『No Man’s Sky』レビュー 薄味の宇宙に秘められた輝き


『No Man’s Sky』は広大な宇宙を探索するアドベンチャーゲームだ。1800京もの星が存在する宇宙空間をスペースシップで飛び回り、時には惑星に着陸するなどし、冒険を展開していく。開発を手がけるのは約15人のスタッフで構成されているHello Games。その壮大なスケールのコンセプトは発表時から話題を呼び、発売後のセールスも好調である。

本稿では、『No Man’s Sky』のPC版をレビューする。弊誌ではすでに簡易的なゲーム紹介をおこなっているので、どういうゲームか気になる方はそちらを参考にしてほしい。

探索とクラフトの反復

ゲームを始めると、プレイヤーは見知らぬ惑星に放り出され、まず宇宙船の修理を強いられる。周辺に落ちている素材を集めて、修理に必要なパーツを作成し、宇宙船に無事に乗ることができれば物語の始まりだ。しばらくは画面右下に表示されるチュートリアルをこなし、指示がなくなれば「宇宙の中心」を目指すこととなる。

宇宙の中心を目指すうえでは、宇宙服や宇宙船といった装備の強化は欠かせない。本作は、こういった装備を強化するために、探索とクラフトを繰り返していくのが基本となる。探索は主に「発見」と「採掘」で構成されており、発見では施設や遺跡内から言語やレシピなどが得られ、採掘ではクラフトの素材となる資源を得ることができる。資源は換金もできるので重要な存在だ。クラフトを繰り返し、テクノロジーを完成させることで、プレイヤーの防御力を高めたり、武器の攻撃力を上げたり、宇宙船の速度を速めたりすることが可能。こういったテクノロジーを生み出し装着していくことで活動範囲が広がり、探索の効率も上がっていく。この探索とクラフトの繰り返しは、『マインクラフト』や『テラリア』といったサンドボックスゲームのサイクルに似たものだと考えてもらっていいだろう。

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プレイヤーは、探索とクラフトを繰り返して制約からの解放に奔走することとなる。序盤、採掘レーザーは効率が悪く、宇宙船は脆弱だ。そして何より初期装備のままだとインベントリの容量が少なく、十分な量のアイテムを保持することができない。この制約は、解放する喜びを与えてくれると同時に、活動が制限されるという苦痛をプレイヤーに与えていく。というのも、惑星ではそれぞれ炭素・鉄・ヘリジウムといった基本のものに加えて、イリジウム・金・銅といったその星特有の資源が採取できる。さらに換金すると高値になるアイテムなども頻繁に入手でき、少し惑星内を飛び回っただけでインベントリはすぐにいっぱいになる。そうなるとこれらのアイテムを換金するために宇宙ステーションへ戻ることとなり、探索の中断が強いられてしまう。

またインベントリの制約はテクノロジーの意義を失わせるという点もある。例えば、プレイヤーを強化するテクノロジーもアイテムと同様にインベントリを占有するという点だ。新たなテクノロジーを作成するためのレシピや素材は屋内施設を探索すれば頻繁に発見できるが、インベントリを増やすまでは少々時間がかかる。探索の効率を考えると、多くの人がインベントリ数に余裕ができるまで、必要最低限のテクノロジーしか装着しないという道を選ぶこととなるだろう。こういった仕様により、探索途中でテクノロジーのレシピや素材を入手しても、クラフトする意欲が失われてしまう。

しかし、序盤は制約が強いだけに、解放する喜びも大きい。インベントリを拡大するイベントと遭遇すれば探索のモチベーションが高まり、多くのインベントリを持つ新たな宇宙船を買うために資金稼ぎに躍起になるだろう。そういった点では、『No Man’s Sky』の序盤のデザインは成功していると言える。

失われた目標とご褒美

退屈さが目立ち始めるのは、苦しいと思っていた制約から解放される中盤あたりからだ。ゲームが進みインベントリが増えていくと、テクノロジーを装着する余裕がでてくる。このテクノロジーは、はっきりいってそこまで魅力がなく、動機づけに貢献しているとは言いがたい。テクノロジーによって肉体強化されていない状態でも十分な距離を走れるほどスタミナがあり、熱防御強化を装着せずとも、プレイヤーは灼熱の惑星でも十分に活動できる。つまり、テクノロジーの多くが、プレイヤーがあまり不満だと感じていない能力にプラスアルファを加える程度のもので、手間をかけて作るほどのものではないのだ。

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ワープエンジンや採掘レーザーの強化などは探索に役立つが、“使えるテクノロジー”はほぼ決まっている。ゆえに、宝箱を開け、テクノロジーのレシピを発見してもどんどん喜べなくなってくるのだ。システム自体は面白いアイディアであるものの、テクノロジーは、探索とクラフトの往復の動機づけにうまくなれていない。序盤から扱いにくいものとされ、終盤にはいるものといらないものの価値がはっきりと分かれるこのシステムが、もう少しだけ親切で魅力的なものであれば、プレイヤーのモチベーションが引き上げられただろう。

探索の動機づけでいえば、言語の習得システムも惜しさが否めない。言語システムは、探索や異星人とのコミュニケーションを通じて、彼らが話す言葉をひとつひとつ学んでいくというものだ。はじめは「友達」といった初歩的な単語ばかりであるが、言語が集まってくると次第に「文明」といった単語が学習できるようになり、より異星人の高度な表現が理解できるようになってくる。言語を学び正体不明の人々と徐々に意思疎通できるようになるプロセスは、本作の醍醐味でもある。ジェスチャーや描写から推測で汲んでいた彼らの意思を実際に知っていくと、温厚さや野蛮さがわかり、それが面白くも恐ろしくもある。しかし、この言語システムも、探索の対価としてうまく機能しているとはいいがたい。例えば、通信信号の暗号を解き、遺跡を見つけそこにおもむくとする。こういった少々面倒な手順を経てたどり着いた遺跡に用意されているのは、おおかたが言語だ。言語を集めることで異星人とのコミュニケーションで的確な選択肢を選べるようになり、アイテム入手を助けることもあるが、こういったイベントの選択は言語がなくとも解けるものも多い。言語を集めることは楽しいが、手間のかかる探索の報酬としては少々物足りなさが否めない。

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アイテムといった報酬がなくとも、宇宙空間の冒険自体がプレイヤーへのご褒美になるという考え方もできなくはない。膨大な宇宙から気になる星を見つけ出し、シームレスに上陸できるという体験は、ほかの作品にはない唯一無二のものだ。また自動生成された惑星を訪れ、それぞれ違った地形や動物、植物を眺めるのは楽しい。生物にかんしてはとにかく多くのバリエーションがある。現実世界に存在しそうなかわいらしいものから、夢に出てくるようなおぞましいものまで幅広い。海外では性器に似た生物がいるという報告もされており、笑えるものも多い。しかし、宇宙空間での移動と惑星への上陸は、絶え間なく繰り返されるがゆえに、時間の経過とともに飽きを引き起こす。惑星の形成も、ある程度のパターンがつかめてくると、輝きは失われる。星ごとに色彩は異なっており、山だらけや海だらけの惑星なども存在しているが、自動生成には限界があり、次第に既視感を抱くようになるだろう。

拭えない単調さ

序盤の制約を乗り切った後、新鮮さと目標を失ったプレイヤーは、こういった単調さに徐々にモチベーションを奪われていくだろう。おそらくそれは、「宇宙の中心へと向かう」というメインの目標に、魅力がないことも関連している。宇宙の中心に向かう最中には、ストーリーやサイドクエストのようなものも存在しており、ただひたすら真ん中を目指すわけではない。しかしそのシナリオは抽象的なものであり、アクセントにはなっているものの、動機づけとしては機能していない。少なくとも「早く先を知りたい」とうまく思わせられる構造にはなっていないし、宇宙の中心はとにかくとんでもなく遠く、その間のサイクルには大きな変化もないので、究極的に言えば移動に必要な資源を集めてワープすることの繰り返しとなる。そして、最終的に本作は、マルチプレイもなく建築もないという遊びの幅がないゆえに、探索とクラフトの繰り返しから外れた息抜きもできない。広大な宇宙が舞台となっているが、長くプレイすればするほど単調さが増していき、宇宙を旅するモチベーションを保つのが難しい。それが『No Man’s Sky』の最大の欠点であると言える。

またPC版では素晴らしい技術とともに、忌むべき量の不具合が産出されている。8月20日にはパッチノートを公開するなど、Hello Gamesは現在これらの問題の解決に全力であたっており、段階的に改善されつつあるが、筆者の環境では未だに思い出したかのようにクラッシュすることがある。この点については、単純にHello Gamesは反省が必要だろう。

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一方、ところどころに、Hello Gamesがこの単調さをどうにかしようとしている一端が垣間見える。例えば初めて会った異星人とは必ず会話を通じたイベントが発生するのだが、そのバリエーションはなかなか豊富で楽しい。その分2回目以降の会話は定型文となってしまい、完全なるNPCと化してしまうが、異星人と会う行為は常に刺激がともなっている。また救難信号の受信や敵の急襲、嵐の訪れといったアクシデントも発生する。『No Man’s Sky』において、アクシデントは重要な刺激だ。繰り返し続くと煩雑さを感じるが、こういったアクシデントがもっと多く用意されていればプレイヤーをより長い時間没入させることができただろう。先日、redditユーザーによって「実装されなかった要素リスト」というものが作成されていることを報じたが、リストの事柄の多くはプレイを飽きさせないためのイベントが多かった。そういった点ではこのリストの何割かが実装されていれば、と惜しむ気持ちが生まれてしまう。

秘められた輝き

こうしてゲームに対するやや厳しい感想を述べてきたが、奇妙なことに筆者は『No Man’s Sky』を決して嫌うことはできないし、6080円に対する未練は全くない。そればかりか、単調さと不具合を嘆きながらも、空き時間ができるとゲームを起動してしまう。飽きを感じながらもついつい遊んでしまう、そういった魅力が『No Man’s Sky』にあることは間違いない。

『No Man’s Sky』が達成した最も大きな功績は、惑星と宇宙が一体となる大きなフィールドを生み出したことだろう。広大な宇宙の中に無数の惑星があり、数々の星は宇宙と一体化している。惑星に着陸する時にローディングがないことにより、宇宙探索の感覚が途切れることはなく、本当に宇宙船を操縦しているかのような感覚が味わえる。惑星で罪を犯せば宇宙でも追われることになるし、逆もしかり。果てなきエリアにて遠くを目指すドライブのような「宇宙体験」と、資源を探したり、アイテムを探したりといったRPG的な「惑星体験」が継ぎ目なく一体化している。それが本作にしかない魅力だと言えよう。

筆者は、こういった一体化された宇宙で、惑星を見つけては資源を掘り、お金をため、また次の惑星へ向かうのが楽しいと感じる。この感覚は『Euro Truck Simulator』を楽しんでいた時とやや似た印象を持つ。難しい操作もなく、サバイバル要素もゆるいため、良い意味で緊張感がない。そういった環境で、ふらっとのんびり壮大な宇宙へ旅に出られるという魅力が本作にはある。確かにHello Gamesが用意した宇宙は単調で薄味だ。しかし、宇宙と惑星をつなぎ、銀河を身近に体験できるという『No Man’s Sky』の骨組みからは、揺るぎない輝きが溢れている。

恐らく最大の敵は高すぎた期待値と価格だろう。サービスが良すぎたHello GamesのディレクターSean Murray氏は、繰り返し続けた「You can do anything in the game(ゲーム内ではなんだってできる)」というセリフを代表に、結果的に期待を煽ってしまった自身の過去の言動に苦しめられている。そして、60ドルという決して安くない価格設定が、その期待をさらに高めてしまっているのも事実だ。しかしなんということはない。探索に特化しているという点と、徐々に単調になってくるという点を覚悟していれば『No Man’s Sky』は海外メディアが憤怒するほど悪いゲームではない。ゲームの中には可能性が詰まっており、パッチやアップデート、Modなどで改良が続けられれば、発売前に見た『No Man’s Sky』が実現されるのも夢ではない。本作は「期待はずれ」や「Sean Murray氏は嘘をついた」といった、ゲーム内容とは別のカテゴリで話題にされがちな作品だ。しかし、話題として楽しむのではなく、ぜひゲームを触り、輝ける部分と不出来な箇所の両方を体験してほしい。6080円は安価ではないが、『No Man’s Sky』にはそれだけの体験が込められている。