テクスチャオタクたちが『スマブラ』や『マリオ64』のテクスチャ素材元ネタを次々と発掘していく。かいぞくのいりえ背景は、“富山の山”

 

3Dゲームのグラフィックにて重要部分を担うテクスチャ。エンタメ専門学校のバンタンゲームアカデミーは、ゲームのテクスチャについて「物体の表面の質感を表現するために、3Dオブジェクトの表面に貼り付ける模様や画像」と説明している。テクスチャを多く見かけるようになったのは、1990年代後期から。新ハードが発売され3Dゲームが増えたことにより、見かける機会が多くなったという経緯。そんな90年代後半の人気ゲーム『スーパーマリオ64』などのテクスチャの元ネタを見つける活動が、特定のコミュニティではおこなわれているようだ。


テクスチャの元ネタ調査隊として旗を振っているのは、クリエイター集団Render96だ。彼らはデータベースやアーカイブを用意しており、発見した事実を記入していく、いわば博物館的な役割も担っている。調査のやり方は至って単純。素材を見つけて、ゲーム内テクスチャと示し合わせ、元ネタであるかの正否を判断する流れだ。地道な特定作業が続けられており、たとえば『スーパーマリオ64』のベータ版のとあるステージや『マリオカート64』のからからさばくのトンネルでは、cobble_stoneと呼ばれるレンガテクスチャが使われていたことが報告されていた(関連記事)。

そして最近になり、大きな発見が続いている。というのも、かいぞくのいりえの壁背景のテクスチャ元ネタが発見されたのだ。かいぞくのいりえは、『スーパーマリオ64』に登場する岬のステージ。水に潜ることが多いが、青々しい背景が目を引く場所である。

Image Credit : Wikiwiki / 任天堂


その背景の正体はというと、「富山県の山」であることが濃厚だ。どういうことかというと、かいぞくのいりえの背景テクスチャは「Visual Disk Mountains」というデザイナー向けのフォトライブラリが使用されていたようだ。フォトライブラリの素材は、もとを辿れば富山県の山の写真。富山県の写真をもとにかいぞくのいりえの背景が作られた、というわけである。

「Visual Disk Mountains」が絶版状態である関係で、写真素材が実際に富山県のどの山なのかという点ははっきりしない。一部海外ユーザーが仙人池ヒュッテではないかと推測し、「仙人池ヒュッテ(Sennin pond)」という言葉がやたら拡散されている。かなりシュールな状況であるが、仙人池ヒュッテは山小屋。別のユーザーが指摘するように仙人池ヒュッテから見える標高2999 mの北アルプスの山、剱岳説が有力だろう 。かいぞくのいりえの雰囲気が、富山県の剱岳によって作られていたと考えると、なんだか不思議な気持ちになるかもしれない。なお、こちらの剱岳由来(?)のテクスチャについては、『マリオカート64』のヨッシーバレーの山々にも使われていたと、Render96は報告している。


もうひとつの大きな発見とされているのは、『大乱闘スマッシュブラザーズDX』(スマブラDX)でおなじみのイメージアートの空の素材元が特定されたこと。『スマブラDX』のアートは隠しファイターを含めた全キャラを映しているほか、爽やかな大空が特徴。この空については、かつてイメージナビ社が発売したデジタルデータ集「素材辞典」のVol.5 〈空・雲編〉に収録された空が使用されているそうだ。具体的には、「雲海」の写真を逆さにしたものが使用されているとのこと。素材自体も美しいが、素材の使い方のうまさが光る。


実は冒頭に述べたレンガテクスチャも、素材辞典産。90年代後期~2000年代前半の作品では、素材辞典が使われていることが多い。『スーパーマリオ64』のバッタンキングの とりでの下層の土壁も、初代『スマブラ』セレクト画面のファイター背景についても、素材辞典のアセットが使用されている。一方で、最近になり前出のフォトライブラリ「Visual Disk」産のテクスチャも多く発見されている。『スーパーマリオ64』のテレサのホラーハウスの屋外地面テクスチャについても、「Visual Disk Metals 」のものが使用されているそうだ。素材の出典元も、ひとつとは限らないということだ。


懐かしきのタイトルのテクスチャが、どのような素材集をもとに作られたのか。それを知ることで何か得られるわけではない。しかしながら、親しみあるもののルーツを知ることで知的好奇心が満たされることは、歴史学が証明している。昨年から特に熱が入りつつあるテクスチャコミュニティに元ネタ発掘研究。発見された素材はデータベースに登録されており、いつか『スーパーマリオ64』のテクスチャ元ネタが網羅される日が訪れるかもしれない。