『Metro Exodus』PC版はEpic Gamesストア時限独占に。発売直前でのストア変更に、Valveとユーザーは強く疑問呈す

 

パブリッシャーDeep Silverは1月29日、Epic Gamesとパートナー契約を結んだことを発表し、『Metro Exodus』のPC版をEpic Gamesストアにて独占販売すると告知した。同ストアでの独占販売期間は、2019年2月15日より2020年2月14日まで。つまり、1年間の時限独占ということになる。

 

急すぎた方針転換

『Metro Exodus』のPC版はSteamで販売されることがすでに発表されており、予約販売も始まっていた。2月15日の発売が迫る中、突如として販売プラットフォームの変更が発表されたわけだ。実際に、同作のSteamストアページでは、ゲームを予約および購入することはできなくなっている。しかしながら、すでに予約したユーザーは、発売日である2月15日より『Metro Exodus』をSteamで遊ぶことができ、アップデートやDLCについても同ストアで提供されるとのこと。またEpic Gamesストア独占のコンテンツなども存在しないとDeep Silverは告知している。予約者は、基本的には通常販売されているケースと同じように、ゲームをプレイすることが可能。

Steamを販売するValveは、『Metro Exodus』を長期間にわたり予約販売していたにも関わらず、販売を取りやめにしたDeep Silverの決定は、Steamのユーザーにとってアンフェアであるとストア上で批判。2月15日の発売日を楽しみにしていたユーザーに謝罪しながらも、「最近知らされたものだった」とも説明している。Valveのコメントからはどことなく怒りを感じられるが、さらに憤っているのはSteamユーザーだ。Steamフォーラムには毎分ともいえるスピードでスレッドが立ち、今回の決定についての議論か交わされているほか、Deep Silverの告知ニュースには中指を突き立てるアスキーアートが大量に投稿され、阿鼻叫喚の様相を呈している。

2018年12月に正式オープンしたEpic Gamesストアは、Steamよりも開発者有利なロイヤリティ配分(開発者の収益配分は、Steam:通常70%、Epic Gamesストア:88%)が注目を集めた。発表当初はインディータイトルの時限独占が話題を集めたが、最近になってはUbisoftが『ディビジョン2』を同ストアで独占販売することを発表しており、その後のタイトルもEpic Gamesストアで販売していくことを示唆。大型タイトルのストア移動を予感させた。そして今回、4A Gamesが開発する人気シリーズ最新作『Metro Exodus』の時限独占販売されることが発表された。

ストア移動の理由は多岐にわたると思われるが、その中でも特に大きいのはやはり収益配分だろう。今回の決定においては、Deep SilverのCEOであるDr. Klemens Kundratitzが公式サイトにて、Epicの寛容なレベニューシェアの条件はゲームチェンジャーであるとし、そのおかげで開発者のコンテンツ制作により多く投資できる、もしくはプレイヤーに還元できるとコメント。Epicと組むことで、『Metro』シリーズのさらなる展開および同シリーズの開発スタジオ4A Gamesとのパートナーシップへの投資を増やすことができるといい、ファンはその恩恵を受けられると語った。

ちなみに、Epic Gamesストアにおいても、日本語対応はなし。日本語で遊びたいユーザーは、スパイク・チュンソフトから発売されるPS4/Xbox One版を買うことになるだろう。

一方Epic GamesのTim Sweeney氏は前述した収益配分のほかに、Epicのマーケティングサポートがあることも示唆している。Epic Gamesストアにおけるローンチ独占にあたっては『Maneater』の販売元Tripwireが、Epic Gamesによる開発資金の出資をほのめかしていたほか、『Satisfactory』のCoffee Stainは契約金を受け取っていると明言している。『Metro Exodus』においてもEpic Gamesからそうした支援があったと考えるのは決して不自然ではないだろう。

しかしながら、今回のストア変更の決定においては、前述したようにコミュニティが特に荒れている。というのは、すでにSteamストアページが用意されていた『ディビジョン2』がストア移動することも議論された。ただ『Metro Exodus』とは違い、『ディビジョン2』のストア移動発表は発売より1か月以上前での告知であり、かつ予約販売をストア移動後に始めていた。発売が差し迫り、予約購入者が多い(outstanding pre-order)状態の中でストア変更をするというDeep Silverの決断に、Valveとユーザーが憤るのも無理はない。

 

ユーザーへのメリットは

Epic Gamesストアの誕生およびSteamからの移動は、多くの開発者に歓迎されている一方、ユーザーの心境は複雑だろう。開発者がより多く利益を受け取れることは喜ばしいものの、Steamから離れるメーカーが増えると、ランチャーおよびプラットフォームが分散することになるからだ。ゲームを集積できるというSteamの最大のメリットが失われかねない。つまり、デベロッパーにとってはEpic Gamesストアへの移動にメリットは多いが、ユーザーにとってのメリットはほとんどないといっていい。同ストアでは、高品質な無料ゲームが配信されているが、定期的に無料配布されていることはあくまでストア単体での魅力であり、ゲーム購入におけるメリットとは直接結びつけられていない。

ただし今回の『Metro Exodus』においては、ユーザー向けのストア変更のメリットが提示されている。それは価格だ。SteamストアではStandard Edition は59.99ドルで販売される予定だったが、Epic Gamesストアに移ることで49.99ドルに引き下げられている。10ドルの定価の引き下げは、明確にユーザーにとってのメリットになりえる。

ただし、この価格が「アメリカユーザー」に向けたものであることは強調しなければならないだろう。Standard Editionは、日本からだと変わらず7800円。欧州(ユーロ)や英国(ポンド)もまた値引き対象外で定価は変わらず。恩恵を受けられるのは、アメリカユーザーだけである。興味深い施策であり、この価格変更に魅力を感じているユーザーは存在すると思われるが、ドルベースの価格変更はまだユニバーサルなメリットにはなりえていない。まだ“メーカー事情による一方的な変更”の域から出てはいないのだ。

Deep Silverは、シリーズ作品である『Metro 2033 Redux』『Metro: Last Light Redux』もまた後にEpic Gamesストアにて販売すると告知しており、Epic Gamesと長期的かつ良好な関係を結んでいくことを強調している。だが良心的なストアやプラットフォームが存在しても、そこにファンがいなければビジネスは成立しない。まだ“ユーザーベース”が見えない状態でありながら、思い切ってEpic Gamesストアに飛び込んでいくメーカーたち。その決断が賢明か早急であったかは、時間が教えてくれるだろう。