Steam Deck 有機ELモデル開発スタッフインタビュー。大幅なスペックアップをしなかった理由や新モデルの強みをValveに訊いた

alveは11月10日、ハンドヘルドPCゲーミングデバイス「Steam Deck」の新モデルを発表した。発表に先駆けてValveの担当者に新モデルについて軽いインタビューの機会をいただいた。その全文をお届けする。

Valveは11月10日、ハンドヘルドPCゲーミングデバイス「Steam Deck」の新モデルを発表した。新モデルはHDR対応の有機ELディスプレイを搭載し、バッテリー容量も大幅に向上。「現世代Steam Deckの決定版」として日本時間11月17日に販売開始となる。

今回弊誌では、発表に先駆けてValveの担当者に新モデルについて軽いインタビューの機会をいただいた。ただでさえコストパフォーマンスの高いデバイスであったSteam Deckが、価格はそのままでどのような進化を遂げたのか、以下にミニインタビューの全文をお届けする。


――新モデルの目玉となる変更は何でしょう?

Valve:
ひとつはHDR対応有機ELディスプレイです。旧モデルの2倍以上の輝度(400nitから1000nit)になり、リフレッシュレートは60Hzから90Hzに向上しました。ディスプレイ周辺のベゼルを小型化したので、画面自体も大きくなっています。

そしてふたつはバッテリー寿命の向上です。これはよくフィードバックもいただいていた点でもあります。有機ELでは黒に近い発色はほとんど電力を消費しないですし、ディスプレイそのものの小型化によってバッテリー用のスペースも増えました。搭載したAPUが若干小型化し電力効率も向上しましたので、総合的にバッテリー寿命が大きく伸びています。

実際のバッテリー持続時間に関しては現在も検証中ですが、『Stardew Valley』のような軽いゲームやリモートプレイでは旧モデルで8時間ほどだった寿命は12時間まで、フレームレートの制限を解除して遊ぶような重いゲームではバッテリー寿命は1時間半から2時間半くらいまで伸びているはずです。


――重量はどうなっていますか?

Valve:
有機ELディスプレイの薄型化・小型化もあって全体で5%ほどの軽量化に成功しています。ソフトウェア・ハードウェア両面から排熱効率も全体的に見直していて、発熱も旧モデルより抑えられています。

――スペックアップを期待していたユーザーも多いと思うのですが、性能が変わらなかったのはなぜでしょうか?

Valve:
まず、今回の新モデルは「次世代Steam Deck」ではないということです。あくまで初代Steam Deckの決定版、最終版というイメージで開発していました。そして仮にスペックを上げた場合、Steam Deckに関わる全員に世代間の移行・調整コストが発生します。どのゲームがどの世代のSteam Deckでどのくらいパフォーマンスが出るのか、デベロッパーもユーザーも都度考える必要が出てきます。Steam Deckの認証プログラムも二世代分になってしまいます。

現状のSteam Deckのスペックでも十分のパフォーマンスが出せていますので、これらのトレードオフを考えるとスペックアップはまだ必要ないと判断しました。とはいえ、「まだ」です。いつかSteam Deck 2に取りかかるときは、それこそ「次世代」にふさわしい大幅なスペックアップを約束します。


――旧Steam Deckの64GBと512GBモデルは生産中止になるのでしょうか?

Valve:
そうですね、その2つのモデルは生産中止となりますので、今回のアナウンス時点で残った在庫がすべてとなります。これらのモデルについては売り切りとなっていて、大きく値下げされる予定となっています。

――旧Steam Deckの256GBモデルに関しては、今まで通りの製品ですか?

Valve:
はい、こちらは今まで販売していたものと同じ製品になります。ただ価格帯がそのままスライドして、旧モデルの64GB相当の値段で販売させていただく予定ですので、どのモデルで見ても旧モデルに比べて大幅にコストパフォーマンスが高くなっています。また、有機ELモデルと旧液晶モデルは共通のファームウェアでアップデートしていき、どちらも共通してサポート対象となります。たとえば有機ELモデル用のHDR対応ソフトウェアアップデートは旧モデルのソフトウェアにも適用されているので、旧Steam Deckの映像出力をHDR対応のディスプレイに接続した場合などは問題なくHDRが使用可能となっています。

――ケースも少し変わったんですね。

Valve:
「持ち運び用のケースが巨大すぎて、言うほど持ち運べない」というフィードバックをよく頂いていたので、従来のハードケースの外側を取り外して、より小型で持ち運びやすいソフトケースの状態にすることが可能となっています。ただしこれは1TBモデル専用のケースとなっていますので、ご注意ください。

――(デモ用ソフトウェアが『アーマード・コア6』なのを見て)前回TGSのSteam Deck試遊では『ELDEN RING』でしたし、フロム・ソフトウェアのゲームが毎回デモに使われていますね、偶然ですか?

Valve:
偶然です(笑)前回の『ELDEN RING』はSteam Deckのパフォーマンスを見せるのに最適でしたし、今回は『アーマード・コア6』がHDR対応でちょうど良いタイトルだったので。どちらもSteam Deckで快適に遊べるタイトルなので、お持ちの方はぜひプレイしてみてくださいね。


――ほかの細かい改善点で、ここも注目してほしいというのはありますか?

Valve:
さきほど少し触れましたが、排熱まわりの改善についてはぜひ注目していただきたいです。APUが小型化した以外にも、ヒートシンクとファンも改善されていて、旧モデルに比べてもなかなか熱くならないですし、静音化にも成功しています。

そして実はタッチスクリーンとアナログスティックも変更されています。タッチスクリーンはレスポンスと精度が大きく改善されていますし、スティックは旧モデルの「ざらざら感」をなくしてより操作しやすくしています。デバイス自体の修理しやすさも改善していて、分解・組み立てがかなりやりやすくなっているはずです。

オーディオまわりも変更が入っていて、オーディオ関連の処理をSOCから独立したDSPに移行しました。遅延やステレオ性能も良くなってますし、シンプルに音量も向上しているはずです。通信面ではWi-Fi 6EとBluetooth5.3に対応していますし、独立したBluetoothチップとアンテナを搭載することでWi-FiとBluetoothの併用時の安定感も増しています。

電源ケーブルは長くなっていて、充電自体も高速化しているはずです。まだまだいくらでもあるので話し続けられますが、さすがにここらへんにしておきましょう(笑)。とにかく、あらゆる点で細かい改善を積み重ねていて、もはや旧モデルとは別物と言っていいほどの製品に仕上がっていると思います。

――最後に、日本のユーザーに向けてなにかメッセージがあればお願いします。

Valve:
世界でもっともPCゲーミングの成長著しい地域である日本に、新しい有機EL Steam Deckをお届けできることをとても楽しみにしております。質問やご相談がありましたら、ぜひValveにフィードバックをお送りください。

――本日はありがとうございました。

Mizuki Kashiwagi
Mizuki Kashiwagi

PCとPS4をメインで遊んでいます。自分で遊んでも、観戦していても面白いような対戦ゲームが好きで、最近は格闘ゲームとMOBAをよく遊んでいます。

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