『Cuphead』Nintendo Switch版が実現した背景や、日本語ローカライズへのこだわりなどについて開発者が語る

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カナダのインディースタジオStudio MDHRは3月21日、2Dアクションゲーム『Cuphead』のNintendo Switch版を4月18日に発売すると発表した。日本語に対応し日本でも発売予定で、ニンテンドーeショップではすでに予約受付とあらかじめダウンロードが開始している。価格は1980円だ。

本作のNintendo Switch版は、米国任天堂が同日に放送した「Nindies Showcase Spring 2019」の冒頭でサプライズ的に披露された。本作はPC/Xbox One版向けに2017年に発売され非常に高い評価を獲得。これまでに300万本以上を売り上げている人気作の移植とあって、国内外で大きな話題となった。その盛り上がりは海外フォーラムResetEraでも同様で、開発元Studio MDHRでデジタルペイントを担当するTeethことTyler Moldenhauer氏がファンの質問に回答しているため、いくつかその発言を拾っていきたい。

きっかけはマイクロソフト

まず、『Cuphead』はマイクロソフトから資金援助とプロモーションの協力を得たうえで開発され、コンソールではXbox One独占で発売されたため、Moldenhauer氏は、Nintendo Switchへの移植は前例のない協力関係(unprecedented partnership)によって実現したとコメント。なお、ゲームの権利はStudio MDHRが保有しているとのこと。Moldenhauer氏は、マイクロソフトは素晴らしいパートナーであり、彼らの協力なくしてはNintendo Switch版は実現しなかっただろうと述べる。また任天堂についても、この提携がスムーズに進むよう尽力してくれたとしている。

なお、Nintendo Switch版の実現の背景について海外メディアEasy AlliesのDaniel Bloodworth氏は、Studio MDHRのスタッフに確認した話として、マイクロソフトからStudio MDHRに『Cuphead』のNintendo Switch版を作る気はあるかと尋ねてきたのが始まりだったと報じている。また、米国任天堂で開発者とのコミュニケーションを担当するKirk Scott氏も、任天堂側からマイクロソフトにアプローチしたことはなく、気づいたらプロジェクトが始まっていたと海外メディアGame Informerに対して述べている。

プラットフォームホルダーとして本来ライバル関係にある両社だが、マイクロソフトはすでに『マインクラフト』をNintendo Switchなどの任天堂プラットフォームで展開しており、クロスプレイにおいても協力関係を築いてきた。また、後述するXbox Liveの拡大もあり、マイクロソフトなりの思惑があったのかもしれない。

 

Nintendo Switch版開発が他機種版にも好影響

Moldenhauer氏によると、本作のNintendo Switchへの移植は外注ではなく、Studio MDHR自身でおこなったそうだ。Nintendo Switchの携帯/テーブルモードでは720p、TVモードでは1080pとなり、いずれも60fpsで動作する。ローカル2人協力プレイは、Joy-ConやProコントローラーを持ち寄ってプレイする形。近くのNintendo Switch本体同士で無線通信するローカル通信には対応しないとのこと。

ゲーム内容としては、これまでに発売されたPC/Xbox One版と同じ。ただ、Nintendo Switch版の開発にあたっては、使用しているUnityのバージョンアップを機に、Nintendo Switch上でスムーズに動作するようスプライトの扱いを見直したという。大量のPNGファイルを用意する代わりに、SpriteAtlasというUnityの新機能を利用することで、容量の削減やロード時間の短縮を実現。これをほかのバージョンにも適用した結果、たとえばXbox One Xでのロード時間は以前の約半分になったそうだ。これは、日本語対応や1人プレイでのMugman使用などを実現する、4月18日配信予定の無料アップデートにてPC/Xbox One版に実装される(関連記事)。

なおMoldenhauer氏は、4K解像度への対応はおこなわないと明言している。本作のすべてのアートワークは1080pを前提に手描きで制作されており、もしリマスターするとなると、5万フレーム以上を描き直す膨大な作業になるためとのこと。同じ理由で、CupheadとMugmanにマリオやルイージのコスチュームを追加してほしいという要望に対して、「どちらも数千フレームのアニメーションがあるんだ。考えただけで泣いちゃうよ」と返している。

 

ローカライズへの慎重さとこだわり

本作はNintendo Switch版の発売に合わせて、日本語を含む10か国語に新たに対応する。ローカライズにあたっては、そのクオリティを重視していることが発表時に触れられていたが、Moldenhauer氏は『Darkest Dungeon』での出来事がその背景にあると述べる。同作は昨年韓国語への対応をおこなったが、クオリティの低さにファンからの不満の声が寄せられることとなった。ただ、開発元のRed Hook Studiosはプロの翻訳家に依頼していたため、こうした問題が起こることは想定外だったそうだ。また、開発チームに韓国語を理解できる人がいないため、自分たちで問題ないかチェックすることもできなかった。結局同スタジオは、ファンに謝罪した上でローカライズをやり直すこととなる。

これを教訓に、『Cuphead』では複数のローカライズ会社と契約。納品された翻訳を別の会社にレビューしてもらい、そのレビューを元の会社に戻して再評価してもらうという2重3重のチェック体制を敷いたという。本作にはそれほど多くのダイアログがあるわけではないが、慣用句や韻を踏むなどの言葉遊びが取り入れられており、それを理解した上でそれぞれの文化に合わせて翻訳する必要がある。Moldenhauer氏もやはり、自分たちでその翻訳が正しいかを判断することができないことが怖いと述べており、こうした慎重な仕組みを用意するに至ったようだ。

また日本語へのローカライズについては、複数のプロの漫画カリグラファーと契約し、昔のアニメ作品をイメージして各ステージのタイトルをデザインしてもらったという。Studio MDHRの公式サイトには一例が公開されており(以下の画像)、本作の雰囲気にマッチしたデザインとなっていることが確認できる。Moldenhauer氏は、ローカライズにおいて妥協することはしなかったため、『Cuphead』が日本で真に受け入れられるよう祈っていると述べている。ちなみに、日本語版のローカライズは株式会社GameTomoが担当したとのことで、英語版の発売以前からStudio MDHRとやりとりを続けてきたという。

Nintendo Switch版では、発売後のアップデートにてマイクロソフトのXbox Liveをサポートする予定となっている(関連記事)。マイクロソフトは先日、Xbox LiveのiOS/Androidへの対応を正式発表し、Nintendo Switchについても計画を進めているとされる。『Cuphead』において、具体的にXbox Liveのどの機能を利用するのかについてはまだ検討段階にあるそうだが、Moldenhauer氏は実績機能を示唆する一方、Xbox One/Windows 10版とのクロスバイは出来ないと明言。なお、Xbox Liveを実装したとしても、プレイするために必ずXbox Liveアカウントが必要になるわけではない。ちなみに実績については、Nintendo Switch版はXbox Live対応とは別にゲーム内実績機能を搭載するとのこと。実績解除時には、オリジナルの解除音が鳴ると同時にポップアップが表示されるという。

また本作向けには、プレイアブルキャラクターやステージなどを追加するDLC「The Delicious Last Course」の配信が2019年内に予定されており、Nintendo Switch版を含め全機種同時に配信するという。そしてDLCを配信した後には、本作の最後の最後のバージョンとして、Nintendo SwitchとXbox One向けのパッケージ版を発売する計画だそうだ。Moldenhauer氏によると、なにか『Cuphead』グッズを同梱することも検討しているという。なお、PC版については「誰がPCのパッケージ版なんて買うんだ?」とコメントしている。

フォーラムではそのほか、『Cuphead』のキャラクターを『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』に出してほしいとか、Amiiboはいつ出るんだといった声もあり、Moldenhauer氏はそうした要望は任天堂に送ってほしいと返している。『Cuphead』がNintendo Switchでも大きな人気を獲得できれば、そうした可能性も高まるかもしれない。

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