Unity騒動を受け、『テラリア』開発元が新鋭ゲームエンジン開発に多額の“太っ腹”寄付へ。新エンジンの成長を助けたいと明かす

『テラリア(Terraria)』の開発元Re-Logicは9月20日、Godot EngineおよびFNAに対し、多額の寄付をおこなうと発表。今後両プロジェクトのスポンサーとして、継続的な寄付をおこなっていくと表明した。

テラリア(Terraria)』の開発元Re-Logicは9月20日、オープンソースのゲームエンジンGodot Engine(以下、Godot)および開発フレームワークFNAに対し、多額の寄付をおこなうと発表。さらに今後両プロジェクトのスポンサーとして、継続的な寄付をおこなっていくと表明した。惜しみない寄付を開始する背景には、Unityを巡る騒動があるという。


Godotは、PC/モバイル/Web向けゲームおよびアプリを制作できる2D/3Dゲームエンジンだ。開発者のひとりJuan Linietsky氏が、かつて自身のスタジオのために手がけた内製エンジンがルーツとなっており、その後2014年に一般に公開された。オープンソースとして提供され、完全無料で利用可能。開発にかかるコストは寄付によって賄われているという。Godotを用いて開発されたゲームとしては『Brotato』や『Cassette Beasts』『Dome Keeper』、モバイルゲームでは『うさぎしま』などが挙げられる。

そしてFNAは、PC向けの開発に主眼を置きつつ、iOS/Xbox One/Xbox Series X|S/Nintendo Switch向けのゲーム開発もサポートするフレームワークだ。Microsoft XNAの“再実装(reimplementation)”と標榜されており、ゲームの移植を主に手がける開発者Ethan Lee氏が手がけている。FNAを用いて開発されたゲームとしては、『Brushwood Buddies』や『Super Rad Raygun』などがリリースされている。

『テラリア(Terraria)』開発元Re-Logicは9月20日、上述のGodotおよびFNAに対し、それぞれ10万ドル(約1400万円)の寄付をおこなうと表明。さらに両プロジェクトのスポンサーとして、今後それぞれに月々1000ドル(約14万円)の寄付をおこなっていくと告知した。Re-Logicはこの“見返り”として、両プロジェクトの関係者らが「善良な人間であり続けること(remain good people)」、そしてあらゆる開発者にとって親しみやすくパワフルなゲームエンジンにするため尽力してくれることを望んでいるそうだ。

そうした惜しみない寄付の背景には、ゲームエンジン「Unity」を取り巻く昨今の情勢があるようだ。Unityの開発元Unity Technologiesは9月12日、新たな料金システム「Unity Runtime Fee」を2024年1月1日から導入すると表明。本システムは、利用者が開発したゲームの累計インストール数および過去12か月間の収益を参照して、しきい値を超えていた場合に適用される。対象となる作品ではインストールされるたびに規定の料金の支払いが求められる。

Unity Runtime Feeは発表後、適用基準・運用方法などを巡る懸念が渦巻く結果となった。さらに、これまでUnityを利用していた開発者に対して何の説明もないまま導入が決定された点などからも批判が噴出している。Unity Technologiesは謝罪を表明し、近日中にポリシーの変更をおこなうと明かしていた。

Re-Logicは今回の声明において、Unityを取り巻く一連の情勢を注視しており、悲しみと落胆を感じているとコメント。Unity Runtime Feeの導入は、パブリッシャー/デベロッパーなどから金銭を巻き上げるために、Unityにこれまで寄せられた信頼を投げ捨てるかのような決定であるとした。そして、今後Unity TechnologiesがUnity Runtime Feeやその方針を撤回したとしても、破壊された信頼は修復できないだろうとの見解を示している。

なお『テラリア』の開発にはMicrosoft XNAおよびC#が用いられており、同作にUnityが関わるのはコンソール/モバイル版の一部要素のみだそうだ。そのためRe-LogicとしてはUnityを使用していないものの、今回の事態を業界にとっての悲劇だととらえ、傍観しているわけにはいかないと感じたそうだ。そして、新鋭のオープンソースゲーム開発環境の支援が重要だと考え、GodotおよびFNAへの寄付を決定したという。そしてオープンソース開発環境の成長を助けることが、Unityを取り巻く出来事を受けて今後に悩む開発元への支援になってほしいとの想いも綴られている。

Unityを巡る問題が巻き起こる中では、乗り換え先となるゲームエンジンを探す開発者も現れている。そうしたなかで、今回Re-Logicからの寄付を受けるGodotはSNS上で候補として言及されることも多いゲームエンジンのひとつ。Unity Runtime Fee発表後には、利用者やGodotのチュートリアル動画の検索者が増加傾向にあることも確認できる(関連記事)。

Godotの開発を率いるLinietsky氏は、これまで他社製品との競争は意図していなかったが状況が変わったとコメント。UnityユーザーがGodot Engineに移行する際には何に苦労しているのかを把握したいとし、自らいくつか改善点を挙げつつフィードバックを求める一幕も見られた。

https://twitter.com/reduzio/status/1701872429016949135

Unityは業界をリードするゲームエンジンのひとつといえるものの、Unity Runtime Feeの発表に対するUnityユーザーの反発は非常に大きい。これからもUnityからのゲームエンジンの乗り換えを検討する開発者は現れるだろう。そうしたなかで今回Re-Logicから支援を受けたGodotやFNAを含め、今後どのゲームエンジンが成長を見せるのかは注目されるところだ。

Hideaki Fujiwara
Hideaki Fujiwara

なんでも遊ぶ雑食ゲーマー。『Titanfall 2』が好きだったこともあり、『Apex Legends』はリリース当初から遊び続けています。

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