「任天堂にプッシュしてもらえなかった」インディーゲーム開発者が嘆きの声。Nintendo Switchインディー市場に持ちすぎた期待


任天堂が販売する最新ハードNintendo Switchは、インディーゲーム市場に新たな風をもたらした。携帯機としても据置機としても遊べるというハードウェアの市場にて、インディー作品を発売した開発者の多くが、他ハードを上回る販売結果が出ていることを続々と報告している。そして、その報告を聞いたインディー作品がNintendo Switchへと進出するという、良い循環が生まれている。単なる移植が多かった昨年に比べ、今年に入ってからはNintendo Switch向けの先行リリースやコンソール独占といった事例も見かけられ、もはやインディーゲームにとってNintendo Switchは切り離せない存在と言える。しかし当然ながら、同ハードで発売されるすべてのインディーゲームが売れるわけではない。2DRPG『Cosmic Star Heroine』もそのうちのひとつだった。

『Cosmic Star Heroine』は、『クロノ・トリガー』など多くのJRPGから影響を受ける。日本語には対応していない

「任天堂は僕らを無視した」

海外フォーラムResetEraのとあるスレッドでは、Nintendo Switchにて成功を収めたインディータイトルのセールスデータを共有し、ユーザー同士がその好調ぶりを語りあっていた。そこに現れたのが、『Cosmic Star Heroine』の開発者werezompireことRobert Boyd氏だ。Boyd氏は、自分たちのゲームは単なる移植作品であるがゆえに、任天堂にリツイートしてもらうなど、販売におけるサポート(プッシュ)をしてもらえなかったとうなだれた。

一度は門前払いを受けたBoyd氏は、紆余曲折ありパブリッシャーを見つけリリースまでこぎつけたが、それでもなお任天堂に“無視”されていたことに強くフラストレーションを感じていたと語る。『オクトパストラベラー』がこれほどヒットしているなら、自分たちのゲームも存在を知ってもらえればそのうち少なくない人がゲームを買っただろうという、未練を感じさせるコメントも。また発売1か月前にストア修正の要望を出しても、修正してもらえなかったなど、不満をこぼし続ける。

その結果、Nintendo Switch版『Cosmic Star Heroine』の初週売上は、PC/PS4版(両バージョンの売り上げはほぼ同じ)初週売上の三分の二にとどまったとコメント。現在のペースだと初月の売上は1万本に至らないといい、期待していたほどの数字が残せていない現状についても苛立ちを募らせる。一度始まった愚痴は止まらない。氏は、任天堂(厳密にはニンテンドー・オブ・アメリカ)は、そもそもまともに対応してくれなかったと語り、App StoreにおけるAppleのように、プッシュしようと決めた特定の開発者以外は無視しているようだとも主張している。

氏はさらに、ソニーのサポートチームは組織化されており、連絡をした際の対応が素早かったと他社と比較。ニンテンドー・オブ・アメリカのスタッフは人手不足か、対応しきれない量のリクエストがあるのか、もしくはわざとそうやっているのだろうと吐き捨てた。ニンテンドー・オブ・アメリカのスタッフからは、単なる移植は優先度が低いと言われ、SteamSpy(Steamの所有者数を示すデータサイト)に掲載された売上(所有者)の低さについて言及されたことも明かした。不満を言っても無駄だ、これを糧に今後頑張るとこぼし投稿をすべて削除したものの、Nintendo Lifeといったメディアに報じられたほか、ResetEraのログ保管庫にはばっちりその書き込みは残されており、発言は波紋を呼んだ。

ニンテンドー・オブ・アメリカの対応については、以前からフットワークの重さが指摘されていた。スタッフの人員不足についても噂されており、それらが事実だとすれば、改善の余地はあるだろう。ただ、今回議論の論点になったのは、任天堂のプッシュを受けられず、セールスが伸びなかったという不平および不満だ。任天堂は、本当に特定のタイトルしかプッシュしなかったのだろうか。

 

あふれでる新作

任天堂は以前より、Nindie Showcaseを代表にインディーゲームを紹介するプログラムを定期的に放映している。このプログラムの趣旨はもちろん、Nintendo Switchにてリリースされる幅広いインディーゲームを視聴者に伝えることだ。国内でもIndie Worldというプログラムにて、任天堂の副島氏と朴氏がインディーゲームの魅力をキュートかつ熱心に伝えている。

いずれの番組でも、多くのゲームが紹介されており、特定のタイトルのみをプッシュし続けるという意図は感じられない。任天堂がインディーゲームのプロモーションに熱心であると感じられる事例はごく最近にも確認されている。8月20日にニンテンドー・オブ・イギリスがgamescom 2018に先駆けたインディー番組Indie Highlightsを放映した1週間後、ニンテンドー・オブ・アメリカはNindies Showcase Summer 2018を放映した。これらのプログラムで重複しているタイトルはなく、わざわざ2回に分けて大量のインディー作品が紹介されたわけだ。もちろん、すべてのタイトルを平等に紹介しているわけではないだろう。今回スポットが当てられていたのは、Steamでヒットした作品やコンソール独占作品などが中心であるが、そうでない作品も紹介されている。優先順位は存在していたとしても、できるだけ幅広く多くの作品を紹介する意図が存在することがわかる。

もしくは、Boyd氏の期待が高すぎたというのはあるかもしれない。『Cosmic Star Heroine』のNintendo Switch版のメディア露出は、ほかのインディーゲームと比べても少ない。ゲームのプレスリリースを世界のメディアに向けて発信するGames Pressにも掲載しておらず、PS4版発売時にはおこなったredditのAMAも実施していない。このようにBoyd氏自身は、積極的なマーケティングをおこなっていなかった。前述の怒りから察するに、おそらく何をせずとも任天堂がプッシュしてくれると期待していたのだろう。Nintendo Switch発売初期のインディータイトルであれば移植された旧作だとしてもそうした優遇が存在したかもしれないが、現在は魅力的な新作が多く発売されている。2017年4月PC向けに発売された旧作の優先度は、いくら優れた作品だとしても高くしづらいというのが現状だろう。

先日発売された『Bad North』は、他コンソールより1週間はやくNintendo Switchで発売された

今回の件はBoyd氏の過度な期待が原因であったと思われるが、「なぜ自分たちが取り上げられないんだ」という不満は今後他開発者から生まれていくと予想できる。たとえば、昨年8月のIndie Showcaseは発売予定のインディータイトルの多くをカバーできていたが、今はソフトの数が増えすぎて、ひとつの番組では到底カバーできなくなっている。Nintendo Switchに出せば、任天堂からプッシュしてもらい売れていくだろうと期待し、十分な準備をせずに発売をし、不満を漏らすという事例は今後もきっと起こるだろう。ソフト数が増えてもなお、Nintendo Switchのインディーゲーム市場は活発である。しかし8月24日に、日本のニンテンドーeショップで18本のタイトルが発売されたように、日々ライバルは増え続けており、もはや何もせずに売れるという状況ではない。他コンソールで発売する場合と同様に、開発者自ら積極的にプロモーションや露出をしていくことが重要になるのではないだろうか。

また任天堂自身も、ソフト数が増え続けることにより“負け作品”が多く生まれてしまうことを危惧しているはずだ。すでに予告されているニンテンドーeショップのUI改善、キュレーションの導入やプロモーションなど、Nintendo Switchとインディーゲームの相性のよさを、さらに生かす施策に期待したい。