『ポケモンGO』が「“うつ”を緩和した」と示唆する研究報告。検索トレンドから見る位置情報ゲームの可能性

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『ポケモンGO』について4月11日、興味深い研究結果が発表された。『ポケモンGO』が、メンタルヘルスによい影響を与えるのではないかとする内容だ。海外メディアThe Gamerなどが伝え、ここ数日で注目を集めている。

『ポケモンGO』は任天堂とNianticが手がけるモバイル向け位置情報ゲーム。本作は端末のセンサーを利用し、プレイヤーが現実世界で所在する場所の位置情報が、ゲーム内に反映される。ゲーム内マップを移動するには現実世界を移動するしかない。そのため、ゲームプレイの際にはプレイヤー自身の外出が促されるほか、他者との交流が肝要になる要素もある。本作は2016年から世界各地域にて順次リリースされ、一躍ブームを巻き起こした作品だ。


そんな『ポケモンGO』が、「軽度のうつ病や抑うつ状態(Depression)を緩和するのではないか」と示唆する研究結果が先日発表された。Aaron Cheng氏を中心とする研究者たちによる論文だ。Cheng氏は、ロンドン大学のカレッジのひとつ「ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)」にて助教を務めている人物である。

『ポケモンGO』と軽度のうつ病や抑うつ状態の関係を探るうえで、どのように人々のメンタルヘルスを観測したのか。Cheng氏らが多くの人々のメンタルヘルスを分析する上で利用したのが「Googleの検索ワード」だ。同氏らは、メンタルヘルスの問題にまつわるワードを選出。「depression(うつ病/抑うつ)」「stress(ストレス)」「anxiety(不安)」「fatigue(倦怠感)」などのワードでの検索の多寡を指標とした。つまり、そうしたワードで検索する人が多ければ、精神的な問題を抱える人も多く、逆もまた然りとの考えだろう。

このアイディアは、Google検索ワードの傾向から人々のネガティブな状況を分析する「Google悲惨指数(Google Misery Index)」なる指標に端を発しているようだ(The Washington Post)。「悲惨指数(Misery Index)」とはもともと、失業率と消費者物価指数の上昇率から導き出される、「国民の経済的な悲惨さ」を示そうとする指標だ。すなわちGoogle悲惨指数は、検索ワードをもとに人々の悲惨さを示そうとする、オリジナルの悲惨指数の派生系といえるだろう。


Cheng氏らは独自に調整したGoogle悲惨指数による分析を、英語圏の12の国における166地域に分割して適用。それぞれの地域における、2016年の『ポケモンGO』リリース前後の、検索ワード傾向を検討している。その結果として、『ポケモンGO』がリリースされた直後の地域では、Google悲惨指数が有意に低下。つまり、精神的に健康な人々が増加したことを示唆するデータが得られたというのだ。ひいては『ポケモンGO』のおかげで、一部の人々の抑うつ状態が緩和されたとも考えられる。また一方で、位置情報要素のないほかのデジタルゲームのリリース直後には、同様の効果は見られなかったとの示唆も得られたようだ。

本論文では、そうした現象の要因についていくつかの推論を提示している。まず、「体を動かすことがメンタルヘルス改善に寄与しているのではないか」との推察だ。『ポケモンGO』に限らず位置情報ゲームはその性質上、歩行などの身体的動作を伴いやすい。身体活動による精神衛生上の利点は多くの研究で論じられており、説得力もある考えだ。ほかには、「ほかのプレイヤーとの直接交流により、ストレスや不安が緩和されている可能性」「屋外に出て自然に触れることにより、うつ病/抑うつ状態が緩和される可能性」について触れられている。いずれにせよ、外出や直接交流を促す位置情報ゲームならではのシステムが、メンタルヘルスに有益に作用しているのではないかとの見解だ。


一方で本論文は、あくまでも「軽度のうつ病や抑うつ状態」に限った推論であると繰り返し強調している。また、Google悲惨指数の低下はあくまでも『ポケモンGO』リリース後、6週間ほどの一定期間のみに見られる傾向だったそうだ。当然ながら、位置情報ゲーム単体ではメンタルヘルスを健康に保つ上での特効薬とはなりえず、生活環境の改善や医療サポートが肝心となるだろう。一方で、本論文は位置情報ゲームがうつ病の改善に一定の効果を示す可能性も示唆している。また、論文は「テクノロジーとメンタルヘルスの関係性への理解が、今後より深まることを期待する」との旨を述べて締めくくられている。

ゲームと精神の関係性は、まだ学術的に未知の多い分野だ。「位置情報ゲームが外出を促し、気晴らしになる」との直感をデータから裏付けようとした本研究は有意義なものだろう。同分野の研究と理解が進めば、「楽しく遊ぶだけで精神的に健康になるゲーム」などが多くの人々のメンタルヘルスを支えることになるかもしれない。また、位置情報ゲームに限らず、ゲームそのものがゲーマーたちの心の支えになっている側面もあるだろう。

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