オンラインゲームの迷惑プレイヤーは「BANして終わり」では足りない可能性。被害と“向き合わせる”アプローチを探る研究

当事者間での対話や関係の修復を促すアプローチを取り入れる可能性が研究されている。

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オンラインゲームではプレイヤーのトキシックな言動が問題となることは多く、運営側はBANなどの措置をとってきた。一方で、そうした懲罰的な措置ではなく、当事者間での対話や関係の修復を促すアプローチを取り入れる可能性が研究されている。

オランダ・トゥウェンテ大学のJiska Jonas-van Dijk氏を筆頭著者とする研究チームは7月2日、学術雑誌「Games and Culture」に論文「To Ban or to Restore? A Systematic Review of Restorative Justice in Online Gaming Environments」を掲載した。

BANによるモデレーションの問題点

研究チームによれば、オンラインのゲームコミュニティが発達した現代では、嫌がらせや脅迫を含むトキシックな行動が深刻な問題となっており、ゲーマーの約75~85%がオンラインハラスメントの被害を受けた、目撃したことがあるという。ただしゲームプラットフォーム側の対応は、現状では一時的または永久的なBANといった懲罰的なアプローチに依存していると指摘。とはいえ、こうした措置は問題となる行動の根本的な原因に十分に対処できず、また被害を受けた人々のニーズを満たせていないとのこと。そこで研究チームは、これまでオンラインゲームの領域では十分に検討されてこなかった「修復的司法(Restorative Justice)」に焦点を当て、対話、説明責任、被害や関係の修復を重視したアプローチをオンラインゲーム環境に取り入れる可能性を探ることにした。

本研究では、国際的なガイドラインである「PRISMA声明」に沿ったシステマティック・レビューの手法が用いられた。研究チームは2010年から2025年に出版された文献を対象に検索をおこない、841件を取得。そこから段階的にスクリーニングと全文評価をおこなって、最終的に16件の研究を分析対象とした。なおオンラインゲームを直接扱った研究は限られており、最終的な分析対象にはSNSやオンライン教育など、隣接するデジタル環境の研究も含まれている。これらの研究から、研究分野や主な知見、今後の課題などをデータ収集マトリックスにまとめ、そのうえで複数の研究で繰り返し扱われている論点や共通する傾向をまとめるテーマ分析を実施。最終的に研究内容を4つの主要なテーマに分類した。

まず、「オンライン環境における修復的司法の重要性」が一つ目のテーマとして示されている。一部の研究では、オンライン空間における道徳的な非難や懲罰的措置は、分断を強め、被害者を十分に満足させられない上に、加害者に恨みを残す可能性があると捉えられている。そして別の研究では、デジタル環境においても修復的司法の「共感」「声」「繋がり」といった基本原則が十分に維持可能であることが示されている。

また二つ目では、「被害者のニーズ」が挙げられている。オンライン上の対立においては、対話や謝罪を通じた、当事者間での解決策が好まれる傾向にあるとのこと。また三つ目のテーマは「紛争解決スキル」。オンラインゲームでの交流は、紛争解決を含む社会的スキルを学ぶ場になりうる一方で、懲罰的な介入に偏ることで、プレイヤーの学習機会を失ってしまう可能性が示唆された。

さらに四つ目では、「実装上の検討」が挙げられている。修復的司法をゲーム環境に導入するには、中立的で訓練されたモデレーターの存在が重要であると語られている。既存のモデレーションでは、争いを早く収めることを優先してしまい、マイノリティの視点が十分に扱われなくなる可能性があるとのこと。当事者間の対立を仲介し、謝罪のプロセスを支援するDiscordボットなども開発されているものの、ユーザーがボットを信頼しきれず、利用に消極的になるという課題もあるという。ほかにも、特に競技性の高いゲームでは、攻撃的な言動が相手のパフォーマンスを阻害するための戦略として位置づけられていることもあり、修復的司法の実践を組み込むうえでの障壁になっているとのこと。

当事者間での解決促す手法

システマティック・レビューによる研究分析を踏まえて研究チームは、対象となった研究の中には、オンラインゲームに修復的司法が構造的に適用された例はなかったとしつつ、被害者のニーズにより適合したアプローチとなりうる可能性を示唆している。単にトキシックな行動を減らすだけでなく、より健全かつ回復力のあるデジタルコミュニティを構築することにも寄与する可能性があるとしている。

ただし、修復的司法は既存のモデレーションの代替アプローチとしてではなく、補完的なレイヤーとしてみなされるべきであるとの見解が示されている。また今回の研究では先述したとおりオンラインゲームを扱った研究が少なかったため、オンライン環境全般にまで検索を広げて分析をおこなうことになったという。そのため、ゲーム文化に特化した調査の必要性が説かれており、今後の展望としてはシミュレーションを用いた実験的な研究なども掲げられている。

研究の背景として触れられていたように、オンラインゲームにおけるトキシックな言動を巡っては、現状では各社がBANなどの措置を用いてさまざまな対策を講じている。たとえば『League of Legends』では今年、非常に悪質なチャットをおこなったプレイヤーは、チャット制限だけでなくゲーム自体へのBANが実施されるようになるなど、対策の強化がおこなわれていた(関連記事)。またソーシャルゲームプラットフォーム『Rec Room』においては、ゲーム内ボイスチャットにおける暴言を防ぐ対策を試行錯誤した結果、もっとも効果的だったのは、「AIによるリアルタイムの検出」と「1時間のミュート措置」の合わせ技であったことを報告していた。この事例においては、暴言を約70%も削減させることに成功したという(関連記事)。機械学習技術などの発達により、問題となる言動を迅速に検出して措置を講じる仕組みも一定の成果をあげていることがうかがえる。

ただ今回の研究では、懲罰的な措置について、加害したユーザーに恨みを残すだけでなく、被害者側のニーズにも十分に応えられない可能性があると説明されている。そのため、加害者が説明責任を果たせるように促し、関係の修復を図ることで、コミュニティの将来的な改善に繋がるようなアプローチとして、修復的司法の導入が期待されている側面はあるのだろう。もっとも、懲罰的な手法の効果そのものが否定されたわけではない点には留意したい。研究チームが述べたように、修復的司法は従来の懲罰的なモデレーションに置き換わるものではなく、補完的な利用が想定されているようだ。作品によっては悪質なチャットや行動がコミュニティの問題として根付き、運営側が苦慮する様子も見られる。今後はBANやミュートなどの従来の措置を補う、より効果的なモデレーションのかたちも模索されていくかもしれない。

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Shion Kaneko
Shion Kaneko

夢中になりやすいのはオープンワールドゲーム。主に雪山に生息しています。

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