奇天烈格ゲー『豪血寺一族』過去作復刻は難しそう。倫理観の移り変わりが障壁に

『豪血寺一族』Wii Uソフトウェア/スーパーファミコン版
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格闘ゲーム『豪血寺一族』シリーズは、来年2023年で30周年を迎える。本シリーズの大きな節目に、過去作品の復刻の企画が人知れず立ち上がっていたようだ。しかしながら、ゲームの復刻は思わぬ壁に直面しているようだ。その壁とは、現代の倫理観と過去作との間に生じた“ズレ”である。

『豪血寺一族』は1993年に、アトラスがアーケード向けにリリースした対戦格闘ゲームだ。本作はゲームプレイはもとより、「登場キャラクターの濃さ」で知られている作品である。まず、主人公格のキャラクターからして、齢80に迫る老女「豪血寺お種」を配する突き抜けっぷりだ。また、多彩なキャラたちは、シリーズを通じて血縁関係となっている(一部例外除く)。強さを至上とする一族による、文字通り骨肉の争いが展開される内容だ。また、ニコニコ動画にて多大な人気を誇った動画「レッツゴー!陰陽師」も、もとを辿れば『新・豪血寺一族-煩悩解放-』のステージBGMのひとつだ。ゲームプレイでも世界観でも、ファンの根強い人気を誇っている作品なのである。


今回、シリーズの動向について伝えたのは、旧ノイズファクトリー公式Twitterアカウントだ。ノイズファクトリーは、アトラスにて『豪血寺一族』シリーズを手がけた伊集桂子氏らが中心となり、1998年に設立した国内デベロッパーだ。そして、後の2017年3月末には廃業している。しかし、現在も公式Twitterアカウントは旧ノイズファクトリー公式の名を冠して、関係者らしき人物が投稿を続けている。

同公式アカウントは今年1月より、来年の『豪血寺一族』30周年に向けての企画について示唆していた。移植による過去作復刻についても触れており、ファンからの期待の声も寄せられていた。しかし、過去作の復刻は難しくなっているようだ。3月30日に同アカウントは、昨年2021年11月より版権元に復刻の申請をしていたと明かした。ただ、残念ながら許可は降りなかったとのこと。その理由については、とあるキャラクターがポリティカル・コレクトネス(政治的・社会的な公正さや中立性)に抵触する可能性があり、訴訟に発展するリスクもあるためだとしている。


前述の通り『豪血寺一族』シリーズのキャラクターたちは、濃い。しかし、ポリティカル・コレクトネスの目線から、現代の倫理観で批判を受けそうなキャラクターはある程度絞られる。推測とはなるものの、なかでも可能性が濃厚なのが、初代『豪血寺一族』から登場するキャラクター「ホワイト・バッファロー」である。というのも、このキャラクターはネイティブ・アメリカンとの人種的設定がなされているからだ。

ネイティブ・アメリカンは、ポリティカル・コレクトネスにまつわる配慮の対象とされやすい傾向がある。たとえば、かつて呼称に用いられていた「インディアン」との言葉自体が現在では蔑称とみなされ、米プロ野球チーム「クリーブランド・ガーディアンズ(旧称・インディアンス)」は本シーズンより名称を改めている。また、米フットボールチーム「ワシントン・コマンダース(旧称・レッドスキンズ)」については、「赤い肌(レッドスキンズ)」との名称などが問題視され訴訟を起こされている。また、「トマホークをもって、羽の頭飾りをつけ、奇妙な大声をあげる」などの“古典的なインディアン像”も、偏見を助長するとして批判や懸念の対象とされる。

そして、『豪血寺一族』のホワイト・バッファローについても、そうしたインディアン像に近いキャラクター設定がなされているのだ。木訥で純粋な性格であり、一種の“野蛮人”とも取れる言動を見せる一幕もある。また、トマホークを振り回す技なども存在するほか、エンディングなどで登場する部族の民は、いかにも“古典的なインディアン像”に近いイメージで描かれている。キャラクターとしては魅力ある人物として描かれており、制作者側にも、もちろん差別的な意図はなかっただろう。しかし、初代『豪血寺一族』リリースから約30年の時を経た現在、ホワイト・バッファローが不適切なネイティブ・アメリカンの描かれ方として受け取られる可能性は考えられる。

『豪血寺一族』Wii Uソフトウェア/スーパーファミコン版


これらは推測であり、ホワイト・バッファロー以外がネックとなった可能性も考えられる。しかし、いずれにせよはっきりしているのは、『豪血寺一族』復刻の障壁となったのが、約30年の時の流れによる「ゲームと社会の倫理観の乖離」であるということだろう。問題となるキャラクターを外す手もあるかもしれないが、それでは完全な復刻とはならない。


旧ノイズファクトリー公式Twitterアカウントは、サウンドの復刻やキャラクター設定資料集など、別の記念企画について思案を続けるとしている。また、そうした企画の実現のために新会社の立ち上げも視野に入れているとのこと。来年の『豪血寺一族』30周年には、ファンたちに嬉しい知らせが届くことを願いたい。





※ The English version of this article is available here

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