任天堂が、海賊版ROM配布サイト訴訟での判決内容に不満。月約5500円の賠償金も支払われず、「永久的差止命令」を求める


任天堂の米国法人Nintendo of Americaは今年5月26日、会員制ROM配布サイト運営者を相手取った裁判に勝訴。運営者側には約2億3000万円の損害賠償金支払いが命じられていた。しかし、この判決は任天堂側、運営者側双方にとって不満の残るものだったと見られ、まだ争いの火種が燻っている状況のようだ。海外メディアTorrentFreakが報じている。

任天堂が勝訴した訴えは、ROM配布サイトRomUniverseの運営者であるMatthew Storman氏を相手取ったものだ。RomUniverseはゲームのROMや映画、電子書籍などの海賊版を配信していたサイトで、任天堂ハード向けゲームが数多く違法に配信されていた。今年5月26日に、カリフォルニア州中央地区連邦地方裁判所は任天堂側の勝訴とする略式判決を下していた。Storman氏には約2億3000万円の賠償金支払い命令が下った(関連記事)。
 

 
任天堂側の勝訴で幕を下ろしたかと思いきや、被告であるStorman氏と原告である任天堂の双方が、判決内容の再審議を求める動議を裁判所に提出しているようだ。任天堂側は、裁判において、Storman氏への「永久的差止命令(Permanent injunction)」を求めていたものの、裁判所側はこれを却下していた。

永久的差止命令とは、平易にいうのならば、裁判後もStorman氏の同様の活動を禁ずる処分だ。これを破った場合、即座に懲役や罰金などの処罰が下されることとなる。米国法ではほかの差止命令として「予備的差止命令」および「仮制止命令」があるが、永久的差止命令は結審後の被告の活動について制限するものだ。そのため、裁判所側も判断に慎重になりやすい面があるようだ。

任天堂側は、判決の内容を受け、改めてこの永久的差止命令を求める動きを見せているようだ。争点となるのは「回復不可能な損害(Irreparable harm)」の有無である。永久的差止命令を下すにはいくつかの基準があり、そのひとつが回復不可能な損害の有無とされている。裁判において任天堂側は回復不可能な損害を証明できず、Storman氏がRomUniverseサイトを取り下げたのもあり、差止命令が下ることはなかった。
 

 
しかし、任天堂側はこれを不服として動議を提出。昨年末に可決され、今年12月21日に施行となる「商標近代化法(Trademark Modernization Act)」に盛り込まれた条項を挙げた。同法には、商標権侵害訴訟において、原告側が差止命令を請求する際に「回復不能な損害が発生した」とする場合、被告が反証しない限りは損害が認められる旨が盛り込まれている。任天堂側としては、RomUniverseが今後一切の活動再開ができないように、釘を刺しておきたいという意図があるのだろう。

実際にRomUniverseが復活する兆しはあると見られる。Torrent Freakによれば、任天堂側の弁護士であるWilliam C. Rava氏は今月始め、Storman氏と電話にて連絡を取り合ったそうだ。その際Storman氏は、RomUniverseが復活する可能性について否定せず、復活させる場合には「任天堂作品は配信から除外する」と述べたそうだ。

任天堂は裁判所にあてた文章のなかで、「過去数年にわたり、大規模な任天堂作品の商標権侵害をおこなってきたRomUniverseが、同じサイトでそのままゲームのROM配信を再開するという恐れは、差止命令の必要性を満たすものである」と述べた。また、任天堂側は、Storman氏と双方合意の上で決めた月50ドル(約5500円)の賠償金支払いについても、果たされていないと訴えている。つまり、任天堂側は、本人合意の月50ドルの支払いも履行せず、再び海賊版配信に乗り出しかねないStorman氏には、永久的差止命令による法的拘束が必要だと主張しているのだ。
 

 
一方、Storman氏側も裁判所側に動議を提出しており、約2億円の損害賠償請求を認めた裁判所の判決は誤りだと主張している。任天堂に損害が発生したかどうかについても疑義を述べており、まだ判決内容について争う姿勢を見せている。

裁判は任天堂の勝訴で判決が下ったものの、原告・被告ともに不服の旨を示しており、さらに厳しい処罰を求める任天堂の対応もうなずけるものであり、今後もまだ法廷での戦いが続いていく可能性は高いと見られる。