墓守として闇に生きるSLG『Graveyard Keeper』日本語対応で配信開始。“暗黒牧場物語”とも称される、農業あり埋葬ありの本作の内容を紹介


tinyBuild Gamesは本日8月15日、『Graveyard Keeper』をPC(SteamGOG)/Xbox One向けに発売した。価格は1980円で、Steam版は日本語字幕に対応している。『Graveyard Keeper』は、墓守として異世界で暮らすシミュレーションゲームだ。開発を手がけるのは、ボクサー育成シミュレーション『Punch Club』を手がけたLazy Bear Gamesである。

『Graveyard Keeper』の主人公は、中年の男性だ。現実世界で愛する妻子と暮らしていた男は、交通事故に遭ってしまう。意識が朦朧とする中、墓守になれというお告げを耳にし、目を覚ました男がいたのは異世界だった。荒れ果てた墓地の管理者を任された男は、妻子の待つ元の世界へ戻るための方法を必死に探っていく。

プレイヤーは、この墓守として暮らすことになる。元の世界に戻るために墓場を運営しつつ、挙げ句は神官に認められると教会で伝道するようになり、次第に縄張りを広げて世界全体を掌握していく。そのためには、汚れた墓地を改修し、お金をため、人々と知り合い、クラフトを繰り返してアイテムを生み出し富を得て、教会を繁盛させなければならない。時には、ダンジョンでモンスターと戦うこともある。基本的には、時間の進行やイベントなどでクエストが発生するので、それらを解決していきながら元の世界へ戻ることを目指すことになる。

日本語に対応(一部翻訳盛れも)

本作では目覚めてから眠るまで、何をするかはプレイヤー次第。墓の整理をしてもいいし、畑を耕すのも、釣りをするのも、木を切るのも、近隣の村で暮らす住民に話しかけるのも、自由だ。同様のシステムを採用している『牧場物語』や『Stardew Valley』と比較して、一部プレイヤーからは“暗黒牧場物語”とも紹介されている。その表現は決して誤ってはいないが、根本的に“牧場系”の作品とはシステムが異なることを留意しておくべきだろう。というのも、本作はそうした牧場系のゲームとは流れが全く異なるからだ。あらためて相違点を説明しておこう。

 

自由な暮らしと狂っていく男

『Graveyard Keeper』では、時間や曜日といった概念は存在するが、それに縛られる必要はない。ゲーム内にはエネルギーの概念が存在しており、何か行動(墓整理や倒木、クラフトなど)を起こすとエネルギーが消費される。就寝はそのエネルギーを蓄える手段でしかない。エネルギーが残っているなら明け方まで起きていても何のペナルティも存在しない。完全なる昼夜逆転の生活も可能だ。またそもそも本作には“牧場系”ではおなじみの「毎日やるべき仕事」がほとんど存在しない。アルファ版の段階では農業すらも水やりを必要としない。特定の曜日には死体が運ばれてくるが、それさえ処理しておけば、何をしてもいい。エネルギーが尽きて困った時に就寝をすればいいのだから。

墓を整理するなら、昼よりもむしろ夜のほうが落ち着く

そして“牧場系”の醍醐味ともいえる、住民とのコミュニケーションは至ってシンプルだ。プレイヤーは住民とは、世間話などはしない。イベントなどは発生するが、基本的には頼み事/頼まれごとをするか取引をするかのどちらかだ。頼まれごとを達成すれば友好度が上がり、頼み事ができるようになるか、家の中に入れるようになる。もしくは、取引で売ってくれるものの種類が増える。雑談などは基本的にできないし、何かをあげて友好度があがるということはない。頼まれごとをこなし、その見返りに重要なアイテムをもらう、割り切ったギブアンドテイクの関係であることを留意してほしい。”資本主義的”と表現するストア説明が示すとおり、持たざる者は相手にしてもらえないことが多い。

そして世界観がダークであるという点は本作の特徴のひとつ。墓場というインモラルなテーマが示すとおり、主人公は元の世界に帰るために自らの手を汚す。預かった死体を解剖し肉を獲得すれば、商人に売りつけて富を得ることができる。墓場の状態を悪くするような質の悪い死体は、川から投げ捨てることも、火で燃やすこともできる。また役所の認印が必要なシーンで偽の印を使い役人を欺いたり、死体から剥ぎ取った皮で紙を作り何も知らない住民に売りつけるなど、とにかく道徳的に危うい行為を繰り返すことになる。本作の世界はそもそも、魔女狩りが平気でおこなわれているように、どこか狂っている。関わる人々もいまいち信用できない、怪しげな人間ばかり。妻子と再び会うためには、毒をもって毒を制さねばならないのだ。常識人である主人公が、目的を遂行するために徐々に闇に染まっていく。不謹慎やブラックジョークという類のコメディ要素はなく、意思を持って闇の道を進んでいく主人公を中心に語られていくシナリオは、“牧場系”にはない魅力だ。

魔女狩りを推進する狂気的な審問官に翻弄されていく

 

煩雑さが伴う難易度

また本作のシステムを支えるのは、テクノロジーシステムだ。このシステムは、いわゆる“レシピによるアンロック”に近い。プレイヤーがエネルギーを消費する行動を起こすと、経験値が発生する。この経験値をためてテクノロジーをアンロックすることで、新たな物や道具を作ることが可能になる。スキルツリー形式でアンロックしていく仕様となっており、上位の技術ほど求められる経験値が多い。何かしら行動をしていけば、何かしらの経験値がたまり、それによって新しい活動が可能になっていくと考えればいいだろう。

何をするにしてもテクノロジーを取得する必要があるので、莫大な経験値をためていかなければならない。たとえば、アイテムをひとつ獲得するために、経験値をためてテクノロジー取得→アイテム生成ツールを作るための素材集め→ツールをクラフト→アイテムを作るための素材集め→そして最後にツールを使ってやっとアイテムをクラフト。こうした手順になることは、ままある。なおアイテムはテクノロジーを取得していなくとも、NPCから購入してしまえば手に入る。しかしそのためにはお金が必要だ。テクノロジーを取得するのもお金も得るのも一苦労なので、何をするにしてもなかなか煩雑になる。ただし、この煩雑さによってゲーム内で目標は増え続ける。クエストも多く存在するので、あれを作るためにこれを集めたい、そのためにこれをクラフトしないと。そう思い巡らし作業していくのは、なかなかどうして中毒性がある。同じことをし続けるタイプの作業ではないものの、すぐ手に入りそうなものがなかなか手に入らないもどかしさがあるので、この点は注意しておくべきだろう。牧場系というより、サバイバルゲームに近いシステムかもしれない。

またこの煩雑さにともない、序盤の難易度はそれなりに高い。墓地を整えて教会の運営許可をもらうまでが本作のスタート地点ともいえるが、システムが複雑であるので、把握するまで試行錯誤していると、墓地の状態が悪化していき、立て直すのに時間がかかる。何をすべきなのかを把握するのにも時間が必要で、かつそれを把握してからも時間がかかる。本作にはチュートリアルは用意されているが、それでもゲームの流れを理解するまではそれなりに試行錯誤や情報共有、もしくは我慢が必要であることも認識しておくといいかもしれない。ちなみに序盤のアドバイスとして、※ネタバレ注意[釘は鍛冶屋で買えるので、足りなくなれば鍛冶屋に行くといい]

 

牧場物語ではないが……

一方で、システムが難解であるが、それだけ奥深さもある。テクノロジーのスキルツリーはクラフトだけでなく料理や伝道、執筆や解剖技術など多岐にわたる。とにかくいろんなことができるのだ。新たなテクノロジーや場所を解禁すれば、できることはさらに広がっていく。そしてそれに伴いイベントが発生し、主人公は闇に染まっていく。何をしてもいいという自由度の高さ、煩雑さと中毒性を持つクラフト、ダークなシナリオがうまく絡み合い、プレイヤーを没頭させるだろう。日本語に翻訳されていることにより、英語でプレイするよりも格段に快適である点も嬉しい。

『Graveyard Keeper』は、『牧場物語』や『Stardew Valley』を期待すると満足できないかもしれないが、“牧場系”のシステムをなぞらえつつ、独自の魅力を確立することに成功している。細部まで作り込まれており、中毒性が高く、つい遊び続けてしまうのだ。作品の趣旨は違えど、牧場系をプレイする方ならば、本作の煩雑さにもある程度は適応できるのではないか。そうでなくとも、従来の牧場型シミュレーションゲームにクローンに終わらない本作は、この手のジャンルを好むユーザーにとってプレイしてみる価値があるはずだ。このお盆は、異世界に飛ばされた中年男になり、ジレンマを抱えながら闇に手を汚してみてはいかがだろうか。