アクションゲームを手がけた「職人」たちに聞く、アクションゲームの作り方。第一回『1001 Spikes』ヲサ田氏

アクションゲームを作りたいというユーザーに向けて、アクションゲームを手がけたクリエイターにその極意を聞くという本企画。第一回目は、『1001 Spikes』を手がけたヲサ田サム氏をお迎えし、アクションゲームづくりのこだわりを教えてもらう。

アクションゲームを作りたいというユーザーに向けて、アクションゲームを手がけたクリエイターにその極意を聞くという本企画。最終的には弊社アクティブゲーミングメディアが販売に携わる『アクションゲームツクールMV』の購入を検討してもらいたい……という主目的はあるものの、職人たちのこだわりについては多くの方が興味を持っているだろう。この世にアクションゲームを送り出し支持を得たクリエイター達に、その真髄の一端をお聞きしていく連載を開始する。第一回のゲストは、ヲサ田サム氏。

ヲサ田サム氏は、ドット絵を愛するゲーム開発者。2010年頃から、アクションゲームツクールを用いてゲーム制作を開始。代表作である『1001 Spikes』は、「IGN’s BEST of E3 2013 Awards Best of Vita Game」にノミネートされた。近日中には、同作をパワーアップさせた『Super 1001 SPIKES EX』をNintendo Switchにて発売予定。

氏の代表作『1001 Spikes』は、PCで発売されたのち海外レビューサイトなどで高評価され、PS4や3DSをはじめとするコンソール機にもリリースされた2Dアクションゲームだ。オーソドックスな2D横スクロールアクションゲームで展開される『1001 Spikes』は、高難易度ゲームでありながら驚きと興奮に満ちている。

1ステージの長さは、数分でクリアできる程度であるが、プレイヤーを飽きさせないステージ構成になっており、理不尽にも思える難易度を味合わされながら、つい何度もプレイしてしまう絶妙なバランス設計が特徴。予想外かつ意地悪な罠がプレイヤーを襲うが、死んでしまった際にはそこから学習し次に生かしたいという欲望も生まれてくる。シンプルながらも奥深いレベルデザインを実現したヲサ田氏の、アクションゲームを作る上での美学とはどのようなものだろうか。いくつか質問を用意したので、それに答える形で、ゲームづくりの哲学を語ってもらった。

 

目次

■アクションゲームの基盤を作るのに必要なこと
■何から作っているか
■調整やデバックの時間
■敵の強さをどのように設定しているか
■タイル配置時の工夫
■当たり判定のつけかた
■1ステージの長さの基準
■プレイヤーを迷わせないために
■アクションゲームを作りたい人のために
■今後作りたいゲーム

 

 

■アクションゲームの基盤を作るのに必要なこと

アクションゲームは、プレイヤーの身体感覚、さらに感情といかに画面内のキャラクターをシンクロさせられるかが、最初のポイントになると思います。「滑らかなアニメーション」や「スムーズなアクション」は、作り手としての最大の見せ場ではあります。しかし、ビデオゲームの場合、必ずしもそれが優先度の最上位に来るわけではなく、その上位に「プレイヤーの感覚とのシンクロ」が来て初めて良いゲームになると感じます。

一番有名な例が、「ボタン押下から攻撃判定の出る速度」です。プレイヤーが攻撃ボタンを押した時、プレイヤーの感覚ではまさにその瞬間攻撃がなされています。ですが、制作者側がアニメーションの滑らかさや挙動のリアルさを優先し、律儀に振りかぶりの予備動作から始めるような設定にすると、先行するプレイヤーの感覚と画面内のキャラクターのアクション、そしてそれに伴う攻撃判定などゲームとしての機能の時間的乖離が生まれ、操作していて気持ちよくないゲームになってしまう可能性が出てきます。なので、多くのゲームでは、コンボ攻撃の1発目は予備動作をほぼなくし、早い段階から攻撃判定を発生させるような工夫がされています。

ただ最近はあえて鈍重な武器をぶん回し、その重量感を面白さにつなげるというアクションの予備動作の長い作品もいろいろ出てきているので、それが絶対的ゴールというわけではないですね。というよりも、今はもうそういうセオリーをきっちりこなしたレベルであることは「最低限のライン」になってしまっています。良く出来ているのが当然で、みんなその向こう側でせめぎ合っている状況なので、予備動作においては、どちらの選択がいいかは断言できません 。ただ、もしもこれからアクションゲームを作りたいと思うなら、まずは基本としてプレイヤーの入力=プレイヤーの気分と画面内のアクションをいかにシンクロさせるかを意識した方が良いでしょう。

シンクロにまつわる話の延長として、これは自分のこだわりなのですが、例えゲームのギミック的にまるで意味が無くても横スクロールのゲームでは基本的にキャラクターがしゃがめるようにしています。これもプレイヤーの感情と画面内のキャラクターシンクロを切らないためのテクニックです。有名ゲームでも採用していない作品がいくつか浮かぶので、この美学が必ずしも正しいとは限りません。ただ、やはりプレイヤーがレバーを下に入れているのに、画面のキャラクターが立ったままというのは、違和感や断絶を生むので、そこはやはりプレイヤーの気分に寄り添って応えてあげるべきだと思っています。

 

■何から作っているか

アクションゲームを作る時、何から作っているかといえば、やはりプレイヤーキャラのアクションからですね。その作品の柱となる部分ですから、まずそこから手をつけます。ただ自分は元々、描いたドット絵を動かしたくてゲーム制作を始めたタイプなので、まずプレイヤーキャラのアニメーション製作も同時進行していきます。特にアクションゲームにおいてはキャラクターのアニメーションはゲーム性そのものに直結します。同じ攻撃動作でも「手先だけピュッピュと動くアニメーション」と「全身を使った豪快なアニメーション」ではプレイヤーの気持ちのノリも変わってきます。たとえば、攻撃アニメーションがハイキックかローキックかによって違和感なく当たり判定を発生させる位置やタイミングが変わってくるので、最終的にはゲーム性にも影響を及ぼします。

 

■調整やデバッグの時間

調整やデバッグには、やっぱり一番多くの時間を割いていると思います。本当はまず全体の大枠を作っておいて、次に細部の調整を作っていくのが効率よいと思うのですが、自分の場合はそこまでしっかりした割り切りが出来ず、製作と調整が常時混ざり合っているような作り方になります。それゆえに、はっきりと「何時間」とか「どれだけの割合」という事は出来ませんが、結果としてみると調整の時間が一番多いと思います。

特に自分が良く作る“死にゲー”タイプのゲームでは、まず思いついたレベルデザインをバッバッと作ってみてそこから実際テストプレイして果たしてクリアできるのか試していきます。なので、最初は自分でも本当にクリアできるかすらもわからない状態から始める分、プレイヤーの皆さん以上の苦しみを味わっているかもしれません。

 

■UI や HUD での工夫

UI や HUD での工夫は、とりあえず「プレイヤーの意識を止めたくない」という点と「入力回数を減らしたい」という事は考えています。例えば『1001 Spikes』のステージクリア画面では上下レバーで選択するメニュー形式ではなく「次のステージに進む」「マップに戻る」「今のステージをやり直す」などを各ボタンに割り当て入力1回で選べるようにしています。

ゲーム開発の昔ながらのセオリーでは、「入力ミスをさせないようキャンセルをデフォルトに」と良く言われています。アイテム購入やセーブを選んだ後のOK/キャンセル最終確認ダイアログで、キャンセルをデフォルトにしておく」と言った設計です。それをするとまちがいによる悲劇が減る一方、当然入力の回数が多くなり、無駄な時間が累積されていきます。確かに誤購入や間違ったセーブ上書きは悲劇ですが、ごくまれにしか起きない中、悲劇回避のために全体がものすごい量の極小悲劇を累積させていくのは自分の中では正解だと思えないので、そういうよく言われるセオリーを無自覚に取り入れるのは出来るだけ避けています。

この辺はインディ―ゲームだから出来る部分なのだろうとは思いますが、「初心者に配慮して手とり足とり過保護過ぎるくらい」ではなく、「プレイヤーを信じて軽快に」する方を選んでいます。ちなみに開発において、システムやUI周りは自分の中で一番しんどい作業なので後回しにしがちです。

 

■敵の強さをどのように設定しているか

敵の強さの調整については、自分の場合それほど明確な指針があるわけではなく、大抵が勘でやっていますが、幸い自分がそれほど上手いプレイヤーではないので結果としてプレイヤーの平均値と大幅に乖離することのない難易度に落ち着いているようなところがあります。

一応、最初の敵は特に工夫がなくても簡単に倒せるような位置と体力にしよう程度の事は考えています。が、よく考えたらちゃんと完成して世に出したゲームは、ほとんどがエクストリームなチューニングの作品なので、もしかしたら読んでいる方からは「何言ってんだ!」とツッコミが入るかもしれませんね。(……表に出る事なくお蔵入りになった作品では割とまっとうな調整をしている事が多いのです。)

ただ、いずれにしてもプレイヤーにフェアと感じてもらえるよう、できるだけ攻撃前には効果音やアニメーションで予備動作を入れ、プレイヤーに情報として伝えるようにはしています。あとこれはまたインディーゲーム的な考え方かもしれませんが、自分は俗にいう「美しく上昇していく難易度曲線(難易度が適切なペースで上昇する)」というものが好きではありません。あまりにもスムーズな難易度上昇だと、なんだか退屈な印象になるためです。自分の過去の経験を見ても面白いゲームとして印象に残っているのはなんだか妙に難しいシーンや変に強かった敵、あるいは逆に、突然台風の目に入ったような簡単なシーンや弱い敵だったりします。

たしかに全体の大まかな流れとしては、段々と難易度が上昇していく形にはするのですが、自分としてはかなり意識的にその曲線に凹凸や緩急を設けるようにしています。

 

■タイル配置時の工夫

タイル配置時は完全に自分の趣味というか癖なのですが、マップのデザインに関しては純粋な機能性よりも見た目的な生っぽさや雰囲気の方を重視してしまう所があります。本当は段差を設けない方がプレイフィールはスムーズだろうなと思いながら、やはりところどころ高低差があったり、規則性を壊すような部分があった方が体験の解像度が上がり、世界観の深みが増すと勝手に考え、その方向で作っています。

それと、これはアニメーション監督宮崎駿氏が東映動画時代に手がけた「長靴をはいた猫」や「どうぶつ宝島」の影響なのですが、ステージの展開に意図的に「縦構造」を持ち込むようにしています。困難な状況に抗いながら戦う冒険の舞台として、重力に抗いながら上に登っていく、あるは下に降りていく展開にはプレイヤーの気分をコントロールし、場面を強く印象付ける効果があると思います。あとは大体の色の系統を「緑とグレー」「青とベージュ」のように、2つ程度に絞りざっくりと見ただけでも印象に残るようにしています。

 

■当たり判定のつけかた

当たり判定については、おそらくいまゲームを作っている皆さんにとって基本だと思いますが「プレイヤーに甘く、敵キャラに厳しく」ですね。つまりプレイヤーの被ダメージ判定は小さく、アイテムなどとの接触判定は大きく、敵キャラの被ダメージ判定は大きく、攻撃判定の有効時間はエフェクトの見た目より短く…といった感じです。

ただし

自分がかつて作ったフリーゲーム『キノコ&ギャル』という作品では、このセオリーに真っ向勝負を挑んでいます。巨大な被ダメ判定と極小の与ダメ判定、メチャクチャな操作性といったアンチセオリー要素を詰め込みながら、「俗にくそゲーと呼ばれるタイプのゲームは、ほんのわずかなさじ加減次第で神ゲーになりうるのではないか?」というテーマに挑んだ、自分の中ではかなり意味のある作品です。色々とバカバカしい装飾を施したので、知っている方にはイロモノ・ゲテモノ的作品と思われているでしょうがそのコアにあるのは、痛々しいほどにピュアなビデオゲーム賛歌だと思っています。これは冗談ではなく、ゲーム好きを自認する人全員にぜひとも遊んでもらいたい作品です。

詳細ページ: http://8bits.nukimi.com/k_and_g/

 

■1ステージの長さの基準

これまでの作品が“死にゲー”タイプのものが中心なせいもあって基本集中力が保つよう短めの区切りになるよう設定しています。昔のアーケードSTGを意識し「1ステージ2~3分」というのは頭にありますね。ただここでも体験に変化をつけるため、中にはあえて長いステージを作る場合もあります。

 

■プレイヤーを迷わせないために

ビデオゲームの歴史もかなり長いものになってきており、その中で色々な人が色々なこだわりを披露してきました。自分も古いスタイルのゲームが好きなので、こだわりを持った頑固職人的に思われるかもしれませんが、実はかなり緩い考えでデザインしています。

例えば『1001 Spikes』では、せっかく買ってもらったのに難しくて全然進められないのでは、こちらとしても嫌なので、ごく普通にステージスキップ機能を入れています。「“死にゲー”なのにそんなものを入れたら身もふたもないじゃないか」という声もあるのですが、ここまでゲームが多様化し、操作すらする必要ないゲームや、お金を払えば勝てるゲームすら生まれている中、「オレの作った課題をクリアしないと絶対先を見せない!」と言い張るのもどうなんだろうと思ってもいます。出来るだけプレイヤーの皆さんに、思い思いの形で楽しんでもらえれば良いと考えています。「こだわりで苦しむのは自分だけで良い」という感じですかね。

 

■アクションゲームを作りたい人へ

ゲーム制作ツールは「簡単だけど自由度が低い」から「自由だけど難解」までのどこかにバランスが取られているものですが、自分の印象だと『アクションゲームツクールMV』は、丁度その中間あたりのバランスになっていると思います。やりたい事を選ぶだけで作れるほど簡単ではないですが、やりたい事をコンピュータに実現させるためそれを分解し翻訳していくプログラム思考的な流れは、ある種のパズルゲームのような楽しさと快感があります。

ある意味「一生遊べるパズルゲーム」を手に入れるような気分でチャレンジしてみるのも面白いかもしれませんし、お子さんのプログラミング教育のサポートツールとして使ってみるのもありかもしれませんね。

 

■今後作りたいゲーム

アクションゲームではカプコンさんの『トップシークレット(バイオニックコマンドー)』のような、移動能力にクセのあるものを作ってみたいですね。自分が今まで使っていた初代『アクションゲームツクール』ではこのあたりの表現が難しく色々試作したのですがなかなか上手くいきませんでした。今度の『アクションゲームツクールMV』ではこのあたりがもう少し自由にやれそうな気がするので、色々と研究してみたいと思っています。アクションゲーム以外だと昔ながらのコマンド式ADVが作りたいなぁとずっと思っています。ただし、今の時代あまり商売にはならなそうですが……。

 

丁寧ながら熱くゲームづくりへのこだわりを語っていただいたヲサ田氏の新作『STEEL SWORD STORY』が、「東京ゲームショウ2018」にて発表された。このコラムの題材のひとつである、現在早期アクセス販売中の『アクションゲームツクールMV』製の作品だ。同作は剣と魔法を駆使したオーソドックスな2D横スクロール型アクションゲームである。ドット絵を愛する氏ならではのこだわり抜いたアニメーションや画面設定、ユーザーにストレスを感じさせないボタン配置と攻撃射出速度、敵の強さ設定の調整が秀逸なレベルデザインが随所に散見される作品である。こちらで試遊できるので 、ぜひ試してほしい。

アクションゲームツクールMVとは
アクションゲームを作りたい。でもプログラミングは難しい。そんなあなたに贈る『ツクール』シリーズの新作(ストアリンク)。オーソドックスな2D横スクロールアクションはもちろん、ベルトスクロール、トップビュー、多人数対戦、レース、パズル、ビンポール、シューティング、メトロイドヴァニア…王道のアクションだけでなく、ホラー、アクションRPGも制作できる。2段ジャンプやバックステップ、武器変更、落ちる床も重力設定も、物理演算も楽に設定できる。タイル数回のクリックで、設定をしてステージを作成可能。自由度が非常に高い分、覚えながら理解を深めることが多いが、使いこなせれば多岐にわたるジャンルの作品が自由に作れるようになる。あなたの頭の中だけにあったオリジナリティに溢れるゲームを世界に生み出すことができるツール、それが『アクションゲームツクールMV』である。

 

[Special Thanks :Sam Osada]
[協力 : Sayuri Murabayashi(PLAYISM)]
[編集:Minoru Umise]

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