスを抱えながらも仕事に励んでおり、それはゲーム開発に対する情熱があるからだとした。EAのコンセプトアーティストNina Modaffari氏も、AAAタイトルに携わる開発者であっても、インディー開発者と同じくらいの情熱をもって仕事に取り組んでいると述べている。

『Rivals of Aether』で知られるAether StudiosのエンバイロメントアーティストMason Bys氏は同じ話題にて、作品に問題がある場合、その理由の99%はマネージメントの問題だと指摘する。たとえば、ディレクションや計画に欠落があったり、時間が足りなかったり。開発者が怠惰であったり、能力がないわけではないとした。

また「スター・ウォーズ」のVRゲームを手がけるILMxLABのジュニアエンバイロメントアーティストSean Philips氏は、ゲーム開発現場ではアセットなどの再利用はよくおこなわれることだとし、それは開発者が楽をしたいからではないと述べる。正しく機能するものをいちから作り直すことは、時間や予算を浪費することに繋がるからだそうだ。また再利用することで、パフォーマンス向上やゲームの容量削減に繋がることもあるとのこと。アセット再利用の有効性について言及する人は、ほかにもみられる。

ゲームの開発工程

https://twitter.com/KatieBlueprint/status/1537795587692806146

Blueprint Gamesの共同設立者Katie Nelson氏は、開発中のゲーム画面を披露した際のエピソードを語る。そうした際には、多くのゲーマーからもっと磨き上げるように提案されることがあるという。ただ同氏は、開発の初期段階で磨き上げ作業をおこなうことは、開発作業の妨げになるリスクがあり、時間の無駄に繋がるとした。公開されたゲーム映像に、開発中のものであると記載されていることはよくある。最終的なクオリティを示すものではないということを、一般のゲーマーに広く理解してもらいたいということだろう。

WayForwardのビジネス開発ディレクターAdam Tierney氏は、ゲーム開発のスケジュール感について語っている。同氏によると、作品によっては発表された時点で収録コンテンツは固まっているのだという。そのため、その後続報が公開されて、たとえば発売1か月前にファンからある要素について期待する声が上がっても、実装できる余裕はないそうだ。作品やスタジオの規模によってケースバイケースではあるだろうが、ゲーム開発のスケージュールはそれだけみっちり詰まっているというわけだ。

ゲームエンジン=品質ではない

インディー開発者のHazel Kennedy氏は、ゲームのクオリティはゲームエンジンで決まるわけではないと語る。たとえば、Unityで開発されたゲームのクオリティが低いことが多く、Unity自体が悪い評判を受けることがよくあるという。ただそれは、経験の浅い開発者にとって、Unityは利用するハードルが非常に低いためであり、Unity自体の問題ではないとした。

またAvalanche StudiosのシニアナラティブデザイナーBen Luff氏はゲームエンジンに関して、実際の開発プロセスについて誤解が広まっているとコメント。そして、どのゲームエンジンを使っているのかを、作品のマーケティングに利用することはやめてほしいと述べている。ゲームエンジンによって品質が担保されるわけではなく、あくまで開発者がどのように使いこなすかが大事ということなのだろう。

このほか、Criterion GamesのコンセプトアーティストTommy Millar氏は、ゲームのダウンロード版が、パッケージ版よりも高く販売されるケースについてコメント。同氏によると、それは“小売店の身代金”に起因するものであり、メーカーが強欲になっているわけではないとした。小売店はメーカーに対し、DL版の価格がパッケージ版の希望小売価格を下回らないよう要求するのだという。従わないと、店頭の良い場所にゲームを置いてもらえなかったり、取り扱いすらされなかったりするとのこと。

今回のPushDustIn氏による、「ゲーム開発について、開発者が一般の人に知っておいてほしいこと」を募集するツイートには、ここに挙げたもの以外にも数多くの返信が寄せられている。興味のある方は当該ツイートへの返信や、引用ツイートをチェックしてみてはいかがだろうか。



※ The English version of this article is available here