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「この漫画、動いたらいいのに」。そんな子供のころの夢を叶える野心作『LIBERATED(リベレイテッド)』が、DMM GAMESより5月27日に国内リリースされる。対応プラットフォームはPS4/Xbox One/Nintendo Switch/PC(DMM GAME PLAYER)。現在海外向けに配信中のSteam版も日本語対応予定あり。

公式サイトにてPS4/Nintendo Switch版予約受付中


『LIBERATED』は、モノクロのアメコミを読んでいるような感覚で遊べる、ノワール調のコミックアクションアドベンチャーゲームだ。近未来の監視社会を描くディストピアものであり、ダークで風刺的な作品となっている。本作の世界では、「聖マーサ小学校テロ事件」という多数の犠牲者を出した事件をきっかけに、政府主導の監視社会化が加速する。そうした中、反政府組織LIBERATEDが誕生。監視社会化の引き金となったテロ事件の裏には、政府が絡んでいるのではないかと疑い、真実を求め地下活動を続けていた。

プレイヤーはそんなLIBERATEDの一員や、聖マーサ小学校テロ事件に居合わせた警察官など、さまざまなキャラクターの視点から真相を追っていくことになる。コミックを自分のペースで読み進めるノベルパートと、2.5Dで描かれるアクションパートを行き来しながら物語を進めるのだ。両パートともコミックのコマの中で展開していくのが、本作の大きな特徴である。ゲームプレイパートでは2.5Dの銃撃戦、スニーキングミッション、パズルなどがあり、銃の発射音といった擬音まで、コミック的な表現によって丁寧に描写されている。

そんな本作を開発したのは、ポーランドのインディーデベロッパーAtomic Wolf。開発チームを支えたのは、同じくポーランドに拠点を置くパブリッシャーのWalkaboutだ。本稿では、WalkaboutのプロデューサーKonrad Wałkuski氏とAdam Magdziak氏、そして国内販売を担当するDMM GAMESのプロデューサー生本氏によるインタビュー/対談の様子をお届けする。コミックとアクションゲームの融合という野心的なプロジェクトに込めた想い、そしてDMM GAMESとして「アメコミ風ゲーム」を日本向けにローカライズする上でおこなった工夫とはいかに。


「動くコミック」へのこだわり

――本日はよろしくお願いします。まずは自己紹介をお願いできますでしょうか。

Konrad氏:
WalkaboutのKonrad Wałkuskiです。『LIBERATED』のプロダクションとコミュニケーションを担当しました。

Konrad Wałkuski氏


Adam氏:
WalkaboutおよびL.inc(『LIBERATED』共同制作会社)のAdam Magdziakです。『LIBERATED』コンソール版のプロデュースとPRを担当しました。

Adam Magdziak氏


生本氏:
DMM GAMESの生本と申します。『LIBERATED』の国内リリースのプロデューサーを務めさせていただいております。弊社のタイトルですと、2020年12月に発売した『Outward』というタイトルのリリースを担当いたしました。弊社が国内運営している『The Elder Scrolls Online』では、エソモトという名前で毎月公式生放送も担当しております。

生本氏


『LIBERATED』は、コミックの世界にどんどん引き込まれていくような作品です。通常のコミックよりも没入感が高い、動くコミック。そういった表現がぴったりだと感じました。そこで私からWalkaboutのお二人に質問なのですが、今回この『LIBERATED』の開発を始めたきっかけを教えていただけますでしょうか。

Konrad氏:
その感想こそ、まさしく私たちが目指していたことです。動くコミックというアイデアは、「既存のデジタルコミックはポテンシャルを活かしきれていない」「もっとできることがあるはずだ」という想いから生まれたものでした。みんなに愛された、昔ながらの紙媒体のコミックがある一方、近年ではデジタル化への移行が進んでいます。しかし、既存のデジタルコミックのほとんどは、紙媒体のコミックをスキャンしただけのものです。そこで、デジタルコミックという形式を最大限に活かし、もっとクールで面白いことをしてみようと考えたのです。

紙媒体のコミックをデジタル化する過程で、物理媒体ならではの特性は失われてしまいます。買ったばかりのコミックの匂いであったり、ページをめくる感触であったり。そうしたデジタル化によって失われてしまう感覚を、ゲームならではの双方向性やクールな要素によって補いたいと思ったんです。

生本氏:
なるほど、しっくりきました。たしかに実際にプレイしてみて、コミックとアクションがすごい斬新な融合のしかたをしているという印象を抱きました。それぞれが味のある内容になっていますし、しっかりとアメコミ風に寄せているところが、さらに引き込まれるきっかけになったのかなと思っています。

ちなみに、ゲームプレイ部分はなぜ2Dや3Dではなく、2.5Dを採用したのでしょうか。


Konrad氏:
開発段階では、いろんなパターンを試していました。3Dのコミックと3Dのゲームプレイ、2Dのコミックと2Dのゲームプレイなど。実験とプレイテストを重ねた結果、今ある2Dコミックと2.5Dゲームプレイという組み合わせに行き着いたんです。

まず手描きコミックと2.5Dグラフィックの組み合わせなら、印象的な絵柄にしつつ、アートスタイルを統一しやすいという利点があります。それに、2.5Dはとても実用的な選択肢でもありました。ゲームプレイ部分まで手描き2Dにしてしまうと、レベルを途中で手直しする際、レベル全体を手描きで作り直さないといけません。その点、2.5Dであればレベルの変更・修正を効率良くおこなうことができます。アートスタイルの一貫性を保ちながら、開発における実用性や効率も維持できるわけです。

生本氏:
そうですね、たしかにコミックの中で躍動させるには、完全な3Dよりは2.5Dの方が自然に映る感じはしますね。

――生本様は最初に『LIBERATED』を遊んだ時に、どういう風な感情を抱きました?

生本氏:
「いつカラーになるんだろう」と思っていました(笑)初回プレイ時は事前情報をまったく仕入れていなかったので、モノクロの、ノワール調で統一された作品だと知らずに遊んでいたんです。ただ、プレイしていくうちに、カラーではなく白黒であることで物語に引き込まれやすくなっているという感想を抱くようになっていきました。ちゃんと一つ一つのコマを見るきっかけにもなると思いますし、そこが一番魅力的だったと感じています。ちゃんとインスピレーション元となるコミックの良さを引き出せていて、どんどん本作の世界にのめりこんでいきました。

Konrad氏:
ありがとうございます、私もそう思います。ノワールコミックや白黒のコミックがインスピレーション元になっていますし、白黒に統一したのは偶然ではありません。そういえば、日本の漫画もほとんどが白黒ですよね。ただ、実は開発初期のころは白黒ではなくカラーにする予定だったんです。途中で白黒の方がいいと気づいて変えた経緯があります。



「一人称視点」のコミック鑑賞ゲーム

生本氏:
あと、『LIBERATED』を遊んでいると、暗い部屋でテーブルライトをつけながら漫画を読んでいるような感覚になるんです。それがどこで伝わるかというと、ライトに照らされた本のザラザラとした質感であったり、ページをめくるときの感触であったり。こういうところのこだわりがすごいなと思いました。コミック誌の質感のこだわり・工夫について、教えていただけますか。

Konrad氏:
『LIBERATED』は実のところ、コミックを鑑賞している読者目線の「一人称視点」ゲームなのだと解釈しています。作中キャラクター視点のゲームではなく、プレイヤー=読者の視点でコミックを読む行為のシミュレーションなのです。

そのため開発初期の段階では、本当にコミックを読んでいるような感覚を捉えることに力を注いでいました。おっしゃった通り、紙の質感、ページをめくるときのシュッとした感じなどをうまく捉えることが重要だと考えたからです。それこそ、コミックを読むとき、読者の目がどのように動いているのかといった細かい部分まで。ページをめくり、全体をざっと眺めてから、1コマ1コマをじっくりと見ていくような。


そうした、普段コミックを読むときと同じような感覚を再現するのが狙いでした。開発初期の研究段階では、何人かのテスターにアイトラッキングツールを付けて紙媒体のコミックを読んでもらい、ページごとに、コマごとに目がどのように動くのか調査しました。その動きにできるだけ近づけることを目標としたのです。

ゲームが先か、コミックが先か


――ゲームとコミックの成分は、何パーセントずつくらいだと思いますか。

Konrad氏:
面白い質問ですね。全体的には50/50ぐらいを目指しています。ただし、チャプターごとに違う割合を試しているので、アクションパートが多めのチャプターもあれば、ストーリーパートの方が多いチャプターもあります。

またインタラクティブなゲームであるがゆえに、プレイヤーの遊び方によっても変わってきます。絵のディテールまでじっくり鑑賞しながら読むと、コミック部分にかかる時間が長くなります。プレイヤーのスキル次第でも、クリアにかかる時間が変わってきます。速くクリアできる人もいれば、ゆっくりと時間をかけてリトライしながら進めていく人もいます。このようにプレイヤーによって遊び方は違いますが、我々としては50/50を目指しました。

――なるほど、興味深いです。プレイヤーのスキル次第という点に関しても、本作は複数の難易度から選べるので、好みにあわせて遊びやすいという印象を抱きました。ちなみに、ゲームを作っている時は、コミックとゲームの割合はどちらに傾きがちでしたか。バランスをどういう風にとっていたのか気になりました。

Konrad氏:
プレイヤー次第なところもあるので、実際に50/50にできたのかはわかりません。察するにこの質問の意図には、「ゲームとコミックのどちらが先に生まれたのか」という問いも含まれていますよね。正直に言うと、どちらでもないです。ただ、どちらかというとコミックが先だったと言えるかもしれません。『LIBERATED』の最初期案はデジタルコミックのようなものだったからです。コマ分けされていて、各ページにストーリーが描かれていて。そこから、キャラクターたちの冒険を描くにあたってしっくりくる箇所、体験の向上に貢献できそうな箇所にゲームプレイパートを埋め込んでいきました。

この最初のステップ以降は、コミックとゲームプレイ部分を同格として扱い、並行して開発を進めていきました。どちらか片方を優先することなく、同様に重要なものとして扱うことが、本作の開発理念だったからです。そのため、ときにはゲームプレイが長くなりすぎないよう調整したり、逆にゲームの流れを良くするためにゲームプレイを増やしたりと、さまざまな変更を加えていきました。

「ゲームの流れを良くする」というのは特に重要で、ゲームプレイからコミック、コミックからゲームプレイへと行き来するなかで、良いフローを維持できるよう努力しました。どちらか片方が長くなりすぎないようバランスを取りつつ、しっかりと繋がりのある体験だと感じてもらえるようにすることが狙いです。ゲームプレイとコミック部分の繋ぎ方や体験が支離滅裂になってしまうとダメなので。


――ありがとうございます。あまり前例がないと思いますが、バランスを保つために、何か参考にしたものはありますか。

Konrad氏:
どうやってバランスを保つのかは、最大の課題の一つでした。ストーリーとゲームプレイ要素を組み合わせたビジュアルノベルのように、ある程度バランスが取れているゲームもあります。とはいえ、そうしたゲームもビジュアルノベルパートの方にバランスが傾きがちです。直接比べられるような作品がなかったので大変でした。チャプターによってバランスを変えているのは、そのためでもあります。どのチャプター、つまりどのような配分にした場合に楽しんでもらえるのか確かめたいという意図があったのです。

プレイテストもたくさんおこないました。ゲームをプレイしてもらって、感想を聞くわけです。たとえば「ここはゲームプレイが長すぎる、もっとコミックを読みたい」といった意見が多ければ、その方向に舵を切るといった具合に。まだ誰も解いていない課題、先例がない課題であるがゆえに、自分たちで答えを探っていく必要がありました。

――「ゲームプレイを減らしてほしい」というフィードバックがあった場合、ゲームプレイを減らすのですか。それはゲーム開発としては珍しいかなと。

Adam氏:
もちろん、一人の意見だけを聞いて決めていったわけではありません。多くの人にテストしてもらい、どれくらいの割合の人が、どの部分に不満を抱いたのか、きちんとデータ化した上で調整していきました。そうしたデータをもとに、変更を加えてみたり、特定のパートを別の場所に動かしてみたり。

そうした調整をおこなった後で、改めてプレイテストを実施し、さらなるフィードバックを募るわけです。コンテンツを追加・調整・削除しながら約半年かけてプレイテストしたのですが、結果には大変満足しています。おかげで『LIBERATED』を今の私たちが作れる最高の状態に仕上げることができ、とても誇りに思っています。

「現代社会への警鐘」としてのディストピア・ストーリー

生本氏:
『LIBERATED』はアートデザイン面でもかなり品質の高い作品になっていると思っています。背景の描き込みも近未来をモチーフにしているところがあって、しかもそれを見てしっかりと頭に入ってくるクオリティになっています。

物語についても、ちょっとネタバレになるので深くは語れないのですが、痛々しい「聖マーサ小学校テロ事件」を巡る味のあるストーリーが魅力的です。あのシーンは何回再生しても心が痛みます。こうしたノワール調のビジュアルやストーリーのインスピレーション元について、教えてほしいです。

Konrad氏:
重要なインスピレーション元としてまっさきに挙げられるのは、ノワールシネマです。また開発チームは、西洋の文化とメディアから多大な影響を受けています。ノワールとSFをうまく混ぜ合わせた「ブレードランナー」や、人類解放の物語である「マトリックス」。もう少し最近の作品でいうと、「ミスター・ロボット」や「ブラック・ミラー」も。これらは、私たちの世界、私たちがよく知る世界が、ある方向に極端に偏ってしまったらどうなるのかを描く作品ですね。こうしたディストピア的なジャンルのフィクション、小説、映画、コミックが大きなインスピレーション元となっています。

もちろん、ノワールコミックからも大きく影響を受けています。Frank Millerの作品全般や「バットマン:ブラック&ホワイト」。「ウォッチメン」もそうですね。アンチヒーローの物語であり、みんながちょっと嫌な奴で、ゴタゴタなシチュエーションになっている様子は影響を受けていると思います。

私たち自身の経験や、世界で起きている現実の出来事も、大きなインスピレーションとなっています。『LIBERATED』に関する記事の見出しとして、「『LIBERATED』は世界中のニュースの見出しを集めたものだ」と書かれているものがありました。それはまさしく、私たちが作品を通じて描こうとしていたことです。

現在、世界のあちこちで、全体主義的ポピュリズムの再来のような傾向が見られます。ポーランドやブラジル、ここ数年のアメリカを見ても、その傾向は明らかです。そうした世界情勢を受けて、訓戒的な物語であったり、なにかしら関連した物語を描きたいと思ったのです。

犯罪防止という名目のもと生まれた監視社会

生本氏:
現実世界で起きている出来事というのは、ストーリー上のイベントにも繋がっているのでしょうか。たとえば、聖マーサ小学校テロ事件には、何か題材があるのでしょうか。結構生々しいというか、リアリティーがあるシーンになっているので、気になりました。

Konrad氏:
なにか特定の事件を題材としているわけではありません。聖マーサ小学校テロ事件は言わば、国家的危機・国家的悲劇という「概念」を示すものです。なにか国家レベルで注目を集める大事件が起きると、それを機に国民が団結することがあります。少なくとも、かつてはそうした事例がありました。共通の敵が生まれることで、政府を中心に国民が団結するわけです。

大きなネタバレは避けますが、ときには、わざと事件を起こしたり、その事件を機に人々が団結して変化をもたらそうとする動きをうまく操ったりすることで、個人の利益・権力拡大に繋げようとする悪人が出てくる場合もあるわけです。そうした理由があって、人々が満場一致で「許せない」「もうこんな事件を起こしてはいけない」と思うような出来事の象徴として、子供たちが被害者になるテロ行為、聖マーサ小学校テロ事件を描いています。

実際、『LIBERATED』の世界では、聖マーサ小学校テロ事件をきっかけとして、監視社会化が加速します。二度と同じ悲劇を繰り返したくないという、国民たちの想いを土台として。テロ行為や犯罪を未然に防ぐという名目のもと、人々が監視制度を受け入れていくわけです。

テロ事件の犯人が見つかっていないという状況も鍵となります。誰もが容疑者になり得る(そして誰もが容疑者に仕立て上げられ得る)のです。そうした中、真実を求め体制に逆らうLIBERATEDという地下組織が誕生するわけですが、彼らが表舞台に出た途端に都合よくテロ事件の罪を被せられます。スケープゴート扱いされてしまうわけです。

ミニマル思考なパズル設計

生本氏:
私、この業界では珍しいかもしれないですけど、体育会系なんですよね。結構脳筋なんで、このゲームで一番苦手だったのがパズルでした。簡単なものもあれば、とても難しいものもあり。ああいう謎解き要素の発想というのは、どこから出てくるのでしょうか。影響を受けたパズルの雛形はありますか。

Konrad氏:
パズルの一つは、「マインドマスター」という昔ながらの定番パズルです。4桁の暗証番号を当てるものですね。各桁、正しい数字であれば正解、数字を入れる場所が違えば「⇔」マーク、完全なハズレであればバツと表示されます。定番パズルなので、テストプレイ時にはスラスラと解けた人も結構いました。

あと、本作では「マインドマスター」パズルの解答をランダム化しています。プレイするたびに解答が変わるので、誰かに答えを教えてもらうことはできません。ただ、とあるイベントで解答が「1-2-3-4」になってしまい、来場者に「暗号になってないじゃん、なにこれ」とからかわれてしまったことも。ランダムであるがゆえのハプニングですね。

生本氏:
私が唯一得意だと言えるパズルが、その四桁の数字を当てはめるやつです(笑)

Adam氏:
(笑)それもまた、人によって考え方や得意・不得意が違うという証拠ですよね。パズルの話でいうと、90年代のクラシックなパズルゲームから影響を受けたものもあります。回路を繋ぐパズルはまさしくそうです。いわゆる水道管パズルから着想を得ました。プレイテストの結果で興味深かったのは、人によって得意なパズルもあれば、苦手なパズルもあったことです。


人によってパズルの解き方や考え方が違うため、「あらゆるプレイヤーにとって最適な難易度」を定めるのが非常に難しかったのを覚えています。誰かにとって一番簡単なパズルが、ほかの誰かにとっては最難関パズルとなる場合もあるので、「最初のパズルは簡単にして、徐々に難しくしていく」というのも一筋縄ではいきません。

Konrad氏:
パズルについて一点補足したいのは、「ミニマリズム」を意識して作っていたことです。やたらと複雑なハッキングミニゲームを設けているゲームがあったりしますが、うまくできているものばかりではありません。私たちは、まったく新しいパズルを作り上げようとするのではなく、パズルの種類を絞り、すでにうまくいくと実証されている、楽しめるとわかっているロジックパズルを厳選するようにしました。

ゲーム/コミックの常識からの意図的な逸脱

生本氏:
あとパズルを解くときに親切だなと思ったのが、敵がいるステージでも、パズル中は敵が襲いかかってこない点です。ゲーム世界の時間の流れが止まるので。リアリティーを追及すると、パズルを解いている間に撃たれるとかが普通だと思うんですけど、そうはならない。結構パズルが難しい場合もあるので、止まっているのは親切だなと感じました。

――ふと思ったのですが、さきほど本作は一人称視点のゲームとして捉えることもできるという話がありました。そうすると、パズル中に時間の流れが止まるのは、一人称視点の主体であるプレイヤー=コミックの読者が読むのを中断するからなのでしょうか。どのキャラが登場する場面でも、パズル中に表示される「手」はどれも同じです。あれは読者の視点でパズルを解いている(=読者の手)という設定だからなのかなと、気になりました。

Konrad氏:
根本的な話として、『LIBERATED』はゲームであるのと同等に、コミックブックでもあります。つまり、ゲームとしての常識と、コミックブックとしての常識や慣例が混在しているわけです。そうすると、純粋なゲーム、コミックとしてのフォーマットは維持できなくなります。

カギとなるのは、そうしたゲームやコミックのルールや常識から逸脱せざるをえない状況をうまく利用し、うまい具合に譲歩することで、全体が部分の総和に勝るような体験を生み出すことです。ただの手描きビジュアルのゲームではなく、より大きな何かの一部であるように感じられること。伝統的なコミックブックではないにも関わらず、不思議とそう感じられること。そうした反応を喚起することこそ、私たちの狙いでした。

パズル中に時間を止めるというのは、シンプルながらも、2つの側面においてとても効果的な仕組みです。まずゲーム体験としては、プレイヤーがパズルに集中できるような環境、解き方を考えるための時間と空間を与えることができます。一つのことだけに集中させる、一種のミニマリズムの表れです。敵に襲われて焦ったりストレスを感じたりすることなく、じっくりと、アクションとは違った方法で自分を試すための時間なわけです。

また、読書体験に繋がってくる話でもあります。コミックにおける時間の流れの速さというのは、実のところ読者次第です。例としてコミックの戦闘シーンを思い浮かべてください。ハイスピードで白熱したバトルなのか、スローモーションのスタイリッシュな舞いなのか。それは読者の読む速度によって変わってきます。じっくり1コマ1コマを吟味しながら読み進めるのか、早く結末を見ようとササっとページをめくっていくのか。

本作のパズル中に時間が止まるのも、プレイヤーが読むのを止めるからではなく、むしろ逆で、プレイヤーがパズルという「コミックの一要素」に集中しているからです。そのほかにも微細なデザインチョイスとして、プレイヤーに時々「立ち止まってもらう」ことを促すような体力回復システムを取り入れています。わずかな時間ですが、アクションにブレーキをかけ、「コマ分け」のような効果を生み出すことを狙ったのです。そのコマのディテールをじっくりと目に入れる時間を作り出すために。

――パズル中、あるいはテキストアイテムを読んでいる最中、コミックのコマの枠から飛び出るのも、似たような理由からでしょうか。「一人称視点のゲーム」という感覚が自然と高まるといいますか。普通のコミックでは味わえない独特の演出でした。

Konrad氏:
こちらも、コミックブックの常識から意図的に逸脱している要素の一例です。理由は極めてシンプル。視認性の確保です。コミックのコマの中に情報を詰め込むと、読みにくくなってしまいます。パズル中に表示される「手」は、視認性を確保しつつもコミックの残りの部分とうまく調和するような、曖昧で定型的な見た目にしています。


そのほかルールからの意図的な逸脱を図った例としては、血飛沫が挙げられます。ダメージを受けた際、画面の端に表示される血の表現だけはカラーにしているんです。なぜかというと、体力を示す重要な情報だからです。視認性を確保しながらも、ビジュアルの雰囲気を壊さないように作る必要がありました。

まとめると、『LIBERATED』の開発理念は、コミックの常識から適量・適所で逸脱していくことです。サウンド、アニメーション、アクションといった目立つ要素から、重要な情報がコマの枠からはみ出て表示されるという小さなディテールまで、さまざまなケースがあります。


第24回 文化庁メディア芸術祭 審査委員会推薦作品


生本氏:
話がガラッと変わってしまいますが、どうしてもこの場でWalkaboutのお二人に伝えておきたいことがありまして。先日『LIBERATED』が、第24回文化庁メディア芸術祭 エンターテインメント部門 審査委員会推薦作品に選ばれました。おめでとうございます!

Konrad氏&Adam氏:
ありがとうございます、嬉しい限りです。

生本氏:
すでにさまざまな受賞歴がある『LIBERATED』ですが、ユーザーやメディアからの反響はどんな感じなのか、お聞かせいただけたら幸いです。

Konrad氏:
東京ゲームショウで出展した2019年に、「Sense of Wonder Night」のファイナリストに選ばれたのを覚えています。アメリカのPAXでは、レビュー媒体から「ベスト・オブ・ショー」アワードをいただいたこともあります。ゲームイベントで出展した際には、いつも「凄いですね」「コミックとゲームを組み合わせるというアイデアを、今まで誰も思いつかなかったなんて」「遊び心地も見た目も最高」といった感想をもらっていました。そうした声からも、自分たちが、まだ誰もやったことがない、本当に凄いことに挑戦しているのだという自信をもらえました。無事にゲームをリリースできて、本当にうれしかったです。

生本氏:
デザインやストーリーなど、幅広い分野でノミネート・受賞されていて、素晴らしい作品だというのが、改めて実感できますね。

Konrad氏:
ありがとうございます。もう一点、『LIBERATED』のアートチームの仕事ぶりを称えたいと思います。クラシックかつ独特で際立つ、見事なアートスタイルを築き上げてくれました。このゲームの要となるのはアートおよびアートスタイルであり、彼らに敬意を示さずにはいられません。

ポーランドから日本へ、「魂がこもった漫画」を届ける


――生本様はこのゲームを、国内向けにどうプロデュースしていこうと考えていますか。

生本氏:
まずなにより、「アメコミ風アクションアドベンチャー」というジャンルが斬新だなと。聞いただけでワクワクすると思うんですよね。「何このゲーム、何が起こるの」という。おそらく多くの方が子供のころに想像したことがあると思うんですけど、「この漫画、動かないかな」「動いたら面白いのにな」「このシーン自分で味わってみたいな」とか、そうした願望を叶えてくれるのが『LIBERATED』なんです。

さきほどお話した内容とも被りますが、白黒であることによって、この漫画が動いているという感覚や、大きな感情が伝わってくるんですよね。一コマ一コマに動きがある漫画。コマの中で駆け回るアクション。言うならば「魂がこもった漫画」です。それをぜひ、日本のゲーマーに味わってもらいたいという思いから、日本展開を考えております。

Konrad氏:
みんなが共有する願望、シェアード・ファンタジーということですね。とても面白い理由だと思います。

――日本語ローカライズにおいては、どのような部分に配慮されていますでしょうか。

生本氏:
アメコミのキャラクターは、結構口が悪い人が多いと思うんですよね。放送禁止用語の「Fu**」を連発したり、そんな感じの口が悪いキャラクターが多いと思うんですけど、そこが魅力であったりします。日本語にローカライズするときに言葉の汚さとか、口の悪さが消えてしまうと、魅力が半減してしまうのかなと。なので、極力言葉の汚さとか、口の悪さというのを残せるように注意しながらローカライズを進めていきました。

セリフのフォントについても、アメコミの日本語翻訳された本をいくつか読みまして、アメコミが好きな日本の方にも「そうそう、こんな感じのフォントだよね」という風に感じてもらえるよう、気を付けてローカライズいたしました。


Konrad氏:
素晴らしいですね。優れたローカライゼーションというのは、ただ直訳するだけでなく、文化的な感覚や慣習、人々の期待などを考慮するものだと思いますし、とても重要なことですよね。フォントも同じです。紙媒体のコミックと比べて遜色ない品質だと感じてもらう上で、適切なフォント選びはとても大事です。細部までこだわっていただき、ありがとうございます。

――『LIBERATED』の日本発売に向けての想い、そして日本のゲーマーへのメッセージをお願いします。

Konrad氏:
『LIBERATED』が日本語に対応することによって、新たに本作を発見するプレイヤーが増えるので、とてもワクワクしています。新しいプレイヤーがどのような反応を示し、どのような感想を抱くのか、私個人としても非常に楽しみです。日本のみなさんの反応をできる限り追っていきたいと思います。

そして、本作を手に取っていただける方に気に入ってもらえたら嬉しいです。ポーランド産のゲームであり、私たちのポップカルチャーから影響を受けて作った作品ですが、日本のみなさんにも響くような内容になっていれば幸いです。メッセージ性であったり、アートスタイルであったり、国や文化の違いはあれど楽しんでもらえるようなグローバルさを兼ねた作品になっていること願っています。日本は漫画大国ですから、少し緊張しますね。日本のみなさんが求める水準に達しているといいのですが。あと、ぜひプレイアブルな漫画、遊べる漫画を作りましょう。

Adam氏:
『LIBERATED』を新しいゲーム体験として楽しんでもらうだけでなく、コミックとゲームの融合というアイデア自体を気に入ってもらえれば幸いです。もし「もっとこんなゲームがほしい」と思ってもらえたならば、『LIBERATED 2』を作れるかもしれませんし、同様のコンセプトを用いた新しいゲームを日本で出せるかもしれません。

――プレイアブルな漫画、それに新たなコミックとゲームの融合作。面白そうですね、ぜひとも実現してほしいです。

動いて遊べる新感覚のゲームコミック

生本氏:
私は英語ができないので、日本語対応によってようやく遊べるようになって、ストーリーが伝わってきて、嬉しいなというのが率直な感想です。実際、プレスリリースを送ったり、公式サイトを公開したりした際には、Twitterなどで「このゲームちょっと斬新でプレイしてみたかったんだけど、日本語対応してなかったから手を出せなかったんだよな」という声も見られました。本作の日本語化を楽しみに待っている方も多くいらっしゃるのかなと思っています。

さきほども話がありましたが、「漫画の世界で遊べる」という、子供のころに抱いていた夢を叶えられるのが、一番の魅力だと思っています。一コマ一コマに動きがあって、コミックを読み進めるアドベンチャーパートと、コマの中で展開される迫力の2.5Dアクションパート。「動いて遊べる新感覚のゲームコミック」になっていますので、ぜひ日本の皆様にたくさんプレイしていただきたいなという風に考えております。

――本日はありがとうございました。

ポーランド産の新感覚ゲームコミック『LIBERATED(リベレイテッド)』は、DMM GAMESより5月27日に国内リリース予定。対応プラットフォームはPS4/Xbox One/Nintendo Switch/PC(DMM GAME PLAYER)。現在海外向けに配信されているSteam版も、日本語に対応する予定だ。

公式サイトにてPS4/Nintendo Switch版予約受付中

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