『スーパーマリオ64』ベータ版に使用された幻の「レンガ風テクスチャ」は、大量のゲームで採用されていた。意外なつながりを持つテクスチャ兄弟

 

『スーパーマリオ64』の研究をおこなっているクリエイター集団Render96は、Wiki形式の情報まとめページを公開した。海外の任天堂コミュニティでは、任天堂タイトルをただ愛するだけでなく、ゲーム内で使用されたデータやメカニクスの研究も進められている。Render96のWikiもそうした類のサイトである。Render96はGitHub内にWiki形式のページを設け、リークで流出したデータなどを扱わず、自らの検証を介してその仕組みを研究している。その中で、『スーパーマリオ64』ベータ版で使用されたレンガ風テクスチャ(cobble_stone)は、そのほかのさまざまな作品でも採用されていることが明らかになっている。

『スーパーマリオ64』ベータ版では、とあるテクスチャが使用されていた。それが今回のテーマとなるレンガ風テクスチャである。複数の石が敷き詰められているデザインで、壁や床としても使用できるテクスチャだ。『スーパーマリオ64』においては、ベータの段階では使用されていたようだが、製品版では採用されず。しかしながら、さまざまな場所でこのテクスチャは使われてきたようだ。


まずあげられるのが『マリオカート64』。例のテクスチャがイメージアートのひとつとして使用されている。からからさばくのトンネルの入り口にて使われているようだ。ただしゲーム内のからからさばくのトンネル入り口では、異なるテクスチャが使用されている。またかつては任天堂傘下にあったRare社のタイトルでは、このレンガ調のテクスチャは頻繁に使用されているという。

Render96 / 任天堂


『Killer Instinct』シリーズや『スーパードンキーコング』シリーズ、そして『ドンキーコング64』にて使用された。色調こそ異なるが、じっくりと見れば同じパターンであることがわかる。『コンカー』シリーズや『バンジョーとカズーイの大冒険』でも、このテクスチャは愛用されている。そのまま使用するのではなく、フチ部分に草が生えていたり、赤みがかかっていたりと、アレンジはなされているようだ。

Render96 / Rare
Render96 / Rare


このテクスチャは、任天堂関連作以外でも使用されているという。『MediEvil』ではオープニングなどで採用され、『ファイナルファンタジーVII』でも部分的に使用されているとの報告。『Mortal Kombat 3』といったタイトルでも使われているそうだ。詳細は特集ページを見てみてほしい。ざっと報告されているだけでもこの使われっぷり。当時としては神出鬼没のこのテクスチャの正体は一体何なのか。どうやらレンダリングソフトウェアのバンドルに入っていた素材である説が濃厚だ。AutodeskのSurfaceテクスチャページにて、fileテクスチャの一例としてレンガ風テクスチャが掲載されている。はっきりとした出元はわからないようだが、なんらかの素材集に収録されたものなのだろう。

Render96 / SIE
Render96 / スクウェア・エニックス


なおRender96は、『スーパーマリオ64』の使用アセットの出どころそのものについても熱心に研究している。当時のゲームでは、イメージナビ社が発売するデジタルデータ集「素材辞典」のアセットが使われていたようで、『スーパーマリオ64』もそのひとつ。テクスチャについては、素材辞典<テクスチャー・石編>のものが多く使用されていたそうだ。また『大乱闘スマッシュブラザーズDX』においても、効果音を中心に素材辞典のアセットを数多く使用していたと報告されている。

現在ゲーム開発においては、アセット購入も重要な役目を果たしている。Unity アセットストアやUE マーケットプレイスでは高品質な素材が販売されており、同じテクスチャを異なるゲームで見かける機会も多いだろう。そうした素材の組み合わせがゲームの大半を占める場合、ユーザーからAsset Flip(アセット フリップ)と揶揄されることもある。自分で素材を作らず、購入した素材をつなぎ合わせたものだという批判である。これはSteamなどで、アセットをつなぎ合わせただけの低品質なゲームが量産されていることも、背景としてあげられるだろう。

Image Credit : 素材辞典


一方で、『スーパーマリオ64』のような往年の名作でも、素材集に収録されたアセットが使われていた。今はネットの普及によって、素材のありかをユーザーが把握しやすくなっただけに過ぎない。3Dゲームのような複雑な作品を、すべてゼロから作ることは至難の業。今も昔も、優れたゲームであっても、ストアアセットが随所に使われているのだ。こうした事例を介して、アセット活用への理解がユーザーの間でさらに進んでいくことに期待したい。