スクウェア・エニックス 齊藤陽介氏ロングインタビュー。『ドラゴンクエスト』から実写ゲームまで、王道と獣道を歩んだゲームプロデューサーの四半世紀

スクウェア・エニックス 齊藤陽介氏ロングインタビュー。エニックスに入社した93年から実写ゲーム時代、『ドラゴンクエスト』『ニーア』シリーズのプロデュース、アイドルグループの育成から趣味の人狼まで、王道と獣道の両方を歩んだゲームプロデューサーの四半世紀を振り返ってもらう。

 

人狼は癒し

J:
仕事の話ではなくなるけど、最近凄く人狼に傾倒してますよね。あれはなんでですか?

齊藤:
人狼ゲームは俺の心の安らぎです。最初はカラオケ屋とかでやることがなくなったときにやっていて、そのうちゲームクリエイター人狼会に誘われるようになったんです。

J:
最近はめっちゃやってるでしょう?。

齊藤:
「アルティメット人狼」っていう、将棋の棋士とか麻雀のプロとか役者とか文化人と一緒に人狼ゲームをやる番組があるんだけど、そこに一回呼ばれたんですよ。最初ナメて行ったらボコボコにやられて。それが悔しくて、めっちゃ練習して。第6回のときに出させてもらってMVPを取りました。

J:
その後、結構出ていますよね。あれは興行形式になっているんですか?

齊藤:
俺はイベントとかでゲームのPVを流してもらっているんです。だから俺はギャラなんかもらっていないです。あくまでも宣伝目的で出てます。

J:
なんで他のゲームじゃなくて人狼だったんですか?

齊藤:
24時間365日仕事のことを考えているとパンクしそうになるし、ゲームをやっていても仕事のことを考えちゃうんですよ。でも人狼ゲームをやっているときだけ頭が空っぽになるんです。仕事のことをオンメモリーしておくと勝てないから。一回頭のメモリを綺麗にできるんです。ゴルフに行く時間があればゴルフをやっているとは思うんですけど、朝早く起きてゴルフ場に行くだけで2時間とかかかるじゃないですか。人狼ゲームは2時間あればできちゃうんですよ。自分にとっての癒しです。ストレスを溜めないで済むための手段。そもそも対人ゲームが好きですし、人狼ゲームは遊ぶ人が変わると全然違うゲームになるのでめっちゃ面白いですよ。

J:
仕事もそうだけど、齊藤さんは人と何かをするのがとにかく好きですよね。

齊藤:
ゲームを作るなんて一人ではできないから。あと俺はもともと上下関係を作りたくないタイプで、人狼ゲームは無礼講なのも良いですね。

ーー最近話題のマーダーミステリーゲームはどうですか。

齊藤:
マーダーミステリーもめっちゃやってますよ。1回やったら2度とできないゲームなのでビジネスとしては難しいですが。お客さんの消費スピードを超えて作れたら勝ちだなと思います。

ーーマーダーミステリーの歴史を調べたことがあるんですが、これがなかなか残っておらず謎が多いですね。

齊藤:
諸説あって、アメリカのディナーでオードブルやメインディッシュが出る間の時間にマーダーミステリーゲームをやったと言われてるみたいですね。それが中国で流行って、日本でも流行し始めてる。おしゃれですよね。ディナーを食べながら、執事から「ちょっと今、殺人事件が……」なんて言われると。

ーーそういう20世紀初頭からあったかもしれないものが、日本にこれまでこなかったのも不思議ですね。アナログゲーム制作は興味ないんですか。

齊藤:
マーダーミステリーを作りたいという欲求はあるのですが、今の仕事量を考えたら無理ですね。

 

若手の中では田浦氏に注目

J:
いま、齊藤さんが注目しているクリエイターって誰かいますか?

齊藤:
正直コンシューマーのゲームで凄い面白いと思ったのって、どれもおっさんたちが作ったやつなんですよね。

J:
それはなんでですかね?

齊藤:
若い人にあんまりチャンスが与えられないんじゃないですかね。若手だと、それこそ田浦くんとか良いなと思いますよ。最近は『アストラルチェイン』を作りましたし。凄いですよ田浦くんって。プラチナゲームズとしてここ数年のうちに出したゲームは『ニーア オートマタ』『アストラルチェイン』しかないんですよ。

J:
そっか、両方田浦さんがやったってことか。

齊藤:
『アストラルチェイン』は田浦くんの好みや性格が出まくってますよね。いろんな意味で。SFって時点で人を絞りますし。ただ嫌いじゃない。

J:
では、ここのメーカーが好きだとか、ここの取り組みが面白いとかってありますか?

齊藤:
昔はテクモが大好きでした。『モンスターファーム』『キャプテン翼』『刻命館』など面白いゲームデザインの作品が多いという印象を持っていました。

 

正体隠匿系の非対称マルチが流行ると予想

J:
ここから伸びそうだなと思うゲームのジャンルとかは?

齊藤:
流行ると思うのは正体隠匿系だと思う。俺が人狼ゲーム好きだからじゃないよ。非対称対戦ゲームが今めっちゃ流行っているじゃないですか。それに正体隠匿系を加えたやつです。例えば勇者が4人います。でも実はそのうち1人は魔王です。そこで誰が魔王なのか4人で探り合うようなゲームですね。『Project Winter』という雪山から脱出するゲームがあるんですが、あれは俺、一般人として遊んでます。もっと大人数で正体隠匿系ゲームをやったら面白いなと思っています。『Project Winter』の最大の問題点は、とっつきが悪いことです。俺はチュートリアル嫌いなんだけど、それにしたってもうちょっとあるだろと。せめてシングルモードで練習させて欲しい。練習と呼べるものは、マウスの使い方を学ぶためにロビー画面で雪玉を投げるくらいしかなくて。あれひどいよね。もうちょっとできることを教えてあげたって良くない?って。

* Project Winter:雪山に取り残された生存者8人が、脱出経路を確保するため協力するオンラインマルチプレイ対応タイトル。8人の中の数人には、生存者の排除を目論む裏切り者の役割が割り振られる。サバイバルx心理戦が魅力の一作。Steamで日本語に対応し配信中

J:
海外のインディーゲームのビルドをもらって遊ぶ機会が多いんだけど、シングルモードがないゲームが多いんですよね。

齊藤:
本当に広めたいんだったら入れた方がいいかなとは思います。

J:
国内パブリッシャー目線だと、シングルモードがないと評価できないですしね。

齊藤:
俺も『Project Winter』めっちゃ面白いからオススメしたい。一緒に遊ぶ前提なら、俺が教えてあげられるからいいんだけど。

J:
スケジュールがタイトだから、やっぱり自分で遊ぶゲームは手短に遊べるものが中心になります?

齊藤:
どうしてもそうなっちゃいますね。前は『フォートナイト』を一日一戦してたんだけど、最後の4人くらいになって建築勝負で負けるというのを、ストレスを溜めながら毎日やってました。あとは『Identity V』もめっちゃ好きでやってました。

ーー対戦ゲームが好きなのに、自分で作ろうとは思わないんですか。

齊藤:
遊びたいんですよ。ゲームは作るものではなくて遊ぶものです。

J:
あなたが言うな(笑)

 

プロデューサーは努力あるのみ

J:
さっき「あと10年は働く」と話していたけど、実際どれくらいやろうと思っているの?

齊藤:
ロト6が当たったらすぐにやめたいです。

J:
気持ちはわかるけど当たらないから(笑)

齊藤:
俺は貯金とか大してなくてもいいから、大してない貯金を有効に活用できる、タイとかフィリピンの小島で、自分が食べる分だけ魚を釣って生きていきたい。

J:
いや、そうは言っているけど、齊藤さんはそんなことしないと思いますよ。

齊藤:
インターネット環境さえあればRMTで生きていけます。

J:
またそんな。そろそろ締めにかかるけど、最初に齊藤さんは自分の仕事のことを「何でも屋」「ゲーム屋」と表現していましたよね。そうなるために必要なことを一言で表現するとしたら何だと思いますか?

齊藤:
プロデューサーに限った話じゃないけど、とにかく頑張ることです。運が良ければ何にでもなれるんですけど、運がない人の中でも頑張った人の方がチャンスはくるはずなんで、やれることを一生懸命やりましょう。才能なんていらないです。1万人中9999人は凡才である以上、その凡才の中で頑張った人が勝つと思うので。ただ頑張るのって実は難しくて、コツがあるんですよ。それは……またいつか別の機会に(笑)

ーーお話を聞いていると、齊藤さんはゲームではなく開発者をプロデュースしているようにも思えてきました。

J:
ゲームも開発者もプロデュースしているし、困ったときの齊藤さんというところもありますよね。だからこそ大変だろうなと思います。

齊藤:
疲れましたよ。だからもう宝くじを当てるか、魚を釣って生きていきたいです。

J:
なんだかんだ齊藤さんは長く仕事をしていると思いますよ。みんなから頼られる存在ですし。また機会があればよろしくお願いします。ありがとうございました。

 

 

[聞き手:Koji Fukuyama, J]
[撮影:Ryuki Ishii]
[執筆:Koji Fukuyama, Ryuki Ishii]

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