紳士向け恋愛ゲーム『バニーガーデン』のギャンブル要素、あまりにシンプル過ぎて「レーティング対策」説浮上。極限まで研ぎ澄まされた“ギャンブル”

 

4月18日、株式会社qureateはアドベンチャーゲーム『バニーガーデン』を発売した。現在対応プラットフォームはNintendo Switch。PC(Steam)版の発売も予定されている。同作に実装されたシンプルすぎる「ギャンブル」要素が、レーティング回避のためではないかと話題を呼んでいる。本稿では『バニーガーデン』に含まれる要素についてのネタバレになりうる記述があるため、留意されたい。

『バニーガーデン』は、“紳士向け”を謳う恋愛アドベンチャーゲームだ。レーティングはCERO:D(17歳以上対象)。プレイヤーは「バニーガーデン」に通う一人の客として、女性キャストとさまざまな形でコミュニケーションを取ったり、店に通うためになんとか費用を捻出する。発売開始から人気を博しており、執筆時点でNintendo Storeダウンロードソフトランキング4位を獲得している。


極限まで研ぎ澄まされた“ギャンブル”

現在SNS上などで本作について話題になっているのが、プレイヤーがゲーム内で行うことができる「ギャンブル」だ。プレイヤーは「バニーガーデン」に通う資金を捻出するために、さまざまな金策に励むことになるのだが、そのひとつがギャンブルなのである。

ただし、本作のギャンブル要素は極めてシンプルな内容となっている。プレイヤーがギャンブルを実行すると、「ギャンブル中…」という表示と共に画面が遷移。なにやらドクロのようなものが表示され、背景にコインが舞い散る演出ムービーが流れる。そして時間が経つと結果が表示され、「WIN」もしくは「LOSE」という文字と共に無機質に所持金が増減する画面が表示される。そしてその間、プレイヤーは一切の操作や介入ができないのだ。またこの“ギャンブル”で具体的に何が行われているのか、その過程や内容についてもまったく描写されない。ただ、勝つか負けて、お金が増えたり減ったりするのである。

この描写はある種、極限までギャンブルの構成要素をそぎ落として、その本質を体現しているといえるかもしれない。演出のシュールさもさることながら、身銭を切ってギャンブルにつぎ込み、勝った金で夜のクラブに足しげく通う、という破滅的な構図が、ユーザーの話題を呼んでいるようだ。しかしこの奇妙なギャンブル演出は、周到に計算されている可能性がある。というのも、このギャンブル要素は、CEROレーティング上は“ギャンブル判定”を受けていないようなのだ。




ギャンブルだけどギャンブルではない

ニンテンドーeショップでのゲーム販売には、審査機関による作品のレーティングが原則として必須になる。実際、『バニーガーデン』はCEROの審査を受け、セクシャルな描写を含むとしてCERO:D(17歳以上対象)に指定されている。レーティング根拠を示す「コンテンツディスクリプタ―アイコン」としても、ギャンブルの表示は含まれていない。

コンテンツディスクリプタ―アイコンは9つのカテゴリーに分かれており、その中にはギャンブルも存在している。CERO倫理規定によると、審査の対象となる表現とし「非合法なギャンブル」があげられている。CEROはこうした要素が作品に存在するかを大きな基準としてゲームを審査し、レーティングを決定。その根拠を示すコンテンツディスクリプタ―アイコンを表示することになっている。

すなわち、どうやら『バニーガーデン』におけるシンプルな“ギャンブル”要素は、CEROの基準ではレーティングに影響を及ぼすほどでなかった、と考えられるだろう。こうした背景があり、SNS上では本作のギャンブル演出について「シンプルすぎる」との声が見られるほか、レーティングを考慮したためではないか、との推察が寄せられているわけだ。




“ギャンブル”の基準は

では、一体どのような要素がギャンブルと判定されるのか。CEROの詳細なゲーム審査基準は公開されていない。しかし、審査済みの作品からいくらかの判断基準を類推することはできるだろう。例として『龍が如く』シリーズはゲーム内の所持金を賭けてカジノなどでギャンブルをすることができ、一部除く全作品でコンテンツにギャンブルを含むとされ、CERO:Dのレーティングを受けている。

一方で意外なのが、ルーレットやポーカーなど実際にカジノで提供されるゲームを体験できる『THE カジノ』は、CERO:Aの全年齢判定となっている。単にギャンブル向け遊戯を遊ぶだけであれば問題なく、ゲーム内であれ違法性のある賭場で金銭のやりとりが行われていると、CEROの考える「非合法なギャンブル」と判定されるのかもしれない。

こうした事例を踏まえて『バニーガーデン』のケースを見てみると、ギャンブルによってゲーム内での金銭の増減は発生するものの、たしかに賭場などの描写はほぼない。そのため、“セーフ判定”を受けたのかもしれない。

また、『バニーガーデン』は米国版のニンテンドーeショップでも販売されている。米国版の審査機関はESRBであり、本作のレーティングはT(13歳以上)。レーティング根拠には「性的なテーマ(Sexual Themes)」「アルコールの摂取(Use of Alcohol)」が挙げられている。ESRBのレーティング基準にもギャンブルは存在し、プレイヤーが実際にギャンブルを実施したり、カジノベースのギャンブルをシミュレートさせる描写がレーティングの対象となるのだが、本作は該当していないと現時点で判断されているようだ。結果として本作の研ぎ澄まされた“ギャンブル”は、日米両方向けに“セーフ判定”を受けている様子である。




ゲームにおけるギャンブル要素のリスク

実際、『バニーガーデン』がレーティング回避のために極限までギャンブル要素を研ぎ澄ましたのかどうかについては定かではない。しかし、時に特定のレーティング基準に該当するかどうかは、ゲーム開発・販売側にとって非常に大きな問題となる。

たとえば、ローグライクポーカーゲーム『Balatro』のケースでは、審査団体IARCにりレーティングが突如として全年齢から18歳以上対象へと引き上げ。ニンテンドーeショップの規約により販売取り下げになった(日本を除く地域では販売再開済)。同作開発元は、IARCと協議の上でレーティングを受けていたにもかかわらず、ギャンブル要素を理由に通告なくレーティングを引き上げられたと伝えていた(関連記事)。どの開発・販売元にとっても、ゲームの特定の要素がレーティング要素に該当するかは細心の注意を払うべき事象だろう。なお、『バニーガーデン』はIARCの審査は受けていない。


また本作の開発会社qureateは、PC(Steam)/Nintendo Switch向けに多数の作品を発売している。セクシャルな描写を含むとしてCERO:Dレーティングを受けている作品が多く、過去にはCERO:D指定で販売したNintendo Switch向け作品が、ニンテンドーeショップ上で突如販売停止となった事例もある(関連記事)。そういった経緯もあり、ストアやレーティング審査団体に向けての対策として、“研ぎ澄まされたギャンブル演出”が誕生したのかもしれない。

『バニーガーデン』はニンテンドーeショップにて発売中。PC(Steam)版の発売も予定されている。