「鍵」の被害訴えるゲーム開発者と“鍵屋”G2Aが真っ向対立。両者の言い分は噛み合わず、溝が深まる

 

ゲームやソフトウェアのプロダクトキーのマーケットプレイスを運営するG2Aについて、パブリッシャーNo More Robotsの代表Mike Rose氏が「G2Aで買うぐらいなら違法ダウンロードして遊んでくれ」と呼びかけたことを先日お伝えした(関連記事)。これに対してG2Aは7月5日、弊誌宛に同社の立場を説明する声明を送付。G2Aのウェブサイトでも同じ内容のものが公開された。

まずは、Mike Rose氏の訴えについて簡単に振り返っておこう。Rose氏はある日、No More Robotsから販売している自転車ゲーム『Descenders』をGoogle検索したところ、G2Aで販売中という広告が同作の公式サイトよりも上位に表示されたそうだ。

G2Aは大手“鍵屋”のひとつだが、そこで売買されている安価なキーの多くについては出所が不明であるとされる。ゲーマーがこの広告をクリックして同作を購入しても、あるいは違法ダウンロードしたとしても、どのみちメーカーには一銭も入らないため、Rose氏はG2Aにお金を払うようなことはしないでほしいと訴えたのだ。今回、これに対してG2Aが声明を出しており、Rose氏もまたG2Aの声明に反応を示している

Mike Rose氏の訴えに対しまずG2Aはキーに付随する補償案を提案。最初に、個人間売買の場であるG2A Marketplaceと、メーカーが持つストアを対象にする、信頼できる独立した調査会社による調査をする。調査にて、もしメーカーのストアで盗難クレジットカードが使用され、不正に購入されたキーがのちにG2Aで販売されたと判明した場合、G2Aはクレジットカード会社のチャージバック(支払い取り消し)による被害額の10倍をメーカーに支払うとのこと。もちろん、メーカーのストアがVisaやMaster Cardなどが定めるルールに則ってクレジットカードを取り扱っていることを前提とする。

G2Aでは、盗難クレジットカードで購入されたキーが売買されているとかねてから指摘されていたため、これに対応した形だ。ただRose氏は、これまでチャージバックに言及したことはないとコメントしており、同氏の懸念に直接回答する策とはなっていない。なお、なぜメーカーのストアを調査するのかというと、そうした盗難はG2Aのエコシステムにて発生したことはなく、メーカー側で起こっているとG2Aは主張しているためである。

この調査は、メーカーが被害を訴えた際におこなわれるようで、3回目まではG2Aがその費用を全額負担し、それ以降はメーカーと折半するとしている。また調査の透明性を確保するため、誰が関わりどのような結果を見たのか、すべて公にするという。

G2Aによると、そのマーケットプレースで売買されているインディーゲームは、全体の8パーセントに過ぎないとのこと。さらに、Mike Rose氏の会社No More Robotsのゲーム『Descenders』に関するデータも示した。それによると、同作の発売日以降に出品された数はわずか5本。一方、発売前には226本のキーが出品されている。これをもってG2Aは、Rose氏のビジネスには大きな影響を与えていないと主張している。

ゲームのマーケティングにおいては、メディアやインフルエンサー、あるいはゲーマーに対し、発売日前あるいは後に無料でキーを配ることは珍しくない。しかしRose氏は、そうしたキーは最終的にG2Aに出品されることになることもあるため、No More Robotsではキーをばら撒くようなことはしない方針をとっているのだという。『Descenders』のG2Aでの売買が比較的少ないのはその影響のようだ。

そしてRose氏は、G2Aが示した『Descenders』の取引数について言及。そのデータを見ると、あるひとりの販売者が102本ものキーを販売しており、定価の半額の13ドル程度で売り出されていたとRose氏は指摘している。同作は当時はSteamでのみ入手可能で、セールでも20ドルより安くなったことはない。また上述したように無料キーの提供を絞っている。13ドルで販売して利益を上げる方法が見当たらない状況で、大量のキーを売りさばこうとする人物は明らかに怪しい。しかしながら、G2Aは何の対応も取らなかったとRose氏は述べている。

https://twitter.com/RaveofRavendale/status/1147088684753346560

Rose氏が『Descenders』のキーの販売者に問い合わせたところ、購入者にはSteamキーではなく、実際にはSteamギフトのリンクを送付するという回答があったのだという。これでも購入者はゲームを入手することはできるが、もし販売者がSteamへの支払いを拒否すれば、そのギフトは無効化され、購入者のライブラリから削除される。Rose氏は、上述の怪しいキーの出品者は、こうした仕組みを悪用して販売収益を得ているのだろうと指摘する。

またRose氏は、G2Aでの取引数が少ないからといって、ビジネスへの影響も少ないわけではないと反論する。G2Aで取引されるキーはかなり割安に設定されている。そうした価格を見たゲーマーが、正規の価格を割高に感じることは容易に想像でき、結果的にそのゲームの価値が毀損される、というのが同氏の主張だ。

一方でG2Aは、マーケットプレースで販売されるキーの大部分は、メーカーから直接仕入れて販売する業者によるものだと説明している。大量に購入するため割引が適用され、安く販売できる。そのほかにも、ゲーマーがバンドル購入した中で不要なものが出品されたり、前述したメーカーが提供する無料キーもある。そのため、必ずしも怪しげなキー(あるいはSteamギフト)ばかりが取引されているわけではない点には留意しておきたい。また、メーカーが直接販売できるG2A Directという場も設けている。

G2A Directに参加すれば、そのメーカーの作品がマーケットプレースに出品されると通知が届き、キーの出所をチェックしてブロックすることも可能だという。そのため、今回の声明の中ではG2A Directへの参加を度々呼びかけている。ただMike Rose氏は、G2Aがグレーなマーケットだという姿勢を崩すことはなく、そのような場所の隣で公式販売をすることはナンセンスだと述べる。

G2Aは声明にて、問題があると感じるならSNS上で批判するのではなく、直接連絡してくれれば共に解決に向けて取り組むことができるとし、Rose氏の対応に不満を示している。一方でRose氏は、G2Aはインディーゲームの取引は全体の8パーセントに過ぎないとした点に注目。ゲーム開発者の大部分はインディーデベロッパーだとし、G2Aがインディーゲームのキーの取り扱いを止めれば、99パーセントの開発者は幸せになれると述べる(同氏は、G2Aに対応を迫るためChange.orgで賛同者を募っている)。このように双方の主張はまったく噛み合っておらず、対立関係はまだしばらく続くことになりそうだ


国内外のゲームニュースを好物としています。購入するゲームとプレイできる時間のバランス感覚が悪く、積みゲーを崩しつつさらに積んでいく日々。