「ゲームのロード」のために“主人公をわざと転ばせる”PS1ゲームの工夫が話題を集める。意外なかたちで紐解かれる真実

 
Image Credit: やまだくん

ゲームが動作するうえでは、データを読み出すローディングがつきもの。開発者は、ロード時間をなるべく短くしたり、プレイヤーに感じさせづらくしたりと、さまざまな工夫を施しているようで、そうした工夫の一例がSNS上で注目を集めている。

TwitterユーザーMIYAKE氏は10月17日、PS1向けに1998年に発売されたRPG『どきどきポヤッチオ』のロード処理方法についてTwitterにて紹介した。同氏は、いまから17年位前の新卒2年目の時に、先輩との雑談のなかで本作のロード処理について教わったそうだ。


『どきどきポヤッチオ』は、25人の村人がリアルタイムで生活をしている世界にて、パンの配達などをして村人たちと交流しながらひと夏を過ごす箱庭ゲーム。『海腹川背』シリーズなどで知られる近藤敏信氏がキャラクターデザインを担当している。

MIYAKE氏は先輩から、本作では自由にマップを移動できるが、隣のマップのロードが間に合わない時のために、ある工夫がしてあると聞かされたという。同氏は、テクスチャを小さくしたり、暗転させてロード画面を挟んだりなどを想像したそうだが、答えは何と「プレイヤーがつまづいてコケる」というものだった。主人公がつまづいて転び、起き上がる間にデータをロードしていたというのだ。

この工夫については、SNS上で大きな注目を集めることに。またMIYAKE氏も、クオリティを維持しながらの解決策であり、頭に電流が走るぐらいの衝撃を受けたと当時のことを振り返っている。

*主人公がコケるのは55分23秒あたり。


一方でこの逸話は“伝聞”として語られている側面がある。この仕様は本当だったのだろうか。弊誌にて調査したところ、本当だったようだ。というのは、『どきどきポヤッチオ』のソフトウエア部分の開発は、エムツーが担当していたようだ。弊誌が同社代表取締役の堀井直樹氏に本件について伺ったところ、ロード処理のために主人公をあえてコケさせていたのは事実とのこと。そうした工夫を取り入れた背景については、以下のように語ってくれた。

CDメディアはシークエラーが出るなどして、期待通りにデータを読み込めるとは限りません。『どきどきポヤッチオ』の場合は、画面に出ている建築物等々をリアルタイムに読み替えて動かしており、読み込めていない場合に、読み込めている一部分と地面だけが表示されたマップが表示されてしまうことがあり、それを防止する為に読み込みが間に合っていない場合は主人公をコケさせる事で、時間稼ぎをしていました。

当時この問題の解決が必須となった時には皆で頭を抱えたものですが、プログラマの岡田氏が思いつき実装しました。実にナイスとんちだったと今でも思っています。

初代プレイステーションですが、へタレてきた本体で横にしたら動く、裏返したら動く…等々のテクを駆使して強引にゲームを遊んでいた記憶のある方(私もですがw)も多いと思いますが、そういう本体ではよりコケが発生すると思います(笑)CDメディアは厄介でしたね。

また堀井氏は、本作がマップ上に載る木や建物などをリアルタイムに読み替える仕様にしたことについて、「今思えば無茶をしたものだ(その分見応えのある背景絵が出たとは思いますが)」ともコメント。そして、今回“主人公をコケさせるロード処理”がSNS上で話題になったことについては「存外に面白がっていただけているので、作り手として本望です」と語った。

エムツーといえば、さまざまなクラシックタイトルの移植ゲームの定評のあるスタジオ。ゲーマーとしても馴染み深い人も多いだろう。『どきどきポヤッチオ』PS1版はキングレコードが発売しており、今から24年前のゲームだと考えると、開発者を探すのも大変なはず。しかしながら、意外にも身近なところに関係者がいたようだ。MIYAKE氏の思い出話は、めぐりめぐって真実として箔がつくことになった。

なお『どきどきポヤッチオ』は、現在はゲームアーカイブス版がPS3やPS Vita本体から購入可能となっている。ただ堀井氏の説明からすると、主人公をコケさせるにはディスク版の方が確率が高そうだ。ユーザーの方は今一度本作をプレイして、巧みなロード処理がおこなわれる瞬間を探してみてはいかがだろうか。


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