新進気鋭のゲーム会社Chucklefish、『Starbound』の開発中「無償で働いていた」と多数の元スタッフから告発される


ナラティブデザイナーとして『NECROBARISTA – ネクロバリスタ』などのインディーゲームに携わるDamon Reece氏の、ゲーム開発者としてのキャリアをスタートさせた当時を振り返るツイートが大きな反響を呼んでいる。同氏は、250万本以上を売り上げる人気サンドボックスゲーム『Starbound』の開発にのべ数百時間携わったが、開発元Chucklefishからは1セントも報酬を支払われなかったという。

https://twitter.com/demanrisu/status/1166549893223198723

 

多くのスタッフが無償労働を糾弾

Chucklefishは、『Starbound』のほかにターン制戦略シミュレーションゲーム『Wargroove』を開発したデベロッパーであり、また『Stardew Valley』など多くのインディーゲームの販売も手がけるメーカーだ。Damon Reece氏は、16歳の頃から約2年間『Starbound』の開発に携わったという。そして同作は、Reece氏やほかの十数人を無償労働させたうえで、信じられない金額を稼ぎだしたと主張。そのうちの何人かはのちに同スタジオ内で働くことになったが、だからといって彼らが搾取されていなかったことにはならないとし、Chucklefishのマネージメントを信用すべきでないと批判する。

同氏の発言からは、外部の開発者として『Starbound』の制作に参加していたことがうかがえる。Reece氏は、自身のキャリアを終わらせる結果になるかもしれないと思い、このことについて長いあいだ言い出せなかったという。ただ、安定したポジションで働くことができるようになったため、今回告発することにしたのだそうだ。

このReece氏の訴えについて、『Starbound』のグラフィックアーティストRho Watson氏は、当時その場にいたとして事実であるとコメント。また同作のコンセプトアートを担当したChristine Crossley氏も、Chucklefishから報酬は支払われなかったと告白している。Crossley氏は、定期的に配布する壁紙を手がけていたほか、FloranおよびHylotl種族のコンセプトアートを手がけ、少なくとも100時間は無償で働いたそうだ。当時は、報酬について尋ねると怒鳴りつけられるだろうと思い、怖くて言い出せなかったという。

『Battle Chasers: Nightwar』などに携わった作曲家Clark Powell氏も、Damon Reece氏の発言に反応している。Powell氏は『Starbound』の楽曲やサウンドを手がけるはずだったが、ディレクターから報酬は支払わないと告げられたため参加をやめたそうだ。そのディレクターは、ほかのアーティストやコーダーも無償で働いていると明かし、Powell氏から参加しないと伝えられると激怒したとのこと。

Powell氏はのちに、無償で働いていたスタッフと話す機会があったという。彼らいわく、Chucklefishからは将来的には報酬を支払うと約束され、すでに多くの時間と愛情を『Starbound』に注ぎ込んでいたため働き続けることを選択したそうだ。Powell氏は、彼らの情熱は業界のスターによって悪用されたが、珍しい話ではないとも付け加えている。

『UNDERTALE』『DELTARUNE』の開発者Toby Fox氏も、この件についてコメント。Fox氏は、開発途中の『Starbound』に作曲家として楽曲を提供していたことで知られるが、IRC(チャット)チャンネルにあまり参加していなかったという理由だけですべての楽曲がボツにされため、制作から手を引いたそうだ。その経験から、これらの告発者たちの訴えは事実であると信じると述べている。

また、15歳の頃に『Starbound』の開発に参加したというSeaslux氏は、ほかの告発者とは異なり、ChucklefishからはPCや開発ソフト、またロンドンのオフィスを訪ねるための渡航費を受け取ったと当時を振り返る。ただ、いずれも開発作業に従事させることが目的であったとし、純粋な報酬とは感じていないようだ。同氏は、そのことについて表立って話すことをずっとためらっていたが、Damon Reece氏をはじめとする告発に触れて、自らのゲーム開発への情熱をChucklefishに利用されていたと受け止めるに至ったそうだ。

 

Chucklefish側からの声明

こうした告発を受けてChucklefishは9月1日、海外メディアPC Gamerなどを通じて声明を発表した。その中で同スタジオは、『Starbound』の開発初期にはコアスタッフとコミュニティからの貢献者(Contributor)がコラボレーションをおこなっており、彼らは無償で働いていたことを認めている。ただ、貢献者にはコンテンツを制作する義務や締め切り、就業時間は無かったとも述べる。そして全員がゲームにクレジットされるか、合意に基づいた報酬を受け取ったとのこと。また同スタジオは、労働環境については非常に重要視しているとし、懸念があるならいつでも直接伝えて欲しいと関係者に向けて呼びかけた。

この声明に対してDamon Reece氏は、非常に残念な声明であるとコメント。貢献者には開発作業の締め切りが無かったとする点については、スタジオから強い示唆を受けており、事実上(締め切りが)存在したと反論している。また、貢献者は開発に参加する際にChucklefishと契約を結ぶ必要があったことも明かしている。その中では、将来的に同スタジオに雇用される可能性が明記されており、それが魅力だったと述べる(PC Gamer)。

Clark Powell氏が明かしたChucklefishとのやり取りから察するに、おそらくReece氏が結んだという契約には当面は無償で働くという項目があったのだろう。だとすると、Chucklefish側には瑕疵はないように思える。ただ、10代半ばの子供がサインした契約を盾に、大ヒットした作品への多大な貢献に対して何の報酬も支払わないことや、若者の熱意を利用するかのような開発体制についてはモラルの面で議論がありそうだ。なお、Damon Reece氏ら告発者は同スタジオに対し、今になって金銭的な要求をしているわけではない。Reece氏は、将来的により良いポジションに就けると信じ、多くの若者や学生が無償でゲーム開発に貢献している姿を目にしており、結果的に得るものはなく後味の悪い思いをするだけだとして、無償で働くことに対して警鐘を鳴らしている。