ねこねこソフトの新作『恋しかるべき』はSteam向けで「ボリュームほどよく集中して楽しめる」ゲームに。オーバーラップと『みずいろ』『ナルキッソス』片岡とも氏に訊いた

『恋しかるべき』プロデューサーのオーバーラップ上岡忠史氏と、ディレクターおよびシナリオ/脚本をつとめる片岡とも氏に話を訊いた。

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恋しかるべき~迷い家からの手紙~(以下、恋しかるべき)』は、7月10日にSteamで発売予定のオーバーラップのビジュアルノベルブランド「OVERLAP GAMES(オーバーラップゲームズ)」第一弾として、ねこねこソフトが開発を手がけたタイトル。シナリオは『みずいろ』『ナルキッソス』『神の国の魔法使い』などを手掛けた片岡とも氏、キャラクター原案は『Christmas Tina ‐泡沫冬景‐』のWerkbau氏が担当している。

主人公「松田尚冬」は祖父母の実家である田舎で過ごしていたが、町には山に入ると呪われるという伝承が存在していた。非科学的なものは信じない彼は気にせず禁忌とされた山中を進み、辿り着いた古びた社でヒロイン「煤(すす)」と再会を果たすというストーリーだ。

今回はプロデューサーのオーバーラップ上岡忠史氏と、ディレクターおよびシナリオ/脚本をつとめる片岡とも氏にお話をうかがう機会を得た。本稿では『恋しかるべき』が生まれた背景を掘り下げつつ、どのような作品を目指したのかを中心に、ねこねこソフトに関する裏話なども訊いている。

オーバーラップ×ねこねこソフトが実現した理由

――まずはオーバーラップが、新たにビジュアルノベルブランドを立ち上げた理由を教えてください。

上岡忠史(以下、上岡氏):
弊社は出版社として本という媒体からIPを作成してきましたが、ゲーム方面でも新しい表現が可能ではないかと考えて事業をスタートしました。社長の原田(直樹氏)が現コーエーテクモゲームスの出身で、ゲームの持つ可能性を感じていたのが一番のきっかけです。2025年10月に上場したタイミングを機に、日本のゲームをさらに盛り上げていきたいという思いを込めてブランドを立ち上げました。

――ゲームと一口に言ってもアクションやRPGなどさまざまなジャンルがありますが、ビジュアルノベルに特化したブランドにしたのはなぜでしょうか。

上岡氏:
社内ではさまざまなブランド名案もありましたが、海外で一般的なアドベンチャーゲームは「ビジュアルノベル」と呼ばれている背景があり、海外展開を見据えた命名にしました。またオーバーラップは物語を大事にしてきた会社なので、ある種の退路を断つような強い気持ちを込めて、ビジュアルノベル特化のブランドにしました。

――ねこねこソフトが、オーバーラップの第一弾ゲームに参画したきっかけを教えてください。

片岡とも(以下、片岡氏):
ちょうど開発スケジュールに空きができて、「次はどうしようか」と考えていたタイミングで話が舞い込んできたのが理由のひとつですね。同じ頃に別の会社からもいくつかオファーをいただいていましたが、オーバーラップさんの案件は今回が記念すべき1作目だと伺い、光栄だと感じて引き受けました。

――結果的にNekodayで開発中の『世紀末之詩』と、開発時期が重なったのではないでしょうか。

片岡氏:
被ってしまいましたね(笑)。海外展開を目指したブランドということで、てっきり中国向けにゲームを作っている僕に依頼が来たのかと思ったら、上岡さんからお声掛けいただいたきっかけは『ナルキッソス』でした(笑)。

――本作では昭和47年の田舎を舞台にした伝奇物語ということですが、物語の核となるテーマはどのように決まりましたか。

片岡氏:
上岡さんから「昭和47年の田舎を舞台にした伝奇作品にしたい」というベース案をいただいたのが始まりです。僕からも具体的にいくつか案を出して擦り合わせを行い、最終的に今の形に着地しました。

――上岡さんとしては、昭和47年の田舎という舞台設定には何か狙いがあったのでしょうか。

上岡氏:
私自身が1972(昭和47)年生まれで馴染みがあり、懐かしさを感じられたことが一番の理由ですね。また当時はUFOや宇宙人が攻めてくるといった題材が真剣に語られ、科学や宇宙がまだどこかファンタジーとして受け止められていた時代だったため、時代背景としてストーリーも組み立てやすいだろうという狙いもありました。

――主人公とヒロインの関係性を描く上で、こだわった点を教えてください。

片岡氏:
まず最初に「恋愛ものではない」と、宣言させてもらいました。初対面から10年ほど経った時点で本編が始まる構成になっており、ヒロインとは幼馴染や家族のような距離感の関係性をイメージしています。

現代に最適化した約「10時間」のボリューム

――本作のボリュームは7~10時間程度とストアページに記載されていますが、“最後まで一気に駆け抜けたくなるボリューム”を狙った理由を教えてください。

片岡氏:
単純に僕自身が、どうでもいいことを延々と喋る会話シーンがあまり好きではなく、映画のようなテンポや雰囲気が好みなんです。もちろん会話シーンを重視した作品には、主人公へ自分を投影しながら作品の空気感を味わえる良さもあるので、どちらが良い・悪いという話ではありません。 ただ人間が集中してテキストを読める時間はせいぜい4~6時間だと考えており、それ以上長くなると斜め読みしたり、クリックを連打して読み飛ばしたりする人が増えてしまうのではないかと懸念しています。

――たしかに、昔はビジュアルノベルは長ければ長いほど良いと思っていましたが、最近は10時間くらいがちょうどいいような気もしています。

片岡氏:
わかります。僕は昔から洋画が好きで、近所のレンタルビデオ店にある映画は見たことのない作品がほとんどないほど、20年近く見続けてきました。ただ途中で「微妙だな」と感じたり、無駄なシーンが多いと感じたりすると眠くなってしまって(笑)。気づけば1.5~2倍速で視聴していることも多いです。

――そういった無駄なシーンの削ぎ方がシナリオ執筆に活かされていると。

片岡氏:
今の時代YouTubeを見るときに、1.25倍など倍速視聴が標準になっている人は多いと思います。字幕テロップがついているのも当たり前ですし、時間の価値が高くなっていると思うので、無駄を感じないボリュームのほうが良いんじゃないかと。今回もフルプライス規模で作ってほしいと言われていたら、「勘弁してください」と断っていたかもしれません(笑)。

――フルプライスのビジュアルノベルだと20~30時間はないと……という空気がありますよね。

片岡氏:
フルプライスだと最低10時間以上のボリュームを求められますが、そうなると「複数のシナリオライターを使ってもいいですか」という話になってしまいます。昔はパッケージの直販の意向などで9800円という価格の縛りがあり、どうしてもフルプライス相応のボリュームにする必要がありましたが、今はSteamなどでライトなボリュームの作品でもリリースしやすい環境で、個人的には良い時代になったと思っています。

上岡氏:
『ATRI -My Dear Moments-』や『飢えた子羊』など、近年ヒットしている人気のビジュアルノベルタイトルもクリアまでのプレイ時間は10時間前後ですし、今のユーザーにとってはそれくらいのボリューム感が一番遊びやすいのかなと感じています。オーバーラップとしても価格的に手に取りやすく、最後まで遊び切りやすい長さを目指していたので、片岡さんには「10時間前後のボリューム」として依頼させていただきました。


脚本家・片岡ともが語るシナリオ論

――キャラクターデザインなどについて教えてください。ねこねこソフトファンにはお馴染みの方々が関わっていますが、ビジュアル面に関するエピソードはありますか。

片岡氏:
中国圏のプレイヤーにも向けて展開することも考えると、「向こうのクリエイターにも制作に入ってもらったら良いのではないか」と提案した記憶があります。僕自身『Christmas Tina ‐泡沫冬景‐』を制作した経験もありましたし、「Werkbauさんに依頼するのが良さそう」ということで、Nekodayの古落さんを通してキャラクター原案として声をかけました。絵柄が好きなのは大前提ですが、実務面でも原画担当の秋乃武彦やあんころもちと並べたときに、絵柄が違いすぎて浮いてしまう心配がありません。

――たしかに新しさを感じつつも、いつもの雰囲気が維持されていますね。

片岡氏:
彼はアニメーターとしても実力が高く正統派な絵を描いてくれますし、ねこねこソフトの絵師も正統派が多いので馴染みやすかったです。久々の復活になるあんころもちは、今回のゲームに幼子(おさなご)も登場しますし、ちょうど本人のプライベート周りが落ち着いていたタイミングだったので「じゃあヤツに頼むか!」と(笑)。

――ねこねこソフトファンとしてはたまらない人選でした。音楽や演出面に関するこだわりについても聞かせてください。

上岡氏:
私が『ナルキッソス』をプレイして初めて片岡さんの作品に触れたとき、「ビジュアルと音の使い方がなんて素晴らしいんだ!」と感動したので、演出面に関しては完全におまかせで依頼しました。 またオーバーラップゲームズが立ち上がる前に社内で「我々のような50代のゲームファンが今遊べるゲームが少ない」という話をしており、往年のノベルゲームファンに向けた作品を作りたい気持ちが強くあったので、あまり奇をてらった方向には走らない王道のノベルゲームとして制作していただきました。

――舞台やキャラクターも合わせて、王道を目指したと。片岡さんがディレクターを担当する上で意識されたことはなんですか。

片岡氏:
上岡さんから「こういう要素を入れてくれ!」という細かい方向性はあまりいただかなかったのですが、なんとなく「ブランドの1作目だし、とにかく“良いもの”が欲しいんだろうな」という熱意は感じました。 “良いもの”を依頼されたときは、あくまで僕の物差しにおける“良いもの”に沿ったシナリオを執筆して、ユーザーが面白いと思うかどうか・売れるかどうかは度外視しています。『神の国の魔法使い』でも依頼元のYAMAYURI GAMES代表から、「良いものを作ってください!」と言われました(笑)。

上岡氏:
当然オーバーラップとしては商業的に成功させるのが前提ではありますが、昭和の田舎を舞台にした伝奇物にしたいということ、何より「良いものにしたい」というのが大きな軸でした。あとは単に片岡さんのファンとして、誰よりも最初にシナリオを読みたいという個人的な欲もありましたね(笑)。

――片岡さんにおまかせすれば万事大丈夫、という信頼関係ですね。

片岡氏:
丸投げされたかのように聞こえてしまったかもしれませんが、上岡さんから提案いただいて「たしかにそうだよね!」と擦り合わせた部分もたくさんあります。例えば、僕は最初主人公とヒロインのふたりだけをイメージして話を組み立てていたので、上岡さんから「もう少しキャラクターがいた方がいいのでは?」と言われたこともありました。

上岡氏:
物語のトーンを明るくしてくれる説明役のキャラクターとして、主人公の妹を登場させるのはどうですかとお伝えしました。

――妹である「松田理沙」の誕生は、オーバーラップ側の采配だったと。

片岡氏:
明るい雰囲気にしたかったのに、重い話になってしまうところでした(笑)。本作はオーバーラップゲームズの1作目であり、そのあとに続いていくタイトルが控えているわけですから、いきなり重すぎたり尖りすぎたりした作品を出すのも良くないなと。最初からハッピーエンドにしようとは決めていましたし、変な後味が残る作品にはしたくなかったので、ライトな雰囲気を意識しました。あと「昭和の伝奇物」という指定はありましたが、ミステリーやホラーにはしませんとも最初にお伝えしましたね。そういうテイストが欲しい場合は、竜騎士07さんに依頼してくださいと(笑)。

――ねこねこソフトといえば、ぽんこつキャラなど独自の魅力が長年ファンからの熱い支持を受けています。片岡さん自身はねこねこソフトらしさはどういった点だと思いますか。

片岡氏:
ねこねこソフトらしさは、商業メーカーというより個人サークルに近い感覚なんです。自分では「個人メーカー」と呼んでいますが、会社を経営しているという堅い意識もあまりなく、作品を買ってくださる方は昔から付き合いのある“連れ”のような感覚で、「お客さん」だと思ったことはありません。30年近く活動を続けてこられたのは、連れの皆さんに支えていただいているおかげなので、本当にありがたいことだと思っています。

今は秋乃と二人の体制ですが、歴代のスタッフは意外と多いんです。当時求人を出していたときは、経験者ではなく「伸びそうだ」と思える未経験の初心者だけをあえて採用していました。まずは1年間とにかく必死に頑張って一人前になってもらい、一人前になったら独立して自分の力で食べていけるようになってほしい、というのが僕の考え方で、つまりねこねこソフトは修行の場でした。 2006年頃に一度活動を休止した時点で「育てるべき人はもう十分に育った」と感じたので、新しくスタッフを募集するのはやめましたが、元スタッフたちとは今でも声を掛け合って、必要なときは助け合える関係が続いていますよ。

――ファンにとっても「片岡さん=ねこねこソフト」だと考えている人は多いと思います。

片岡氏:
辞める理由も特にありませんし、自分が活動を続けている限りはねこねこソフトは続いていくと思っています。

――上岡さんは『ナルキッソス』をプレイしてファンになったとのことでしたが、片岡さんの魅力だと思うのはどのような点ですか。

上岡氏:
『ナルキッソス』に関しては、あのような演出を取り入れたアドベンチャーゲームを他で見たことがなく、長年ゲーム開発に携わってきた身としても「自分には作れない」と素直に思いました。AAAタイトルのように莫大な予算をかけた作品ではないにもかかわらず、プレイヤーの心に強烈な印象を残す凄みがあり、片岡さんの作品には「必ず面白いものが上がってくる」という信頼を寄せています。

また片岡さんが執筆されるシナリオは、テキストを読んでいる段階でゲーム画面が自然と頭に浮かんでくるんです。開発チーム全員でシナリオを読んだときも、「もうゲームとして成立しているよね」と話していました。一般的な小説家の方が書くシナリオとは違っていて、テキストを追っているだけで場面の空気感が想像できますし、「ここで画面が切り替わって、ここで演出が入るんだな」と見えてくるんです。

片岡氏:
純粋な読み物としてのテキストを書いてきた人と、演出を含めた脚本を書いている人がいるとしたら、自分は間違いなく後者なので職業特化に近いかもしれません。僕のシナリオには、執筆段階で「ここで背景を変えて、ここでBGMを入れる」といったスクリプトの指示をあらかじめ入れています。あとは自分でプログラムを組んで形にするだけなので(笑)。

――シナリオライターにも、ふたつのタイプがあるということですね。

片岡氏:
極論を言えば僕のような脚本家タイプはエンディングの着地点ありきで、オチから逆算して物事を組み立てるので、ストーリーが途中で脱線しないですし、指定された尺に収められます。一方で小説家タイプの方は、設定から考えて筆の赴くままに書き進めるので、途中でストーリーが脱線することも多いですが、脱線部分もライブ感があって面白いんです。どちらが良い・悪いという話ではなく、自分のような脚本家タイプは、ゲームや映画といった媒体に向いているんだろうと思います。

共同開発の課題とグローバル市場への挑戦

――今回はオーバーラップゲームズとの共同開発という座組ですが、どのように開発を進めていきましたか。

片岡氏:
今までねこねこソフトのスタイルとしては、まず我々のPC環境で動作するバージョンを完成させて、各プラットフォーム向けの対応は外部の会社さんが各々のエンジンで進めるというパターンが多かったんです。今回も上岡さんが「そのやり方でいいですよ」と言ってくださったので、普段通りに開発をさせていただけました。また今回制作環境としてGoogle Meetを導入したのですが、「世の中便利になったな~」と感じたのが一番の感動でしたね(笑)。

――以前はわざわざ直接打ち合わせに行っていたところを、リモート化の恩恵を実感されたわけですね。

片岡氏:
以前は打ち合わせのために、わざわざ池袋の喫茶店に集まってふにゃふにゃ話していましたから(笑)。それがどこにも移動しなくて良くなったのには本当に感動しましたね。ねこねこソフトにも会社としての席はありますが、今はそもそもスタッフと呼べる人間が自分と秋乃武彦しかいないので、基本的には各々が自宅で作業しています。

――オーバーラップ側の開発パートで大変だったことはありますか。

上岡氏:
『恋しかるべき』の開発体制は、一旦ねこねこソフト側で吉里吉里Zを使ってベースを作っていただき、オーバーラップ側でUnityへ移植する形を取りました。ただ最初の体験版をリリースした時点では、まだオーバーラップ側にカスタマイズ能力が十分に備わっておらず、UI面などで少し物足りない出来栄えになってしまったんです。

すると中国のユーザーの方から「呂布が犬に乗っているようなものだ(中国語スラング:呂布騎狗)」というレビューを書かれまして。どういう意味だろうと思って調べてみたら、「不釣り合い」という意味で、つまりシナリオは良いのにUIが全然ダメだというお叱りでした。簡体字での意見が多かったのですが、シナリオに関しては「面白い」「続きが気になる」とベタ褒めしていただいている一方で、同時に必ず「UIがダメ」とも書かれており、ほぼユーザー全員から指摘されたのではないかと思います。

――初期体験版の段階では、システム面に対する手厳しい意見が多かったと。

上岡氏:
オートプレイ時にキャラクターの口パクが止まらないという、初歩的なバグも直しきれておらず、「せっかくの素晴らしいシナリオがプログラムのせいで台無しにされている」とまで書かれてしまいました。シナリオに関しては「さすが片岡さんだ」と強い手応えを感じていたからこそ、UI周りでユーザーの期待を裏切るわけにはいかないと、正式リリースに向けて丁寧に作り込みました。

片岡氏:
移植のしやすさを考えると、吉里吉里を使ったほうが都合がいいので使用していますが、僕自身吉里吉里に関しては素人です。しかもねこねこソフトの吉里吉里のプログラム担当は、本業で自動車整備士をしている仲のいいユーザーさんなんですよ。その人とふたりで「こうやったら動くんじゃない!?」と言いながら、いつも手探りで作っています(笑)。

また自分のPC上では問題なく動いていても、別のプラットフォームへ移植するとなると、さまざまな技術的制約やレーティングの厳しい基準がありますよね。これまで審査で何度も弾かれてきた苦い経験が多いので、今でも移植の話をいただくと「どこまでが大丈夫で、どこから怒られるのかな」という不安の方が大きいです。

――体験版では中国からの反応が多かったとのことですが、本作はSteamリリースのグローバル展開です。どういった層の方々に手にとって欲しいですか。

上岡氏:
片岡さんの持つ知名度やネームバリューを活かして、我々のような50代のかつてノベルゲームに熱い情熱を注いでいた世代の方々にぜひプレイしてほしいです。また日本の伝奇物という世界観をフックに、中国やアメリカなど海外のユーザー層にも広く手に取ってもらえたら嬉しいです。

――近年のねこねこソフトにおいては、『Christmas Tina ‐泡沫冬景‐』の中国におけるヒットなどが印象的です。中国市場の魅力について教えてください。

片岡氏:
『Christmas Tina ‐泡沫冬景‐』発売当時は、Steamがまだ日本に浸透していなかった要因も大きいですが、売上の97%は中国でした今後市場がどう変化していくかは分かりませんが、中国は日本に比べて人口の分母が圧倒的に大きいので、ユーザー層を開拓し拡大していく市場として非常に魅力的だと考えています。

あと実はねこねこソフトとして、海外に向けた展開は昔から取り組んできたんですよ。『銀色』を2000年にリリースした当時の海外では、日本のビジュアルノベルは言葉が分からないためイラストだけが見られていました。その状況にムカついて海外ユーザーにも内容が理解できるように、急遽英訳を付けて「日本語版」か「英語版」を選べるようにしたんです。音声も英語がいいだろうと考え、英語が話せる声優さんを探して知り合ったのが後藤邑子さんと、『ナルキッソス』のセツミ役も演じている綾川りのさんです。世間的には『Christmas Tina ‐泡沫冬景‐』で中国展開を始めたように見えるかもしれませんが、個人的には昔から海外に向けての施策を打っていました。

――オーバーラップさんはリリースにあたって海外市場をリサーチされたと思いますが、英語・中国圏についての手応えはいかがでしたか。

上岡氏:
英語圏に関してはまだアプローチを強めていく段階ですが、中国市場に関しては、かつて日本が経験した20年ほど前の熱気あるノベルゲーム市場に似ていると感じており、きちんとしたクオリティの作品をリリースすれば、ユーザーが熱量を持って応えてくれる感覚がありますね。物語を大事にしているオーバーラップとして、世界累計販売本数120万本を突破した『飢えた子羊』など見習うべき作品が多いので、まずは翻訳の質を担保しつつ現地のユーザーに届けていきたいと思っています。

またオーバーラップ自体も日本国内での知名度は徐々に向上してきましたが、「オーバーラップゲームズ」のグローバルな活動を通して、海外における会社の知名度も引き上げていくというミッションを掲げています。

――オーバーラップゲームズとして今後の作品展開についてお聞かせください。

上岡氏:
今後リリースするタイトルに関しても、必ず中国語簡体字、中国語繁体字、英語を標準対応し、物語を中心としたゲームを世界にリリースしていきたいと考えています。中にはアラビア語への対応を検討しているタイトルもあり、アラビア語圏のユーザーにも「オーバーラップ」の名前を覚えていただき、将来的にはさらに対応言語の幅を広げていきたいです。あとこの場で初めてお話しますが、片岡さんとは『恋しかるべき』だけでなく、今後もぜひ一緒に仕事をしていきたいなと思っています!

片岡氏:
ありがとうございます(笑)。ただグローバル展開を考えるなら、アラビア語より先にスペイン語に対応した方が需要がある気がしますけどね(笑)。

――片岡さんやねこねこソフトの今後のビジョンはどうでしょうか。

片岡氏:
今のねこねこソフトは、だいたい5年に1本くらいのペースで周年記念作をリリースするような、のんびりした活動状況です。この間25周年を迎えたばかりだと思っていたら、あっという間に30周年になってしまいそうですね(笑)。ただ実は今キャラクターデザインを尊敬しているクリエイターに依頼して、水面下で進めている新プロジェクトもあるので、そろそろ本格的に動かないといけないなと思っています。

――ファンとしてはそちらの続報も楽しみです。それでは最後に、本作の発売を楽しみに待っているユーザーへのメッセージをお願いします。

上岡氏:
オーバーラップゲームズは、今後も「物語」を大事にしたゲームを世界に向けて届けていきます。すでに第2作『終末の明日亭で乾杯を。』やその次のタイトルも控えており、ビジュアルノベルにおける表現の可能性にチャレンジしていこうと考えています。ぜひシナリオと表現に期待して楽しみにお待ちいただければと思います。

片岡氏:
僕個人としての『恋しかるべき』の感想を言うなら、「あっさりとした味付けの中編ノベル」です。プレイした後に鬱になるような重い作品ではないですし、涙が止まらないほどもの凄く大感動するというタイプでもありません。お菓子でも食べながら休日にまったりと遊んでもらえると嬉しいです。それと、今後のオーバーラップさんに幸あれ!

――ありがとうございました。

『恋しかるべき~迷い家からの手紙~』は、PC(Steam)向けに7月10日発売予定だ。

[聞き手・編集:Yuuki Inoue]
[執筆:Kei Aiuchi]

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