インディー開発者らがSteam返金システムによる売上減を報告、一部では7割の返金も

 

先週、Steamにおける返金ポリシーが更新され、Steam内で購入したほとんどの商品は、14日以内かつ2時間以下のプレイ時間であれば“いかなる理由でも”返金が可能となった。一見すると、粗悪なゲーム作品を購入してしまった場合でも返金が可能となる、ユーザーフレンドリーな仕組みに見えるかもしれない。だがその一方で、返金システムの発表以降、一部インディータイトルにて売上が減少しているとの報告が相次いでいる。

参考記事: Valve、Steamで購入して14日以内かつプレイ2時間以下のゲームを“すべて返金可能”に変更

購入後、7割が返金

スマートフォン向けゲームを中心に開発しているスタジオQwibooは、自動生成要素を盛り込んだアクションゲーム『Beyond Gravity』を2014年9月にリリースしている。同作には600件以上のレビューが寄せられており、その総合評価は”非常に好評”。発売以降、特にゲームが起動できない等の問題も報告されておらず、最後にアップデートされたのは2014年10月。価格はわずか198円だ。

だがSteam返金システムが発表されたのち、発売から3日間で売り上げた18本のうち、13本の製品が返金されたという。購入本数の約72パーセントに当たる返金本数だ。Quibooは過去1週間の売上グラフも公表している。それを見る限りでは、Steam返金システムが発表されて以降、1日5本前後あった売上が激減していることが確認できる。

『Ultratron』や『Titan Attacks!』など、SFテーマのアクションゲームを複数リリースしているPuppy Gamesも売上減を報告している。明確なタイトル名や本数は明らかにされていないが、Steamの返金システムが発表されて以降、如実に売上が減少していることがグラフでは確認できる。2011年にリリースされた『Revenge of The Titans』では、購入後55パーセントが返金しているという。過去10年間、Puppy Gamesが直接返金に対応したのは5回のみだ。

『Democracy』シリーズなどを販売しているPositech Gamesは、返金のレートが0.09パーセントから17パーセントへ上昇したと報告した。スタジオ設立者のCliffski氏は、こういったことが続けばDRMやF2Pモデルを使用せざるを得なくなるとコメント。今回のSteam返金システムは、PCゲーミングに悪い影響を与えるとの見解を示している。

Winter Wolves Gamesは、売上全体では0.4パーセントに留まっているとしたものの、過去2週間における購入後の返金レートが14倍に膨れ上がったと報告している。ビジュアルノベルやデートシム(恋愛ゲーム)などがもっとも返金されている一方で、RPGタイトルはあまり返金されていないという。Winter Wolves Gamesは、デモが存在しないゲームに限り返金を認めていると伝えており、体験版に近い感覚で提供しようと割り切っているようだ。

プレイ時間短いインディーゲーム標的に

発表当時からSteamの返金システムを悪用するユーザーが出現する可能性は指摘されていたが、それが如実に現れたかたちと言えるだろう。Steam側から返金システムは体験版でも無料製品版でもないと忠告されているのだが、親や教師から注意されるような程度では、悪質なユーザーは誰もその声に耳を貸さない。

影響を今回報告しているのは、おもにプレイ時間が短いタイプの作品を有しているインディーデベロッパーらだ。例えば『Garry’s Mod』や『Rust』を開発しているFacepunch Studiosは、Steam返金システムが発表された後もそれほど大きな影響を受けていない。

とはいえ、特にQwibooの一件では大きな問題の無いゲームが7割以上も返金対象になっている様子で、一部悪質なユーザーがボリュームが少ないタイプのゲームを無料でプレイするつもりで返金していること、そしてValveがユーザーからの返金リクエストをまともに調査していないことをうかがわせる。現状のSteam返金システムは、2時間以内であれば遊び放題の製品を無料で提供する仕組みとなりつつあり、ちょっとした“公式海賊版”のような感覚さえ受ける。

ただし、Steam側は返金システムを濫用するユーザーが居ればそれに対処することも当初から明らかにしている。今回報告しているような一部インディーデベロッパーたちの事例を踏み台にしつつ、ユーザーの返金情報のアーカイブ化が完了すれば、次第に今回の問題も収まってゆくのかもしれない。あるいはValveがユーザー側の声を過敏に受け取り、先日の有料Modのようにシステムを終了させる可能性もある。


初代PlayStationやドリームキャスト時代の野心的な作品、2000年代後半の国内フリーゲーム文化に精神を支配されている巨漢ゲーマー。最近はインディーゲームのカタログを眺めたり遊んだりしながら1人ニヤニヤ。ホラージャンルやグロテスクかつ奇妙な表現の作品も好きだが、ノミの心臓なので現実世界の心霊現象には弱い。とにかく心がトキメイたものを追っていくスタイル。