インタビュー GhM須田剛一 [後編] いわく、「昔アオイホノオと同じことをやっていた」

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前編から引き続き、グラスホッパー・マニファクチュア須田剛一氏へのインタビューです。

新作『LET IT DIE』についてなにか引き出せないかと試みますが……


――さてここらで折り返し地点です。『LET IT DIE』の話題はもうそろそろ限界かと思いますので、すこし角度を変えます。去年、神戸電子専門学校でお話をうかがったとき、現場復帰されるとおっしゃっていました。今年1年で現場復帰されましたか?

須田氏:
そうですね。いまのオフィスになってから毎日現場にいます。

 

――現在はディレクションに回っていらっしゃる?

須田氏:
今回のディレクターはうちの市来です。エグゼクティブディレクターとして全体をハンドリングしています。雑用がないので創ることだけに集中できています。

 

――ということは、『killer7』や『NO MORE HEROES』のような"SUDA51節"は薄れたものになるのでしょうか?

須田氏:
そもそも僕の"節"というものがなんなのか……。まあ、テキストベースで考えるというか、自分が脚本を書いているか書いていないかというと、今回はそのあたりは主軸ではありません。"節"って言ってもらったり、「GhMのゲームだよね」って言ってもらったりするのはとても嬉しいのです。

しかし、そういう"色"自体は独立系のころから毎回毎回壊して、あたらしい価値観・遊び・表現を考えてきました。毎回同じフォームでやることにジレンマも感じていましたし。Xbox 360とPlayStation 3の時代は、Unreal Engineを使っていて、ある意味では「同じフォーム」のものだったので。そことは違うものに振っていきたい。創るたびに挑戦をして、回転していきたいですね。

だから、「グラスホッパーからは何が出るかわからない」と言ってもらえるのがベストであり、創設当初僕が思い浮かべ、実現したい理念でもあります。「グラスホッパーらしくない」「須田節ではない」は褒め言葉だと思っています。つぎもそう思ってもらえるよう、まったく想像できないものへチャレンジします。それができる良い環境にあります。『LET IT DIE』だけでなく、そのつぎもそうした流れにもっていきたいと思っています。

 

――いまUnreal Engineのお話が出ました。『LET IT DIE』の開発環境は?

須田氏:
Unreal Engineです。

 

――現在PlayStation 4へ寄っていらっしゃいますが、逆にXbox Oneについてなにかお考えはありますか?

須田氏:
ないです[即答]。Exclusive(独占)ってE3のカンファレンスで言い切りましたから。

 

――個人的な感想すら持てないくらいにPS Exclusiveですか?

須田氏:
今回はソニーさんがすごく応援してくれましたから。がっちりとしたタッグを組んでいます。僕自身もPS Exclusiveって久々ですので、より強く協力体制が取れると感じています。

 

――もとからソニーさんとの連携が強かった印象はあります(注: この時点での記者の心は『花と太陽と雨と』や『シルバー事件』まで巻き戻ってしまっていました)

須田氏:
いやでもうちはしばらくはマルチでしたよ。ただ、ソニーさんにかぎらず任天堂さんもMicrosoftさんとも良い関係でした。ExclusiveでいうとKinect『Diabolical Pitch』、Wii『NO MORE HEROES』『零~月蝕の仮面~』あたりがあります。

 

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――PSのExclusiveということになると、直近は『月極蘭子の一番長い日』になると思います。あれはクリスピーズの片岡さんとグラスホッパーの須田さん、両名のお名前がメディアに露出していました。どのような経緯でコラボに至ったのでしょうか?

須田氏:
ディレクションは片岡さんにお願いしてあって、実際の開発現場はデジタルワークスです。片岡さん率いるクリスピーズが現場統括しています。僕は原作・脚本の立場です。

[スタッフの方]:
もともとGhMにお声がかかったのですが、社内にラインがありませんでした。それにガンホー入りした直後で、すでに「オリジナルを創る!」というスタイルになっていたのです。ただ、いいお話ですし活かしたい原作もあったので、外部とのコラボならできそうだということで片岡さんに依頼した形です。

 

――『月極蘭子』こそ、テキストを読んでいると「ああ須田剛一の文章だなあ」と思うものでした。それと、ラスボスのプロレス演出ですね。あれはインパクトがありました。

須田氏:
あれは僕ではなく片岡さんが考えてくれたんです。ゲームパートは全部片岡さんにまかせています。

[スタッフの方]:
アニメパートのシナリオ原作は須田です。そこにゲームをインサートしてもらったのです。

須田氏:
そういう意味では本当にコラボですよね。僕の原作を片岡さんにゲームディレクターとして料理してもらいました。

 

――勝手に片岡さんのほうで須田さんのプロレス好きを汲みあげて、あのラスボス戦ができあがったと。

須田氏:
そうですねえ。まさに増幅・拡大解釈して。

 

――さすがにびっくりしました。物語の展開があって、「ええ!?いきなりこれ!?」って。

須田氏:
ですよねえ。めちゃくちゃですよねえ。

[スタッフの方]:
アニメに出てくるマスクマンから連想して、ですね。片岡さんとデジタルワークスさんが一緒に考えてくれたアイディアです。最後になにかボス戦を持ってきたいとだけは言っていて。それであれができあがりました。

須田氏:
アイデアは自由でしたので。SHORT PEACEの5番目の作品として自由な表現で創ってほしいとのことだったので。そこはバンダイナムコさんには甘えさせてもらえました。好き勝手やったからこそ喜んでもらえましたね。面白いプロジェクトでした、あれは。なかなかああいうものを創るチャンスはありません。

 

――さらに話が昔に巻き戻ってしまうのですが、いまお名前があがった『Diabolical Pitch』や『Sine Mora』のようなどちらかというと小粒路線のものや、昔でいうところの『killer7』のようなワンプレイが10時間ほどのコンパクトなものは構想レベルでは考えていらっしゃいませんか?『LET IT DIE』のお話をうかがっていると延々とプレイしている自分を思い浮かべます。『LET IT DIE』はモニタにかじりつくことになるんだろうなと。

須田氏:
そうなるのが理想です。そんなゲームを創りたいと思っています。そこで生まれるプレイヤーの感情もあるでしょうし。もっと違う感情を出したいんですよね。時間をあまり気にせず、どんなゲーム体験をしてもらうのか、どんな感情を持ってもらえるのか。ほかのゲームとまったく違う感情を生み出すものをやりたいなと考えています。

アイデア・構想レベルならいくらでもあるんですけれど、一番大事なのは「あたらしい感情を出せるかどうか」です。それがあたらしい遊びになれば理想ですし。ビデオゲームの可能性が広がるものを自分たちで創れれば、ゲームデザイナーとしてやりたいことを達成できているのです。そこに向かってアイデアは毎回考えています。

 

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――さて、しつこいですがまた『LET IT DIE』について。いま開発進捗度は何パーセントくらいでしょうか?

須田氏:
いま? 98%(一同爆笑)まだ秘密で。

 

――では、2015年のいつごろになるかというのは……?

須田氏:
もう、気持ちとしては1月1日に出したいですよね[真顔] とにかく、2015年です。

 

――いやあ、楽しみです。私の趣味ですと、PS4でやりたいと思えるゲームが『Destiny』くらいしかなくて、それ以降不毛の大地が広がっている印象があります。だから、それこそ本当に1月1日に『LET IT DIE』がリリースされるならば願ったり叶ったりです。

須田氏:
(一同笑)1月1日に出すならばもうちょっと情報出てるでしょうね(笑)今は開発に注力して「このゲームだけにしかない感情・体験」を『LET IT DIE』では実現したいです。そして、日本のゲームであることを誇りに思いつつ、いろんな仕掛けを用意しています。

 

――日本風の仕掛けということでしょうか?

須田氏:
にんともかんとも……。

 

――ますますわからなくなってきました!

須田氏:
そこはお楽しみということで。

 

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――ところで、そうしたアイデアはどのように管理されていらっしゃるのですか?多くのかたがアイデアを持ち寄るとのことでした。あがってきたアイデアの把握、どれを実際に実装するのかの判断、そのあたりのスキームはどうなっているのでしょうか?

須田氏:
実装レベルの判断は確認をして明確にしています。アイデア自体はつぎからつぎに出てきますが、結論を出さなければ前に進みません。その作業は大事になってきます。だから「決定事項のリストを増やしていく」んです。それが出ない場合はあたらしいアイデアを増やしてゆく。その繰り返しです。

 

――そろそろ残りのお時間も少なくなってきました。しかしあえて雑談へ脱線させていただきたいと思います。以前もおうかがいしましたが、最近の須田さんのお気に入りの音楽はなんですか?

須田氏:
いまはサカナクションしか聞いていませんよ。

 

――ええっ。じゃあ『LET IT DIE』を創りながらずっとサカナクションを聞いている?

須田氏:
いえ、『LET IT DIE』製作では音楽聞かないですね。執筆とか、メール書いたりとか、クルマのなかとかでだけ。

 

――製作作業中は無音?

須田氏:
無音というか……どちらかというとミーティングが多くて、そこでものを決めていきますから。僕自身が書類を作ったりとかは少ないです。

 

――では映画やアニメなど、動画コンテンツでは?

須田氏:
アニメはほぼ見ないですねえ。アニメ、数多くないですか?いまはアニメを追う習慣があんまりないんですよねえ。このあいだ『スペース☆ダンディ』1話を観て、面白かったですね。……ああ、『機動戦士ガンダム第08MS小隊』いま観てます。面白いですよ。ああ『機動戦士ガンダムUC』、観ましたよ。『ユニコーン』ハンパなかったですねえ、泣きました。

 

――それが『LET IT DIE』に関係しているということは?

須田氏:
まったくないです、なにひとつないですねえ(笑) ただ、35年の記憶が『ユニコーン』ですべてつむがれるんです。そのすばらしさはありますね。自分がガンダムに接してきた歴史、小学校6年生の思い出がじわりとよみがえるわけです。

意外と「ガンダムバカ」多いんですよ。GhMには少ないのですが、ガンホーグループをふくめると結構います。

[スタッフの方]:
先日、神戸電子専門学校で須田の講演があったので、そこで聞いてみたんですが、いまの学生さんってじつはガンダムほとんど観ていないんですよね。

須田氏:
200人くらいに向かって「ガンダム好きな人!」って挙手願ったら5人くらいしか手をあげなかったっていう。ショックでしたね。古いんですかね、ガンダム。『進撃の巨人』好きな人、って聞いたら全員手あげたかも。聞けばよかった(笑)

ガンダム、イケるクチ多いんですよ。劇場行ってその場でBD買ったりとかする方とか。すごいよね、観たばかりで。すばらしい。そういう人が多いんです。

 

――でも『LET IT DIE』とは関係ないと……

須田氏:
でもいつか僕『ガンダム』ゲーム創りますからね。

 

――えっ?

須田氏:
これは絶対。ゲームデザイナー人生でかならず一回は絶対に。ずっと公言していますから。いつか創ります。『閃光のハサウェイ』をゲーム化するって10年前からファミ通さんで言ってますから。映像化とゲーム化と一緒にいつか実現したいなと。……安田さん(注: AUTOMATONインタビュアー)大丈夫ですか?ドン引きしてません?

 

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――いえ、失礼しました。想定外すぎて。しかしお恥ずかしい、SUDA51ファンを自称しておきながら、須田さんのガンダム好きを存じあげませんでした。

須田氏:
ちょいちょい言ってます。僕らはファースト世代なんですよ。ガンダムが出た瞬間の第一次オタク世代なんです。原体験として、ずっと好きなんです。観てなかった時期もあるんですが。最近あらためて観てみると、モビルスーツの美しさに惚れてくるんです。最近は『ZZ』のモビルスーツですね、ドーベンウルフとか大好きです! 『ZZ』以降のモビルスーツの重さ、重装備ぶり……

 

――カトキハジメ作品あたりからでしょうか?

須田氏:
カトキさんもそう。『Z』でできあがったフォルムがさらに重く分厚くなっている。ゲーマルクとかゴテゴテしてて良いんですよねえ。自分のなかで再評価される、やはりガンダムはすごい。歴史があるからこそです。

 

――なるほど。しかし須田さんのゲームで巨大ロボが出てくるのはあまりありません。

須田氏:
『NO MORE HEROES 2』でありました。あれはエルガイムMk-IIのオマージュです。エルガイムMk-II、大好きなんですよ。めちゃくちゃ美しい。そのあと『ファイブスター物語』ではスピードミラージュとして名前を変えて出てるんです。永野護先生の作品ですね。

[スタッフの方]:
エルガイムMk-II、そこに飾ってますもんね。

須田氏:
そうそう。飾るくらい好きなんですよ[フィギュアを持ち出す]。これはまあ、理想的な造形というわけではないのですが、初期のものにくらべればずいぶん良くなっています。……そう、美しいんですよ……。

[スタッフの方]:
アモンデュール・スタックもあるじゃないですか。さすが。それ限定ですよ。そいつが数秒で頭ふっとばされてMk-IIになるんですよ。

須田氏:
よく覚えてるねえ。

[スタッフの方]:
中2くらいです。"病気"でした。

須田氏:
『エルガイム』面白いよね。ロボット物は黄金時代を通過してきましたから。

 

――意外なことに、原体験のひとつにロボットアニメがある?

須田氏:
僕はほんとうにオタク第一次世代なんですよ。「アニメージュ」「ジ・アニメ」「アニメディア」「OUT」「ふぁんろ~ど」とかがあって。とくにコアだったのが「OUT」と「アニメージュ」。この2誌の活字を読みあさって、活字プロレスならぬ活字アニメをしていました。当時、アニメを評価分析するムーブメントがさかんでした。ちょうどいま島本和彦先生のマンガ原作のドラマ『アオイホノオ』が放映されていますけれど、まさに同じことをやっていましたね。画面にかじりついて「今日の作画監督はだれだ!」ってやってたくらい、どっぷりはまっていました。ただ観るだけだけじゃなくて、作監は誰でストーリーは誰で、って。好きを超えて、潜っていました。

自分のルーツはプロレスと、ロックと、マンガと、アニメ、映画が回転していました。多くの時間をついやしてきたところでもあるので。どれが一番好きとかじゃなくて、そのなかで「すごいものってなんなんだろう?」っていう興味がずっとあったのかもしれません。どんなジャンルでも、すごいものを純粋にすごいと思える。自分が創った以外のゲームでもすごいと思ったらなら、そう思える。

 

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――いまおっしゃったところでいうと、「すごいと思ったほかのゲーム」は最近だとどんなものがありましたか?

須田氏:
『Hotline Miami』ですね。PLAYISMでもぜひ……、Steamではもう出てるんですよね……。まだプレイ途中ではあるのですが、あれは抜群に面白い! かならずクリアします。はやくVitaで出てくれないかなと。ヨーロッパではもう出ているので。

 

――『Hotline Miami』の名前をあげていただくと「ああ須田さんだ!」という感じがします。

須田氏:
(笑)いやあ、面白いですよ。やんちゃなゲームは大好きです。

 

――最後に、AUTOMATONの読者向けになにかメッセージをいただけますか?

須田氏:
『LET IT DIE』の名前をぜひ覚えてください。PlayStation 4を持っていないかたが購入するきっかけになると嬉しいなと思います。

 

――そうだ、忘れていました! TGSではなにか発表はありますか?

須田氏:
超・にんともかんともです。

 

――ありがとうございました。

[聞き手: 安田 伸毅]

[写真: Mon Gonzalez]

 


いかがでしたでしょうか。結局新作の内容についてはさっぱりわからないまま……のようでいて、すこしだけ明らかになった部分もあったかもしれません。PlayStation 4で楽しみな国産タイトルの一つ、それが『LET IT DIE』です。

須田剛一作品といえば、非常に極端な演出やゲームシステムを有することで知られています。それがゆえに「合わない人には徹底的に合わない」を地で行くタイトルも多々あります。しかし、すくなくとも弊誌執筆陣のなかで『killer7』などをきわめて高く評価する者は安田をふくめ数名います。ゲームの価値とは・魅力とは・楽しさとはいったいなんなのか。興味がなかった、あるいは以前プレイしてみたがしっくりこなかったかたこそ、"復習"のときがきています。新し目のものでは『KILLER IS DEAD』あたりはアクションとして素直に楽しめるのでおすすめ、真骨頂は『killer 7』でしょう。

グラスホッパー・マニファクチュアのDNAが『LET IT DIE』にどのように継承されているのか、ひとまず東京ゲームショウを待つことにします。

 

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