デッキ構築型カードバトル『NoWaitHero』Steamにて配信開始&感想。『ダークソウル3』開発者が手がけた、カード選択がもどかしいターン制の駆け引き

個人開発者のClam氏(岡部俊氏)は5月8日、『NoWaitHero』を配信開始した。『NoWaitHero』は、手を積み重ねていくデッキ構築型ターン制バトルゲームだ。

個人開発者のClam氏(岡部俊氏)は5月8日、『NoWaitHero』を配信開始した。対応プラットフォームはSteamで、価格は980円。Clam氏は、かつてフロム・ソフトウェアに在籍し、『ダークソウル3』などに携わったのち、2018年に退職。退職エントリが話題を集めた。また、戦闘における距離の要素にこだわりを持つ人物でもある。本作はそんな同氏が、フリーの身で「Seconds0」として開発を進め、2019年6月にはアルファ版が公開されていた。そして『NoWaitHero』としてのリリースに至る。同氏が公開している開発の経過報告によれば、ユーザーからのフィードバックをベースに積み重ね、二転三転の末に完成に辿り着いたようだ。どのような作品に仕上がったのだろうか、所感も混じえて紹介しよう。

『NoWaitHero』は、手を積み重ねていくデッキ構築型ターン制バトル。物語としては、赤いスーツを身に纏った主人公が、ヒーローロワイヤルという闘技大会の開催を知り、賞金目当てにトーナメントへ参加するというもの。歴戦のヒーローとして、顔見知りのヒーローたちを含めた他の参加者と戦うことになる。本作ではストーリーや設定について多くは語られず、上記の大会参加までの経緯などは、セリフを排したイベントにより表現されていく。また、イベントや描写自体も少なく、ストーリーよりもゲームプレイに重点が置かれている。

本作の特徴は、積み重ねたカードを使い、距離の概念があるフィールド上のキャラクターを操作することだ。Steamのストアページでのジャンルは「デッキ構築型カードバトル」。ジャンル名の持つイメージを考慮すると、その表記も間違いではないと感じる。しかし、全てのカードを7枠の手札に収め、デッキをシャッフルすることもないので、デッキ構築型というよりも手札を構築するカードバトルといったほうが正確だろう。

カードには、戦闘終了後に使用回数が回復する赤い通常カードと、強力で使い捨て扱いの白いアイテムカードが存在する。そして、中央の5枠が通常カード枠、両端の2枠がアイテムカード枠。新しくカードを入手した際には、対応した枠の任意のカードの上に、新しいカードを積み重ねる。カードが重なっている場合、上のカードを先に使用し、戦闘中にカードの使用回数が無くなると下のカードが使用できる。新しくカードを入手する度に、戦闘開始時に選べるカードが変化し、戦闘中に選べる手段も変化していく。

また、カード群にはそれぞれの行動を表した数値が設定されている。たとえば、踏み込んで斬撃を行うカードには、前方への移動と攻撃力。強力な魔法攻撃には、大きなダメージと消費スタミナ。バックステップには、後方への移動と消費スタミナがある。ターン毎に使えるカードは1枚なので、カードを使うというよりも、どのアクションを行うか選ぶ感覚が近い。さらに、本作には距離の概念が存在する。敵味方の攻撃には攻撃範囲があり、双方が同一ターン上で動作する仕組み(厳密には処理順のようなものはある)によって、アクションゲームのような移動による回避や、間隙を縫っての攻撃など、間合いの管理が表現されている。こうした要素により行動の幅が広がり、同時にジレンマが増している。

戦闘が始まると、カードを使って敵と戦い、どちらかのHPが無くなれば終了となる。戦闘終了後はHPの状態を引継ぎ、報酬として3枚のカードから1枚を獲得し、少しずつ主人公を強化しながらゲームクリアを目指す。本作には、最大HP/スタミナの強化は存在するものの、アーティファクトや複雑なシナジーなどは無く、ハンドの状況とカード内容だけを判断基準にして手段を選んでいく。

一見シンプルに思えるが、『NoWaitHero』のカード選択は実に悩ましい。初期のハンドは、前方への1マス移動、前1マスへのHP/スタミナ攻撃、ガード、スタミナ回復、後方への1マス移動、5枚の通常カードで構成されている。ハンドの中には、ゲームプレイ上必ずしも必要でないタイプのカードも含まれている。しかし、前述のとおり本作の攻撃には敵味方共に攻撃範囲が設定されており、移動の重要度は高い。1マスだけ後ろに下がりたい状況や、2マス前に詰められれば助かるような、特定の位置へ動きたいシチュエーションが頻発するので、できれば複数の移動手段を常に確保しておきたい。

また、新しいカードを獲得する際には何れかのカードの上に重ねるが、使い勝手の良くないカードを取得してしまっても、戦闘ごとにそのカードを使い切るまで下のカードは使えない。新たなカードやアーティファクトを獲得する際、無難なものを選んでおけば致命傷は避けられる通常のデッキ構築型ゲームと比べて、、1枚1枚の重要性が高く、何を選んで何の上に重ねるのかが悩ましい。

カードを使って相対する敵には、1体1体個別の行動パターンがあり、幅広い対応が求められることや、HP以外にスタミナゲージが存在し行動を阻害できることなど、カード評価の複雑さもジレンマを加速させる。何を選びどこに重ねるのか、選択のジレンマが本作の魅力の一つと言えるだろう。

1手ごとの選択が悩ましい一方、本作は決して難しい作品ではない。むしろ、同様のデッキ構築型カード作品よりも、クリアし易い作品だと言えよう。敵の行動を予見でき、画面上に結果が予測表示されることで、状況ごとの最適な行動が分かりやすく掲示されている。またゲーム全体のバランスに、カードに恵まれなくとも最適手を繰り返していけばクリア出来る程度の余裕が持たせられており、デッキのシャッフルがなく、敵の出現順が固定で、運要素が抑えられていることもクリアまでの道程を短くしている。

ゲームモードは、それぞれ敵構成の異なるノーマルとハードの2種類。価格相応ではあるが、クリアまでのハードルが低い分、2モード分のプレイ時間は短めになっている。また、ターン毎に使えるカードが1枚に固定されており、コンボや圧縮といった要素は無い為、カードゲームらしい派手さには欠ける。

まとめると『NoWaitHero』は、ノーウェイトというよりもリアルタイムな駆け引きをターン制で1手ずつ積み重ね、カードを手段として重ねていくデッキ構築型ゲームという印象だ。派手さがない分、多数のジレンマに満ちた作品になっていた。

『NoWaitHero』は、Steamにて980円で配信中だ。

Keiichi Yokoyama
Keiichi Yokoyama

なんでもやる雑食ゲーマー。作家性のある作品が好き。AUTOMATONでは国内インディーなどを担当します。

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