箱庭えくすぷろーら』は、眺めているだけで懐かしい気持ちになるクオータービューに、軽快な操作性を組み合わせた国産アクションRPGだ。細部まで作り込まれたグラフィックは静止画ではなく、キャラクターはもちろん、背景まで生きているかのようにぐりぐりと動く。ちりばめられたテキストは良く言えばソフトエロ、悪く言えばシモネタであり、敵キャラクターの半数以上は女体がモチーフだ。砂漠の街の名前はトトリ、南国の島の街はナワオキ、太陽にもっとも近い場所にある遺跡の名はオカヤマで、火山による熱を利用した地下発電が盛んな街はシュウゾウである。ちなみに、トトリには最近「スタバ」が出来たらしい。なるほどね。

本作のシステムは広義のオープンワールド型に当たるもので、プレイヤーはどのような順番でダンジョンを攻略してもよい。街の住人から情報を聞き、ワールドマップのなかを走り回ることで新しいダンジョンや街を発見することができ、各所で獲得できる実績を一定数集めることでラストダンジョンに挑むことができる。このシステムはプレイヤーが気の向くままにマップを探索することを推奨するが、一本筋の通った重厚なメインストーリーを語るには不向きだ。そこでプレイヤーを惹きつけるために採られた解法が、軽いエロスと小ネタの連続である。

玉金という言い方をする必要はあったのだろうか?
玉金という言い方をする必要はあったのだろうか?

街の住人の台詞や地名、アイテムの説明文からボスのグラフィックに至るまで、いたるところにエロスと小ネタが挟み込まれており、これらのテキストやグラフィックが、そもそも何のために冒険しているのかという根源的な問いを忘れさせる。そしてプレイヤーは、気がつけばさらなるお尻を求めて次の場所へと突き進んでいる。冒険の動機が笑いとエロであるというのは情けないような気もするが、面白いのだから仕方がない。

もちろん、メインストーリーは完全に置き去りにされているわけではない。ほとんどの街には日焼けを気にしている住人がいて、最近は「ムラサキ光線」なるものが強くなった、とこぼしている。そのことが太陽にもっとも近い場所にある遺跡「オカヤマ」へ続く道の布石となっている。

なぜ名前がオカヤマなのか考えてみたが、よくわからない。すっぱい柑橘類「サンフルーツ」との関連だろうか? 情報求む。
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もうすこし小ネタについて語ろう。このゲームにおいては、決定ボタンではなく体当たりのような動きをすることで、街の住人に話しかけることができる。男性のキャラクターならべつに気をつけなくてもいいのだが、女性のキャラクターに背後から近づくと、「お尻を触った」と見なされ、いきなりそのキャラクターとの戦闘に入る。プレイヤー自身にはまったくそんなつもりはないので、痴漢冤罪もかくやと言わんばかりのシステムだが、どうも主人公は実際にお尻を触っているらしい。どうしようもない奴だ。

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さて、もちろん小ネタとエロスだけでゲームが出来上がるわけではない。本作の基盤となるのは、しっかりと作り込まれたアクションRPGの要素だ。通常攻撃とタメ攻撃、ジャンプ、アイテムを駆使しながらの戦闘は、当たり判定やダメージを受けた直後の無敵状態、数種類の状態異状、攻撃を連続しすぎたときに陥る息切れのリスクなど、さまざまな要素がシンプルにまとめられている。モンスターに取り囲まれ、たこ殴りにされてゲームオーバーという事態も多くあるため、気を抜いて戦えばすぐにやられてしまうだろう。

オープンワールドの各所に用意されたダンジョンには、さまざまな地形的な仕掛けや、隠し部屋などの要素がちりばめられており、初見の探索が退屈になることはない。すべての部屋にあらわれるモンスターを倒さないとレベルが追いつかないような厳しい難易度設定でもなく、戦闘も強制ではないので、探索に集中したければ敵を無視してマップを調べ尽くすこともできる。ダンジョンの最深部にひそむボスキャラクターはどれも女性の姿をモチーフとしており、優れたアニメーションで表現される妖艶な動きでプレイヤーを翻弄する。それぞれのボスとの戦いは、カジュアルな難易度ながら初見では攻略できないような工夫がされており、攻撃パターンを覚えて攻略するまでに心地よい周回が必要となるだろう。

ボスもお尻。
ボスもお尻。

本作におけるすこし独特なシステムは、比較的少なく感じられる武器の耐久度だ。たとえばクリティカルヒットが出やすくなる強力な武器「必中の剣」は、64という耐久度をもつ。この耐久度は、命中したかどうかにかかわらず、通常攻撃を一度繰り出すと1減少し、タメ攻撃を繰り出すと2減少する。この厳しさが、ゲームプレイ全体にいい戦略性をもたらしている。強力な武器を手に入れたからといって考えなしに使いすぎると、肝心のボス戦で装備が壊れてしまうため、武器を温存するという戦法が生まれてくる。また、一回ずつの攻撃をより正確に当てられる丁寧なプレイスタイルを推奨することにもなり、これが結果的に戦闘への集中を促す。装備を大切に扱い、状況に応じて使い分けなければならないという制限が、レベルが上がるにつれてごり押しで攻略できてしまいがちなアクションRPGにおけるアクションを、最後まで楽しめるものにしている。

音楽にも触れておかなければならないだろう。ビデオゲームにおける音楽は、フィクションが描く感情の起伏との相乗においてもっとも良い効果を発揮する。本作におけるフィクションは、先述したとおり、重厚なメインストーリーというよりは小ネタに大きく割り振られているため、たとえばエアリスが死んだときのような悲劇性や、竜との戦いに挑むドラゴンボーンの勇敢さのような、わかりやすい感情の発露がない。にもかかわらず、すべての楽曲は街やダンジョンの絵柄自体がもたらす雰囲気をとてもよく反映している。

もしも本作がおなじ材料を用いて、重厚でシリアスなメインストーリーを展開していたら、私はたぶんこれらの楽曲を聴いて泣いていただろう。あえて薄味に仕立てられたフィクションのなかからこれだけの楽曲を引き出すのは、すばらしい仕事と言うほかない。とくに「シュウゾウ」の街で流れるBGMの中盤の、まさに燃えるようなギターソロは、いったい誰が弾いているのかわからないが、一聴の価値ありだ。

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最後に、実績について。南国の浜辺でくじらに出会ったり、最短ルートでダンジョンを攻略したり、「一般ぴーぽー」の家で下着をあさったりすることで得られる実績は、よくありがちな実績システムとは違い、ゲームプレイそのものに寄与している。冒頭で述べたように、ラストダンジョンに挑むための条件そのものが一定以上の実績の達成率となっているので、プレイヤーは能動的にゲームのなかをよく探索することになる。このシステムは、プレイヤーが行き先を決定できるオープンワールド型のゲームシステムとよく調和している。小ネタのひとつひとつは独立していて総体的な意味を成さないが、それらをよりたくさん見ること自体が目標となるので、プレイヤーはマップのあちこちを有意義に探検することができるわけだ。

筆者は3時間ほどのプレイでラスボスを倒し、エンドロールを見ることができたが、実績の達成率は70%程度に留まっている。調べてみると、やはり100%で何らかのコンテンツが開放されるらしい。また、女性のお尻を触ったり、街の住人に一方的な暴力を振るうことで得られる「怨恨ポイント」も、どうやらさらなるコンテンツの開放に繋がっているようだ。

地名なのでまったく問題はない。時計台はおそらく、男根の象徴であろう。
地名なのでまったく問題はない。時計台はおそらく、男根の象徴であろう。

流麗なピクセルアートにソフトなエロスと小ネタを詰め込んだ『箱庭えくすぷろーら』は、快適なアクションRPG要素とオープンワールド型のゲームデザインがしっかりと調和した良作だ。信じられないことだが、このゲームは無料で遊ぶことができる。おそらく開発者はお尻への愛によって解脱し、すでに涅槃に達した聖人なのだろう。もしかすると、自力で実績の達成率を100%にすれば、私も性愛についての何らかの真理を得られるのかもしれない。とりあえず、もうすこし探検してくることにしよう。