フロム・ソフトウェア新作『ELDEN RING(エルデンリング)』のSteamストアページが8月6日に公開された。公開から時を待たずしていきなり、本作はSteamストアで「恋愛シミュレーション」扱いされているようだ。この現象の背景には、フロム・ソフトウェア作品のファン文化とSteamにおけるストア機能の仕様があると見られる。
誤解なきように説明すると、『エルデンリング 』は恋愛シミュレーションではなくアクションRPGだ。開発元のフロム・ソフトウェアは『DARK SOULS(ダークソウル)』シリーズをはじめとする、ダークな世界観と歯ごたえのある難易度を特徴とした作品を手がけている。来年2022年1月21日に発売を控えた本作も、その系譜に属する硬派なアクションRPG作品になることが示唆されており、少なくともかわいい恋愛シミュレーションとは表現しがたい。
しかし、記事執筆現在『エルデンリング』はSteamストアページにて「恋愛シミュレーション」、「かわいい」、「カジュアル」、「ヌード」といったタグ付けがなされている。このタグはゲーム内容に則しているとは思えない。また開発元フロム・ソフトウェアや販売元バンダイナムコが追加したとも考えがたい。このタグ付けの原因となっていると考えられるのが、Steamの「ユーザータグ」システムだ。
Steamにおけるタグシステムは、ゲームのジャンルや要素をタグとして作品に紐付けられる仕組みだ。タグの種類としては「RPG」や「アドベンチャー」などの大まかなジャンルや、「高難易度」や「SF」など作品の特徴をあらわすものが存在する。タグは多数追加することが可能で、そのうち上位20個までのタグが、Steamにおける作品の検索や露出に影響する。ストアページを管理する制作者側は、管理画面を通じてタグの追加や優先順位の設定をおこなえる。
このタグは制作者側だけでなく、Steamを利用する一般ユーザーも自由に作成・追加することが可能だ。とはいっても、ユーザー作成タグについては、追加して即座に反映されるわけではない。たとえば、単に「かわいい」というタグを単独のユーザーが追加しただけではタグの「重要度」が足りない。多数の別ユーザーが同様のタグを追加したり、「かわいい」タグを支持しないかぎり、基本的にはゲームタグ上位にはならないシステムだ。そうした制限からユーザー追加タグは、基本的に制作者側のタグ設定を補足するような立ち位置となっている。
しかし、大多数のユーザーが「かわいい」タグを支持した場合においては、突然このタグがゲームの内容を表現する上位タグに躍り出る可能性がある。つまり、『エルデンリング』が今回ストアページにて「かわいいカジュアル恋愛シミュレーション」にされてしまったのは、これらのタグに多数ユーザーの支持が集まった結果だと考えられるのだ。
このような異常事態が起きた背景を知るには、フロム・ソフトウェア作品のファン文化を紐解かなければならない。前述の通り、同スタジオの『ダークソウル』などの諸作品は、かなり世界観が暗然としている傾向があり、ゲームデザインについても「死にゲー」や「心を折る」と形容される設計になっている。しかしその世界観の構築やゲーム設計は緻密なものであり、ゲームとしての品質も確かなものだ。そのため、フロム・ソフトウェアの一連のゲーム作品には、ゲーム内で多数の死を重ね心を折られかけながらも作品を愛する、多くの熱狂的なファンが存在している。
そうしたファンたちの癒やしとなるのが、作品に登場するNPCたちだ。なかでも特に代表的なのは『ダークソウル』シリーズに登場する「火守女」たちだろう。同シリーズには火守女と呼ばれる女性NPCが複数存在しており、いずれの作品でもプレイヤーキャラクターのレベルアップや、回復アイテム強化などをおこなってくれる重要なサポートキャラだ。そして彼女たちの特徴のひとつが、みな基本的にたいへん美しい容貌をもっているという点だ。
危険と死と絶望のはびこる戦いをくぐり抜けたプレイヤーを、献身的にサポートしてくれる美しい女性には、多くのプレイヤーが好意を抱いたことだろう。火守女に限らず、フロム・ソフトウェア諸作品には一糸まとわぬ蜘蛛女やドラゴン娘、巨大で豊満な女神、長身痩躯の美しい人形など、幅広い層に響く女性NPCが存在する。また、男性NPCにも魅力的なキャラクターが多数いる。太陽を愛する好漢や、ぽっこり丸い鎧が特徴的な愛らしい騎士、怪しげな魅力を放つ狡猾な男、領国と家名を守るため命を賭す美丈夫など、こちらも枚挙にいとまがない。そうしたキャラクターたちに触れ“恋に落ちる”プレイヤーがいるのも無理からぬことだろう。
キャラクターの強烈な魅力にやられるプレイヤーが多い点から、フロム・ソフトウェア作品のファンコミュニティでは諸作品を「恋愛シミュレーション」になぞらえたり、キャラクターと親密に接触したいという発言をするユーザーも多い。今回『エルデンリング』が恋愛シミュレーションにされてしまったのも、「フロム・ソフトウェア作品は恋愛ゲーム」というミームに染まったユーザーの一部が、タグに支持を集めてしまい上位タグに食い込んだものだと考えられる。
なお、フロム・ソフトウェア過去作『ダークソウルIII』のDLC「Ashes of Ariandel」のSteamストアページにはこっそり「変態(Hentai)」タグが鎮座している。これは海外においていわゆる「日本風の創作アダルトコンテンツ」を指す言葉だ。タグは基本的に、自動で各言語に翻訳されるようになっているため、『エルデンリング』に追加された「恋愛シミュレーション(Dating Sim)」、「かわいい(Cute)」などのタグには国外のユーザーが大いに票を投じたとも考えられる。
留意したいのは、Steamストアページにおける作品の内容に即さないタグの設定は、検索ノイズやマーケティング上の支障に繋がる可能性がある点だ。タグを投じたのは一部ユーザーとは考えられるものの、巨大なファンベースゆえに今回の結果に繋がってしまったのだろう。幸い、タグの優先度についてはストアページ管理者側が編集できるため、今後もずっと『エルデンリング』が恋愛シミュレーション扱いされる可能性は低い。また、同作のSteamコミュニティ掲示板についても、ストアページ開設から間髪入れずに雑多な投稿が続々となされている状況だ。いずれの現象も、ページ開設に伴う突発的な動きだと考えられるため、ストアページ管理の本格化と時間の経過によって沈静化していくことだろう。
いたずらなタグ投稿もスレッド乱立も間違いなく推奨されない行動だ。しかし今回の出来事は、本作およびそのキャラクターに強い期待が集まっていることの表出ではあるだろう。『エルデンリング』については、発売を待たずしてトレイラーにちらりと登場したかわいい「ツボ小僧(Pot Boy)」が一部コミュニティからの人気を集めている(関連記事)。
しかし、こうしたキュートな見た目のキャラクターが、プレイヤーを猛烈に殴りつけて殺害する可能性もフロム・ソフトウェア作品では十分考えられる。Steamにおけるユーザータグ投稿は、作品の中身をしっかり確かめた上でおこないたいものだ。
『エルデンリング』はPC(Steam)およびPS4/PS5/Xbox One/Xbox Series X|S向けに、2022年1月21日発売予定。