『龍が如く』のカラオケ曲「ばかみたい」が海外でなぜか大ブーム。ディープフェイクで無理やりバラードを歌わされる、インターネットの哀愁を背負いし者たち

Image Credit : designedmusic
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日本の極道の世界を描きながら、海外でも人気を集める『龍が如く』シリーズ。今、そのエキゾチシズムが意外なかたちでネットを席巻しているようだ。英題『Yakuza』の名で親しまれる同フランチャイズは、2018年に海外版『Yakuza 6: The Song of Life(邦題:龍が如く6 命の詩。)』を発売した。イギリスの週間チャートでは3位で登場するなど各国で好評を博し、同作の売り上げは国内版と同水準の成功を収めたという(関連記事)。今年11月には『龍が如く7 光と闇の行方』の海外版も発売を控えており、世界的なファンの期待を集めている。ところがシリーズが堅実な人気を築く一方、現在『龍が如く』のある“一要素”が異様な熱狂を集めているという。その要素とは、シリーズ挿入歌のひとつ「ばかみたい」。今、なぜかこの楽曲をさまざまな有名人に歌わせる動画がセンセーションを起こしているのだ。

任侠の世界を舞台にシリアスな物語が語られる『龍が如く』シリーズだが、その魅力は真面目さだけではない。本編とのギャップに吹き出してしまうような茶目っ気たっぷりのオマケ要素もシリーズの醍醐味だ。そのひとつが「カラオケ」で、街のカラオケ店を訪れることで息抜きのリズムゲームを遊ぶことができる。見所はなんといっても、豪華声優陣の熱演による見事な歌声だろう。主人公の桐生一馬をはじめ、各キャラクターが個性たっぷりの持ち歌を披露してくれる。

そして『龍が如く5 夢、叶えし者』から追加されたカラオケソングのひとつが「ばかみたい」だ。桐生のほか秋山や冴島、ナンバなどの持ち歌でもある。愛した男との別れを経た女性が、なお捨てきれない思いを切なく伝えるバラードとなっている。渋みのある登場人物たちが情感込めて歌い上げる姿は何ともいえない味わいだ。この楽曲は海外にて「Baka Mitai」、あるいは曲中の歌詞をとって「Dame Da Ne(だめだね)」との名称で知られている。そしてどういうわけか国外では、あらゆる有名人の顔を使って「ばかみたい」を歌わせる動画が大流行しているのだ。AIによる深層学習を利用した技術「ディープフェイク」により、さまざまな有名人の画像を使って無理やり「ばかみたい」を歌わせるミームが大量に生産されている。

同曲がウケている最大の要因は、その独特のチープさにあるだろう。ドラマチックな劇伴をバックにしっとりと歌われる哀愁。いかにもロマンチックだが、どこか自己陶酔的なおかしさも感じさせる。くわえて薄っぺらいサウンドやわざとらしいコーラスが、何とも滋味深い安っぽさを醸しているといえよう。日本語の歌詞がわからなくとも、匂いたつポエティックな世界観は洋を隔てても通じるようだ。歌謡曲の伝統芸ともいえるナルシスティックな過剰演出が、さまざまな有名人にあてがわれるて新たな笑いを生み出しているのである。ミームの標的に選ばれているのは、楽曲に負けず劣らず「悲哀」を背負った人物が多い。

たとえば今回のブームの発端といわれるのが、YouTuberのLinus Sebastian氏に「ばかみたい」を歌わせてみた動画である。同氏は技術解説系のチャンネルを運営するカナダの有名配信者だ。「Linus Tech Tips」をはじめとしたYouTube動画で知られる一方、Linus氏には別の側面もある。それは「Sad Linus」というミームとしての顔だ。今年の1月、Linus氏は自身の引退を検討している旨を伝える衝撃のライブ配信を公開した。

この発表は驚きをもって迎えられた一方、一部で異なる切り取られ方をしている。視聴者に語りかけるLinus氏の真剣な面持ちが面白がられ、ネット上で何か悲しい出来事があったときに同氏の哀しげな顔を貼るという独自のノリが誕生したのだ。結局、今回の引退はなかったことになったものの「Sad Linus」ブームは冷めやることがなかった。そしてこのエモーショナルなLinus氏の顔に件の「ばかみたい」を歌わせたところ、哀しみの化学反応が起きたのである。物憂い表情の同氏にバラードの哀愁がぴったりマッチし、投稿は注目を集めた。このツイートを発端として、多くの「ばかみたい」フォロワーが誕生する。

もう一例を見てみると、同様に反響を得ているのがインディーゲーム開発者Yandere Dev氏に「ばかみたい」を歌わせた動画だ。同氏は暗殺ステルスACT『Yandere Simulator』を手がけるデベロッパーとして知られる。しかし長く開発が遅れていることや、類似ゲームの制作者に対する脅迫疑惑などが批判を呼び、7月中頃からバッシングが激化していた(関連記事)。そこで作成されたのが下記のクリップである。「ばかみたい」の劇的な物悲しさと、Yandere Dev氏の激情的なキャラクターの組み合わせがネット住民にウケたようで、Facebookでのオリジナル版の投稿は1000件以上のリアクションを獲得。YouTubeに転載された動画は9万6000回以上再生されている。

ほとんどの動画はディープフェイク映像にオリジナル版の音源をあてがったものだが、中には「歌声そのもの」を作り直す猛者も存在する。Twitterアカウント「@DonaldDuckCover」はさまざまな楽曲をドナルドダックの声でカバーする動画で知られている。今回のトレンドも逃さずキャッチし、日本語歌詞や高音域に苦しみつつも例のしわがれ声でバラードを歌い上げた。このほか、時期はずれるが今年2月には『どうぶつの森』のしずえに「ばかみたい」を歌わせた動画も発生。海外では「ウィスキーを飲んだくれるしずえ」というミームが流行したため、アダルトなイメージから楽曲へのコラボへつながったのだろう(関連記事)。

近年海外での人気が高まっていたとはいえ、日本では2012年初出の歌が今になって流行を巻き起こしていることは興味深い現象だ。「ばかみたい」自体は2018年にもいちどブームになったといわれているが、今回はディープフェイク技術の浸透でいっそう爆発的なムーブメントになったようだ。いわゆるクール・ジャパンとは異なる不思議な文化輸出は、日本の空気感を丁寧に伝える『龍が如く』の描写力がより際立った一例といえるだろう。

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