『Halcyon 6』レビュー もったいないオバケがとりついたスペースオペラRPG


Halcyon 6: Starbase Commander』は、『Mass Effect 3』を想起する壮大なストーリーにしびれるスペースオペラRPGだ。プレイヤーは古代文明の宇宙基地「ハルシオン6」の総司令官となり、強大な敵対勢力の侵略から人類を救うべく、基地を拡張し、艦隊を増強し、コマンドバトルで戦闘する。ゲームの特徴にレトロを模したとあるとおり、低解像度調のピクセルアートと、デフォルメのキャラクターデザインで、見栄えはキャッチーだ。その実、中身はモダンで、リッチなヴィジュアル演出に、オーケストラとチップチューンのBGM、プレイングにひねりある戦闘システム、重厚なストーリーは現代水準に達している。

だが、コンテンツをつなぐゲーム設計が迷走したのは残念だ。『Star Control』『Master of Orion』『XCOM: Enemy Unknown』『Sid Meier’s Civilization』『FTL: Faster Than Light』をフォロー元とするそうだが、要素の取捨選択に失敗し、いびつなものになった。シナリオ前半は退屈な集金で、ゲーム終了までモグラたたきがつづく。シナリオ進展に主体性がなく、ストーリーを紐解くよろこびがない。これを助長するのが、「詰み」状況を招く育成要素のミスリードである。リスタートを何度も強いられ、上記の魅力がかすれてしまう。

そうした目に余る練磨不足が、ゲームに大きな傷をつけている。それでも、アートワーク、戦闘システム、スペースオペラを満喫できるストーリー、といったコンテンツは情熱を感じ取れる力作だ。これらが主役のゲームだと割り切れば、ゲーム設計とUIの不出来を「レトロゲームならでは」と好意的に解釈できよう。

halcyon-6-starbase-commander-review-001

『Halcyon 6: Starbase Commander』
開発: Massive Damage, Inc.
発売日: 2016年9月9日
価格: 19.99ドル
プラットフォーム: PC(Windows、 Mac)

本作はKickstarterで目標4万ドルのところ、18万ドル以上の資金を集めた注目作だ。過去にIndie Pickでも紹介しており、記憶にとどめた方もいるだろう。制作発表時は基地・人員管理や、他種族との外交、リプレアビリティ重視など、戦略ゲームを予定していた。製品版はそれらの痕跡が残る程度で、分岐無しのシナリオを追いかけるものである。箔付けにメジャータイトルを羅列した発表当初と比較し、製品版は別ジャンルのゲームとなったが、最近よく耳にする「大規模な返金要望」はでていない。

期待に応えた上質の宇宙

冒頭のとおり超有名作をフォロー元に並べているが、プレイフィールは『ロマンシング サ・ガ』からダンジョンを取り除いたものである。プレイヤーは宇宙マップに広がるさまざまな星系にパーティを派遣し、その移動先でクエストをすすめ、コマンドバトル方式の艦隊戦や白兵戦をこなす。移動中のエンカウント率は低く、ストーリーと戦闘を直結したシンプルな構造で、力作のコンテンツをスムーズに楽しめる。

宇宙マップ。星系や星雲、小惑星帯に向かい、そこでテキストを読み、敵艦隊と戦闘する。
宇宙マップ。星系や星雲、小惑星帯に向かい、そこでテキストを読み、敵艦隊と戦闘する。

halcyon-6-starbase-commander-review-003

16bit機ゲームを模したヴィジュアルはデフォルメしたデザインながらも意匠を感じ取れる。戦闘中の攻撃演出はバリエーションが豊かで、テキストによるかけ声もあり退屈しない。特に、ゴア表現はアニメーション枚数が多く、ピクセルアートのコダワリを感じ取れる。その見栄えを盛り上げるBGMは、弦・打楽曲にビットチューンを織り交ぜ、スペースオペラの様式とレトロゲーム調を両立した。マップ表示時はアンビエントミュージックが宇宙の深淵さを描き、戦闘時は力強くリズミカルな打楽器がプレイヤーを鼓舞する。奇抜だが調子を外したものはなく、本作の雰囲気づくりを担っている。

ゲームの大半を占める戦闘は最大3対3のコマンドバトル。速度で行動順が決まり、各々がスキルで攻撃する定番の方式だ。特徴は攻撃系のスキルがほぼすべて、ダメージと同時に弱体化を与えるか、弱体化を破壊し2倍ダメージを与えるか、または両方を持つ点にある。敵側の火力を減らす方法が「ダメージを優先して頭数を減らす」「弱体化をあえて残す」の2種類あり、弱体化の成功確率やダメージ幅のおかげでプレイングを要し、作業感はない。

戦闘システムの例。弱点マークをつけて、壊すと2倍ダメージ。画像左では科学者の船が弱点マークをつけ、画像右では指揮官の船が弱点マークを壊している。敵を封殺する連携パターンが崩れたときのリカバリは手に汗を握る。
戦闘システムの例。弱点マークをつけて、壊すと2倍ダメージ。画像左では科学者の船が弱点マークをつけ、画像右では指揮官の船が弱点マークを壊している。敵を封殺する連携パターンが崩れたときのリカバリは手に汗を握る。

戦闘の舞台になるストーリーは重厚なスペースオペラだ。滅亡の危機に瀕した人類に追い打ちをかける悲痛な展開。迫りくる敵巨大艦を迎え撃つ新兵器の開発。敵対や日和見を決め込むが、共通の敵に対峙し手を結ぶ異星人国家。終盤では古代文明の遺産ハルシオン6を中心に、敵対勢力、異星人国家のつながりが明らかとなる。白熱の展開はエンディングでカタルシスへ昇華し、古代の因果を断ち切った人類に再生を約束し終演する。

イントロダクションより。ハルシオン6に調査隊を派遣した連邦艦隊は、主星へ帰還する途中、正体不明のシグナルを受信し調査に向かう。そこにいたのは異次元から出現した巨大な生体宇宙船と、それを動かす正体不明の存在Chruulだった。艦隊からの状況を受信した調査隊は独力でレーダーを回復するが、すでに連邦は崩壊し、主星との通信は途絶えていた。
イントロダクションより。ハルシオン6に調査隊を派遣した連邦艦隊は、主星へ帰還する途中、正体不明のシグナルを受信し調査に向かう。そこにいたのは異次元から出現した巨大な生体宇宙船と、それを動かす正体不明の存在Chruulだった。艦隊からの状況を受信した調査隊は独力でレーダーを回復するが、すでに連邦は崩壊し、主星との通信は途絶えていた。

キャッチーなアートワーク、やりごたえのある戦闘、そしてジャンル様式美を踏襲した物語。これらで本作の訴求対象ことスペースオペラファンの期待にこたえている。制作発表時とゲーム内容がちがうのを忘れてしまえるほどのコンテンツだ。惜しいのは、楽しむのに根気を要する点だ。戦略ゲームの要素がRPGとかみ合わず、ゲームの理解をすすめるごとにリスタートを強いられ、分岐のないストーリーを何度もなぞることとなる。

ゲーム設計の迷走

『Halcyon 6: Starbase Commander』の欠点は、ゲームジャンルと、プレイヤーに体験させたい感動の不一致にある。戦略ゲーム調で行動の自由度は高いが、シナリオ分岐がない一本道のストーリーとは相性が悪い。イベントフラグを管理するゲーム内時間が経過するまで、ひたすら敵侵攻を食い止めるだけだ。ゲーム展開の要約はモグラたたきである。

ゲーム後半の画像。連邦圏の安全を確保できると、居住区から資源運搬のシャトルが飛び立つ。ゲーム前半が単調な集金回収ではなく、これらシャトルを海賊や敵対勢力から救出する内容であればよかったのだが。
ゲーム後半の画像。連邦圏の安全を確保できると、居住区から資源運搬のシャトルが飛び立つ。ゲーム前半が単調な集金回収ではなく、これらシャトルを海賊や敵対勢力から救出する内容であればよかったのだが。

ゲーム前半はパーティの育成が目的となる。その手段となる資源集めは退屈だ。資源を入手するために、マップに点在する人類の居住区に定期的に訪問する、いわば集金である。イベントの多くはゲーム内時間をトリガとし、効率良いプレイを目指すほど「進展待ち」が長くなる。複数のパーティを運用し効率を求める行程は楽しいが、そこにプレイヤーの主体性はなく、ストーリーをすすめている気がしない。(以上は発売日バージョン。9月25日バージョンで、ゲーム前半の集金を自動化する施設を追加した)

資源集めの移動や、基地の整備、施設建設、宇宙船建造など、ほとんどの行動はゲーム内時間を消費する。そして、敵は時間の経過とともに強化されていく。敵の強さが時間を有限のものとし、時間を変換して得る資源も有限のものとなる。有限の資源をパーティ育成に割り振る、というと楽しい要素に聞こえるが、本作の育成項目はほとんどが役立たずだ。戦闘の9割を占める艦隊戦を効率良く強化する方法は、従来型の2倍強い次世代型艦船の建造である。最適解がひとつしかなく、自由度がミスリードを生み出している。

画像左が第一世代。画像右が第二世代。ライフにあたるHullが増えるだけでなく、ベースダメージが2倍となり、さらにスキルがひとつふえる。従来型の改修や、士官レベルアップ時のスキル強化はわずかなものだ。結果、全資源を次世代型の建造に回すのがもっとも効率良い強化となる。
画像左が第一世代。画像右が第二世代。ライフにあたるHullが増えるだけでなく、ベースダメージが2倍となり、さらにスキルがひとつふえる。従来型の改修や、士官レベルアップ時のスキル強化はわずかなものだ。結果、全資源を次世代型の建造に回すのがもっとも効率良い強化となる。

パーティの中核となる3人の士官も、クラス編成は自由だが、各クラスをひとりずつ入れるのが最適解である。戦闘中に効率良く弱体化を付与、破壊できるためだ。さらに、シナリオに各クラスの出番があり、対応する士官が不在、またはレベルが低いと大幅なタイムロスになる。これも自由の自己責任とミスリードをはき違えている。

本作の自由な行動は大半に価値がなく、それが分かるのは手遅れになったときだ。時間経過で強くなる敵が、プレイヤーのミスの挽回をゆるさない。こうして、仕掛けられた「自由度の罠」にかかるたび、ゲームをはじめからやり直すことになる。ゲーム展開を鮮明なものとする説明がないのも、それを助長し不快感を強くする。例えば、上位の宇宙船を開発する研究に資源を支払った後で、上位の宇宙船建造に要する施設の費用が初めて分かる、といった具合である。

研究画面。雑なつくりで視認性は無いに等しい。また、一部の研究項目は基地の施設でしか実行できない。実のところ無用で、フォロー元に『Civ』の名をあげたので付けておいたかのように見える。この研究項目も他の育成要素と同様、大半がゲーム攻略の役には立たず、ミスリードを招いている。
研究画面。雑なつくりで視認性は無いに等しい。また、一部の研究項目は基地の施設でしか実行できない。実のところ無用で、フォロー元に『Civ』の名をあげたので付けておいたかのように見える。この研究項目も他の育成要素と同様、大半がゲーム攻略の役には立たず、ミスリードを招いている。

練磨がレトロゲーム品質

敵のライフバーの下に弱体化アイコンがならぶ。左端は視認できるが、ターン経過で右端のように欠けて判別が困難となり、マウスオーバーでの確認を要する。
敵のライフバーの下に弱体化アイコンがならぶ。左端は視認できるが、ターン経過で右端のように欠けて判別が困難となり、マウスオーバーでの確認を要する。

主人公ごとのスタートや多彩なシナリオ分岐があれば、自由度の罠によるリスタートの印象はちがったものになっただろう。だが、本作のストーリーは一本道だ。RPGで「捨ててはいけない鍵を捨ててからセーブした」ような徒労感しかない。そうした不快感の矛先がユーザインタフェースの練磨不足に向くのは必然といえる。前章にあげた説明不足だけではない。マップ内の艦隊を探すのが面倒で、移動指示もGUI操作に反し数クリックを要する。戦闘中の弱体化アイコンは、時間経過で形が変わり判別しづらい。

質の悪いことに、そのうちのいくつかは、制作発表時のゲームの特徴を表面的に満たすための実装にみえてしまう。その最たるものが、『XCOM: Enemy Unknown』を模した宇宙基地の画面だ。ただの飾りであれば雰囲気づくりのひとつで済むが、とりつけた施設に何度か用事があるわりには、施設を探し、場所を覚えるのが面倒だ。これ以上付け加えるものがなくなったときではなく、これ以上取り去るものがなくなったときを完成としてほしかった。ショートカットアイコンを付け加えないまま、操作が面倒なだけの画面をそのままにして取り去っていない。捨てるのを拒むだけの間違った「もったいないオバケ」にとりつかれたかのようだ。

宇宙基地の画面。基地中央から外側へ広がるように整備が進む。ゲーム終盤では空き部屋と、そこに建てる施設が四方に散りアクセスにスクロールを要する。また、配色がほぼおなじで識別しづらい。ショートカットアイコンがほしくなる。
宇宙基地の画面。基地中央から外側へ広がるように整備が進む。ゲーム終盤では空き部屋と、そこに建てる施設が四方に散りアクセスにスクロールを要する。また、配色がほぼおなじで識別しづらい。ショートカットアイコンがほしくなる。

上記の不親切をレトロゲームならではの攻略要素として割り切れば、魅力あるアートワーク、戦闘システム、ストーリーを堪能できるだろう。それらに、幾度かのリスタートをこらえるだけの価値がある。スペースオペラを愛するゲーマーは、KickstarterやSteamストアページに書かれているゲームの特徴をすべて忘れてから、『Halcyon 6: Starbase Commander』が描く宇宙を楽しんでほしい。ただし、『ロマンシング サ・ガ』シリーズや、『ヴァルキリープロファイル』、『ジルオール』といった、高い自由度と価値ある選択を両立したRPGを知るゲーマーは、本作プレイ中、ゲーム設計に不満を覚えることを告げておく。

halcyon-6-starbase-commander-review-011