Steam Frame開発者インタビュー。PC用の無線VRヘッドセットを作っていたはずが、気が付いたらヘッドセットだけでVRゲームが動くようになっていた

VALVE INDEXからの6年の間に生じたVRやSteamの変化、そしてこれからの展望についてVALVEの開発スタッフにメールインタビューを敢行した。

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2026年9月15日より、Valve製のVRヘッドセット「Steam Frame」が発売される。VALVE公式のVRヘッドセットは2019年の「VALVE INDEX」以来であり、今回は新たに「PCとの無線接続」「ヘッドセット単体でのVRゲームの動作」「非VRゲームの対応」の3つが主な特色となっている。VALVE INDEXからの6年の間に生じたVRやSteamの変化、そしてこれからの展望についてVALVEの開発スタッフにメールインタビューを敢行した。Steam Frameの詳細については、質問ごとにフォローを入れていく。

・問1

Q1. 2025年末から始まった世界的なメモリ価格危機 [1] のためにSteamのデバイスがそれぞれ延期となりましたが、Steam Frameの発売が2026年初頭から2026年9月に延期された理由を教えてください。

A1. Steam Frameの発売が遅れた原因は、ストレージとメモリがなかなか確保できなかったからです。製品を発売するためには十分なリソースを確保する必要がありましたし、製品のライフサイクル全体を通して生産を継続できる体制を整える必要がありました。発売時に十分な数のユニットをご用意できるよう、懸命に取り組んでいます。

[1] インタビュアー注:2025年末からAI企業によるメモリーおよびストレージの全世界的な買い付けが行われており、AI企業以外がメモリーとストレージを調達できなかったりデバイスを値上げ・発売延期したりする要因となっている。2028年に解消されるという予想もあれば、2030年になっても解消されないという予想もあり、将来性は不透明。

・問2

Q2. これまでValveが関与したVRヘッドセットは2016年のHTC VIVE、2019年のVALVE INDEXがありますが、Steam Frameで目指したことはなんでしょうか。この7年の間に維持した目標、変わった目標はありますか。

A2. Steam Frameの開発において私たちが最も重視したのは、快適なワイヤレスPC VRヘッドセット [2] を作ることでした 。Steam Deckの開発を通して、携帯性、使いやすさ、そしてSteamとの緊密な連携などのアクセシビリティの重要性を多く学びましたが、開発を進める中で、これらの機能がSteam Frameにとっても同様に重要であることが分かりました。

[2] インタビュアー注:HTC VIVEやVALVE INDEXといった過去のVALVE公式ヘッドセットは、すべてヘッドセットをケーブルでPCに接続したり、外部センサーを部屋に配置したりしないと利用できなかった。VALVE以外のVRヘッドセットでは、Meta Quest(旧Oculus Quest)シリーズが2021年からPCへの無線接続に対応している。また、Steam Frameでは過去のような外部センサーは設置不要。

HTC VIVE (2016)
VALVE INDEX (2019)

・問3

Q3. Steam Frameが「VRのスクリーンで既存のSteamゲームをプレイできる」 [3] というコンセプトを押し出したのは他メーカーでは実現できないValveならではの手ですが、このコンセプトにどれだけ力を入れているのでしょうか?このコンセプトのために開発した技術は将来のValveのプロダクトにも生かされるのでしょうか?

A3. 私たちはこの体験に強い魅力を感じ、それがソフトウェア開発(FEX、Proton) [4] とハードウェア設計(コントローラーの入力方式など)の両方に反映されました。これはSteamの新たな体験をもたらすと考えており、今後もこの取り組みを継続していくことを楽しみにしています。

インタビュアー注[3]:Steam FrameはVRでない普通のゲームも動かすことができ、VR空間にある仮想スクリーンをモニター代わりにプレイすることができる。この機能のためSteam FrameのコントローラはNintendo SwitchのJoy-Conのように、一般的なゲームパッドと同じボタンが左右に分割で配置されている。Steam Frame本体でゲームを動かすことも、PCで動かしているゲームの映像をSteam Frameに表示することも可能。なお、既存VRコントローラとのボタン配置の互換性もあるため、VRゲームのプレイに支障はない。

インタビュアー注[4]:VALVEは自社ゲーム端末向けにLinuxOSベースのSteamOSを開発、採用しており、既存のWindows向けに作られたゲームを(ゲーム開発者が自分で対応しなくても)自動的にSteamOS/LinuxOSで動作させるための変換レイヤー「Proton」を作成した。ただし、Steam DeckはCPUのアーキテクチャが一般的なPCと同じx86だったのに対して、Steam FrameのCPUはスマートフォンで見られるArmアーキテクチャを採用している。そのため、Steam Frameの開発にあたって「PC用に作られたゲームをスマートフォンでも動かせるようにする変換レイヤー」として「FEX」が新たに開発された。

・問4

Q4. Steam Frameの発売で一番驚いたのは、Valveが2020年にリリースしたVR大作ゲーム『Half-Life: Alyx』がSteam Frame単体で動くようになったことです [5]。ゲーム内アセットおよびSource 2 Engineの大幅な改修が行われたと思いますが、それらのアップデートについて喋れることがあれば聞きたいです。また、それらのアップデートはユーザーおよびMODコミュニティに反映されることはありますか?

A4. 実は、ゲーム内のアセットはSteam Frameのために一切変更されていません。当初、開発チームはAlyxをゲーミングPCなしで動作できるとは考えていませんでしたが、アイトラッキング(人間の目線を追跡する技術)とフォービエイテッドレンダリング(人間の目線の先だけ高画質に、それ以外の場所を低画質にして全体の処理負荷を下げる技術)の実験、および16GBのRAMから、Steam FrameでAlyxの動作が可能になる兆候が見られました。

この開発に取り組んだもう一つの理由は、(最終的にAlyxの動作が実現するかどうかに関わらず)この取り組みがSteam FrameのVRコンテンツ全体に恩恵をもたらすことが判明したからです。Alyxの開発を通して、Steam Frameのグラフィックドライバーの数々の改良、Vulkanの新機能追加、そして深度再投影[5]の新たなオプションが実現しました。

Alyxが動作する見込みが立った時点で、ゲームのアセットに手を加える必要はないと判断しました。コンテンツの変更がないことで、Steam Workshopのコンテンツ(Steamから利用可能なMOD)はすべてそのまま動作します。また、PC版で最初にリリースされた時と同じ体験を提供することも可能です。これは、これまでリリースしたAlyxの中で最高のバージョンだと確信しています。私たちはPCなしで動作するVRのコンテンツの可能性に対する人々の期待を、さらに高めたいと考えていました。

インタビュアー注 [5]:このインタビューは実際にSteam Frame用のHalf-Life: Alyxをプレイする前に行われた。インタビュアーによる実際のインプレッションは別途レビュー記事を参照してほしい。とはいえ、はっきり言えばSteam Frameでの『Half-Life: Alyx』は「動いてはいる」が「快適に遊べる」からは程遠いと思う。

インタビュアー注 [6] :深度再投影(Depth Projection)は、VRにおいてフレームレートを倍にする技術。ヘッドセットを装着しているプレイヤーが頭を向けた情報と、ゲーム画面のピクセルごとの深度(奥行き)とベクトル(動き)から、実際には描画されていない疑似的なフレームを作ることができ、これによってフレームレートが倍になったように感じる。ただし万能な手段ではなく、不用意に使うと画面が破綻することもある。Meta QuestにはApplication Spacewarpという近い技術がある。

・問5

Q5. SteamだけでないVRゲーム全体を見ると「SteamでリリースされないVRゲーム」の数が無視できなくなっている現状 [7] がありますが、Steam Frameは「APK [8] のみでのリリース(Steam Frame単体でのみ動作し、PCでは動かない)」というVRゲームを受け付けるのでしょうか?それとも、SteamではPC版のリリースは必須でAPKはオプションとしての提供だけですか?

A5. SteamでゲームをリリースするVRパートナーは、ゲームとターゲットユーザーにとって適切と思われるプラットフォームを自由に選択できます。SteamだからといってPC版を必ずしも用意する必要はありません。

インタビュアー注 [7]:VRのさまざまな側面のうち、VRゲームという面で見ればSteamでのリリースが見送られてMeta Quest独占、あるいはPSVR2やPICOのみ追加対応といったVRゲームは少なくない。こうなっているのは、VRゲームのユーザーのうちSteam利用者が少数派であることが理由。実際、筆者が開発に関わったVRゲームの販売本数の9割以上はMeta Questからで、Steamは1割未満だった。

インタビュアー注 [8]:APKとは、Android Application Packageの略。PCでないVRヘッドセットはMeta Questを含むほどんどのデバイスがAndroid OSで動いており、それらのVRソフトウェアはAPKというAndroid用の形式で作成、配布される。Steam FrameもAPK形式のVRゲームを動作させることが可能。

・問6

Q6. Steam FrameはWindowsのexeとAndroidのAPKがどちらも動きますが、あえてSteam Frameのネイティブ(LinuxのArm64)向けにVRゲームを開発、ビルドするメリットはあるのでしょうか?

A6. Steam Frame向けにVRゲームを開発するときには、それぞれのプロジェクトに適したターゲットを選択することをお勧めします。Steam Frameがこれらのオプションをサポートする目的は、コンテンツをSteam Frameに移植する労力を最小限に抑えることです。Half-Life Alyxの場合、開発チームはLinux OSとARMデバイスに精通していたため、Half-Life: AlyxをSteam Frameネイティブ(LinuxのArm64)に移植する選択が私たちにとって理にかなっていました。しかし、他のチームにとっては必ずしもそうとは限りません。また、これらの選択肢間のパフォーマンスの違いは、多くの場合ごくわずかです [9] 。

インタビュアー注 [9]:筆者はSteam FrameでサポートされているVRゲームを可能なかぎり試したが、実際にSteam Frameネイティブで動作しているVRゲームはValve謹製のHalf-Life: Alyxのみだった。それ以外のSteam Frame対応VRゲームは、ちゃんと快適に動作するものはほぼAPK(Meta Questからの移植)であり、PC版が快適に動作するものはビジュアルが簡素に作られた、ごくわずかなタイトルに限られていた。

・問7

Q7. Steam FrameのAPK対応およびLepton対応は目覚ましいものですが、これらは今後ほかのValve製デバイスにも還元されるのでしょうか?Valve製でないSteam動作環境でのAndroidビルドの流通などは考えられているのでしょうか?

A7. Lepton [10] およびFEXにおける私たちの目標は、SteamOSがあらゆる種類のハードウェアで可能な限り最高のパフォーマンスでゲームをサポートできるようにするための取り組みを継続することです [11] 。現時点では、Steam Frame上で優れたゲーム体験を提供することに注力しています。

インタビュアー注 [10]:Leptonとは、Android OS向けのビルド「APK」をLinuxOS(SteamOS)で動かすためのしくみ。Steam Frameに合わせてValveが開発した。

インタビュアー注 [11]:Steam FrameのためにPC向けのゲームをスマートフォンでも動作させる仕組みが用意されたわけだが、当然Steam Frame以外のデバイスでもこれを利用する価値がある。一般的にPC向けのチップよりもスマートフォン向けのチップの方が省エネでコンパクトが多いので、スマートフォンのチップでPCゲームを動かすことができれば携帯ゲーミングPCの小型化、薄型化が可能となることも十分にありうる。

 ・問8

Q8. Steam FrameはコストおよびVR志向にもとづいてパススルーのカメラをモノクロにしたと思うのですが、周辺機器としてカラーパススルーに対応することになった経緯を教えてください。

A8. パススルーにモノクロトラッキングカメラを採用したのは意図的な選択であり、慎重に検討を重ねた結果です。システム全体の消費電力、重量、その他の要素のバランスを取る上で、最終的にモノクロカメラが最も理にかなっていました。

しかし、一部のお客様はRGBなど、異なる要件に最適化されたパススルーカメラ [12] を希望されるだろうということは、早い段階から認識していました。そのため、高帯域幅・低遅延デバイス向けの接続を実現する道筋をたどりました [3] 。このカメラがどのような用途で活用されるのか、非常に楽しみにしています。

インタビュアー注 [12]:外部センサーなしで動作するVRヘッドセットには、ヘッドセットを被ったまま周囲を見るためのパススルー機能用のカメラが搭載されている。これはもともとVRデバイスが周囲の空間を認識するためのセンサーとして使われていて人間が見るためのものではなかったが、途中から「ヘッドセットを被ったまま外が見える」ということに価値が見出されはじめた。Metaは2022年のMeta Quest Proからパススルーカメラをフルカラー化しはじめ、現実の空間にCGを合成する「複合現実(Mixed Reality)」としての用途でも使われるようになった。MRとして使わないにしても、ヘッドセットをかぶりながら周囲を確認できるのはシンプルに便利。

インタビュアー注 [13]:今回、レビュー向けにArcturus Vision社(公式Xアカウント)のSteam Frame用カラーパススルーカメラも試遊した。Steam Frameに接続したArcturus Visionのカメラから立体映像を撮影したり、録画した立体映像を見たりすることができる。詳細はレビュー記事を参照されたし。

今回のメールインタビューで行われたやりとりは以上となる。Steam Frameを通してVRに対するVALVEの姿勢、Steam Frameの開発の副産物を通して生まれたFEXやLepton、そこから見える将来の展望についてうかがい知ることができたのではないだろうか。

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Nobuaki Shibuya
Nobuaki Shibuya

VRを専門としつつ、ゲーム業界分析も書くライター。好きなゲームジャンルはイマーシブシム

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