初代『ポケモン』RTA世界新記録に不正発覚し、取り消される。録画・切り貼りで作られた偽記録を検証班が追う

ゲームボーイ向けに発売された初代『ポケットモンスター』のスピードランについて、とある走者が昨年末に世界記録を樹立。しかしその記録について精査がおこなわれたところ、不正行為による記録だとされ、リーダーボードから記録が取り消された。

ゲームボーイ向けに発売された初代『ポケットモンスター』(以下、ポケモン)のスピードランについて、とある走者が昨年末に「Any% Glitchless」カテゴリーで世界記録を樹立した。しかしその記録について精査がおこなわれたところ、不正行為による記録だとされ、リーダーボードから記録が取り消された。

Image Credit: the Pokémon Speedruns Moderation Team on Google Document

Speedrun(スピードラン)とは、日本ではRTA(リアルタイムアタック)とも呼ばれる、ゲームクリアなどの目標を達成するまでの時間を競う競技だ。スピードランの対象であるゲームのレギュレーション、世界記録ランキングなどはSpeedrun.comなどの集計サイトで確認することができる。

今回、不正行為がおこなわれたとされるレギュレーションは初代『ポケモン』の「Any% Glitchless」カテゴリーだ。Any%はクリア率や実績などの追加の条件を必要としない、最速でのクリアを目指すレギュレーションであり、Glitchlessはそのうちバグの利用を禁止するというルールを課すものだ。

Image Credit: pokeguy on YouTube
*pokeguy氏による世界記録の更新達成ランの動画のスクリーンショット

まず背景として、Any% Glitchlessでは2023年1月26日に約2年ぶりに記録が更新。今回不正をしたとされるのとは別の走者であるpokeguy氏により、世界記録1時間44分3秒が打ち立てられた。本レギュレーションではランダム要素にタイムが左右されやすいこともあり、『ポケモン』RTAコミュニティでは1時間43分が人間に可能な記録の限界という見解のようだ。そうした経緯もあり、海外のとある『ポケモン』RTAコミュニティによって、本作のRTAの一部レギュレーションについて賞金が設定された。

賞金はコミュニティメンバー個人により、YouTubeなどのライブ配信プラットフォーム上にてリアルタイムで完走することを条件に複数設定されていたそうだ。『ポケモン 赤』の「Any% Glitchless」カテゴリーについては、あるユーザーにより、世界記録を達成すれば5000ドル(約72万7000円)との賞金が設定。そして別ユーザーにより1時間43分台に到達すれば1000ドル(約14万5000円)が支払われる、とされた。そうして“44分切り”が期待される中、走者のひとりであるJadiwi氏が2023年12月26日に1時間43分52秒という世界記録を樹立し、合計6000ドルの賞金の受領資格を得た。

Image Credit: the Pokémon Speedruns Moderation Team on Google Document

Jadiwi氏は『ポケモン』シリーズを走るRTA走者だ。同氏は『ポケモン 赤』のAny% Glitchlessを3月26日に初めて走り、2時間12分54秒との記録を残したとしている。その後同氏は同レギュレーションについておよそ120回のランを繰り返し、6月7日には1時間47分39秒まで記録を縮めていたとされる。そしてその後も順調に記録を縮め、12月26日にはついに世界記録を更新した、というわけだ。

このあまりに速い更新ペースにはモデレーターチームの疑いの目が向いた。さらに、同様のタイムを残しているほかの走者に比べ、試行回数が少ないことも、モデレーターが精査に踏み切った要因の一つでもあるとのことだ。たとえば世界記録保持者のpokeguy氏は半年間で約2800回も試行をおこなっており、それ以前からもランをおこなっていると考えると、Jadiwi氏の試行回数は明確に少ないといえるだろう。

Image Credit: the Pokémon Speedruns Moderation Team on imgur
*2023年6月から9月までのJadiwi氏の記録の比較

Jadiwi氏は12月26日に記録を更新した際、モデレーターによってリアルタイムでランをおこなっていることを証明するためにプレイ環境の再起動を求められた。しかし同氏はこれに応じなかった。後に、再起動をしなかったのはチャットを見ていなかったからだった、と弁明した。

ほかにも怪しい点は発見された。12月26日の世界記録達成ランでは、「区間ベストタイム合計(Sum of Best)」の表示が突如として「前のランから約30秒も縮まる」との現象が発生。こうした挙動が起きるには配信のインターバルの約50分の間に猛スピードで記録更新をしなければならず、考えづらい現象として疑念が向けられていた。これについてJadiwi氏は、「両親の家に引っ越したので環境が変わり、それにより間違った記録ファイルを読み込んでいた」といった弁明をおこなっていた。

しかし、さらに決定的な検証がおこなわれることになる。配信における画面のレイアウトが、世界記録を達成直前の10回のランでのみ微妙にずれていることも発見された。記録達成の直前だけ微妙にレイアウトがずれ、世界記録達成の記録映像では、1ピクセルのずれもなく以前のレイアウト通りに戻っているのだ。また、検証の結果12月21日以前のJadiwi氏によるストリーミング映像のすべてが、記録達成映像のレイアウトと一致していたという。

したがって、世界記録のランはレイアウトがずれる前に録画されたものであるという証拠と考えられるわけだ。これらの証拠に代表される複数の調査により、モデレーターは「世界記録のランは事前に録画されたものである」と結論付けた。

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*モデレーターによって作成された、Jadiwi氏の配信レイアウトのずれを検証するGIFアニメ

調査結果が公開されるとJadiwi氏は不正を自白。世界記録のランが事前録画されたものであることに加え、チェックポイントごとに状態を保存しつつ走っていた、つまりセーブロードを繰り返していたと、“切り貼り”された記録であることも告白した。さらに同氏は初代『ポケモン』だけでなく、『ポケットモンスター ダイヤモンド・パール』など別タイトルでも不正をしていた模様。

この自白を受けコミュニティはJadiwi氏の記録を取り消し、同氏はSpeedrun.comおよびすべての『ポケモン』RTAコミュニティのDiscordサーバーからBANされた。モデレーターチームはこの事件について、もっと早く公表し、より高い基準の証拠を提出させるべきだったとし、事態を長引かせてしまったと謝罪。またリーダーボードに提出されたランの検証方針を再検証し、同様の事例が二度と起こらないように警戒していくとした。

Jadiwi氏によると、もともと実際にラン自体は試行していたものの、実生活の忙しさや記録が出ないことでモチベーションが下がり、つい不正をおこなったとのこと。なお、過去にも同様にやりこみプレイヤーが不正記録への検証・追求を受け、不正を自白するケースもあった(関連記事)。

Kosuke Takenaka
Kosuke Takenaka

ジャンルを問わず遊びますが、ホラーは苦手で、毎度飛び上がっています。プレイだけでなく観戦も大好きで、モニターにかじりつく日々です。

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