Blizzardが下したeスポーツ選手処分の余波まとめ。『オーバーウォッチ』のメイを香港デモのシンボルにして、中国発禁に追い込もうとする運動も

Blizzard Entertainment(以下、Blizzard)が『ハースストーン』のプロ選手Chung “Blitzchung” Ng Wai氏を、同作の公式大会グランドマスターズから除籍したことを受け、業界内外で波紋が広がっている。試合後のインタビューにて香港デモを支持するメッセージを残したBlitzchung氏は、グランドマスターズの大会ルールに違反したとして、同大会からの除籍と賞金取消、そして1年間の『ハースストーン』eスポーツ大会出場停止処分を受けた。

本騒動の影響は『ハースストーン』コミュニティにとどまるものではなく、さまざまな議論や運動を促すこととなった。Blizzard従業員によるプロテスト、『ディアブロ2』元プロデューサーのBlizzardボイコット参加、『オーバーウォッチ』のキャラクターを使った香港デモ支持運動、Activision Blizzardと同じく中国資本が入ったEpic Gamesの意思表明など。本稿では、弊誌記事「ゲーム会社Blizzardが香港のeスポーツ選手を厳しく処分、原因は香港デモの支援。中国でビジネスをする企業が背負う政治的なリスクとは」のフォローアップとして、ここ数日のうちに起きた出来事を振り返る。

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【UPDATE 2019/10/12 17:45】
Blizzardは10月12日、Blitzchung氏に対する処分について経緯説明文を公開(関連記事)。処分に関して中国からの影響は無く、あくまでルールに則さないが故の処分であると強調した。重すぎると指摘されてきた処罰内容については、ハースストーンeスポーツシーンへの出場停止期間が1年間から6か月まで短縮された。

 

Blizzard従業員によるプロテスト

Image Credit: reddit user Standingwhk

Blizzardが下したBlitzchung氏の処分については、同社に所属するスタッフ全員が賛同しているわけではないようで、社内での抗議運動が始まったと報じられている(PC Gamer)。昨年まで同社のPRエディターとして勤めていたKevin Hovdestad氏は、Blizzard社内のオーク・スタチューに刻まれている社訓「Think Globally」「Every Voice Matters」がノート紙で覆われている写真を投稿。これらは多様性や他者の尊重を意味する言葉だ。Blizzardは8つのコアバリューを掲げており、ミッションステイトメントのページには、「全ての従業員が他者の意見を尊重し、耳を傾け、自身の見解を述べ、批判は優れたアイデアにつながるものとして受け入れることを奨励しています」と記載されている。

そのほかPC Gamerによると、少数のスタッフは抗議の一環として昼からオフィスを立ち去り、同スタチュー前に集ったという。同社スタッフを名乗る人物より、晴天の中、スタチュー前で傘をさして集う写真が投稿されている(reddit)。傘は催涙ガスなどから身を守るための道具として、香港デモにおいて象徴的なアイテムとなっている。

なお抗議運動に参加したスタッフのひとりは、PC Gamerにコメントを寄せている。Blizzardの判断にはぞっとするが、驚くほどのものではなかったとのこと。Activision Blizzardは中国展開に力を入れており、2019会計年度第2四半期には、アジア太平洋圏で約1億7300万ドルの収入を出したと報告している(全体の約12%)。また現在は中国にて『Call of Duty Mobile』の配信承認を得られるよう取り組んでいる最中だとも伝えられている(Forbes)。利益を追求する企業のスタッフとして、中国での立ち位置を守ろうとする会社の意図は理解できるのだろう。

 

『WoW』元チームリーダーはボイコット運動に参加

Blizzardが中国市場にて莫大な利益を出していることは、Mark Kern氏も認めている。かつて『World of Warcraft』のチームリーダーや『ディアブロ2』のプロデューサーとしてBlizzardに勤めていた人物だ。そんなKern氏は、Blizzardは変わってしまったとして「BoycottBlizzard」運動に参加。『World of Warcraft』のサブスクリプションを解除する様子をツイートしている。

また一連のツイートでは、中国資本がゲームや映画産業に行き渡り、市場が支配されていったと述べ、現状を悲観視。あわせて、Blizzard退社後に設立した会社にて、中国からの投資を受け入れるようにと提示された賄賂を断ったことで、会社を去ることになったというエピソードを伝えている。Blizzardのスタッフとして、そして一時は香港の企業として、中国の習わしと長く付き合ってきたKern氏ゆえに、思うところは多かったのだろう。

 

『ハースストーン』の有名キャスターが辞退

Blizzardと関わりのある著名人の反応としては、『ハースストーン』のキャスター/コメンテイターとして有名なBrian Kibler氏が、グランドマスターズの仕事を辞退したことが挙げられる(Polygon)。Kibler氏は『ハースストーン』や『マジック:ザ・ギャザリング』の元プロ選手であり、現在はキャスター/コメンテイターとして活動している。『ハースストーン』コミュニティにとってお馴染みの顔となった彼が、同大会には関わらないとの声明を出した。

Kibler氏は、Blizzardの公式大会を使って政治的メッセージを発信したBlitzchung氏が、大会のルールを破ったことには違いなく、Blizzardが何かしらのペナルティを課すこと自体は正しい判断だと理解を示している。しなしながら、賞金剥奪や1年間の大会出場停止処分はさすがに重すぎるとKibler氏は意見。Blizzardの判断には、香港デモという政治的状況と、Activision Blizzardの中国展開という野望が強く関係しているとの見解を示している。Blitzchung氏の制裁には、大会でのさらなる政治的パフォーマンスを抑止するだけでなく、Blitzchung氏の言動に腹を立てた者たちをなだめるという狙いがあったように感じると説明。そしてそのような行為に関わることは、まともな良心を持って許容できるものではないと伝えている。「何かが変わらない限り、カメラの前で笑顔を浮かべ、そのような判断を暗黙のうちに支持するような真似はしない」。

ただ、「こうした判断は、企業の一般従業員が関与できるものではなく、おそらくは皆さんや私と同じくらい怒っていることでしょう。ですので、他のキャスターやストリーマー、Blizzardのスタッフに怒りをぶつけることは控えてください」とも付け加えている。

『Gods Unchained』

なおBlitzchung氏の賞金剥奪に関しては、TCG『Gods Unchained』開発元のImmutableも反応しており、取り消しとなったBlitzchung氏の賞金全額(1万ドル)を補填すると発表。あわせてBlitzchung氏を『Gods Unchained』の大会に招待するとツイートした。しかしながら直後には何者かからサイバー攻撃を受け、『Gods Unchained』にアクセスできない状態が続いたと報じられている(The Sydney Morning Herald)。

 

『オーバーウォッチ』のメイを香港デモの象徴キャラに

さきほどMark Kern氏が「BoycottBlizzard」運動に参加したことに触れたが、ボイコットのひとつの方法として、『オーバーウォッチ』のキャラクターであるメイを、香港デモの象徴キャラクターに仕立て上げるという動きも活発化している(USgamer)。なぜボイコット対象となるBlizzardのキャラクターを香港デモのシンボルにするのか。一見すると意図が見えないかもしれないが、これはいわば「くまのプーさん作戦」である。

中国では、習近平国家主席がくまのプーさんに似ていると2013年にネット上で話題となり、習近平氏を指す愛称として定着。一時期、中国のSNSにてくまのプーさんの写真投稿が全面的に禁じられていた(関連記事)。似たような考えで、香港デモをテーマにしたメイのファンアートやミームを量産することで「メイ=香港デモのシンボル」という構図が定着すれば、メイならびに『オーバーウォッチ』が中国で禁止されるようになるのではないか、というわけだ。

メイの香港デモアートはredditの「r/HongKong」にて盛んになっているほか、SNSでも「MeiWithHongKong」や「MeiSupportsHongKong」といったハッシュタグとともに投稿されている。

余談ながら、10月3日に放送された人気アニメ「サウスパーク」のシーズン23エピソード2「Band in China」では、くまのプーさんというキャラクターが登場している。大麻ビジネスを展開している登場人物ランディは、「Tegrity Weed(誠実大麻)」を売り込もうと中国に出発。大麻所持により刑務所に入れられたところ、違法生物扱いとなったプーさんと巡り会う。プーさんの境遇を見て「狂っている」と感想を漏らしたランディだが、大麻ビジネスを軌道に乗せるには中国政府への忠誠心を示さねばならない。というわけで、プーさん殺害計画を決行する。

ほかにも、バンド活動に勤しんでいたスタン少年らが、中国政府によるバンドイメージの改変に歯向かう流れがあったりと、中国資本と検閲が浸透した米国エンタメ業界を終始皮肉る内容となっていた。エピソード終盤、スタン少年はこう語る。

「こんな形で僕たちの魂を売ることなんてできないよ。確かに農場生活とはオサラバしたいけど、中国に僕たちの国のアートを支配された世界なんて、生きる価値ないさ。あなたの国にどれだけ人がいるかなんて知らないよ。僕はこの仕組みの一部になんかなりたくない。自分自身に誇りを持っていたいんだ。中国で儲けたいからといって自らの理念を裏切る奴なんて、ツバ一滴分の価値もないよ」

結果、「サウスパーク」は中国にて視聴不可となった(CNN)。動画だけでなく、中国のストリーミングサービス上のコメントやSNS、ファンページも削除されていったと報じられている。こうした流れを受け、制作者のMatt Stone氏とTrey Parker氏は公式謝罪文を投稿している。

「NBAのように、中国の検閲が私たちの家、そして心の中にまで入ってくることを歓迎します。私たちだって、自由や民主主義よりもお金の方が大好きなんです。習(習近平国家主席)はくまのプーさんに全然似ていません。今週水曜日の10時から放送される300話目をお見逃しなく!偉大なる中国共産党万歳!今秋のモロコシが豊作でありますように!こんな感じでいいですか、中国?」

NBA、「サウスパーク」、Blizzard。今年10月に入ってから、中国検閲もしくは中国検閲を背景とした自主規制関連の事案が相次いでいる(NBAの件に関しては、本稿冒頭で記載した過去記事参照)。いずれも米国企業・団体が渦中にいることもあり、海外メディアにて取り上げられる機会も多い。ゲーム業界に限らずホットなトピックとなっていることには違いないだろう。

 

Epic Gamesは、選手の政治的発言を許容する

中国検閲への関心が北米を中心に広まりつつある中、そしてBlizzardが批判にさらされる中、Epic Gamesはプレイヤーの表現の自由を尊重すると今一度強調した。同社のスポークスパーソンはThe Vergeに対し、「Epic Gamesは、政治・人権に関する見解を表現する全ての人々の権利をサポートします。『フォートナイト』のプレイヤーやコンテンツクリエイターが、そうした話題に触れたからといって、罰する、もしくはBANすることはありません」と語っている。

同社CEOのTim Sweeney氏もツイッター上で発言。Sweeney氏が創業者であり、CEOであり、支配株主である限り、プレイヤーの政治・人権問題に関する発言を罰することはないと強調した。発言の背景として、Epic Gamesの株式のうち約40%を中国大手のテンセントが保有しており、Blizzardと似たような状況になれば、同じような対応をせざる得なくなるのではないかという懸念があった(なおテンセントのActivision Blizzard株式保有率は4.9%である)。何かと批判を浴びることの多いEpic Gamesであるが、今回の発言には肯定的なコメントが大半。米国企業のCEOが、表現の自由を尊重すると発信するだけで称賛される時代になった。

 

米国上院議員も反応

また政治の世界では、米国上院議員のMarco Rubio氏(共和党)とRon Wyden氏(民主党)が、Blizzardの対応について批判的なコメントを出している。両者とも以前より香港デモを支持する発言を積極的に残してきた人物。Rubio氏はCECC(中国問題に関する連邦議会・行政府委員会)の共同議長であり、6月にはクリス・スミス議員とともに「香港人権・民主主義法案」を提出している(9月25日、上下両院の外交委員会通過)。

そうした文脈がある中、Rubio氏は本件について「中国国外に住む人々が、自主規制するか、追放・停止処分に直面するかの選択を迫られる事態に陥っています。中国は市場での影響力を活かし、表現の自由を世界規模で押しつぶそうとしているのです。その帰結は、現米国政府の人間が皆いなくなる、遠い未来に感じることとなるでしょう」とツイッター上で記した。Wyden氏もBlizzardの対応に否定的であり、ツイッター上で「Blizzardは中国共産党に気に入ってもらうためなら恥をかくことを厭わないようだ。いかなる米国企業も、手早く儲けたいからといって、自由を訴える声を検閲すべきではない」と述べている。

Blizzardの一件は、あくまでも同時多発的に起きている事例のひとつ。また、必ずしも香港デモを巡る論争が発端となるわけではないし、特定の業界内でおさまる話でもない。とはいえ、仮にゲーム業界の話に絞ってみても、もはや中国企業との付き合いは無視できないものとなっている。弊誌でもたびたび、欧米企業が中国大手企業とパートナーシップを組んだという発表や、そうした企業の中国展開に関する話題を取り上げている。企業の成長戦略と中国展開が結びつくことは多く、企業としての振る舞いが試される機会は今後も自ずと出てくるだろう。そして少なくとも北米圏において、今回のBlizzardのような対応が社会的に賛同される可能性は極めて低いと思われる。少なくとも、今のところは。

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