老舗『ソニック』ニュースサイト「TSSZ」が突然の閉鎖。運営者の独断により、20年以上の歴史的資産が喪失

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海外における『ソニック・ザ・ヘッジホッグ(以下、ソニック)』のファンコミュニティが、あるニュースで揺れている。界隈において20年もの歴史を誇るニュースサイトが、突然の閉鎖を発表したのだ。ユーザーたちは長らく蓄積されてきた情報アーカイブの消失に悲しみと怒りの声を上げている。いったいなぜ、多くのファンに支えられたウェブが閉鎖を決断してしまったのか。老舗サイト消失の裏には、現在アメリカを覆う情勢の影響が影を落としていた。

米国の黒人差別抗議デモとゲーム界隈

今、アメリカでは黒人差別に反対するデモ活動が続いている。先月25日、アメリカ中西部・ミネソタ州のミネアポリスで黒人男性のジョージ・フロイドさんが警察官に首を押さえつけられ亡くなった。フロイドさんが「息ができない」と訴える様子を撮影した動画がSNSで拡散され、黒人に対する不当な暴力だとして抗議する運動が爆発的に広まった。「Black Lives Matter(黒人の命だって大切だ)」との標語が掲げられ、アメリカ全土で抗議デモが繰り広げられている。

またインターネット上でも同様の抗議が広まっており、各企業も運動に賛同する声を上げている。ゲーム業界においてもBethesda SoftworksやAnnapurna Interactive、Naughty Dogなどが「#BlackLivesMatter」のハッシュタグを掲げて黒人に対する暴力に反対している。そしてソニー・インタラクティブエンタテインメントも同ハッシュタグにより抗議の意思を表明したほか、本日6月2日には今週開催予定だった「PS5 THE FUTURE OF GAMING」の放送見合わせを発表した。PlayStation 5のゲームソフトを紹介する大規模なライブストリーミングとなる予定だったが、デモで混乱の広がる米国情勢を鑑みてイベントの延期を決定したと見られる(関連記事)。このようにミネソタ州で端を発した黒人差別反対運動はアメリカ全土に広まり、政治的キャンペーンはゲーム業界にも強く影響を及ぼしている。

ところが黒人の人権尊重を主張する一連の活動は、あるいびつな形でもゲーム界隈に余波を与えることとなった。思わぬ影響を被ったのは海外における『ソニック』シリーズのファンサイト、「TSSZ」である。1999年にソニックファンのユーザーTristan Oliver氏によって立ち上げられたサイトで、複数のライターによって運営されてきた。ソニックおよびセガに関するあらゆるニュースを取り扱い、シリーズにまつわる情報の膨大なアーカイブスを形成してきた。ところが6月1日、ある悲劇がこのウェブサイトを襲う。一夜にして20年以上もの知の集積が削除されてしまったのだ。今や誰ひとりとして、サイトに記されていたニュースを閲覧することはできない。長年蓄えられてきた情報は永久に失われた。いったいTSSZに何があったのか。問題の発端はサイト設立者であるOliver氏のツイートにあった。

運営者の暴走するツイート

冒頭に述べたとおり、ネット上では企業・ユーザーともに黒人差別に対する抗議の声を上げる言論が盛んとなっている。Oliver氏もそうした社会的関心を抱くひとりだった。ところが、その発信の手段が問題となった。同氏は“TSSZの公式アカウントで”「Black Lives Matter」に対する自身の見解を発言したのだ。そして、その発信内容も周囲から疑問の声を招くものだった。Oliver氏のツイート内容は以下のとおりだ。

「合衆国で起きていることに対し、ソニックのサイトは関係がないと思っている人たちへ:
 ・ソニックは『ソニックアドベンチャー2』の冒頭で警察に誤認逮捕され、その後脱出しています。
 ・『ソニックフォース』のプロットおよびゲームプレイは、“レジスタンス”の蜂起とエッグマンによる圧政の対立を中心に描いています。」

Oliver氏はソニックが作中ストーリーで警察に抑圧されたエピソードがあること、そしてシリーズ作品のひとつが「圧政に対するレジスタンスの抵抗」であることを挙げている。これをして『ソニック』シリーズが今アメリカで起こっている反黒人差別運動と無関係ではない、と主張しようとしたのだ。同氏の意見は、たちまち周囲の『ソニック』ファンから批判を浴びることになった。「Black Lives Matter」は非常にセンシティブな問題であり、容易に結びつけるべきではない。そしてOliver氏が『ソニック』と「BLM」の関連性として挙げている根拠は牽強付会であり、支持できるものではない。このような意見が数多く寄せられる中、Oliver氏は同日中に次のようなツイートを発信した。

「今、あるいは何世紀ものあいだ公平な扱いを受けられなかった友人・同僚・国民のみんなが、これまで以上に私たちの声を必要としています。もし私のメッセージが不快だったり、間違っていたり、“ゲームと関係なかったり”するのなら、あなた方はどうなんでしょうか?

Tが #最後 について思うこと」
(※T=Tristanと思われる)

Oliver氏は引き続きTSSZの公式アカウントを通じ、あくまで「#Black Lives Matter」運動に同調する意向を表明。批判するツイートに対しては反意を示す発言をしている。同氏の意志の強さ/我の強さが表れた発言ともとれるが、気になるのは文末に添えられた「#最後(#TheFinal)」というハッシュタグだった。不穏さに拍車をかけるように、Oliver氏は翌朝未明に意味深なツイートを投稿している。

「今日/今夜、私たちを支援してくださった皆さん、ありがとうございます——そうでない人も。これが私たちにとって最後の夜になるとは思いませんが、私自身が弁護する夜はこれが最後になります。私はどう見てもうまくやったとはいえません。したがって私がなりたい、そしてなるべき味方にはなれません。—T」

*Oliver氏の一連の発言をまとめたスクリーンショット。事件が起きた今では、元ツイートは削除され閲覧できない。

そして、すべてが失くなった

あの明け方の発言を予兆と捉えるべきだったのか、Oliver氏は驚くべき行動に出る。6月1日、Oliver氏は20年以上かけてコミュニティが形成してきたTSSZのサイトを一夜にしてすべて削除してしまった。今、TSSZのいかなるページにアクセスしようとしても記事を読むことはできず、同じフロントページに迎えられることになる。そこには極めて長文で、次のように始まるメッセージが記されている。

「今、何もかもが尋常ではない状態にあります。あまりに多くのことが起きていて、ソニックも、セガも、ゲームニュースも、平たくいえば重要ではないのです。(中略)そうした状況にあって、TSSZはもはやあるべきプラットフォームではありません。即時に、TSSZを無期限で閉鎖することを決めました。(後略)」

文章は、これまで21年間の熱心な取材やコミュニティの反感を買うようなレポート、あるいはSNSで何の影響ももたらさなかったツイートのひとつに至るまで、すべて「読者を考えさせるため」のものだったとし、チームはこれまで成功を重ねてきたと語っている。ただし現在目の前にある問題についてはその役目を果たすことができず、逃避と無視を招く結果にしかならないと思い至ったという。おそらくOliver氏の理想とするメディアの役割があり、昨今の情勢下にあって「『ソニック』シリーズの情報サイト」というかたちでは読者に思慮を促すどころか問題から目を逸らさせてしまう——こうした判断が同氏の中で下されたのだろう。Oliver氏にとってTSSZの閉鎖は言論メディアの喪失であるらしく、次のようにも述べている。「この決定で祝うことは何もありません。コミュニティの声が失われます。説明責任のためのひとつの道は断ち切られます。私たちを取り巻く世界についての別の見方はなくなりました。運が良ければ、より良い声と視点が取って代わるでしょう」。

また文章中には、Oliver氏に否定的なメッセージを送った人々に対する批判とも受け取れる文言も見られる。 「もし私がここやそこらで発信したメッセージ・問題が効果的に見えないのなら、より良いメッセージを作ってみてください。人を怒鳴り、同意しない人やコンテンツを否定するのは簡単です。自分自身と他人のために、変化のために居心地の悪い一歩を踏み入れるのはずっと困難です」。

Oliver氏は独特の信念にもとづいてTSSZを閉鎖したようだが、この決断は大きな非難を浴びるようになる。TSSZに寄せられていたのはOliver氏の記事だけでなく、多くの熱心な『ソニック』ファンによる集大成があったからだ。



戻らない20年という時間

突然の閉鎖で悲しみに暮れていたひとりが、TSSZの記者として6年間記事を発表していたSSF1991氏だった。同氏は事前にまったく知らされずにTSSZ終了の報せを受けたらしく、前触れもなく自身が築き上げてきた記事が消失したことに大変なショックを受けたようだった。「私の作品をアーカイブしたい」「すべて自分の過ちだったように思える」といったツイートを続け、悄然たる様子のSSF1991氏のもとには多くのファンから励ましのリプライが届けられた。激励を得た同氏はやがて自らの手で、自身が執筆した文章群のバックアップを開始。そして6月1日、1500件を超えるすべての記事のバックアップに成功したことを伝えた。同氏はファンのサポートに熱い感謝の念を伝えるとともに、サルベージした記事を閲覧可能な状態でシェアしている。また同氏のもとにはTSSZ以外の『ソニック』ニュースサイトの情報も多数寄せられ、執筆活動の希望を続けるファンの声は根強いようだ。これに対しSSF1991氏は現状では多くを明かせないものの、いずれすべてを伝える予定だと述べている。

とはいえ、すべての記事がこのように幸運なかたちで救われたわけではない。海外掲示板Redditの指摘によればOliver氏は以前から個人的な意見の表明のためにサイトを用いることがあり、ユーザーから「自分個人のTwitterアカウントをとるように」と指摘を受けていたという。TSSZは多くの執筆者の手で成り立ち、すでにOliver氏の独断でその命運を決めるにはあまりに巨大なコミュニティの資産となっていた。それゆえ、ここまで読者からの反発や悲しみの声が上がる事態となってしまったのだろう。運営者の認識とユーザーから見た公共性のギャップが招いた悲劇といえる。

今月末には待望の国内映画公開も控え、まさに盛り上がろうとしていた『ソニック』界隈を襲ったショッキングな出来事。混迷の世界情勢にあってもファンコミュニティの灯火が絶えず、道程を照らし続けることを祈りたい。

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