『Dead by Daylight』開発スタジオの残業時間はわずか0.25%。『Cyberpunk 2077』開発元は「より人道的な働き方」を目指すなど、労働問題への自発的言及続く

海外の大手ゲームスタジオにて、長期間にわたる半強制的な長時間労働(通称クランチ/Crunch)が蔓延っていることが報じられる中、ここ最近になって「私たちはクランチしていない」「ワークライフバランスを優先する」と公表するスタジオが相次いでいる(関連記事)。最近では『Anthem』や『フォートナイト』開発・運営チームの労働体制に懸念のまなざしが向けられ、そのカウンターとして『Apex Legends』や『Path of Exile』の開発元がクランチについて自発的に言及し始めた。では、「クランチしていない」と宣言しているスタジオは、どのようにして長時間労働を回避しているのだろうか。

 

オフィスでの寝泊まり禁止。休日出勤は求めない

『Dead by Daylight』

非対称マルチプレイホラーゲーム『Dead by Daylight』の開発元として知られるカナダのゲームスタジオBehaviour Interactive。同スタジオのCEOであるRémi Racine氏は今年5月に公式ブログを更新。クランチ根絶を決意した理由と、その方法を説明した。

Behaviourにおいてもクランチが蔓延している時期があったが、「1日8時間集中して働き、午後6時には全員退勤」を目標として掲げ、まずオフィスで寝泊まりすることを禁止。朝出勤したときに「ゾンビ化したプログラマーに迎えられる」ことがなくなった。続いて、締め切りを守るためだからといって休日出勤を求めることを止めた。スタジオのマネジメント陣は、そうしたRacine氏の労働観に共感できる人員で固めたという。根本的な組織改革を実現するためには、各部門のマネジメント陣に理解してもらい、全社的に新しい文化を浸透させねばならないのだ。

何時間でも残業してよい環境や社内文化が出来上がっていると、どうしてもダラダラと働いてしまいがち。読者の中にも、「毎日残業で大変だ」と言いながら何時間も無駄話をし続ける同僚や、精神論を語り効率を無視した長時間労働を強いる上司に遭遇したことがあるのではないだろうか。そうして長時間労働を放置していると他の従業員にまで残業体質が伝染していく。「従業員がどれだけ多くの時間を無駄にしているか、知るとびっくりしますよ」。Racine氏はそう語る。だからこそ事前の計画立てを徹底し、効率的なリソース配分を実現せねばならない。

 

ゾンビ化した従業員を見て「このままではいけない」と感じた

Behaviourの前身Megatoon Entertainmentが1992年に創設された当時からCEOとしてスタジオを率いてきたRacine氏。彼が「ビジネスのやり方を根本的に変えなくてはいけない」と気づいたのは、約20年ほど前だという。設立当時はクランチについて「クライアントやプレイヤーの期待に応えるために支払わなくてはならない代償」だと捉えていた。だが、従業員たちが身なりを乱し、徹夜勤務によりフラフラの状態で歩いている様子を目の当たりにした時に考えが変わったという。以降、従業員の健康や私生活を犠牲にすることで成功をつかむようなやり方ではいけないと、心に決めたという。

その後は企業の代表として、全従業員の健康に責任を持たなければならないという考えのもと、「1日8時間働く従業員が、その倍の時間働く従業員と同等の生産性を発揮することは可能か?」「より効率的な作業工程を導入することでクランチを根絶できないか?」といったことを自問自答していった。もちろん一晩で改善できる問題ではなく、クランチを無くすのに10年かかったそうだ。「今ではみんな、家族と一緒に夕食をとったり、愛する者たちと時間を過ごすことができます」。

※『Dead by Daylight』は6月に3周年を迎える

もちろんクライアントやプレイヤーから緊急対応が求められることもあるため、残業時間が完全にゼロになることはない。それでも、2018年の従業員の労働時間のうち、残業時間は全体の0.25%にとどまったという。事実だとすれば、ゲーム業界の話でなくとも驚異的な数字だろう。だからといってゲーム開発・運営に遅れが生じていたわけではなく、同年のうちに担当タイトル合算で100回のアップデートを実施。新たに15作品の開発・運営に協力し、2000万以上の新規プレイヤーを獲得。確実に成果を出していった。

「クランチをマネジメントツールであるかのように扱うチームリーダーや、クランチしないと競争力のあるゲームは作れないと思っている従業員を見てきました。午後9時に電話をかけてきて、なぜ誰も出ないのか困惑したクライアントもいました。ですが、クランチを廃止してから、契約やクライアントを失ったことはありません。締め切りを守れなかったこともありません。予算をオーバーしたこともありません。そしてなにより、企業としての成長が止まったこともありません。」

 

開発者の能力に応じてスケーリング

『Outward』

わずか10数人という小規模チームながら、クランチ抜きで広大なオープンワールドと共に濃厚なファンタジー・アクションRPG体験を届けた『Outward』。その開発元Nine Dots StudioのCEO Guillaume Boucher-Vidal氏は、GDC 2019にてクランチを回避できた理由を説明している(Gamsutra)。なおVidal氏によるクランチの定義は「週52時間以上の労働を、2週間以上続けること」。週5日勤務と仮定すれば、彼の定義上1日10.4時間までの労働はセーフとなる。

まずVidal氏いわく、開発初期の段階で「モンスターは想定よりも早く仕上がっていくのに対し、ワールド設計には遅れが生じていた」ことが分かり、ゲームの規模を調整していったという。制作が早く進んでいるモンスターの種類は増やし、ロケーションの種類は当初の予定よりも少なめに抑えた。開発チームの能力に合わせてスケーリングしていったのだ。これは生産性だけでなく、開発の勢いを維持する上でも役立ったという。

 

仕様書どおりにつくれないのはゲームデザインの失敗

また『Outward』の開発においては、「最初に決めた仕様書どおりにつくる」という大前提を徹底して守ったことで、工数が膨れ上がらずに済んだという。ゲーム開発においては「おもしろさ」を見つけるためにプロトタイプを何個もつくり、実験により軌道修正を重ねていく手法がある。だがプロダクション段階に入ってからも、そうした実験に時間をかけ続けていると、納期に間に合わなくなる。「他のスタジオから、開発した内容の70%がボツになったという怖い話を何度も聞きました。私たちは小さなチームですし、同じやり方はできません」。

「よく“おもしろさを見つける”(finding the fun)という表現が使われますが、“おもしろさ”がどこにあるのかわからないのに、ゲームデザイナーを名乗っていいのでしょうか?」「その質問に正しく答えられないのであれば、あなたは良いゲームデザイナーではありません。あなたは貴重な開発リソースを無駄にしているのです」。氏としてもプロダクションが始まる前の研究開発段階において実験することは大切だと認識しているが、一度計画が定まったら、あとは実行するだけ。「ゲームデザインは、建築家や映画監督の仕事に近いものだと思っています」。最初に決めたゲームデザインと最終成果物が近ければ近いほど優秀というわけだ。

なぜこのゲームを作るのか、他のゲームとは何が違うのか、どのようなゲーム体験を届けるのか。そうした重要な問いの答えは、最初のコードを書き始める前に明確になっていなければならない。それがおもしろいかどうかはプレイヤーに判断してもらう。氏いわく、チームの時間・予算・アセットを無駄にすることは、モラルの低下につながる無礼な行為。従業員の不満、人材流出にもつながりうる。ゲームデザイナーはクリエイティブであると同時に、ビジネス的な視野も必要。「ゲームデザイナーの仕事は、突き詰めていくと出費を抑えることです」。

そしてBehaviour InteractiveのRacine氏と同様、Vidal氏も、従業員の健康や労働状況に気を使うことで、仕事の充実感が増し、生産性が上がり、コストが下がるという好循環につながったと伝えている。

 

クランチ解消はマネジメント陣の頭を悩ます課題

『Wolfenstein: Youngblood』

Racine氏が述べたように、クランチはすぐに無くせるものではない。クランチ解消に向けて現在進行形で取り組んでいると発信しているスタジオもある。その一例は『Wolfenstein: The New Order』『Wolfenstein II: The New Colossus』を手がけ、2019年には『Wolfenstein: Youngblood』と『Wolfenstein: Cyberpilot』のリリースが控えているMachine Games。同スタジオは今年5月にReddit AMA(Ask-Me-Anything)を実施。クランチの話題にも触れている。

シニア・プロデューサーのJohn Jennings氏は、ゲーム開発において“おもしろさを見つける“工程をスケジュール化することは非常に難しいと述べたうえで、同スタジオではクランチを無くすために取り組んでいる最中であると説明。過去12か月にわたりスタジオ内のポリシーを制定したという。「ビジネス的な観点からすると、マネジメント陣の頭を悩ませることにはなりますが、それでも自分たちが定めたポリシーを遵守できるよう努力しています」。

 

クランチは不可欠だが「人道的」な労働体制を心がける

『Cyberpunk 2077』

強制的な長時間労働により完成に漕ぎついたと報じられてきた『ウィッチャー』シリーズ。その開発元のCD Projekt Redは、「多忙期におけるクランチは不可欠である」というスタンスを保持しつつも、新作『Cyberpunk 2077』においては「以前よりも人道的な労働体制を心がける」と、海外メディアKotakuのJason Schreier氏に語り予防線を張っている。大手ゲームスタジオにおけるクランチ問題が次々と告発されている流れを受けて、CD Projekt Red側からSchreier氏ににアプローチしたという。告発記事を出される前に先手を打ったと見てよいだろう。

具体的な対策としては、クランチを強制しないというポリシーを徹底すると語っている。スタジオから深夜労働や週末出勤を求められたとしても、それは決して「強制」ではないという。とはいえ、上司に「残業してでも終わらせろ」と指示されたならば、いくら強制ではないといっても、実質的には選択肢は無いに等しいと思われる。この点についてスタジオの共同創設者であるMarcin Iwiński氏は、「強制ではない」とメディア向けに発信することで、「今日は残業できない」と上司に伝えてもいいのだと、従業員に思ってもらうことが狙いであると述べている。ちなみに残業代および深夜・休日の割増賃金はしっかり支払っているとのことだ。

※『Cyberpunk 2077』のE3 2018デモ版制作にあたってはクランチが発生したという

クランチをしないと公言し、どのようにして「クランチレス」を実現しているのか共有するスタジオもあれば、クランチは無くせないが改善するために努力していると公言するスタジオもある。どのようなスタンスを取るにしても、告発記事が相次ぐ現代においては、自社の方針を自発的に発信していくような姿勢が求められるのかもしれない。

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