中国向けに展開予定の「Steam China」の狙いとは。運営を手がけるPerfect Worldが「Steamを合法化したい」とコメント

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Steamを運営するValveは今年6月、『Dota 2』や『Counter-Strike: Global Offensive』の中国展開で協力関係にある中国の大手ゲーム会社Perfect World(完美世界)と提携し、「Steam China」を中国国内向けに提供する計画を発表した(関連記事)。Steamは、現在でも中国から利用されており多くのユーザーが存在するが、あえて中国版Steamを別に用意する狙いは何なのか。Perfect WorldのCEOであるRobert Hong Xiao(萧泓)氏は8月2日、中国・上海で開催されたデジタルエンターテイメント見本市China Joy 2018に先立って会見をおこない、Steam Chinaについて言及した。

会見の模様を報じる現地メディア时代周报によると、Xiao氏はSteam Chinaについてはふたつの狙いがあると説明している。ひとつ目は、事実上すでに中国国内にSteamが存在することを念頭に、これを「合法化したい」とのこと。合法的な手段を用いてリスクが排除されたゲームを提供することで、Steam Chinaを安定した持続可能なサービスにしたいとし、これはユーザーにとって、そして中国政府にとっても非常に有益なことであるとコメントしている。

China Joy 2018にてPerfect Worldブースのステージに立つRobert Hong Xiao氏(写真中央の男性) Image Credit: 完美世界

現在中国国内から利用されているSteamは、日本を含め世界中で利用されているものと同じだが、これは法的には“グレー”な状態にある。中国本土でゲームをリリースするためには、政府機関による検閲を受けなければならないが、Steamで販売されているゲームは基本的に検閲を受けていないからだ。中国でPS4やXbox Oneを展開するソニーやマイクロソフトは、これに従い検閲を通過したゲームのみを提供している。Xiao氏の言う“合法化”と“リスクの排除”とは、この検閲のことを指していると見ていいだろう。

また、中国国内のユーザーはSteamでのゲームの購入やプレイは問題なくおこなえているものの、掲示板などSteamコミュニティの各ページへのアクセスは政府により遮断されている。遮断の理由は明らかにされていないが、中国共産党政府の管理が及ばない場で“自由な議論”がおこなわれるのを許さなかったのではないかという見方がある(関連記事)。熱心なユーザーはVPNを用いてブロックを回避しているが、サービスとしては正常に提供されているとは言い難い。もしSteam Chinaがコミュニティ機能を有するのであれば、そこにも政府による監視の目が入るはず。検閲可能になることは政府にとって有益だろう。ユーザーにとってのメリットは、適法なコンテンツの提供を継続的に受けられる安心感といったところだろうか。

ただ、アメリカと中国に拠点を持つインディースタジオPathea Gamesは、Steam Chinaはあくまで中国向けの“もうひとつのSteamストア”であり、中国のSteamユーザーは今後も従来のSteamにアクセスできると、Valveから受けた説明だとしてSNSに投稿していた。検閲によってタイトル数は減りこそすれ増えるとは考え辛いため、既存のSteamユーザーにSteam Chinaを利用してもらうためには特別な施策が必要だろう。それはPerfect Worldが持つ、もうひとつの狙いにヒントがあるかもしれない。

*ソニーはChina Joy 2018にて、中国の国産インディーゲームをPS4向けに披露

Xiao氏が挙げたふたつ目の狙いは、中国国内に数多く存在する若いインディーデベロッパーへのサポートだ。Perfect Worldは、比較的小規模なデベロッパーに対する資金援助を計画しており、Steam Chinaを通じてそれらの作品を世に送り出したいとのこと。中国国内では、Epic Gamesの大株主でありRiot Gamesなどを保有するTencent(騰訊)が運営するWeGameのような大きなライバルがいるため、プラットフォームとしてゲーマーの支持を得るためには魅力的かつ独自のタイトルラインナップは必須。そのための投資は惜しまないということなのだろう。また中国紙DoNewsが伝えるところによると、Perfect WorldのCOO鲁晓寅氏が、同社はSteam Chinaのために海外パートナーとの交渉を進めていることを明らかにしたそうで、海外の有力タイトルの誘致にも力を入れているようだ。

中国国内での有望なインディーゲームの発掘は、ソニーやマイクロソフトも力を入れている。ソニーはChina Hero Projectとして、そしてマイクロソフトはID@Xboxとしてインディースタジオに各種サポートを提供し、それぞれのプラットフォームの特色のひとつとして中国のゲーマーに国産ゲームをアピールしている。そういったタイトルの多くは中国向けに独占販売されるが、中には一定期間を置いてから海外にも展開する例がある。もしPerfect Worldも、Steam Chinaと既存のSteamを連携させて、同時あるいは時間差を置いて中国産インディーゲームを世界展開させる考えがあるのであれば、Steam Chinaの存在は中国以外のSteamユーザーにも恩恵があると言える。

WeGame

ちなみに、前述したTencentのWeGameは今年9月から世界展開を開始する。まずは中国の特別行政区である香港とマカオ、そして台湾へと進出し、それからアジアや欧米へと拡大していく計画だ。その海外版WeGameでは、中国国内で開発されたゲームも販売するとのことで、Tencentは海外のゲーマーに中国の文化に触れてもらいたいとしている。詳細は8月21日からドイツで開催されるGamescomで発表するとのこと(A9VG)。こうした動きにはPerfect WorldやValveも注目していることだろう。

Perfect WorldのXiao氏は、Steam Chinaの準備にはじっくり時間をかけておりローンチを急ぐつもりはないとしつつ、来年のある時点で準備は完了するだろうとコメントしており、来年中にはサービス開始となりそうだ。Perfect Worldの求人情報によると、同社はSteam Chinaのために経験ある人材を募集しており、100人を超える規模の技術チームを構築するという。また中国紙の上海新闻は、Steam Chinaは上海の浦東新区に拠点を置き、自由貿易地区であることを活かして、現地での将来的なeSports産業の発展との連携を見据えていると報じている(GamerSky)。Steam Chinaは、既存のSteamがはらむリスクを回避するための合法的なプラットフォームとしてだけではなく、国内のインディーゲームの発掘と合わせて、競争の激しい中国市場の中での独自の発展を目指しているのかもしれない

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