Devolver Digital E3 2019の狂ったSF発表会まとめ。任天堂風のダイレクト放送により、オリジナル盗作セット『Devolver Bootleg』や「逆ホラー体験」ゲームを発表

 

Devolver Digital(以下、Devolver)は6月10日、E3 2019の開催にあわせてプレスカンファレンス「Big Fancy Press Conference 2019」……もとい「Devolver Direct」を実施した。同社のE3発表会はこれで3度目。おなじみDevolverのチーフ・シナジー・オフィサーNina Struthers(女優Mahria Zook)が同社の新製品を紹介するわけだが、今回は昨年までの発表会とは趣がやや異なっていた。

まず昨年までの流れをおさらいしておこう。Devolverは2017年、「未来の非倫理的なビジネス・プラクティスを、今すぐ実現」という挑発的なキャッチフレーズとともにE3に登場。画面に札束を投げるだけで課金できる「Devolver Digital Screen Pay」や、どれだけ未完成のコンテンツでも恥じることなく売り出せる「Devolver Digital’s Earliest Access」など斬新な新製品を発表したのち、ニーナの頭が爆発するという衝撃的な終幕により話題を呼んだ(2017年まとめ記事)。

続く2018年には、死んだはずのニーナが復活し「クソゲーだけど仕事だから宣伝します」と吐き捨てながら自社の新作を発表していった。ルートボックスと仮想通貨を組み合わせた革新的製品「ルートボックスコイン」はDevolverのオンラインストアにて実際に販売され、一時は1万5000ドル(約160万円)まで値上がりしたかと思いきや、すぐさま15セントまで急落するという凄まじい変動ぶりを見せ、風刺の一歩先へと足を踏み入れた(2018年まとめ記事)。

2年連続でカンファレンスを成功させたニーナであるが、2018年カンファレンスの最後に客席からガトリングガンで蜂の巣にされ、息をひきとってしまった。先述した「Devolver Digital Screen Pay」のせいで「金を突っ込んで痛い目にあったゲーマー」が復讐しにやってきたのだ(意味不明な方は過去まとめ記事を参考に)。その後、ニーナが全身義体化手術を受けるシーンとともにE3 2018カンファレンスは幕を閉じた。

 

時代はカンファレンスではなくダイレクト

新登場の悪役リンダ

そして2019年、ニーナはいまだ意識を取り戻せずにいる。E3 2019のプレスカンファレンスまで残り4分。焦りを隠せずにいるDevolverの重役たち。「会社の顔である彼女が登壇できないなら、カンファレンスの開催は諦めよう」と諦念気味のメガネもいれば、「カンファレンスをやらないと、また無名時代に戻ってしまう」と最後まで手を尽くそうと粘るモヒカンもいる。一方、ニーナの助手マーガレットは、「ミュージカルのライブパフォーマンスで時間を埋めるのはどう?」と、どこかの大手パブリッシャーがいつもやっていそうな代案を出すが、「絶対にやるものか!」とモヒカンに却下される。

絶体絶命の中、いかにも悪役という雰囲気を醸し出す、リンダという女性が発言する。「プレスカンファレンスなんて過去の遺物よ。ほとんどの会社はもう開催すらしていないわ」。彼女いわく、そうした金のかかるライブショーは、マーケティング部の重役のエゴを満たすためだけに開催されているのであって、存在意義はない。だからこそ、消費者に直接届くビデオ配信で情報を伝えた方がいい。「見終わる前から消費行動のオーバードースを起こすほどに純化したマーケティング。ケツの穴からヘロインをツッこむくらいにキマるマーケティングビデオよ!」。そう、それこそが「Devolver Direct」だ。

 

「オリジナル盗作」を販売する『Devolver Bootleg』

「再起不能なら、彼女の頭の中で放送すればいいじゃない」。そう唱える彼女は「Devolver Directプロトコル」を発動。以降、ニーナの頭の中の様子が展開されるようになる。某社の“Direct”放送を彷彿とさせる語り口の男性が前説を行うが、不快に感じたのかニーナはすぐさま彼の喉元を左手で握りつぶし黙らせる。その後は淡々と商品紹介を始める。

まず最初に流れたのは『Fall Guys: Ultimate Knockout』のトレイラー。PC/PS4向けに2020年発売予定となっているキュートな大規模マルチプレイゲームだ。100人規模のプレイヤーが集まり、物理演算系のパーティゲームのようなミニゲームが各ラウンドごとに行われる。脱落しないよう他プレイヤーを蹴落とし、最後の勝者を目指すのだ。「Devolver Direct」の映像では、某社某ダイレクト風の映像・音楽とともにゲームが紹介されている。

https://www.youtube.com/watch?v=2OAVHWmeV0c

その後はDevolverの「グレーマーケット流通部門のヴァイス・プレジデント」を名乗るZane Stults氏が登場。彼いわく、SteamやEpic Gamesストア、GOGやDiscordは小さなマーケットで競り合っているだけ。「私たちはニッチだがもっと儲けの大きいビジネスを見つけた」と語り始める。G2Aのような胡散臭いビジネスと、卑劣な手段で金を巻き上げるクリエイティビティの欠片もないモバイルゲーム大手の手口。このふたつを組み合わせた自社ゲームストア「Devolver Bootleg」だ。愚かにもIPを手渡してきた開発者たちから訴えられる心配なく、自分たちが販売するゲームを独占的にパクる、世界初のグレーマーケット・ゲームランチャーだという。これにはニーナも珍しく「Holy f*ck!」と驚きを隠せない様子。

『Devolver Bootleg』は本当にSteamで販売されているゲームであり、6月17日までは1%オフの514円で購入可能。8つの「オリジナル盗作」がセットになっている。『Enter The Gun Dungeon』『Hotline Milwaukee』『Ape Out Jr.』『Shootyboots』『Super Absolver Mini: Turbo Fighting Championship』『Catsylvania』『PikuBiku Ball Stars』『Luftrousers』。Devolver作品を遊んだことのある方が酔っ払ったままSteamを巡回していたら、うっかり本物だと騙されてしまうかもしれない。各作品の雑な説明文は、元ネタそのまんまである。

 

アーケードゲーム市場への参入

ここまでは何が起きているのか混乱しつつも、『Devolver Bootleg』について素晴らしいアイデアだと微笑み、和やかな雰囲気を漂わせていたニーナ。だが突如としてStults氏の腹部から巨大な触手が飛び出してきた。そう、怪物となり人間を食らう「逆ホラー体験」アクション『Carrion』の主人公が、出番を待たずに現れてしまったのだ。腹わたを引き裂いて出てきてしまったからには仕方がないということで、同作のトレイラーが流される。2020年、PCおよびコンソール向けに発売予定だ。

さて、ここでマーガレット助手が登場。ニーナに「髪型変えた?」と尋ねられ、はぐらかす一幕があるが、おそらくは昨年までと俳優が変わっていることをそれとなく示しているのだろう。

左端が今年のマーガレット
昨年までのマーガレット

続いて「一時はビデオゲームの黄金時代を築いた市場への参入」として、アーケードゲーム『Enter the Gungeon: House of the Gundead』を発表した。Griffin Aerotechが開発する2人Co-opアーケード専用タイトル。ガンデッドであふれるガンジョン内を探索し、ライトガンを使って銃を撃ち、敵の銃弾をドッジロールで回避しながら、次のフロアへと突き進んでいく。2020年、アーケード専用で登場する予定だ。

ここで映像にグリッチが走り、ニーナが異変に気づき始める。もはや彼女の意志では番組の進行をコントロールできず、『The Messenger: Picnic Panic』(7月11日配信の無料DLC。トレイラーリンクはこちら)『My Friend Pedro』(6月20日発売。トレイラーリンクはこちら)の映像が立て続けに流れる。

その後もトレイラーが止まらず、悲鳴をあげ、苦しみ始めるニーナ。全ては彼女の頭の中で起きている出来事であって、現実世界のニーナは植物状態のまま、まばたきひとつしていない。ただ静かに一滴の涙を流すだけ。こうして第一回「Devolver Direct」は幕を閉じる。

 

ニーナサガは続く

エピローグとして、ニーナの脳内システムファイルにログインした悪い女リンダが登場。身動き取れないニーナに向かって、Devolverがダイレクト・マーケティングモデルへの転身に成功したことを伝える。「Devolverは私のものよ。どんな気分?このビッチが」と勝利の笑みを浮かべるリンダ。「これで大衆に向かって、年中いつでもゲームを発表できるわ。あなたを使ってね。年次カンファレンスという制約にとらわれることなく、疑うことを知らない消費者に向かって、有料DLCを好きなだけ発表できるのよ。特に理由も無しにゲームの発売延期を発表することだってできちゃうわ。好きなときに、ダイレクトに、Devolver Directでね。これがゲーム業界の未来よ、ニーナ。未来の未来」。

そして完全に「ターミネーター」な音楽とともにエンドクレジットが流れ始める。恒例のポストクレジットシーンでは、明かりが消え銃声が鳴り響くオフィス内に、銃を抱えた血まみれの助手マーガレットが現れる。ニーナのもとに走り寄ってきたマーガレットが「生きたかったら、私と一緒にきて」と手を差し伸べ、画面が暗転。「TO BE CONTINUED」と流れる。

初回プレスカンファレンスでは「新作発表なし」と事前告知していたほどのアナーキーさを発揮したDevolverであるが、今回は実在する商品が6作品も紹介された。いや、発表すらもナラティブの一部であると考えると、今回ニーナは6作品も「紹介させられた」と言える。ニーナとマーガレットが反撃の狼煙をあげることを予期させるポストクレジットシーンからして、来年の「Big Fancy Press Conference」はまた違った展開を見せるのだろう。

今年のE3 2019では、『Cyberpunk 2077』への出演が発表された俳優キアヌ・リーブスが、観客との掛け合いや「Breathtaking」というワードをきっかけに場を盛り上げたり(関連記事)。新作『GhostWire: Tokyo』を発表したTango Gameworksの中村育美氏が、身振り手振りのチャーミングなプレゼンで一躍時の人になったりと(関連記事)、ビデオ放送ではなく生のプレゼンテーションならではの熱気が生み出されることもあった。ソニーを筆頭としたE3離れが叫ばれる中、ゲーム業界およびE3の風刺を続けてきたDevolverは、果たしてどのような答えを出すのか。狂わしきニーナサガの次章を楽しみに待ちながら、次のE3までの一年を過ごしたい。