『リネージュW』の翻訳は、シリーズの歴史との対話。日本語ローカライズ担当者がシリーズならではの工夫と、約20年の重みを伝える

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『リネージュW』は韓国のグローバル プレミア ゲーム デベロッパー&パブリッシャー「NCSOFT」が手がける、MMORPGだ。韓国の同名人気漫画を原作としたMMO『リネージュ』シリーズの最新作となる。同シリーズは、本国韓国では1998年よりサービスイン。日本国内でも20年以上にわたりサービスされている長寿作品だ。その歴史を脈々と受け継ぐ『リネージュW』は、昨年11月4日に世界同時リリースを果たし、今年11月4日でリリース1周年を迎えた。

そんな節目に、本作の日本国内展開を支える『リネージュW』日本語ローカライズ担当者が、本作の翻訳業務について語ってくれた。ゲーム内の物語に負けず劣らず重厚な歴史をもつ『リネージュ』最新作の翻訳には、いろいろな工夫があったようだ。

──今回、グローバルで展開している『リネージュW』の日本のローカライゼーションチームについて紹介させていただく事になりました。宜しくお願い致します。

まずは、日本のローカライゼーションチームについてご紹介お願い致します。

*上田まさみ氏

ローカライゼーションチーム 上田まさみ 氏(以下、上田氏):
ローカライゼーションチームは『リネージュW』の日本語テキスト部分全般を担当しており、たとえばストーリーパートのテキスト翻訳はもちろん、アイテムの名称・効果や、モンスター・人物の名前やセリフ、変身やマジックドールといった要素の名称など、多岐に渡る部分を翻訳しております。

また、ボイス収録などもローカライゼーションチームが担当しており、台本製作や声優の配役・収録時のディレクションなどを担当しています。テキスト翻訳のみならず、ボイスについても広い範囲でローカライズ業務を担っています。

──『リネージュW』は、本筋や期間限定イベントなどでのシナリオが豊富な印象です。ここ1年間の業務のなかで、特に印象に残っている一幕はありますか。

上田氏:
一番心に残っている一幕は、やはりリリースの時です。

『リネージュW』は、リリース前の初期の翻訳段階では、ゲーム画面を見ながら翻訳するわけではありませんでした。テキストだけを見ながら翻訳作業を行うという大変さと、ゲームに適用されたときのことを想像しながら翻訳していく難しさがありました。

リアルタイムにゲームが作られていく中で翻訳を進めていたので、開発の試行錯誤や苦労は韓国語原文のテキストからも感じました。なので、ゲームの中のワールドに各国のプレイヤーが接続してきた瞬間は、「やっとこの時を迎えられた」という感動と報われた思いがありました。

──リリース後に様々なアップデートがありました。アップデートコンテンツの翻訳のなかで、特に印象に残っているものはありますか。

上田氏:
やはり「1stエピソード:アデン」のアップデートですね。『リネージュW』はもともと 重厚な世界観が特徴的ですが、特に「1stエピソード:アデン」からは、そのダークさが一層増した重々しい雰囲気が漂っている印象を受けました。

たとえば、原文で「홍등가」という地名が出てきます。これは日本語に翻訳するといわゆる「遊廓」をさす地名となり、そこで働く人たちもかなり直接的な名称や、過激な表現が使われていたため、翻訳時には地名を「裏路地」にするなど、かなり気を使いました。


──そうした、各国のプレイヤーが違和感なくプレイできるように工夫していることはほかにありますか。

上田氏:
別タイトルのローカライズ作業でのお話となりますが、韓国語ベースのタイトルでは、韓国語の文字数で表示領域や文字のサイズが設定されていることがあります。そのため、韓国語を日本語に訳すと大抵は文字数が増えるので、ゲームに適用した際に表示しきれなかったり、文字が自動縮小されて見づらくなってしまう問題がありました。

そうした別タイトルでの経験を踏まえて『リネージュW』では、開発早期段階からできるだけ表示領域を広げるよう要望を出したり、翻訳の際にも文字数を調整したりして、できる限り過去の『リネージュ』シリーズを踏襲する名称をそのまま使えるようにしました。


──『リネージュ』シリーズはゲームとしても20年以上の歴史があり、名称など歴代の翻訳を引き継いでいる部分も多いと思います。重厚な背景設定などをどう踏襲しているのでしょうか

上田氏:
『リネージュW』は「リネージュ」のケンラウヘルが倒され、デポロジューが王に即位してからの世界が舞台となっています。翻訳では原作漫画「リネージュ」と地続きの世界になるように調整をしつつ、初期の「ラスタバド」以前の『リネージュ』を参考にするなどして、基本的にはPC版『リネージュ』での名称を引き継いでおります。

──ローカライズ作業で感じた韓国などの国々と日本の文化の違いはありますか。もしくは、同じアジアという点で見出した共通点などのエピソードがあれば教えてください。

上田氏:
『リネージュW』の世界観としては西洋ファンタジーなのですが、グローバルタイトルとなるため、展開されている地域にまつわるイベントなども期間限定で開催されることがあります。韓国や台湾の旧正月に合わせたイベントなどもあり、あえて各国の特色をそのまま表すような翻訳にすることがあります。例えば、旧正月を祝うイベントで、日本の「お年玉袋」に該当するアイテムは中国語表記の「紅包」と翻訳しています。

また逆に日本のお盆に相当する、韓国の「秋夕」を取上げたイベントの時は、「秋夕=お盆」と訳すと時期が違い過ぎたため、秋夕と同じ日で、且つお餅を食べる風習が一緒である「十五夜」を代わりにピックアップし活用することもありました。

*画像左から「紅包」「福袋」「ポクチュモニ」


──チャットの自動翻訳におけるワードの単語登録などもローカライズチームの担当ですか。たとえば「草」や「w」など、ネットスラングや若者言葉は、どのように翻訳されているのでしょうか。

上田氏:
チャットの自動翻訳については、そのまま翻訳すると強い言い回しになってしまう表現や、不自然になる表現などがあります。そうした問題が起きうる単語については、翻訳時にできるだけ一般的で受け入れやすい表現になるようにと訳文を調整しています。

ネットスラングに関しては常に変化するもので、あまりにも新しい言葉に合わせすぎると一部の人にしか通じなかったり、すぐに流行が終わったり、言い回しが変わって逆に「時代遅れ感」が出てしまったりもします。そのため、あえて少し古めで、意味が広く通じるネット用語に置き換えるようにしています。

──『リネージュW』では、リリース1周年記念大型アップデート「1st シグネチャー クラス:修羅」が11月2日に実装。『リネージュ』シリーズで初めて登場する新クラス「修羅」が目玉となりました。シリーズ初登場クラスということで、翻訳に気を付けたところなどはありますか。

上田氏:
「修羅」はオリジナルクラスとなるため、かなり気を使いました。『リネージュ』シリーズではクラス名やスキル名を西洋ファンタジーという世界観に合わせてカタカナ表記にすることが多く、「修羅」も、最初は「シュラ」とカタカナ表記にしていました。専用武器も和の雰囲気を感じさせる形状で、PCオンラインゲーム『リネージュ2』にも日本刀のような形状の武器がありますが、そちらは「カタナ」、「サムライ ロングソード」とカタカナ表記になっています。

しかし今回『リネージュW』ではクラス名を漢字表記となる「修羅」に変更し、武器の名前も「太刀」、「短刀」と漢字表記に統一しました。こうした点は、『リネージュW』だけの新たな個性の一つとなっています。

*『リネージュW』のオリジナルクラス「修羅」


──リリースから1周年を迎え、シリーズおなじみの「傲慢の塔」などファンの思い入れが深いコンテンツのローカライズも増えて来たと思います。そうした要素のローカライズの際に、気を付けていることはありますか。

上田氏:
『リネージュW』に実装されるコンテンツの多くがすでに『リネージュ』シリーズで登場しているものなので、名称が決まっているものについては『リネージュ』シリーズの翻訳を引き継ぎ、馴染みがある雰囲気を保てるよう気をつけました。

──今までうかがったこと以外に、ローカライズの際にあったエピソードや、印象深かった出来事はありますか。

上田氏:
日本では約20年間分の『リネージュ』シリーズの翻訳データが蓄積されています。この実績はほかの言語よりも多いため、我々も過去の『リネージュ』シリーズの表現を参考に翻訳を進めているのですが、たまにほかの言語の翻訳で日本語翻訳を参考にしている部分が見受けられたりします。

──最後に、日本のプレイヤーにメッセージをお願いします。

上田氏:
日本のプレイヤーの皆さんは、ゲームを深く理解し、楽しんでプレイしてくださっているので本当に有難く思っております。是非、今後ともよろしくお願いいたします。

リネージュW』はiOS/Android/PC(PURPLE)向けに基本プレイ無料で配信中だ。

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