『Apex Legends』のTwitch視聴者数激減を受けて『フォートナイト』がトップに返り咲く。インフルエンサーの囲い込みという起爆剤の限界


フォートナイト』がTwitchの視聴ランキングで再びトップに返り咲いた。2018年3月以降、Twitchの平均視聴者数ランキングで首位を独走し続けてきた同作は、2019年2月に『Apex Legends』が電撃配信されたことを受けて3位にまで降下。トップの座を譲る形となったが、3月には2位に上がり、4月にはデイリーランキング1位常連に復帰し、月間1位のペースを維持している(GitHyp)。

だが、ここにきて『フォートナイト』の人気が上昇しているのかというと、そういうわけでもない。2018年7月に平均視聴者数22万3000人を記録してからは緩やかな下降線をたどっている。2019年1月の17万6800人から2月14万1400人という20%減を見せたあとは、平均値13万~14万人台のまま。カンフル剤が切れた『Apex Legends』がトップ争いから脱落し、視聴者層が異なり安定稼働を続ける『League of Legends』と僅差で競り合っているのが実情である。

たとえば2月に2位となった『League of Legends』の平均視聴者数は14万4000人で、3位の『フォートナイト』は14万1400人。3月も、1位の『League of Legends』と2位『フォートナイト』の数字は、大きく離れてはいなかった。

 

インフルエンサーの囲い込みという起爆剤

『Apex Legends』

『Apex Legends』はローンチをむかえた2019年2月に平均視聴者数21万9000人、ピーク時67万人を記録しトップを独走した。しかしながら3月には70%減の平均6万5000人にまで下がり、本稿執筆時点での過去30日間の平均は3万8800人と、下がり続けている。現時点でデイリーの視聴者数ランキングでは首位争いから落ち、トップ10にギリギリ入る規模となっている。人数だけでなく視聴時間としても、ローンチ当初は週平均4000万時間を記録していたが、3月には週平均1000万時間にまで下がった。

Image Credit: StreamElements

同作は発表と同時にリリースするという、ゲリラ的な販売戦略を取っていたが、マーケティングにお金を使っていなかったわけではない。インフルエンサーの徹底的な囲い込みにより、ローンチ初日からブーストをかけていった。開発元のRespawn Entertainmentは『Apex Legends』の発売前に多数のインフルエンサーを招いての試遊会を実施。その後もスポンサーとしてつき、同作が確実に配信されるよう手配していった。

Twitchのタイトル別の視聴者数・視聴時間・視聴ランキングは、人気ストリーマーが何を配信するかによって容易に変動する。ストリーマー向けの各種サービスを提供しているStreamElementsの調べによると、Twitchでは上位1000チャンネルが視聴時間の57%を占めている。『Apex Legends』においては、2月にはトップ20ストリーマーの半数が『Apex Legends』を配信し、首位独走に貢献した。しかしながら視聴者数や視聴時間の急減を見た3月には、トップ20ストリーマーのうちわずか2人だけが『Apex Legends』を配信対象にしていたという。

とくに配信者個別の累計視聴時間ランキングでは、2月に『Apex Legends』の配信を開始したShroud氏が累計1500万時間超えという大好調振りを見せ、『Apex Legends』のTwitch人気を支えた(比較対象として、1月首位は『フォートナイト』プレイヤーのTfue氏による1000万時間超)。なおShroud氏は3月ランク外となっているが、こちらはスクーター運転中の事故による負傷が原因で活動を控えていたことが影響している。

『Grand Theft Auto V』

小数の人気ストリーマーが視聴ランキングを左右する事例としては、それまで1年以上トップ10外だった『GTA V』が2019年3月になって急に上位に食い込んできたケースが挙げられる。SodaPoppin氏、Lirik氏、Vader氏、Buddha氏といった人気ストリーマーが一斉に『GTA V』を取り扱い始めたことから、総視聴時間は2月の6倍。平均視聴者数は2月の2万4000人から10万7000人にまで一気に増加している(GitHyp)。

 

ストリーミングの視聴文化が浸透

先述したStreamElementsの調べによると、2019年Q1(2019年1月~3月)におけるTwitch全体の総視聴時間は27億時間で、昨年同時期比35%増となっている。TwitchだけでなくYouTube LiveおよびマイクロソフトのMixerの視聴時間も大幅な増加傾向にあると報告されている。特定のタイトルに限らず、ストリーミング文化が浸透し、人口拡大を続けているのだ。なお2019年 Q1のタイトル別視聴時間1位は『フォートナイト』の約3億1000万時間。2位は上位常連の『League of Legends』が僅差の約3億時間。3位の『Apex Legends』は約1億8000万時間となっている。

前期比で見ていくと、『フォートナイト』は2018年Q4から8.34%減。『PUBG』は5.88%減。2018年Q4で5位にランクインしていた『Call of Duty: Black Ops 4』はランク外に落ちるなど、バトルロイヤルモードを含むビッグタイトルは、軒並み下がっている。ただ、爆発的なブームが去り安定期に突入した『フォートナイト』『PUBG』に関しては、『Apex Legends』登場後も最小限の人数減にとどめているとも捉え得る。

Image Credit: StreamElements

『フォートナイト』や『PUBG』が若干の低下傾向を見せ、『Apex Legends』は一時的なブースト期間が過ぎ去ろうとしている。ではどこが伸びているのかというと、安定した人気を誇る『League of Legends』や『Dota 2』『Overwatch』、昨年12月に基本プレイ無料化した同じく定番タイトルの『CS:GO』、そして2019年Q1の総視聴時間が前期比178%増と急激な伸びを見せた『GTA V』などである。またゲーム以外の配信を合算した「ノン・ゲーミング・コンテンツ」の項目も前期比21.81%増を見せ、2019年Q1の視聴時間ランキング4位として位置づけられている。

『PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS』

『Apex Legends』に関しては、人気ストリーマーが去っていっただけでなく、チーターの蔓延により配信対象としづらいタイトルとなっていることも、配信者および視聴者数の低下原因として考え得るだろう。

ただインフルエンサーの囲い込み作戦は、起爆剤として確かな効果を発揮した。もちろん、配信主として明らかにクオリティが低いゲームを扱い続ければ個人ブランドに傷がつくし、視聴者も気づく。ゆえにある程度のクオリティが担保されたゲームでないと効果を発揮しづらい手法ではあるが、『Apex Legends』が採用した大規模なインフルエンサー・マーケティングは、数字として効果が見込みやすい現代的マーケティングの成功例と言えよう。視聴コンテンツとしての人気は、少なからずゲームのプレイ人口にも影響する。

視聴者数と視聴時間はお金で買える。ただしそれは人工的に生み出された数字であり、囲い込み期間が終わったあとまで継続的な人気維持を確約するものではない。長期的に見ると、先人として地盤を固めた『フォートナイト』がTwitch人気のトップに立っている。とはいえ、バトルロイヤルというすでに飽和気味の市場に新規参入する場合のマーケティングとしては、かなり有効な一手であった。