『フォートナイト』ダンスエモートを巡る新たな訴訟……が起きる前に、Epic Gamesが先手を打つ。エモートの使用停止通告に異議申し立て

Epic Gamesの異議申し立て書より CourtListener.com

「ダンシング・パンプキン・マン」というキャラクターで知られるパフォーマー/コメディアンのMatthew Geiler氏は10月30日、『フォートナイト』運営元のEpic Gamesに対し、著作権侵害行為の停止通告書を送付。同作の「パンプアップ」エモートは、ダンシング・パンプキン・マンというキャラクターの著作権侵害に該当するとして、同エモートを削除するよう要請した。しかしこの訴えは一方的なものにはならなそうだ。The VergePolygonが報じている。

『フォートナイト』のダンスエモートを巡っては、これまでにも複数のアーティストが訴訟を起こしてきたが、今回はEpic Gamesが反論。ダンシング・パンプキン・マンは著作権保護対象となり得るキャラクターではなく、『フォートナイト』のパンプアップエモートは著作権侵害に該当しないと、ニューヨークの地方裁判所に異議申し立ての書面を提出した。これによりEpic Gamesは、Geiler氏に訴訟を起こされる前に先手を打った形となる。

Geiler氏は、2006年に米国のテレビ局KXVOで披露した「パンプキン・ダンス」により一躍有名となった人物。全身タイツ姿でパンプキンのお面を被り、映画「ゴーストバスターズ」のテーマ曲にあわせて特徴的なダンスを踊るという内容であった。のちにこのキャラクターはダンシング・パンプキン・マンとして定着していく。

一方、『フォートナイト』のパンプアップは、キャラクターの頭部をジャック・オー・ランタンのような燃えさかるパンプキンに変化させ、Geiler氏のパンプキン・ダンスそっくりの動きを繰り出すエモートである。2019年10月29日~10月30日にゲーム内ストアで販売された。頭部をパンプキンに変えるという仕様と、そのダンスステップの類似性から、Epic Gamesはダンシング・パンプキン・マンというキャラクターの著作権を侵害している、というのがGeiler氏の主張である。

Geiler氏は11月に掲載されたMEL Magazineのインタビューにて、パンプキン・ダンスのライセンス化と、ダンシング・パンプキン・マンの商標登録手続きを進めていると答えていた。またEpic Gamesからパンプキン・ダンスの使用許諾についてアプローチされたと回答。Facebookでは、Epic Gamesとライセンス契約を結んだという本人のコメントも見られる。使用許諾を与えながらも、著作物が無許可で使用されたと述べるGeiler氏の訴えは、第三者からみると不可解な点が残る。

Epic Games側も、ダンシング・パンプキン・マンのキャラクターとダンス映像(および映像内コンテンツ)の使用について、2019年8月時点でGeiler氏から「明確な承諾」を得ていると主張している。上述したFacebookコメントからも、Geiler氏が使用許諾について認識済みであることが読み取れる。そもそも、パンプキン頭もといジャック・オー・ランタン頭のキャラクターは歴史上無数に存在しており、決してGeiler氏オリジナルのアイデアではない。何の特徴もない全身タイツ姿にパンプキンのお面を被せただけでは、著作権保護対象となるキャラクターとはみなせないと強調。さらに、パンプキンのお面は既製品であり、Geiler氏は著作権を保持し得ないとも指摘している。ゲーム内でダンシング・パンプキン・マンの名前は使用しておらず、エモートで使われるパンプキン頭も、ダンシング・パンプキン・マンとは異なる形状のもの。黒の全身タイツのキャラクター(アバター)も存在しないし、ダンス中に流れる曲も異なると付け加えている。

キャラクターおよびダンスの使用許諾を得ており、仮に許諾を得ていないにしても、ダンシング・パンプキン・マンは商標・著作権の保護対象ではない。また、仮に商標・著作権の保護対象であったとしても、両キャラクターは似ていない。このように、Epic Gamesは複数の論点からGeiler氏に反論している。

Epic Gamesの異議申し立て書より(CourtListener.com

『フォートナイト』のダンスエモートを巡る訴訟案件は、過去にも複数発生している。Geiler氏のような「キャラクター」ではなく、「ダンス」単体での著作権侵害を訴えるものだ。そうした案件を複数担当していた法律事務所Pierce Bainridgeは2019年3月、Epic Gamesに対する著作権侵害の訴え5件を取り下げている(Polygon)。著作権侵害に該当するか否かの問題以前に、著作権侵害訴訟プロセスの解釈に変更が生じたからである。それまでは著作権登録申請を行った時点で著作権侵害訴訟を起こせたが、登録手続きを待ってからでないと訴訟を起こせなくなった。つまり過去の訴訟案件は、著作権登録が完了していないダンスに関する著作権侵害の訴えばかりだったのだ。なおPierce Bainrigdeが抱えていたのは、Alfonso Ribeiro氏、Orange Shirt KidことMcCumber少年、2 MillyことTerrance Ferguson氏、BlocBoyJBことJames Baker氏、Backpack KidことRussell Horning氏の案件である。

米国では著作権法上、ダンスステップ単体やシンプルなルーティンだけでは、著作権保護の対象とはなり得ないと判断されている。原告のひとりであったAlfonso Ribeiro氏の「カールトン・ダンス」についても、シンプルなダンスルーティンであり、著作権保護の対象となるコレオグラフィーには該当しないと、すでに著作権登録の申請が却下されている(関連記事)。そうした判例から、Geiler氏のパンプキン・ダンスについても、ダンス単体では著作権侵害の訴えが通るとは考えにくい。また、パンプキン頭という特性だけで、ダンシング・パンプキン・マンをキャラクターとして著作権上保護することも難しいだろう。