三人称視点ゲームでの「弓矢」にはかなり工夫が必要と開発者らが明かす。『The Last of Us Part II』や『ティアキン』における“射線ズレ”防止策

 

三人称視点のゲームでは、エイム時にプレイヤーキャラの表示位置が横にズレることが多い。『The Last of Us Part II』などさまざまなゲームにおいて、このズレによって「弓」を射る際に生じる違和感や遊びにくさをなくすための工夫がほどこされているという。


三人称視点のゲームの弓にまつわる工夫が明かされるきっかけになったのは、開発者のWalaberことTimothy FitzRandolph氏の投稿だ。同氏はゼリー状の車が主役の2Dアクション『JellyCar』シリーズを手がける人物。同氏は7月16日、『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』におけるカメラ視点について独自に分析し、ツイートにて紹介した。同氏いわく、『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』では弓でエイムする際に特徴的なカメラ視点が採用されているそうだ。


三人称視点のゲームでは、エイム時にキャラの背中越しに左右どちらかに寄ったカメラ視点が採用されることも多い。一方『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』ではエイム時にカメラがズームされリンクの真後ろに位置するような構図になる。Timothy氏はこの理由を、三人称視点のゲームにおいて生じる「カメラ位置・レティクル(照準マーカー)とキャラの位置との弾道のズレ」を避けるためではないかと推察している。

キャラが左右どちらかに寄ったカメラ視点が採用された三人称視点のゲームでは、レティクルの延長線とキャラの銃口の向きにズレが生じる。そのためレティクルどおりに着弾させるためには、銃弾を銃口からまっすぐ飛ばすのでなく、レティクルにあわせるような弾道の調整が必要となる場合もある。Timothy氏は、『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』では、こうした問題を避けるためにカメラ視点を左右に寄せない構図が採用されたのではないかと推察している。


Timothy氏の投稿に対して『The Last of Us Part II』の開発者Derek Mattson 氏が反応を示した。同氏は『The Last of Us Part II』にてシステムデザイナーを担当しており、現在はNaughty Dogにてシニアゲームデザイナーを務めている。同氏は三人称視点でのエイムと射撃において生じる問題へのアプローチはいくつもあると前置き。『The Last of Us Part II』における解決策について紹介する絶好の機会だと述べて、同作および前作での工夫について説明している。

なおDerek氏によると、三人称視点でのエイムと射撃においては、弾が遅いほど問題が複雑化するという。そのため、銃器よりも弾速が遅く複雑な問題が生じる弓に焦点を置いて解説をおこなっている。


まずDerek氏は、前作となる『The Last of Us』での工夫を紹介した。同作の弓はレティクルを用いず、視覚的に弾道が確認できるように表現されていた。一般的なゲームにおけるグレネードなどの投てき物のように、弧を描くインターフェースが用いられている。そもそもレティクルがないため、レティクルどおりに矢が飛ぶように調整する必要もないわけだろう。

一方でこの方法には欠点もあるという。まずプレイヤーは、射る前に矢の軌道をほぼ完ぺきに確認できるため、狙いをつけやすくなりすぎるそうだ。プレイヤーが調整するのは、矢が着弾するまでの時間などを考慮した発射のタイミングだけになる。さらにこの方法では、キャラの位置によっては壁に矢を射てしまうという。カメラ視点上では見えている敵であっても、プレイヤーキャラ自体が壁際などにいると矢が阻まれてしまうわけだ。Derek氏によれば、たとえ矢が壁に阻まれることを射る前に画面上で確認できても、こうした仕様はゲーム体験を損なってしまうという。


一方でDerek氏は別の工夫が用いられていると見られる作品として、『トゥームレイダー』シリーズ作品を例に挙げて推察している。同氏によると、同作ではカメラの位置から直接矢が発射されているという。しかしプレイヤーに弓から発射されたように見せかけるため、弓に視覚効果を追加しているそうだ。同氏はこれを、矢の速度が速い場合に効果的な手法だと説明している。

ただしこの方法にも欠点はあり、矢の速度が遅いとカメラから矢が飛んでいるのがバレてしまうそうだ。またDerekは、矢の軌道などを見た場合にも、弓から矢を放っていると感じにくい可能性があるとしている。さらに(矢が速いと)銃器を撃っているような感触になり、弓の特徴が損なわれかねないとのこと。


そしてDerek氏は、『The Last of Us Part II』ではこの2つを良いとこどりしたような“ハイブリッドな”手法が用いられていることを説明している。というのも同作では、矢を射る際に、内部的には矢の軌道がカメラ位置とプレイヤーキャラの位置とで、2種類処理されているという。

まずはレティクルについて。『The Last of Us Part II』では前作から変わって、矢を射る際にレティクルが用いられるようになった。そのためまず今作ではエイム時に、内部的にはレティクルどおりの軌道・着弾点が計算されるという。その後プレイヤーキャラの位置が考慮され、レティクルどおりの軌道・着弾点から逆算されるかたちで、キャラがつがえる矢の向きや放った際の軌道が処理されているそうだ。

さらにもう一つの工夫として、『The Last of Us Part II』では壁に矢を射てしまう事態が起こらないそうだ。これは、キャラの弓から放たれた矢の軌道上では、矢が敵にしか当たらない仕組みが採用されているためだという。つまりカメラ視点やレティクル上では邪魔にならない障害物を、矢はすり抜けてくれると見られる。


ちなみにキャラの弓から放たれた矢の軌道上で、矢が敵にだけは当たる理由も説明されている。これはプレイヤーキャラが狙う先にいる敵を矢がすり抜けてしまうと、プレイヤーはゲームに“イカサマ”されたような感情を抱きかねないためだそうだ。プレイヤーが不利になる要素を取り除きつつ、かつストレスを感じさせないようにする思いやりといえる。

なおDerek氏は、『The Last of Us Part II』がシングルプレイ用ゲームだからこそ、こうした工夫が上手く機能したと見ているそうだ。特にプレイヤーキャラの弓から発射された矢が障害物をすり抜けて飛ぶ仕様は、オンライン対戦ゲームでは公平性を欠くシステムだろう。ちなみに同氏いわく、矢と違って弾速の速い武器の場合は、発射された弾がグラフィックとして描かれるのはプレイヤーキャラから数十メートル先になるという。プレイヤーが弾道を確認しづらいため、レティクル上での弾道とキャラの位置のズレはあまり問題にならないそうだ。


三人称視点のゲームにおける開発者の工夫が語られた一連のツイート。特に弓などの弾速が遅い武器には、プレイヤーが違和感を覚えないような細やかな工夫が施されている場合もあるわけだ。また『The Last of Us Part II』では、プレイヤーにストレスを感じさせないために“2種類の弾道”が内部的に処理されているという点も興味深い。ゲームへの没入感やプレイヤーの体験の質を高めるために、あらゆる部分にさりげないこだわりや配慮は盛り込まれているのだろう。