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Steamで昨年2020年9月4日に早期アクセスが開始され、売上60万本の突破も果たした国産オープンワールドクラフト作品『クラフトピア』。同作はさまざまな要素を意欲的に取り込んだゲーム内容で知られるほか、ユーザーからの反応も取り入れ、アップデートが続けられている。

しかし、このありったけの夢を詰め込んだ理想郷は、どこへ向かって飛んでいこうとしているのだろう。開発ロードマップは公開されているものの、作品の要素が多いこともあり、ロケットの行き先はいまいちわからない。ならば訊くのが一番だ。今回は、ポケットペアの代表取締役社長であり、本作にも深く関わっている溝部拓郎氏にお時間をいただきインタビューをおこなってきたので、その内容をお届けしよう。

溝部拓郎氏のプロフィール画像(同氏のTwitterアカウントより)


────自己紹介をお願いします。

溝部拓郎氏(以下、溝部氏):
ポケットペアの社長・溝部拓郎です。元々は大学3年の頃、pixivでエンジニアとしてアルバイトにて技術面を勉強させていただき、その後任天堂ゲームセミナーで初めて本格的にゲーム開発を経験しました。『クラフトピア』は、その時のメンバーと一緒に開発しています。

ゲーム作りが大変過ぎると思ったので、新卒ではJPモルガン証券というまったく別業界の会社に入社しました。しかし途中で起業して ストーリー共有メディアSTORYS.JPを作ったり、仮想通貨取引サービスCoincheck を作ったりと紆余曲折を経て、一周回って結局またゲームを作っています。

────興味深い経歴ですね。というか、任天堂ゲームセミナーで出会った仲間と今一緒に開発していらっしゃるんですね。

溝部氏:
はい。任天堂ゲームセミナーは、あらゆる点で、今の私のゲーム開発の原点です。幼い頃から任天堂のゲームで育ち、大ファンですが、ゲームセミナーでも育てていただいて、任天堂には本当に感謝しています。また、個人的な話ですが、私は任天堂の岩田さん(かつて代表取締役社長であった岩田聡氏)を一番尊敬していて、セミナーでも少しだけ話す機会をいただけたのは非常に嬉しかったです。

────岩田さんとは、どういったお話をされたのでしょうか。

溝部氏:
当時も生意気な人間だったので、ソーシャルゲームが爆発的に普及している時期(2012年頃)に岩田さんに「ソーシャルゲームってどう思いますか?」と質問しました。岩田さんは、「ソーシャルゲームの定義によりますね。実は任天堂はソーシャルゲームをずっと作ってるんですよ」と優しくおっしゃられて、逆に私は自分の視野の狭さを思い知らされることになりました。ゲームボーイの通信システムや、すれ違い通信、Miitomoなど、任天堂は時代の移り変わりの中でもユーザーに愛されるようなソーシャルな仕組みを沢山実装しており、ソーシャルゲームの流れも当然理解した上で、長期的な戦略を練っている時期だったのだと再認識しました。

────ちなみに、任天堂の作品で好きなタイトルはありますか?

溝部氏:
好きなタイトルばかりですが、兄弟3人でゲームをよく遊んでいたので、『星のカービィ スーパーデラックス』とか、『大乱闘スマッシュブラザーズ』とか、そのあたりは思い入れが強いですね。

────そんな溝部さんは、経営者でもありますが、開発にはどのように関わられているのでしょうか。

溝部氏:
『クラフトピア』に関しては、企画、マーケティング、渉外、開発、最適化となんでもやりました。任天堂ゲームセミナーではメインプログラマーで、pixivでもCoincheckでもエンジニアだったので、開発業務を理解していた事は幸いでした。『クラフトピア』では、『モンスターハンター:ワールド』を開発していた元カプコンのメンバーがメインプログラマーとして参加してくれたので、私のメインの業務は企画側でしたが、たまに開発環境部分で困った時や、最適化周り、ちょっとしたツール作成などは私が担当することが多かったです。雑用エンジニアみたいな感じですね。業界的にいえば、プロデューサー業務、ディレクター業務、雑用エンジニアを兼業していたような形です。


環境適応型バトルロイヤルクラフトサバイバル「オーバークラフト99」

当時のコンセプトアート


────『クラフトピア』の開発について伺わせてください。本作の開発は、どのように始まったのでしょうか。

溝部氏:
最初は、前作の『Overdungeon』の次のゲームという事で、何かを“Over”させよう!という方向性で企画を練っていました。その過程で、『Overdungeon』に存在するレリック要素とサンドボックスゲームを組み合わせたら面白いのではないかというアイデアに辿り着きました。当時『Risk of Rain 2』も流行っており、バトルロイヤルも流行っていたので、それらを組み合わせて「オーバークラフト99」という企画をスタートしたのがきっかけです。

────最初から『クラフトピア』を目指したわけではなかったんですね。「オーバークラフト99」はどんなゲームだったのでしょうか。

溝部氏:
『Risk of Rain』や『Slay the Spire』を含めたいろんな作品のレリック要素と、『Don’t Starve』などのクラフト要素を組み合わせ、次々と自然災害が発生する世界を、能力を活用して切り抜けサバイバルするゲームでした。食料を巡るサバイバルや、環境に適用する要素があって、たとえば寒いところで吹雪が吹くと、寒さに適応するための装備が必要になるといったことを考えていました。この頃からいろんなゲームを参考にするという方針は変わらず、他のゲームをとにかくいろいろ混ぜつつ、開発が進んで行きました。フォートナイト床*1を設置する仕組みもこの頃実装されました。

*1:『クラフトピア』には、『フォートナイト』における床や壁の設置システムとよく似たシステムが採用されている。そのためか、『クラフトピア』の開発チーム内では、設置できる床や壁をフォートナイト床、フォートナイト壁などと呼ばれていたのだとか。



溝部氏:
また、当初から自動化は絶対入れたいと考えていたので、自動化要素はプロトタイプから入っていました。一度『Factorio』の自動化を体験してしまうと、他のクラフトゲームの素材集めが面倒で仕方ないんですよね。『Don’t Starve』も『Terraria』も大好きだったんですが、とにかく自動化したくなる。そういった個人的な思いから、自動化要素は比較的初期から入れる方針でした。ただ、自動化をゲームのメインに据えるというよりは、なんでも自動化できるといったサブの要素として考えていて、開発内でもそんなに自動化という単語は出ていなかったんです。その後、試しにしっかりした自動化をプログラマーが実装してくれたんですが、思いの外面白くて、そこから自動化要素が強くなっていきました。

────そうした経緯もあり、ストアページではバトルロイヤルに触れられていたんですね。

溝部氏:
忘れられがちですが、『フォートナイト』は元々バトルロイヤルがメインの作品ではなくて、後付けでバトルロイヤルが入ったじゃないですか。そう考えると、『クラフトピア』にバトロワが入るのも別に変な話じゃないなと思っています。気持ちとしては、今でもバトロワも入れたいと思っているものの、ユーザー同士の100人バトロワは実装が大変すぎるので、どういう風に入れるかは少し難しいですね。

────バトルロイヤルがメインだったところから、クラフト要素がメインになっていったのはなぜだったのでしょうか?

溝部氏:
『Don’t Starve』もクラフト要素があるので、そういう意味では最初からクラフトはメインだったんですが、もうちょっとレリックが入った意味不明なゲームを目指していたんですよ。たとえば、ジャンプすると木が伸びるとか(笑)

────ジャンプすると木が伸びるってどういうことですか!?(笑)



溝部氏:
意味不明かもしれませんが、レリックがあるゲームにはそういう要素が導入されていることは多いんですよ。アクションすることで、ゲーム内でなにかが起こるという。 たとえば、ジャンプする度にHPが回復するなら自然ですよね。ジャンプする度にペットが攻撃するのも自然ですよね。そう考えるとジャンプする度に木が伸びるのもそんなに不自然じゃないかなと(笑)

────確かにそうやって考えると延長線にはありますが、一歩踏み出している気はします(笑)木が伸びる以外では、レリックにはどんなアイデアがあったんでしょうか?

溝部氏:
たとえば面白いのだと、矢を撃ったらそこにワープするようになる「ワープ矢」とか、ジャンプする度にペットが爆発するレリックとか、木を切るたびに、次の攻撃がクリティカルになるレリックとか、いろいろ考えていました。ただ、どれもこれを起点にしてゲームが面白くなるほど、良い要素ではありませんでした。

また、最初の頃は『Don’t Starve』も参考とする軸の1つだったので、夜の要素も入っていましたが、これもなかなか上手く行きませんでした。『Don’t Starve』の夜では、光源がないと正気度が失われて即死するんですよ。最初はそこに相当こだわっていて、夜を真っ暗にしたりもしたんです。でも、当たり前なんですが実際にやってみると「真っ暗で見えないね」「これちょっと暗すぎない?」となってしまって(笑)いろいろといじっていく中で、「オーバークラフト99」には必要ないことがわかったので、満場一致で真っ暗の夜はやめて、普通の夜になりました。


「なんでもあり」へ

────では、どのあたりから『クラフトピア』の企画が生まれたのでしょうか?

溝部氏:
試行錯誤する中で気づいたのが、そもそもそんな特殊なことをしなくてもこのゲームは面白いんじゃないか、ということだったんですよ。すでに自動化もあって、農業もあって、ハクスラ要素もあって、なんでもあって「これは理想のゲームじゃないか」と落ち着いて。レリックを軸に考えたり、『Don’t Starve』を軸に考えたりしていたんですが、あまりその辺りにこだわらなくても、さまざまな要素を混ぜただけで実は面白いってことに途中で気が付きました。だからこのゲームは「何でもありのゲーム」にしようと。いろいろと試しながら合わない要素を削ぎ落としていったら、最終的に全部盛りになっていったって感じですね。

────グラフィックについては、どのように現在の形に落ち着いたのでしょうか。

溝部氏:
グラフィックを作っていく過程で、リアル寄りにするか、トゥーン寄りにするか迷っていた時期があったんです。アセットを組み合わせて試していたんですが、リアル系よりトゥーン系のほうが制作コストや調整コストが低い。でもトゥーン系のアセットはちょっとクオリティが低くて、リアル系にはリアル系の垢抜けなさがあってと、何かと決め手にかけていて。そうした中で、アーティストと相談しながらさまざまなテイストの絵を試していたら『フォートナイト』風と『ゼルダの伝説』風と『Overwatch』風をかけ合わせたようなトゥーン調が一番良い事に気付き、全体的にテイストを調整していきました。

グローバルで人気が出るゲームを考えていて、『ゼルダの伝説』は実は当初、まったく意識していなかったのですが、『フォートナイト』や『Overwatch』を参考にしていくと、自分たちの感覚としては少しバタ臭い……と言うと失礼過ぎますが(笑)もう少しアニメ調を入れた方が良いと感じていて、ふと『ゼルダの伝説』を参考にしてみたところ、とてもゲームにマッチしたのでその後意識するようになりました。

開発初期の『クラフトピア』


────試行錯誤の結果として、なんでもできるゲームが出来上がっていたんですね。そうしてコンセプトを固めていた時期はいつ頃だったのでしょうか。

溝部氏:
だいたい2019年の9月頃にプロジェクトをスタートして、アーティストがコンセプトアートを描いたりしながら(ただしコンセプトアートはまったく役に立ちませんでした)、エンジニアはひたすらモック版の実装をしていきました。12月ぐらいに初めてのPVを作り、その頃にグラフィックテイストがトゥーン調に決まり、コンセプトが固まっていきました。その後は、2019年12月から2020年4月にかけて、さらにPVをブラッシュアップしていく為の作業を続け、4月にやっと初報PVが完成し、5月末にSteamページで公開しました。

────個人的には、PVで牛がベルトコンベアで運ばれてくるシーンが好きなので、あのPVについてもう少し聞かせてください。あのPVはどうやって作られたのでしょうか。

溝部氏:
あの時はPVを作るのに必死で、とにかく面白いものを撮りたいと思って試行錯誤していました。PVの各シーンは、『クラフトピア』らしさを伝える為に、それぞれの要素を盛り込んだカットを決めていきました。牛のカットは、推しのひとつである自動化を伝えるためのカットです。自動化を伝えるために、ベルトコンベアで何か運んでいるカットがいいなと考え、試行錯誤する中で、動物をベルトコンベアで運び調理するカットを撮影するのが、料理も自動化も伝えられて一番良い!と思い、各要素を準備して撮影しました。当時は軽い気持ちで撮影しましたが、こんなに盛り上がるとは思っていませんでした。ちなみに、当時はまだ細かい点がしっかり実装されていなかったので、ベルトコンベアに乗った牛が逃げたりして、ひたすら牛と向き合いながら撮影するのは大変でした。

────溝部さんが直に撮影されていたんですね。確かアルファ版の頃は、牛をベルトコンベアに乗せても上手く動いてくれなかった覚えがあります。

溝部氏:
そうなんですよ。それもあって、休日か深夜に、6~8時間ぐらいはかかって撮影した記憶があります。アヌビスのいる浮島も当時作ったものですね。あの島も、落ち着いて考えるとかなり意味不明じゃないですか。島があって、牛がいて、そこにベルトコンベアもあるという。あの島からは牛が降ってきますが、あれはPV撮影の名残ですね。

『クラフトピア』らしいワンカット


────Steamのストアページが公開された当初は、6月から7月の早期アクセス開始が予定されていましたね。その後、結果的に延期されました。

溝部氏:
当時は軽い気持ちで、ゆっくりやっていこうと思いストアページを公開したんですよ。いかにも早期アクセスといった状態で6月にリリースして、ユーザーのフィードバックをもらいつつ進めていこうと考えていました。でもいざ公開してみると、AUTOMATONさんの記事がバズってしまい、「INDIE Live Expo」で大変盛り上がり、さすがにこの状況で今のクオリティのものを出したら、注目された分想定よりもアーリーアクセスに慣れていないプレイヤーの方が集まってしまい、怒られるだろうと(笑)

うちは私のWeb開発経験の名残でもあり、完成度の高いものをちゃんと作ってから出すゲーム業界の作法とは真逆で、基本的には徹底してスモールスタート。とにかく早くリリースするのが好きで、長々やっているとあまり良いものが出来ないと思っていて。基本的にユーザーのフィードバックをもらいながら、ゲームを改善していく方針で考えているんです。でも、今回ばかりは注目された状態でそれをやると、めちゃくちゃ批判されるだろうなと思いました。なんとかもう少し時間をかけてから出したいと考えて、7月にアルファテストなどをしつつ、最終的に9月早期アクセス配信開始になりました。

実は、リリース前、契約を相談しているパブリッシャーの皆様からも「この状態ではリリースしないほうがいい」とずっと言われてたんです。しかも、1社ならまだわかるんですけど、7社ぐらいからリリースを延期した方が良いとアドバイスされました。実際に開発の早期段階でリリースして不評レビューが沢山付き、失敗しているゲームがたくさんあるので、客観的に見るとそう考えるのもよく理解出来ました。結果として、ギリギリの状況の中でリリースしましたが、皆さんに受け入れられたのは本当に有り難かったです。ただただ、ユーザーの皆様へ感謝の気持ちでいっぱいでした。

────延期後、9月に早期アクセス配信開始されたわけですよね。

溝部氏:
正直、9月もギリギリでしたね。ギリギリ1年でリリースまでこぎつけた形ですが、昨年9月とか10月は、プロトタイプ用の別プロジェクトで開発していて。11月ぐらいに本格的に開発するためにゼロからプロジェクトを作り直したので、実質開発期間はもっと短いですね。

────短期間で開発できる理由には、アセットを使用していることなども影響しているんでしょうか?

溝部氏:
そうですね。そのほかの理由として、一般のゲーム会社なら絶対に作る仕様を諦めていることもあります。『クラフトピア』では短期的にはゲームバランスを切り捨てていますし、モーションやサウンドのクオリティも他社と比較すると一定のクオリティラインに達していないと思います。

────とりあえず実装してみて、その後バランス調整するような感じですよね。

溝部氏:
はい。もちろん、あとからしっかり調整していく予定ですが、その上で早期アクセスって「俺たちこういうコンセプトで頑張っていきます」と言うことをユーザーに示す場所だと思っているので、何で勝負するかをきっちり見せられることが大事だと思っています。加えて『クラフトピア』はユーザーの皆様とフィードバッグ交えて一緒に作れているので、すごく良い開発が出来ていると思います。

想定を上回るユーザーたち

────リリース後は、12日間の連続更新が行われていましたが、当時の状況について教えて下さい。

溝部氏:
早期アクセスを最大限利用してはいましたが、コンテンツが足りない事や、バグが多いことは勿論自覚があったので、正直ユーザーに申し訳ないと思っていました。申し訳ないと思いながら、開発チームは全力で頑張っていたので、何とかユーザーへの期待に答えられないか、と考えた結果が連続更新でした。

────ユーザーの期待に応えようとした結果だったんですね。毎日更新するのはいろいろと無理もあると思うのですが、どうやって連続更新を実現されていたのでしょうか。

溝部氏:
チーム体制としては、全力で朝からチームみんなに開発してもらって、深夜に私がその開発内容をまとめて、リリースする形をとっていました。普通の従業員には労働基準法の壁があるんですけど、代表には適用されないんですよ(笑)だから日々、テストの関係で深夜に作業する事もありましたが、待っているユーザーの為に、死ぬ気で毎日リリースしてました。

また、注目を集め、ユーザーも応援して下さっていたので、開発メンバーの士気はめちゃくちゃ高かったです。チームもクオリティにはまったく満足していなかったので、どちらかと言うと「やっと直せる!」というテンションでバンバン開発していました。

────リリース後、一番大変だったのは何でしょうか?

溝部氏:
島を移動したあとに、最初の島に戻ってくると全部の建物が消滅しているバグが、もっとも深刻なバグでした。開発側としてはコードには問題なく、再現性もなく、特定が困難で。しかも、島がリセットされて辞めてしまうユーザーもいて、めちゃくちゃ困っていました。

そこで、ユーザーに発生事例を教えてくださいと呼びかけたら、ある日ユーザーの中で「ひょっとして、自動セーブ中に移動すると壊れる?」という説が上がり出しました。それがきっかけで原因が判明し、速やかにバグが修正出来ました。結果的に、自動セーブと島移動のタイミングが重なってしまうと、最初の島の建物が消えてしまうというバグでしたね。ユーザーの協力を得て解決出来たので、その時検証に協力いただいたユーザーの皆様には本当に感謝しています。

────売上やユーザー比率はどうでしょうか?

溝部氏:
売上は現在60万本を突破しています。ユーザー比率としては、日本が多めで30~40%、次が中国で30~40%、残り20%が英語圏で、あとはその他といった比率になっています。売上の傾向としては、ここはSteamの王道と同じで、初動とセールで売れて、他の日はほどほどに売れるぐらいになっています。

────経営的にはノっている状態だと思いますが、得た利益は開発に還元されますか。

溝部氏:
もちろんです。『Overdungeon』もそうだったんですが、私たちは自分たちで作ったゲームが大好きなので、これからもひたすら改善を続けていこうと思っています。『クラフトピア』は当然弊社の主力ゲームのひとつなので、開発チームもどんどん拡大中です。採用も進めているので、クラフトピアの開発に興味のある方はぜひ応募してください。

────そういえば、『クラフトピア』は何人ぐらいで開発されているのでしょうか。

溝部氏:
開発が始まった昨年9月の時点ではメインプログラマー1人でした。そのあと、秋には3Dデザイナーが増えて2人になり、12月ぐらいになるともう1人か2人増え、その後UIデザイナーとかがパートタイムで入り、4月にエンジニアがもう1人入りました。リリースまではそのままで、今は8人か10人ぐらいで開発を進めつつ、少しずつ採用を進めている段階です。

────ちなみに、どういった人材に来てほしいですか?

溝部氏:
今一番足りていないのは、デザイナーですね。3Dアーティストが足りていない状況です。



────コミュニティでは、ゲーム内の要素を使った実験や研究も行われています。クラフトピア学会*2と呼ばれる彼らについて、溝部さんはどのよう捉えているのでしょうか?

溝部氏:
本当に素直に驚いてばっかりで、Twitterでの「えぇ……」みたいな反応も率直な反応です。実装していない機能がユーザーに発見されていくのは、気持ちとしては本当に驚かされるばかりですね。なんでこんな事が起きるの、ってことばかりでした(笑)

*2:本作には、バグにより開発側にとっても想定外な挙動のものが存在する。そうした奇妙な現象を解き明かそうとするプレイスタイルや、生き様、研究者などをクラフトピア学会と呼ぶ。



────ジャンプする度に木が伸びるレリックが混ざっていても、あまり違和感のない光景が広がっていますね。

溝部氏:
自分自身でも、元から意味不明なものを作っている自覚はあったんですが、それを超えてユーザーが意味不明なことをしてくるのは笑いましたね。

────『クラフトピア』のSNS上の盛り上がる中、混沌としたプレイングで気に入ってるものはありますか

溝部氏:
実装していない水圧や、鳥の上に乗ったり*3とか、UFOのように焚き火が飛び回ってるやつとか、壁力学*4とか全部笑わせていただきました。畑を積み重ねる*5のも、ほかのインパクトが強すぎて目立ってませんが、落ち着いて考えると畑を積み重ねるのは、結構意味不明ですよね。

*3:本作の小さな鳥には当たり判定があり、乗れる。早期アクセス開始時には、飛んできた鳥に足元をすくわれ、そのままどこかへと拉致されていく動画がTwitter上で注目を集めた。

*4:本作の壁からは、一定の条件を満たした時にオブジェクトを一定方向へ動かす力が備わっている。壁力学とは、この壁から発生している力や現象に関するもの。壁力学を履修すると、作物の自動回収に役だったりする。また広義の壁力学として、より広範囲の現象を指す場合もある。

*5:通常、畑は重ならない。しかし、本作ではいくつかの方法で畑を重ねて設置できる。また狭い範囲にいくつもの畑を設置することで、重なった作物を一気に収穫できるなど、何かと農業が効率的になる。



────畑を積み重ねるのは、効率もいいですからね。

溝部氏:
そうなんですよ。だからみんな当たり前のように積み重ねていますけど、最初は結構衝撃でした。「うわ、やばい。早く直さないと」と思ったら、完全にもうみんなテクニックとして駆使しちゃっていて、逆に直したら怒られる状況になってたんですよ。そんな風に、どれも本当に驚かせてもらっていますね。

────そうしたユーザーに利用されているバグについては、どういった方針で対応をされているのでしょうか。

溝部氏:
基本的に、直さないように開発を頑張っています。「一部のバグを直さないように、バグを直している」状態です。ただ厄介なのが、そういうバグは開発側も再現の仕方を知らなかったりするんですよ。複雑な壁力学の仕組みもあまりよくわかっていないので、特定のバグがうっかり直ってないかをユーザーに確認してもらうフローを用意してます。物理周りの挙動を変えちゃうと、バグが知らずに直っちゃう可能性があるんです。バグを直したいわけではないので、うっかり直っていないかをアルファユーザーに確認してもらっています。



────SNS上では、ユーザーがバグを解析し、指摘してきたというケースもありました。この野生の開発者事件について教えて下さい。

溝部氏:
あれも驚きましたね。一応、ユーザーがModを作れるようにと、ソースコードを解析しやすいようにはしていたんですよ。ちょっとテクニカルな話をすると、UnityにはIL2CPPという仕組みがありまして、ゲームだとそれを使うのが一般的です。『クラフトピア』も、当然IL2CPPを使用しようと思っていたんですけど、IL2CPPにするとModが作り辛いという問題があるんです。事前に、Modを作ってる開発者が集まっているサーバーに行ってヒアリングしてみたところ、彼らは「絶対IL2CPPにはしないほうがいい」と言っていて、そういう経緯もあって別のスクリプトバックエンドを採用したことで、解析しやすいようにしておきました。

実際にMod作ってくれる人がいてとても嬉しかったんですが、逆にコードはみんな当たり前のように解析している状態です。解析はもともと歓迎ではあったんですが、まさか解析した結果バグを見つけて、バグを指摘してくる人がいるのは理解を超えていました。さすがにびっくりしましたね。「え?」と。完全に野生の開発者ですよね。オープンソースじゃないのに(笑)ちなみに、そのバグを直してくれたユーザーはスタッフとして採用し、開発チームで働いて貰っています。



────解析しやすくなっていたためか、VRM Modも開発されていましたね。

溝部氏:
そもそも、私はVRMが何かを知らなかったんですよ。その時は、VRと付くからVRの何かだろう、ぐらいに思っていました。ちょっと調べつつ、Twitterで「どうやってやるんですか」とリプライしたら、単なるリプライなのに異常に返事がついたんですね。それを見て、VR界隈の熱量はやっぱりすごいなと感じていました。ただ、その後開発で忙しくて放っておいたら、ある日寝て起きたら、VRM Modが実装されていました。

────現在は、VRMへの正式対応が発表されていますが、元々はVRMへの対応予定はなかったんですね。

溝部氏:
なかったですね。検討した結果、pixivのVRoid Hubになりました。pixivに縁があった事や、機能面が充実していた事がVRoid Hubの採用理由になっています。『クラフトピア』でVRMを適用させると、マルチで一緒に遊んだときに、誰かのモデルデータが勝手に盗まれ、やりたい放題されてしまうリスクがあるんです。だから、通信時に暗号化とかしないといけないんですが、pixivのVRoid Hubさんだけは現時点でそれを簡単に対応していたので、採用させていただきました。


『マインクラフト』の次を目指して

────『クラフトピア』の今度の目標、完成像のようなものはありますか?

溝部氏:
『クラフトピア』が、『マインクラフト』の次に遊ぶゲームになってくれたらいいなと思っています。『マインクラフト』は素晴らしいゲームではあるものの、いろいろと不親切なので、さらに面白いことやろうと思ったらModをどんどんいれていかなきゃいけない。またグラフィックは、味はありますが、もう少し洗練されたグラフィックのゲームがやりたいと思ったときに、他のクラフトゲームはどれもちょっと難しすぎると思いました。たとえば『ARK: Survival Evolved 』や『Conan Exiles』などは『マインクラフト』の次としては少し難しすぎる。

『クラフトピア』はその点をもう少し簡単にして、Modが入っていないバニラの『マインクラフト』よりも要素を増やし遊びやすくして、『マインクラフト』を遊び終わったユーザーに対して、「クラフトゲームではもっとこういうことができて面白いよね」と提案できる形を目指しています。

────大きな目標ですね。ゲームプレイにおける具体的な実装目標はありますか。

溝部氏:
既存要素のそれぞれをもうちょっと噛み合うようにしたいと思っています。要素が噛み合っていない点は、ユーザーにも指摘されています。調整の部分はこれからなので、例えば農業をやった結果戦闘にも貢献できるとか、自動化していった結果もうちょっとお金を得るだけじゃない良いことがあるとか、そういうところは取り組んでいきたいですね。

ほかにも、海の下の世界を含めて『クラフトピア』にはまだ作っていない世界がたくさんあるので、そのあたりはもっと広げていきたい。冒険して、新しいロケーションならではのクラフトができたりとか、自動化ができたりとか、世界が広がることは実装していきたいなと思っています。

そのほかにも専用サーバーを建てられるようにするとか、もっといろいろコンテンツを増やすとか、水中に潜れるようにするとか、まだまだ導入したい機能は沢山あります。たとえば今はロケットで飛んだ後は何もないんですが、宇宙に行った後を作るとか、そういうこともやりたいですね。

────世界といえば、現在は祭壇を通して世界を移動する形になっていますが、世界間の繋がりが変わる可能性はありますか。

溝部氏:
チーム内でも何度も議論して悩んでいます。何とかしたいと思いつつ、コンテンツの充実とどちらが優先か悩んでいる所です。取り急ぎは、一旦このままでもっと違う形でちゃんと遊びを広げていこうと考えています。

────今後『クラフトピア』に加えたい新しい要素はありますか。

溝部氏:
地形破壊を入れたいですね。前からやりたいなと思っていて、実装準備が整った段階で地形を掘ったりできるようにしようかなと。地形破壊のイメージで一番近いのは『ASTRONEER』でしょうか。ユーザーのフィードバックや、開発を進めている中で気づいたこととして、みんなとにかく整地をしたがるんですよ。『クラフトピア』では、みんな整地の代わりに床をひたすら建てて、その上で建築をしているんですが、本来は整地がしたい部分もあるんだろうなと感じています。

────では、島を更地にできる日が来るかもしれないんですね。

溝部氏:
是非、更地にしたいと思っています!

────クラフトピアのコンソール対応についてはどうでしょうか。

溝部氏:
情報開示がなかなか難しいところなので、検討中ということにしておいてください。いろいろなハードで遊べたら、ユーザーは勿論嬉しいですよね。

────最後に、『クラフトピア』のプレイヤーに向けてメッセージをお願いします。

溝部氏:
『クラフトピア』は、ユーザーのみなさんと一緒に作っているという確かな実感があります。いつも本当にありがとうございます。皆様のお陰です。また、あまりお礼を言う機会が無いのですが、Discordのモデレーターの方々には本当にいつもお世話になっていますし、αユーザーのみなさんのおかげですごいスピードでゲーム開発が出来ています。このような開発の機会に恵まれていて、大変感謝しております。『クラフトピア』を素晴らしいゲームに仕上げていきたいと思って開発を進めていますので、これからもどうぞご協力お願いします。

────ありがとうございました。

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